新型肺炎、空港や機内における対応が、たった一週間で大きく変化

羽田空港・国際線ターミナル(3月末から「第3ターミナル」に名称変更)から滑走路側を見た様子(2月11日撮影)

羽田空港・国際線ターミナル(3月末から「第3ターミナル」に名称変更)から滑走路側を見た様子(2月11日撮影)

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 先週、このコーナーで新型肺炎(正式名称 COVID-19)の話題を取り上げたばかりだが、本件に関して最新の情報を求める問い合わせが多いのと、実際に空港や機内における現場の状況が、たった一週間で大きく変わってきたので、今週もこの新型肺炎に関してレポートしてみたい。

日本航空でラスベガスへ行ってみた

日本航空 002便の搭乗ゲートの案内ディスプレイ(出発時刻の約2時間前)

日本航空 002便の搭乗ゲートの案内ディスプレイ(出発時刻の約2時間前)

 今回搭乗したのは、2月11日の東京(羽田)発 サンフランシスコ行き日本航空 002便と、乗り継ぎのサンフランシスコ発 ラスベガス行きアラスカ航空 1908便(日本航空のコードシェア便)。

アメリカは、中国訪問者の入国を拒否

 経路としては先週乗ったフライトとまったく同じだが、現場の様子は大きく変わっていた。その最大の理由と思われるのがアメリカ側の対応だ。
「過去 14日以内に中国を訪問した者は原則としてアメリカに入国させない」との決定を下したのである。
(下の写真の通り、フィリピンとベトナムも同様な方針を打ち出しているため、現場には3カ国の名前が併記されているが、ここでの議論はアメリカだけとする)

搭乗時刻が近づくと、搭乗ゲートのディスプレイの画面がこのように切り替わった

搭乗時刻が近づくと、搭乗ゲートのディスプレイの画面がこのように切り替わった

チェックイン時に中国訪問歴の確認

 アメリカの発表を受け、日本側の現場でもそれなりに対応せざるを得なくなり、まずはチェックインカウンターでそのことを聞(訊)かれることになる。
 聞かれるといっても、「14日以内に中国を訪問しましたか?」、「いいえ、訪問していません」といった単純なやりとりで終わってしまうので、自己申告をそのまま信じる性善説を前提とした口頭審査にすぎない。
 パスポート内に中国の出入国スタンプがあるかどうかのチェックなど、やろうと思えばやれそうではあるが、そこまではやっていないようだ。(チェックインカウンターのスタッフが、さり気なく中国の出入国スタンプを探している可能性はあるが)

羽田空港・国際線ターミナルの日本航空のチェックインカウンター。スタッフ全員がマスクをしていることがわかる。

羽田空港・国際線ターミナルの日本航空のチェックインカウンター。スタッフ全員がマスクをしていることがわかる。

 この手ゆるい口頭審査では、その者の空路の旅程の中に中国が含まれていない限り、航空会社側が搭乗者の中国訪問を完全に把握することはむずかしく、ウソをいくらでも言えてしまう現実を考えると、感染者を入国させないというアメリカ側の目的に対する効果のほどはいかほどか。
 いずれにせよ、チェックインカウンターでの手続きとしては、中国滞在に関する質問が加わっただけなので、従来と比べて特に長い時間を要するという印象は受けなかった。

保安検査、出国手続は平常通り

 そんなチェックインが済んだあとの保安検査(セキュリティーチェック)、さらにそれに続く出国手続などはすべて通常通りで、現場スタッフがマスクをしていること以外、平常時と特に大きな違いは見られなかった。

搭乗ゲートでも中国訪問歴の確認

中国への訪問歴を質問するJALのスタッフ

中国への訪問歴を質問するJALのスタッフ

 搭乗ゲートに行くと、総勢10人ほどのスタッフが、搭乗客一人ひとりに声をかけ質問をしている。先週には見られなかった光景だ。
 質問の内容はチェックインカウンターのときと同じ、14日以内の中国訪問歴に関してで、やはりパスポートチェックなどをしている様子はなく、自己申告による性善説的な審査の域を出ていない。(もちろん搭乗ゲートをくぐるときのパスポートチェックはある)

中国への渡航歴を質問しているTSAスタッフ

中国への渡航歴を質問しているTSAスタッフ

アメリカ合衆国運輸保安局

 興味深いのは、その10人ほどのスタッフの中に、日本航空の関係者とは思えない服装で、腕に「TSA」と書かれた腕章をしている人物が複数いたこと。
 ちなみに TSA とは「Transportation Security Administration」の略で、アメリカ合衆国の運輸保安局と考えればよい。
 その腕章をした彼らの中のひとりに、「アメリカ側から派遣されて来たのですか?」と質問してみたところ、返事はノーで、日本航空の関係者が TSA の仕事を代行しているとのこと。

 結局、人数的には TSAの腕章をした者と日本航空のスタッフが半々程度で、うまく手分けしながら搭乗客に質問していた感じだったが、TSA のスタッフのほうが指導的な役割を担当しているように見受けられた。
 それにしても、入国拒否(あるいは搭乗拒否)されることがわかっている状況で、これからアメリカに行こうとしている者が、正直に「先週中国に行ってました」と答えるだろうか。
 その真相はともかく、従来にはなかった中国滞在歴という質問を受けるステップが加わったものの、とりあえず通常よりも少し時間を要する程度で、搭乗予定者全員が滞りなく機内に乗り込んでいったことを報告しておきたい。

機内で米国入国後の追跡調査表の配布

機内で配布される、米国入国後の追跡調査のための質問表

機内で配布される、米国入国後の追跡調査のための質問表

 さて話を機内に移すと、そこでも先週のユナイテッド航空では見られなかった光景が見られた。
 それは上の写真に見られる1枚の質問表で、搭乗直後に客室乗務員によって乗客全員に配られる。
 降機時に回収されるので、それまでに記入しておく必要があるわけだが、もちろんこれはアメリカ側の要請に基づくものであり、日本航空主導のものではない。
 この書類の目的は、アメリカ入国後の追跡やコンタクトをしやすくするためのもので、これにウソを記入する者はそれほど多くないと思われるので、搭乗前の中国滞在に関する質問よりは、現実的な意味があると考えてよいのではないか。

JALの機内スタッフはゴム手袋着用

 何でもかんでもアメリカ主導の決めごとを押し付けられるのも日本としては楽しくないわけだが、すべてがアメリカ主導で動いているのかというと、そうでもない。
 機内で丁寧に応じてくれた客室乗務員によると、機内のスタッフは全員が原則として常時、つまり機内食を取り扱っている時間帯以外も手袋を着用することになっており、これはアメリカ側とは無関係に日本航空側の判断によってきめられた業務規則とのこと。

今回のフライトから着用が義務付けられたゴム手袋。長時間着用していると、このように蒸れてしまうらしい。

今回のフライトから着用が義務付けられたゴム手袋。長時間着用していると、このように蒸れてしまうらしい。

 さらにその手袋に関して最新の情報も教えてくれた。実はその手袋、昨日までのアメリカ路線のフライトでは薄いビニールのような樹脂製のものだったが、今回のフライトから厚手のゴム製になったというから、日本航空の新型肺炎に対する取り組みが、より真剣になってきていることがうかがえる。
 なお、この手袋の話は、あくまでもアメリカ路線の現状であって、中国路線など他の路線ではかなり早い段階からゴム手袋になっているとのこと。

 そんな説明を受けている最中に、薄い樹脂製の手袋をしている乗務員が我々の目の前を横切ったので、「ゴム手袋に切り替わったはずなのに、あの方は薄い手袋をしていましたが、あれは規則違反?」とたずねたところ、「飲み物を提供する際、何度もビールやコーラなどの缶を開けていると、すぐに穴があいてしまうんです。今日は初めてということもあり、搭載しているゴム手袋の数が十分ではなく、やむを得ずビニール手袋をしている者がいます」との納得の返事。

 さらに秘話も教えてくれた。搭乗中はもちろんのこと搭乗前からも手のアルコール消毒を徹底するよう会社側から指示が出ており、それを徹底していると、飲酒乗務を防止するための搭乗前アルコール検査の際、手などから揮発したアルコールが高感度の機械を反応させてしまうことがあるため、今の時期だけの限定措置として、衛生管理のほうを優先することになったとのこと。(もちろん飲酒乗務を見逃しているわけではない)

米国側の空港は平常時と変化なし

 そうこうしているうちに機内の気温がかなり暑く感じられたので、「インフルエンザ・ウイルスなどは高温に弱いと聞くので、そのため客室内の気温を高めに設定しているのですか?」と質問したところ、温度設定パネルのところに行きながら、「温度はいつもと同じ 24度に設定させていただいています」との返事。自分が新型肺炎で熱を出しているのかと一瞬心配になったが、すぐに暑く感じなくなったので安心していると、まもなくサンフランシスコ空港に到着。

 到着後は先週と同様、入国審査も税関審査も検疫も平常時と何ら変わることなく(そもそも税関審査や検疫は日ごろからほとんど無いに等しい)、コロナウイルス騒動があること自体を忘れてしまうほどの、いつもの平穏なサンフランシスコ空港だった。

「マスク着用者=病人」に変化なし

 さて最後にマスクの着用に関して。先週もふれたとおり、アメリカでは「マスク着用者=病人」という概念があるようで、引き続き日米間で大きな違いが見られた。
 簡単にいってしまえば、羽田空港におけるアジア人(日本人を含む)は、航空会社のスタッフを含めて大半の者がマスクを着用していた。
 具体的には、日本航空の地上職員は全員がマスクを着用、全日空、ユナイテッド航空、エアカナダなど、その他の航空会社も大半の職員が、さらにターミナル内の高級ブランド店などの店員もほぼ全員が、そして日本航空 002便に乗り込むパイロットもマスクを着用していた。
 つまり現在の羽田空港においては、マスクをしていないのは非アジア系の外国人だけと考えても、あながち大げさではない。

ラスベガス国際空港のバゲージクレームでマスクをしている者はゼロ。

ラスベガス国際空港のバゲージクレームでマスクをしている者はゼロ。

 一方、サンフランシスコやラスベガスの空港では、職員のみならず搭乗客もマスクをしていない。アジア系に見える者でさえも、なぜかほとんど着用していない。
 今後、今回の一連の新型肺炎騒動でアメリカ人の間でもマスクを着用する文化が少しずつ定着していく可能性は否定できないが、騒動が起きてからすでに一ヶ月以上が経過している現在においても着用率がほぼゼロということを考えると、アメリカでマスクが定着するのはまだ何年も先になるような気がしないでもない。
 したがって、マスクの着用はアメリカの空港に到着するまでにして、それ以降は取り外し、ラスベガスではマスク無しで過ごすことを考えたほうが良いように思われる。もちろん、「病人扱いされても、感染リスクを軽減するほうを優先したい」という考えも、否定されるべきではないだろう。

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コメント(1件)

  1. とおる より:

    アメリカ人がマスクをしないのは、マスクをしても感染リスクが低減出来ないという正しい知識が知られている面もあるのではないかなぁ。

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