週刊ラスベガスニュース バックナンバー   1998年8月5日号
ファミリー路線の終焉

人影もまばらな MGM のテーマパーク
8月4日正午撮影
 “子連れ家族はビジネスにならない”  今ラスベガスの産業界に広がりつつある共通認識だ。
 
 おとぎの国をイメージしたエクスカリバー、テーマパークを併設した MGM、世界最大の室内遊園地ことサーカスサーカスのグランドスラムキャニオン、世界最高地点でのアトラクションことストラトスフィアタワー。
 90年代初頭、ラスベガスは 「ギャンブルの街」 から 「ファミリーの街」 へと大きく変貌した。そんなラスベガスが今大きな過渡期を迎えており、ファミリー路線の見直しが迫られている。
 「子連れファミリーを相手にしていたのでは経営が成り立たない」、多くのホテル経営者たちがそう気づき始めたのである。
 
 ジェットコースターの前で列を作っているのは子供ではなく大部分が大人だ。子供も決して珍しくはないが、その多くは地元のティーンエイジャーたちで、彼らの利用や体験が一巡するとどこの施設も子供の活気がなくなり閑古鳥が鳴き始める。
 元々各ホテルがファミリー路線を目指した目的は、ラスベガスに足を運びづらかった子連れ観光客を呼び込みカジノ収益を伸ばすことだったが、こんな状況ではジェットコースターもテーマパークも経費がかかるばかりで存在意味がない。事実ストラトスフィアは倒産に追い込まれ、グランドスラムキャニオンも閑古鳥が鳴いている。そしてとうとうファミリー路線の盟主とも言うべき MGM のテーマパークも 9月8日をもって閉鎖されることが正式に決まってしまった。
 
 そのテーマパーク内にある巨大ブランコ型絶叫マシン 「スカイスクリーマー」 などはまだまだ人気があるが、人気があったらあったで問題があるというから話がむずかしい。乗っているのは大人たちばかりで、結果として本来カジノで遊んでいるはずの大人を遊園地が奪い取ってしまっているのである。絶叫マシンを楽しんだついでにカジノで遊んでいってくれればよいのだが、「絶叫マシンめぐり」 を目的にラスベガスにやって来る大人があとを絶たないという。
 結局、遊園地の多くは、子供が集まらなくて閑古鳥が鳴くか、本来カジノで遊ぶべき大人でにぎわってしまいガジノ収益の足を引っ張ってしまうかのどちらかで、いずれにせよ 「子供が遊園地で遊んでいる間にお父さんがカジノ」 というホテル側が描いていた図式には至っていない。これでは閉鎖もやむを得ないだろう。
 
 一般にアメリカ人は子供の時間と大人の時間、もしくは子供の場所と大人の場所をハッキリ区別する傾向にある。つまりテーマパークの存在が 「大人の街ラスベガス」 へ小さな子供と一緒に出かける動機とはなりにくい。子供は近くの遊園地か動物園、と考える親たちが多く、そのへんの感覚はナイトショーなどの大人の社交場へ子供を連れていこうとする日本人の親たちとは対照的だ。
 
 とにかく 90年代初頭から始まったファミリー路線は結果として失敗に終わったわけだが、その失敗は集客数という 「数」 の部分だけではなく、「質」 の部分においても大いなる誤算があったようだ。
 子連れの親たちはそうでない者に比べカジノで落としていく平均額が著しく少ないという。子供と過ごさなければならない時間の分だけカジノでの滞在時間が短くなるので当然といえば当然の結果だろう。また、子供がいない者に比べ可処分所得が少ない分だけカジノ予算が始めから少ないという調査結果もある。さらに、子供や妻と一緒に来ている父親は、単独でラスベガスを訪問するときに比べギャンブルに熱中できないという分析結果まである。やはり妻の目が恐いということか。
 いずれにせよ子連れファミリーはカジノホテルにとって歓迎できない客であることがここ数年の大いなる実験で立証されてきたのである。
 
 ファミリー路線に対する疑問はなにも今年になって浮上してきたわけではない。すでに 94年頃には多くのホテル経営者が気づき始めており、MGM では 「オズの魔法使いマジックショー」 を早々と中止にし、その場所を大人向けの高級ディスコ型ナイトクラブ “STUDIO-54” に改造してしまった。LUXOR も同様に子供向けアトラクション “ナイルの川下り”をたった 1年で閉鎖し、これまた大人向けのナイトクラブやレストランなどに改造してしまった。
 今回の MGMのテーマパークの閉鎖はまさに一連の “方針変更” の集大成ともいえる象徴的な出来事であり、90年頃から始まったファミリー路線の終焉を意味する大いなる節目といってよいだろう。なお今回のテーマパークの閉鎖に関して MGM側は 「あくまでも季節的な理由。来年の春には再オープンする予定」 としているが、9月、10月は寒いどころか暑すぎる真夏よりもはるかに気候的条件が良く、今回のホテル側の説明を真に受けている業界関係者は少ない。つまり多くの関係者はこのまま完全閉鎖に追い込まれてしまうと考えている。
 
 さて気になる今後の路線だが、どうやら合い言葉は 「大人の街」、それもハイエンドをねらった 「ゴージャスな大人の街」 になりそうだ。現在建設中のベラージオ、マンダレイベイ、ベネチアン、パリスなどはすべて高級路線を目指しており、MGM もプールやテーマパークの一部を壊してリッツカールトンと提携した高級スイートルームや国際会議場などを建設し始めている。また、ラスベガス市やネバダ州もこのトレンドを十分認識しており、高級ショッピングセンター、コンベンション会場、高級ゴルフコースなど、 「大人の街」 への変貌に対する投資を積極的に支援し始めた。
  21世紀のラスベガスはゴージャスな大人の総合エンターテーメントシティーへと変貌していることだろう。


バックナンバーリストへもどる