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"Gキャニオン・ウエスト" って、どんなところ?


 旅行代理店のパンフレットなどを見ていると グランドキャニオン・ウエスト あるいは グランドキャニオン・ウエストリム (西壁) という聞き慣れない言葉を目にすることがある。
 米国政府が指定したグランドキャニオン国立公園内にはサウスリムやノースリムはあってもグランドキャニオン・ウエストなどという場所はないはずだが、このなぞのグランドキャニオン・ウエストとはいったいどこにある何なのか? そして、その実態を知らずにツアーに参加すると、どういうことになるのか?


 まずは、通常のグランドキャニオン国立公園 (世界遺産) について知っておく必要があるので、その説明から始めたい。
 米国政府が指定したグランドキャニオン国立公園区域内には大きく分けて二つの観光エリアがある。ひとつが、Gキャニオン形成の主役であるコロラド川を挟んだ北側に位置するノースリム (北壁)、そしてもうひとつがその南側に位置するサウスリム (南壁)だ。
 両者の差はほとんどないが、谷底からの高さと冬場の気候に多少の違いがある。どちらも大地の位置は海抜 2000メートル以上で、コロラド川が流れる谷底と台地との落差は 1500メートル以上あるが、ノースリムの方がさらにやや高くなっている。その標高差の分だけノースリムは冬場に降雪でアクセスできなくなることが多く、結果としてノースリムを訪れる観光客は非常に少ない。夏期においても、空港や道路などのインフラの充実度の違いにより、サウスリムのほうが断然訪問者が多い。


 また景色もサウスリムの方が良いというのが定説だ。海抜がより高いノースリムの方が景色が雄大と思われがちだが、論理的に考えれば、そうでないことはすぐにわかる。
 自分が立つ位置の絶壁は自分からは見えないわけで、より高くて雄大なノースリムを眺めるためには、自分はサウスリム側に立つ必要があり、さらに太陽光線の条件もサウスリムから見た方が有利になっている。理由は簡単だ。北側を向いているサウスリムの壁面には太陽光線がほとんど当たらないが、ノースリムには良く当たる。ようするにノースリムから見たサウスリムは写真撮影でいうところの逆光になるので、サウスリムからノースリムを見たほうが絶壁が大きく、なおかつ明るくくっきり見えるというわけだ。(ただし夏期、厳密には夏至に近い時期、の夕日や朝日は、自分が立つ位置における東西を結ぶ線よりも北寄りに存在するため、そのようなときに限り、サウスリムからの方が逆光になることがある)

 ということで、 【 Gキャニオン観光 = サウスリム 】 という図式は、グランドキャニオンが米国政府によって国立公園に指定されて以来、長らく定着している常識的な概念なのである。

 さて前置きが長くなってしまったが、最近この不動の地位を占めるサウスリムに対して、「グランドキャニオン・ウエスト」 あるいは 「グランドキャニオン・ウエストリム (西壁)」 と呼ばれる新たな場所が脚光を浴びてきている。
 その最大の理由は、2007年に出現した 「スカイウォーク」 (Skywalk) の存在だ。(写真右、クリックで拡大表示。この写真はスカイウォークが完成する直前に空から撮影されたもの)
 絶壁から突き出すように設置されたU字型の通路で、床面はガラス張り。つまり、足元から谷底が透けて見えるようになっている奇想天外なスリル満点の施設だ。

 自然保護がうるさいアメリカにおいて、自然破壊とも景観破壊とも言えそうなこの施設の建設が許可されたのはなぜか。
 じつは、その背景には明快な理由がある。このウエストリム地区は、通常のアメリカ合衆国の法律が及ばないインディアン居住区なのである。
 ここでいうインディアンとは、白人がヨーロッパからアメリカ大陸へ渡って来るよりも以前からこの地域に住んでいた先住民のことで、彼らはアメリカ建国の歴史の中で白人から土地、住居、物資、権利、時には生命までを奪い取られてきたという悲しい過去を持っている。
 そのようなインディアンに対して現在の米国政府は、一般のアメリカ市民に対する法律を超越した特別扱いとして、古来から続く彼ら独自の生活習慣やルールを認めており、その治外法権的なことが許される区域を明確に指定したのがインディアン居住区で、このウエストリム地区は、「ワラパイ族」 という部族が統治する領土内にある。実際に現地に行くと、観光客以外は、一部の一般アメリカ人労働者を除き、ワラパイ族の人たちがほとんどだ。顔立ちが一般のアメリカ人とはハッキリ異なるのですぐにわかる。
 ちなみに、米国政府が認定している先住インディアンの部族数は現在 562 で、彼らの大多数は、米国内に 314ヶ所存在するインディアン居住区内で生活している。
 「州と同格の自治権が与えられている」、というのがインディアン居住区に対する現在の米国内での一般的な法解釈で、もちろんこのウエストリム地区も例外ではなく、まわりからどんなに 「環境破壊だ」 と言われようが、領土内であれば、彼らが好きなものを建設できるというわけだ。
 なお実際にスカイウォークを建設したのは、ワラパイ族にこの奇想天外な企画を持って行った在米の中国系ビジネスマン (2013年に死去) で、入場料などの収益を、このビジネスマンとワラパイ族で分け合う契約になっている。
 収益といえば、彼らは、有料のスカイウォークのみならず、ウエストリム地区に入ることに対しても高額な進入料を徴収しているので (ツアーの場合、ツアー料金の中に含まれている)、サウスリムに比べてラスベガスに近いにもかかわらず、ツアー料金は一般的に高い。

 さて、グランドキャニオンツアーを選ぶ際の判断基準として、このウエストリムをどのように位置付け、どのように考えるべきか。
 ずばり、景色だけを楽しむ目的であれば国立公園、つまりサウスリムに行くべきだろう。
 理由は、ウエストリムは、絶壁の落差や谷の幅など、サイズ的な部分においてサウスリムに比べやや劣るからだ。あえて数字的な表現で両リムを比較するならば、おおむね 3:2 といったところか。
 であるならば、だれもウエストリムに行かないのではないか、と考えてしまいがちだが、必ずしもそうではない。スカイウォークの存在以外にも、ウエストリムにはそれなりの特徴がある。

 たとえば、うるさいアメリカの法律に縛られていないため、絶壁に手すりがまったく無いなど、荒削りの部分が多く、「大自然のままのワイルドな管理がいい」 といった声が少なくない。
 また、距離的にラスベガスから近いため、飛行時間がサウスリムツアーの約半分程度となっており、乗り物酔いなどを心配する人たちから、その部分を評価する声も聞かれる。
 さらに、ヘリコプター飛行や川下り、また絶景を見ながらの屋外ランチなどもウエストリムならではの特徴で、ちなみに、ハイカーたちに対する騒音規制などがうるさいサウスリムでは、ヘリコプターを使って谷底に降りることは許されておらず (指定された空域の上空を飛行することは可能)、また川下りも厳しく制限されている。ゴミが大量に出かねない屋外バーベキューなども、サウスリムにおいては所定の場所以外では厳禁だ。
 一方、ウエストリムでは 「なんでもあり」 なので、結果的に、その種のアクティビティーが組み込まれたツアーが可能となっている。

 冬期に、降雪でツアーが中止になりにくいのもウエストリムの利点といってよいだろう。標高2000メートルの位置にあるサウスリムの空港に比べ、標高1450メートルのウエストリムの空港は、雪で閉鎖になる確率が低い。
 先住インディアンたちと触れ合える可能性があるのも、このツアーの特徴といってよいのではないか。
 余談になるが、近年の最先端の研究によると、インディアンは日本人と共通の DNA を持っていることが明らかになりつつあり、彼らはアジアからアリューシャン列島、ベーリング海を渡りアラスカ経由で現在のアメリカ大陸に住み着いたといわれている。たしかに背が低くずんぐりむっくりしたその体型はどことなく日本人に似ていなくもない。

 ということで景色だけを楽しむならサウスリムを選ぶべきで、スカイウォーク、ヘリコプター、川下りなどを体験したい者はウエストリムを選べばよいだろう。
 「自分はすでにサウスリムに行ったことがあるが、アメリカが初めての友人をグランドキャニオンに連れて行かなければならない」 という者も、こっそりウエストリムのツアーを手配するとよいかもしれない。スカイウォークやヘリコプターなど新たな体験ができるからだ。もちろん黙っていれば、友人に、サウスリムとウエストリムの規模のちがいなどわかるはずもない。

 以上あれこれウエストリムの特徴をいくつか書いてきたが、「国立公園」 というアメリカ政府のお墨付きや、「世界遺産」 というブランドにこだわる者は、やはりサウスリムに行くべきだろう。したがって、旅行代理店経由で申し込んだり、グランドキャニオンツアーが旅行全体のパッケージの中に含まれている場合は、その目的地がサウスリムなのかウエストリムなのかきちんと確認したほうがよい。
 最後に注意事項を一つ。サウスリム地区内 (国立公園内) の絶壁沿いにある道路で西方向へ延びている部分を 「ウエストリム」 と呼ぶことがある。これはあくまでも 「サウスリム地区内の西側部分」 という意味であって、今回ここで取り上げているウエストリムとはまったく別の場所なので混同しないように。




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