常連読者からは、「またラーメンかよ」 と言われてしまいそうだが、それを承知の上で、あえてまたラーメンの話。
ラーメンに興味がない人たちにとっては信じられないことかもしれないが、食に関する問い合わせで一番多いのが、ラーメン店の場所などについての質問だ。コンベンション目的の出張族など、会社ぐるみでベガスにやって来て、十人ぐらいの集団でラーメン店に行く人たちも少なくない。
個人差もあるだろうが、一般的に日本を離れてしばらく時間が経過すると、無性に和食系のものが食べたくなったりするわけだが、そんなときに真っ先に脳裏に浮かんでくるのがラーメンということなのだろう。とにかくラーメンに関する問い合わせは多い。
今回紹介するのはダウンタウン地区のラーメン店 California Noodle House。(写真)
1年以上前に開業している店なので、最近オープンしたばかりというわけではないが、この店を今このタイミングで紹介するのには理由がある。
ちょうど1年前の3月に、このコーナーで紹介したダウンタウン地区のラーメン店 itsy bitsy が、このたび店を閉じてしまったのである。
その3月の記事を読んで現場に足を運んでしまったという読者から、おしかりの意味も込めた閉店の報告を受け、初めてその閉店の事実を知ったという次第。
そのようなわけで、代替店として紹介する形になるが、この California Noodle House は、すぐに消えてしまうようなことにはならないはずなので、興味がある人は安心して足を運んでいただきたい。
というのも、この店は、人通りが少なくわかりにくい場所にあった itsy bitsy とはちがって、ホテルのカジノ内のわかりやすい場所にあり非常に繁盛しているばかりか、個人経営などのテナントではなくホテルの直営であること(直営店が必ずしも成功するとは限らないが、資金的な体力は個人店よりもあるはず)、さらにはそのホテルの宿泊客の多くが日系人であるため大きな需要が期待できるということ。(上の店内の写真に客がぜんぜん写っていないのは、営業開始前に撮影させてもらったためで、通常は大勢の客で賑わっている)
そのホテルとは、カリフォルニア・ホテルで(写真)、ハワイに住む日系人をターゲットにマーケティングしていることで知られている。実際にカジノ内に足を踏み入れてみると、日系人の多さにだれもが驚くはずだ。
日系人といっても、戦前に日本からハワイに渡った高齢の人たちや、その二世、三世など日本で暮らした経験がない人たちが中心なので、必ずしも彼らがカジノ内で日本語をしゃべっているとは限らないが、顔を見れば、ここの多くの読者と同じ同胞であることがわかる。
まぁそんな細かいことはともかく、California Noodle House の利用者の多くが日系人であるという事実は、店のレベルや内容を推測したりする際の重要な情報であり、彼らの味覚が、日本に住む一般の日本人とどこまで同じかはなんとも言えないが、アメリカの一般大衆をターゲットにしているホテル内のカフェよりは大いに期待してよいのではないか。(最近アメリカでもラーメンがブームということもあり、ホテル内のファミレス的なカフェの多くがラーメンを提供している。しかし日本のそれとはほど遠い味であることが少なくない)
さて気になる味についてだが、ずばり「許容範囲内の味」と言ってよいだろう。もちろん日本の人気店などとは比べものにならないが、アメリカでのラーメンとしては十分なレベルにある。(写真は厨房)
なお、この店におけるラーメンは味噌ラーメンのみで、醤油や豚骨はない。アメリカ人を相手にしているラーメン専門店の多くが豚骨がメインであることを考えると珍しい存在ということになる。
その味噌ラーメン(写真)の内容をこまかく説明すると、スープは標準的な味噌味で、あまりこってりしていない。良く言えば上品な味だが、悪く言えばややコクがないように感じる。また、味噌ラーメンのスープとしてはやや粘性が少ないというか、サラリとした感じで、良くも悪しくもクセがない。
麺は、太くもなく細くもない標準的な太さの軽い縮れ麺。アメリカのラーメン店でしばしば心配される「ゆで過ぎ」に関しては何ら問題が無かったのはよかったが、ゆで上げてからどんぶりに移す際に、麺を箸で簡単にほぐす作業を忘れてしまったのか、麺がどんぶりの中で固まっている部分があったのはいただけない。
担当シェフによるバラツキもあるだろうが、実はこの店で味噌ラーメンを食べるのは今回が初めてではなく、以前食べたときも同様な問題に遭遇しているので、麺をほぐさないのはこの店の傾向的な問題なのかもしれない。
入っている具は、半熟タマゴ、チャーシュー、チンゲン菜、メンマ、ネギ、薄切りの干しシイタケで、特に珍しい具は入っていないようにも見受けられるが、特筆すべきは最後に書いた干しシイタケ 。(上の写真では、スープの中に沈んでいるので見えないが)
量的にも視覚的にも大した存在ではないが、ダシ的な意味でこの干しシイタケの存在は見過ごせない。
後述する「醤油うどん」のつゆほどではないが、「この店のダシの基本は、かつお節、昆布、鶏ガラ、豚骨などではなく、干しシイタケにあるのではないか」と思わせるほど、しっかりとした主張が感じられた。したがって、干しシイタケが嫌いな者は、このラーメンに近寄るべきではない。
気になる値段は、ランチタイム $9。夜は $11。ランチタイムに行かないと損のような価格設定だが、昼の営業 (11am~4pm)は、金、土、日のみで、月~木は 4pm にならないと店はオープンしない。閉店時刻は金、土が 11pm、それ以外が 10pm。
さてこの店の名前は「ヌードルハウス」でありながら、ラーメンに味噌しか無いのはどうかと思うが、実はその名前に恥じないほど、ラーメン以外の麺類のメニューがたくさんある。うどん、焼きそば、ワンタンメン、ビーフン、タイのパタイ、ハワイのサイミンなど実に豊富だ。
せっかくなので、メニュー内で「Shoyu Udon」と表記されていた醤油うどんを食べてみた。(写真上)
麺は、日本で広く食されている冷凍うどんとほぼ同じなので、いい意味で意外性はまったくなく、違和感なく味わうことが出来た。しかし、つゆと具にはかなり特徴があった。
つゆは前述の干しシイタケの主張があまりにもしっかりしているためか、かつお節や昆布の風味はほとんど無いに等しく、またダシとしてだけでなく、具としても入っているのでその存在感は半端ではない。
うどんの具にムール貝(写真内でオレンジ色に見えるもの)が入っているのは意外性があっておもしろいが、色合いという意味で目を楽しませてくれるだけで、味的にはかまぼこのほうが存在感があるように思えた。ちなみにエビも数個入っている。
値段は、ランチタイム $8、夜 $10。味噌ラーメンもそうだが、ホテル内のレストランとしては良心的な価格設定といってよいだろう。
ラーメンと言えば、付き物はギョーザ。ついでなので、それもオーダーしてみた。
メニュー内では Pot Stickers と表記されていて、写真のように数は6個。料金は夜のみのメニューで $8。
味的には、可もなく不可もなくといったところだが、どちらかというと、日本のギョーザを期待していると不可に近いかもしれない。というのも、アメリカの中華料理店などでよく見られる皮が厚めのギョーザだからだ。薄い皮が好きな者にとっては間違いなく不可になるだろう。
さて最後にこれは余談になるが、オックステイル(Oxtail)について。
これはようするに牛のシッポということになるが、この店に Braised Oxtail(夜のみ $16)というメニューがあることに気づいたので、それもオーダーしてみた。(写真)
これをオーダーしてみたくなるのにはワケがある。なぜなら、この店のすぐとなりにある 24時間営業の Market Street Cafe の深夜メニュー(夜11時から朝9時まで)「Oxtail Soup」は、少なくとも 15年以上前から存在する超有名な名物料理だからだ。Market Street Cafe では、これを食べる人たちで深夜にもかかわらず毎晩長蛇の行列ができていることは、知る人ぞ知るこのホテルのトリビアといってよいだろう。(下の写真は、このホテルのカジノ内のスロットマシンの上に掲示されているオックステイル・スープの広告)
そんな有名なオックステイル・スープを出す店のとなりで、オックステイルと名の付く料理を出しているとなれば、どんなものかと食べてみたくなるというもの。
結果的には、上の写真に写っているものを、白いご飯と一緒に食べる料理ということで、それ以上のものでもそれ以下のものでもないが、味的にも知名度的にもまだまだオックステイル・スープにはかなわないといった印象を受けた。
ラーメン以外にも話が飛び、長くなってしまったが、味噌ラーメンはもちろんのこと、日本人の口に合いそうな料理がたくさんある店なので、ダウンタウンで和食系の味に恋しくなった際は、ぜひ足を運んでみるとよいだろう。
ブース席、テーブル席、さらにはパーティー用の個室(写真上)もあるばかりか、一人客でも居心地が悪くない背の高い長テーブル席もあるので、人数に関係なく利用しやすい。
ビールはもちろん、日本酒もワインもある。総じて良心的な価格設定になっているばかりか、全体的に小奇麗な雰囲気にまとまっているところも好感が持てる。
場所は、カリフォルニア・ホテルのカジノ内のキャッシャーに向かってすぐ左側。