「ラストシーンではステージが火の海になる」といっても過言ではないほど火を多用する超危険なマジックショー INFERNO を観てきたので紹介してみたい。
火を多用、それもマジックショーと聞けば、だれもが光などで擬似的に再現した火を想像してしまいそうだが、それは誤り。
このショーで使う火は本物の火だ。(写真内の白く見える部分はすべて火。クリックで拡大表示)
その火の大きさも量も半端ではない。ステージから近い客席では、その放射熱を直接肌で感じるほど豪快に火を使う。
まさにこのショーの副題 THE FIRE SPECTACULAR に偽りはなく、火が主役のショーといってよい。
ちなみのこのショーの会場がある場所は、パリスホテルの1階。その1階よりも上には約3000もの客室があリ、数千人が泊まっている。万が一の火災事故を想像するとぞっとする。
そんな危険なショーを演じているのはスウェーデン出身のマジシャン Joe Labero だが、彼を紹介する前に、このショーの公演を認めた消防当局に敬意を評したい。
火を使うショーはシルク・ドゥ・ソレイユのオウやKAなど、いくつかあるが、それらのショーにおける火は、たまたまその場面で火を使うことになったといった程度の使い方。このショーでは最初から最後まで火を使う。
舞台セットをすべて不燃性の材料で制作し、万が一の事故に備えて万全の消化体制を整えているとはいえ、巨大ホテルの1階という環境を考えると、この公演にゴーサインを出した消防当局の英断は本当にあっぱれだ。
もちろんそんなことが評価されるのは、事故が起こらなければの話であって、事故が起こればその責任は極めて重大で、大変な問題になることは想像に難くない。(上の写真内の人物が Joe Labero)
さて話を Joe Labero に戻すと、その衣装や風貌はどことなく、往年の Siegfried に似ている。(写真内の黒い衣装の人物)
15年ほど前まで、ラスベガス屈指の人気を誇っていたマジックショー Siegfried & Roy のデュオのうちのひとりだ。(そのショーは 2003年10月、公演中に相棒の Roy がトラに噛まれて重症を負うという悲惨な事故によって、打ち切られてしまった)
似ているのは偶然ではないようだ。Joe Labero が若いころ、Siegfried & Roy のショーを観て、そのすべてに憧れ、自分でもそのようになろうと努力をしてきた結果が今の彼なのだという。ちなみに現在 Joe Labero は54歳、引退している Siegfried は78歳。
子供の頃から頭角を現した Joe Labero は、スウェーデンで自分の番組を持つほどのスターになり、ヨーロッパを中心に活動。
その後、オーストラリア、ニュージーランド、ロシア、さらには東南アジアなど世界各地にも活動範囲を広げ、このたびついに2月からラスベガスに進出。
会場は、「ノートルダムのせむし男」、「ジャージーボーイズ」、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」など、これまでに数々のミュージカルが開催されてきたパリスホテルで一番大きい劇場 Paris Theater だ。
ショーそのものに話を移すと、火が主役と書いてきたが、内容的にはマジックショーで間違いない。また、火そのものをマジックのネタにしているわけでもない。つまり、火を出したり消したりするのではなく、出たり消えたりするのは美女であったり本人であったり、あくまでも人間だ。
そういう意味では、他のマジックショーでも見られる演出が散見され、マジックファンにとっては、「それは何度も見たことがあるぞ」と思うような場面も少なくないが、珍しい斬新な出し物もあるので、観て後悔するようなショーではない。そもそもマジックに火を多用すること自体、非常に斬新で、とかく似てしまいがちなマジック業界の中では極めて特異なショーであることは間違いなく、マジックファンにとっては必見のショーといってよいのではないか。
具体的な演目に関しては、ネタバレになってしまうので、あえてここでは触れないこととする。
彼の年齢を考えると、体力的に負担が大きい世界各地を転々とする公演よりも、このままラスベガスに定住し、常駐ショーにしたいところだろうが、そう簡単にはいかないのが、昨今のベガスのショービジネス業界だ。
ここ10数年、特にリーマン・ショック以降、ベガスのナイトショーは需要に対して供給が多すぎ、満席になる常駐ショーはほとんどない。(人気ミュージシャンがスポット的にやって来て開催するコンサートなどはその限りではない)
決して不景気というわけではないが、「ベガスでショーをやってみたい」と思うエンターテイナーが多すぎることが原因と思われる。
このショーも、2月に始まったばかりなので評価を下すのはまだ時期尚早ではあるが、空席が目立っているのも事実。すばらしいショーではあるが、いつまで続くかはなんとも言えないので、興味がある者は早めに観ておいたほうがよいかもしれない。
公演は月曜日と火曜日を除く毎日 8:30pm。チケット料金は税込みで 65ドルから。会場は前述の通り Paris Theater で、パリスホテルのカジノ内の奥にあるフロントロビーのさらに奥。