週刊ラスベガスニュース バックナンバー   1998年8月12日号
K-1 フィーバー、日米で温度差

チャンピオンとなった Roufus (右)
 日本で人気沸騰中の格闘技 K-1 の南北アメリカ大陸チャンピオン決定戦こと "K-1 USA Grand Prix 98" が 8月 7日 ミラージホテルの特設リングで行われた。
 アメリカで初めての開催ということもあり、チケットの販売も含めていくつか心配された部分もあったようだが、とりあえず大きなトラブルもなく無事イベントは終了した。
 
 ただ、日米のマスコミにおける K-1 に対する関心度に大きな隔たりがあったことは否定できず、今後のアメリカ開催に大きな課題を残したことは事実だろう。
 ラスベガス大全は当地の日本語メディアで唯一この試合をリングサイドのプレス席から取材したメディアとして、また、在日メディアとアメリカのメディアの中間的な立場にいるものとして、今回の "K-1 USA Grand Prix 98" のラスベガスにおける反響などを “ニュートラルコーナー” から分析してみた。 (試合結果や写真は 「スポットニュース」 内に掲載済み)
 

ANDY HUG、TASHIRO、FUJIWARA
 まず、今回のイベントは良くも悪くも “日本一色” だった。
 出場選手にこそ日本人が含まれていなかったものの、主催者はもちろんのこと、報道陣、観客、レフェリー (3人の日本人が順番に担当)、ゲスト (アントニオ猪木氏ほか)、スポンサー ( SONY プレイステーション)、それに試合後の選手を交えてのパーティー会場での番組制作 (田代まさし、藤原紀香などが出演) など、とにかく日本人による日本人のためのイベントという感じだった。
 そのこと自体は決して悪いことではないが、アメリカという国は何ごとにおいても自分たちがイニシアティブを取らないと気が済まない国であり、今後 K-1 を世界中に広めていく上でアメリカの参加や支援を必要とするのであれば、“日本色”があまり出過ぎていることは好ましくないだろう。
 ちなみにセレモニーでアントニオ猪木氏がリング上に紹介された際に場内を埋め尽くした日本人から沸き上がった “猪木コール” に対し、「これはいったいなんなんだ?」 とアメリカ人記者たちが興ざめした様子で首を横に振っていた。猪木氏そのものの登場よりも、自分たちアメリカ人が知らない世界で場内が埋め尽くされていたことに対して疎外感や不快感のようなものを感じていたようだ。
 K-1 を国際化させるためには身近なところ、たとえばレフェリーに日本人以外の者を積極的に起用するなど、 “日本色” を少しずつ薄めていく必要があるだろう。相撲や柔道のように始めから誰の目にも 「日本のもの」 とわかっているスポーツであれば話は別だが、アメリカ人にとって限りなくボクシングに近い K-1 が日本色に染まっていることは、白人として本能的に受け入れがたいはずである。そのへんの事情を十分に配慮しないと、アメリカ人が K-1 に似た団体を旗揚げしないとも限らない。
 
 日本一色であったこと以外に対してもプレス席で観戦していたアメリカ人記者たちは鋭い指摘を浴びせてきた。
 「優勝賞金がたったの7万ドルでは選手も育たないしファンも付かないのでは」 といった冷めた見方や、「柔道着などの着用を認めているのはおかしい。パンチやキックを受けた際のダメージが素肌の時に比べ軽減されるのでスポーツとして公平さに欠ける。また相手のパンチが襟などから懐に入ったりして柔道着に絡まる恐れがある」 といったルール上の問題点を指摘する声もあった。
 さらに、「柔道、剣道ならともかく、“世界一激しい格闘技” と称しケガなども付きものの K-1 において、同一の選手が同一の日に何試合も戦わなければならない勝ち抜きトーナメント制には問題がありすぎる。次の対戦を気にして全力を出せないのではないか。また、直前の試合で負傷した選手は次の対戦で不利になる」 といったイベント運営上の根本的な問題に踏み込んだ指摘もあった。
 

左ヒザを負傷した Schuster
 そんな指摘を聞き終わらないうちに、奇しくもその心配が現実のものとなってしまった。決勝戦に進んだ Schuster 選手が直前の試合で左膝にケガを負い、結局 Roufus 選手の不戦勝というカタチで初代アメリカ大陸チャンピオンが決まってしまったのである。
 そこまでは仕方がないとしても、そのあとの “いかにも日本的なはからい”が再びアメリカ人記者たちに不信感を与えてしまった。というのも、事前のルールでは、今回のトーナメントで勝ち残ったチャンピオンだけがこの秋に日本で行われる世界戦へコマを進めることになっていたのだが、不戦勝という後味の悪い結末に配慮してか、K-1 主催者の石井代表がその場で、「不戦敗はあまりにも気の毒。Schuster 選手も日本へ招待したい」 とやってしまったのである。
 日本人にとっては美談にも聞こえるこの粋な計らいも、ルールを杓子定規に解釈しそれの厳守を重んじるアメリカ人たちにとって、代表者のツルの一声でルールがひっくり返ってしまうような K-1 組織はかなり奇異に映ったようで、少なからず K-1 の権威が失墜してしまったことだけはたしかなようである。
 その他にも参加選手の肩書きや、SILVA 選手のようにこれまでに一度も K-1 を経験したことのない選手がアメリカ大陸のチャンピオンを決めるべく今大会に招待されていること自体に疑問を持つ記者がいるなど、日本の記者に比べ総じて冷静に見ている記者が多かったようだ。
 
 アメリカメディアの論調が気になったので、翌日さっそく地元紙 Las Vegas Review Journal、全国紙の USA Today に目を通してみたが、残念ながら K-1 の記事を見つけることはできなかった。また、インターネットでスポーツ専門メディアとして名高い ESPN や USA Today のスポーツセクションを訪れてみたがここにも K-1 の記事は見当たらなかった。
 
 このようにアメリカにおける K-1 に対する関心度は日本に比べ著しく低いようだが、今後アメリカで K-1 が爆発的な人気スポーツに発展していく可能性がまったくないわけではない。そのキーワードは、多くの記者たちが異口同音に高く評価している 「KO率の高さとラウンドの短さ」 だ。
 ボクシングのように長いラウンドを戦ってからの判定試合というようなケースはほとんどなく、多くの場合 3ラウンド以内に KO で決着する。この部分は単純明快さを好むアメリカ人気質に非常にマッチしており、今後のマーケティング次第では K-1 が大きく開花する可能性は十分にあるのではないか。
 ただ、アメリカには野球、フットボール、バスケットボールという強敵スポーツが存在していることも事実で、K-1 がアメリカで定着するまでにはある程度時間がかかるだろう。あのワールドカップサッカーでさえ大リーグ野球に視聴率で負けたほどアメリカの 3大スポーツの壁は高く、また格闘技にはボクシングという強敵も存在している。
 
 ボクシングのタイトルマッチのビルボードはラスベガス市内の至る所で見ることができるが、残念ながら K-1 のそれは今回見ることができなかった。K-1 の試合がボクシングと同様にカジノでの賭けの対象となる日はまだまだ遠いかもしれない。それでも日本が生んだスポーツがアメリカを席巻するというのは同じ日本人として非常にうれしいことであり、ぜひそうなってもらいたい。もし次回の "K-1 USA Grand Prix 99" が再びラスベガスで開催されるのであれば、地元日本語メディアとして大いに応援させていただきたいものである。


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