週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2009年 10月 07日号
"刺青解禁"、コンベンションで聖地化を目指すホテル業界
 いれずみ 【刺青】 --- なんとも言えない響きがある。張り詰めたような緊張感もあり、言葉としてはずっしり重い。刺すという文字の影響か、どことなく怖さも感じる。
 少しでもまろやかに表現したいからか、読みにくいからか、最近は 「入れ墨」 という表記も目立つ。たしかに突き刺さるような鋭利な語感はいくらか減るが、それでも物騒な言葉であることに変わりはない。
 公衆浴場などで見かける 「イレズミお断り」など、カタカナ表記を試みたところで、雰囲気は多少やわらぐものの、緊張感は常に付きまとう。
 腫れ物にさわるようなこの言葉。やはり日本では、「いれずみ = 裏社会」 という印象がぬぐい切れていないということか。
 それでも 「タトゥー」 と英語にすると話が別だ。言葉の妙というべきか、一気に軽い響きになり長年日本に根付いてきた物騒なイメージは払拭されてくるからおもしろい。

 Tattoo という表現しかないアメリカでの入れ墨の位置づけはどうか。
 多くの日本人は、「個人の自由が尊重されるアメリカでは単なるファッションのひとつ。特に悪い印象はないのでは」 と思うかもしれない。
 しかし現実はそうでもない。程度の差こそあれ、日本と同様、社会的な位置づけは決してよくない。誤解や批判を恐れずにあえてストレートに書くならば、「タトゥー = 二級市民」 という概念がアメリカにも確実に存在している。
 実際に今でも多くの企業が、手や首など通常の服装で露出される位置にタトゥーを入れている者を、顧客と対面する部署に配属しない傾向にあり、特にプロフェッショナルなイメージが求められる保険業界、銀行業界、弁護士事務所などホワイトカラー系の業種では、たとえ単純労働的な部署でもその傾向が顕著だ。
 差別に対して厳しいアメリカでそのようなことがまかり通っているとは意外に感じるかもしれないが、生まれながら選択の余地がない肌の色や人種に対する差別とはちがい、タトゥーは個人の自由意思によるものなので、Tシャツやジーンズでの勤務を禁止するのと同様、雇用主がタトゥーを禁止にしても裁判沙汰になることはほとんどない。

 そんな不利な条件にあるタトゥーをわざわざ入れる者が年々増え続けているという。なぜか。
 やはりハリウッドスターや人気スポーツ選手など著名人の影響が大きいと見るのが妥当だろう。
 憧れのスターがやっていれば、若者にとってはもはや 「タトゥー = 二級市民」 などという図式は成り立つわけもなく、カッコいいファッションとして自分もやってみたいと思うのも無理はない。若者だけではない。年配者の間でもタトゥーは急増中と聞く。(左上の写真は、後述するタトゥーコンベンションに参加したシルベスタースタローン氏と出展ブースの女性スタッフたち。クリックで拡大)

 業界側にも悩みはあるようだ。いくら著名人がやっているとはいえ、あくまでもそれは少数派。なおかつ社会的な評価が低いとあっては、業種としては常にどことなくうしろめたい環境に置かれてきたのも事実で、それは彼らも認めているところだ。
 そんな状況にあったためか、いわゆるタトゥーショップやタトゥーパーラーと呼ばれる彫るためのビジネスは、それぞれの地域で細々と営業する零細企業が多く、大企業が全国展開したり大きな業界団体が組織化されたりする環境は整いにくかった。また、立地条件などにおいても目に見えない制約があり、高級ショッピングモールなどに出店できるケースはまれで、まさに裏街道的な存在を余儀なくされ続けてきた。

 そんな業界に大きな変化が現れ始めたのはここ数年のことだ。
 "Sin City" (罪の街) とのニックネームを持つラスベガスの巨大ビジネスがタトゥー業界に目をつけたのである。
 具体的には、カジノホテルが有能なタトゥーアーティスト(彫師) やタトゥーショップを裏通りからゴージャスな自身のホテルのショッピングモールなどに呼び出し、最終的に、ラスベガスが 「カジノの総本山」 や 「エンターテインメントのメッカ」 であるのと同様、ラスベガスを 「タトゥー業界の聖地」 にすることが目標だ。(右上の写真はハードロックホテル内に最近開業したタトゥーショップ)

 しかしそれは簡単なことではなかった。「タトゥーショップをホテル内に置くことはしない」 という長年に渡って守られてきた暗黙のおきてを自ら破り解禁することは、タトゥー客が急増しホテルや街全体のイメージが激変しないとも限らず、パンドラの箱を開けるようなことにもなりかねないからだ。
 いざ計画を実行に移すとなると、やはりホテルのイメージダウンを危惧する声や、タトゥーショップ自体の成功を疑問視する声など、反対意見が噴出した。それでも念入りなマーケティング調査の結果、マンダレイベイホテルとパームスホテルがそれぞれの館内の一番目立つ場所にタトゥーショップをオープンさせることになり、マンダレイベイはモノレールの駅から館内に通じる通路を入ってすぐの場所に、パームスはフロントロビーのすぐ右脇に店を出した。
 特にマンダレイベイの場合、カリスマ的なタトゥーアーティストとして知られるマリオバース(Mario Barth)氏を総責任者に迎え入れ、既成概念にとらわれない店舗造りに巨額を投じるなど、大きな勝負に出た。(右上の写真はその店舗 Starlight Tattoo )

 店舗造りには綿密な計算があった。どんなに美しいタトゥーでも、その彫る作業は決してきれいなものではない。苦痛がともなう行為であるばかりか、ときには血液が飛び散る場面もある。
 したがって従来型のショップの多くは、まさに人から見えない裏の世界でやるのが普通だったが、バース氏はまったく逆のことを考えた。
 店舗を全面ガラス張りにし、店内にいる顧客はもちろんのこと、通行人に対しても彫る様子をすべて公開したほうがクリーンなイメージと安心感、さらにタトゥーを健全なアートとして定着させるためには効果的と考えたのである。
 この戦略が大いに当たり、2008年2月の開業後わずか半年で早くも採算ベースに乗るようになったばかりか、今では弟子をたくさん抱えているにもかかわらず、バース氏に彫ってもらうには2年も待たなければならないほど繁盛しているという。
 ちなみにバース氏は、ハリウッドスターの中でも特にタトゥー好きとして知られるシルベスタースタローン氏のタトゥーを担当したことでも知られ、その2年待ちのリストの中には数多くの著名人の名前が含まれているらしい。
 このようにして、すべてを見せる新たなコンセプトのタトゥーショップはまたたくまにブームとなり、この一年でハードロック、プラネットハリウッド、サハラ、リオなどの各ホテルに続々と登場することになった。

 そしてついにブームの大爆発を予感させるビッグイベントが先週末、マンダレイベイホテルのコンベンションセンターで開催された。
 "The Biggest Tattoo Show on Earth" と称するエキスポだ (写真右)。
 日本語に訳せば 「地球上最大の刺青ショー」 といったところだが、文字通りかなり大きなイベントで、主催者の発表によると出展ブースは700以上。最終的な来場者数は発表されていないが、おそらくラスベガスで毎年開催されるコンベンションの中でもトップテンに入る規模であることはまちがいないだろう。ちなみにこのイベントを企画主催したのはバース氏とマンダレイベイホテルというからなんともやることが早い。

 コンベンション都市と称され、数ある産業見本市を誘致してきているラスベガス市にとっても、今回のイベントだけはまったく新しい試みになったにちがいない。(右はイベント会場で熱心に質問をするスタローン氏)
 モーターショーやエレクトロニクスショーなど一般の産業見本市では、出展企業のスタッフも来場者もいわゆるネクタイをしたビジネスマンが中心だが、今回の刺青ショーでは "人種" がまったく異なり、ほとんどの者が少なくともタトゥー、鼻や唇にピアスをしている者もかなりいた。
 ちなみに出展企業の大半はタトゥーアーティストを擁するタトゥーショップで (どのブースもその場で彫りを実演)、残りはインクやニードルの製造メーカーやその販売店だが、いずれにせよネクタイをしている者など皆無に近く、マンダレイベイにとってもラスベガス市にとっても、新しい客層の誘致に成功したといってよいだろう。
 参考までに右下の写真の人は、「ここまで耳を大きくするのに13年かかった」 と語っていた。こういう人たちにお目にかかれるのもこのイベントの特徴だ。

 さて、日本はもちろんのこと、アメリカにおいてもタトゥー自体を受け入れがたいものとして否定的にとらえている者は少なくない。また、マンダレイベイホテルを始めとする各ホテルが、自社の従業員に対して何らかのタトゥー規制をしておきながら、その一方でこの業界に夢中になっているという商業主義に矛盾や違和感を覚える者もいることだろう。しかしタトゥー否定派にとっては残念ながら、もはやこのトレンドを止めることはできそうもない。

 スタローン氏が会場を訪れ大いに盛り上がりを見せるなど、メディアにとってもかなり斬新だったのか、今回のエキスポは全世界に向けて大きく報じられた。(左はイベント会場で自身のタトゥーを彫師に見てもらっているスタローン氏)
 また、会場の様子を見ている限り、来年以降このイベントがさらなる拡大を見せることはまちがいないところで、バース氏やホテル側の目論見どおり、ラスベガスがタトゥーの聖地として認知されることは時間の問題だろう。ただ、それがホテルや街全体に対するイメージダウンにつながるかどうかはまだだれにもわからない。
 今となっては否定派が本当に心配すべきことは、タトゥーのさらなる普及よりも、むしろ社会通念の変化、つまり職場などでの許容度が一気に広がることではないか。
 いつの日か、全米のホテルの受付スタッフや、高級レストランのウェイター、ウェイトレスが全身タトゥーだらけになったら…。寿司シェフも、キャビンアテンダントも、教員も、医者も…。そんな光景はあまり想像したくないので、ここはやはり反対派の側に回りたい。

 そもそも自分の肌に一生刻み込みたいほどの主義主張を代弁してくれる図柄や文字が存在するものなのか。
 肯定派からは、「愛する人や家族の名前などいくらでもある」 といった意見を聞かされるが、実際に今回のコンベンションを現場で見ている限り、そのようなタトゥーを入れている者はきわめて少数派で、大多数の者は単なる花模様やマンガのたぐいのデザインを彫っている。もちろん 「何を彫ろうがオレの勝手だ」 という言葉には反論の余地がなく、それはそれで尊重するしかないが、後悔したりすることはないのだろうか。

 反対派としてあえて示しておきたい重要なデータがある。彫ったあとにそれを消したくなる人がかなりの比率で存在しているということ。
 その数字は20%とも40%とも言われているが、全員が口に出すわけではないので実際の数字はだれにもわからない。
 消しやすいインクが開発されて来ているのも事実ではあるが、完全にきれいに消すことはなかなかむずかしいようだ。仮にそれができたとしても、彫るよりもはるかに多くの時間と費用と忍耐を要するのが現状だ。

 「それでも聖地のラスベガスで彫ってみたい」 という読者に対しては、その勇気と覚悟と決心に敬意を表して、以下に最新ショップのリストを提供したい。ただ、カリスマアーティストと呼ばれる彫師たちの間でも、日本の伝統技術である 「和彫り」 などは一目置かれる存在のようで、彼らの技術が日本人のそれと比べてどの程度なのかは定かではない。
 なお、以下のどのショップにおいても、18才以上であることを証明するための身分証明の提示(パスポートでOK)、エイズなどに感染していないかの問診表の記入、同意書への署名などが求められるため、英語が苦手な場合は辞書を持参したほうがよい。

 今回の「地球上最大の入れ墨ショー」は、反対派にとってはなんとも眉をひそめたくなるようなイベントではあったが、社会全体にとっては有意義な部分があることも事実で、それは素直に評価すべきだろう。怪しげなショップと健全なショップがどこにどのように存在しているかわかりにくい現在の様子はまさに玉石混交ともいえるカオスの状態だが、このイベントを機会に業界全体の風通しがよくなれば、不衛生なショップや無許可ショップの淘汰につながるからだ。また、インクの成分やニードルの規格など、当局による規制や法整備がさらに進むきっかけになれば、それは業界全体の地位向上につながる。そういう意味では今回のエキスポは功と罪が入り混じったいかにも Sin City らしいイベントといってよいだろう。

Starlight Tattoo  (マンダレイベイホテル)
 存在感、知名度、評価、人気、どれをとっても現時点ではラスベガスでナンバーワン。ただ、タトゥーデザインを選ぶ際はカタログに依存している部分が多く、タッチパネルが主流の他店に比べやや原始的な部分も見られる。料金は、コインサイズの一番小さなタトゥーで175ドルから。施術ブースの数は3。

Huntington Ink  (パームスホテル)
 マンダレイベイと並びホテル内タトゥーショップの草分け的存在。店全体が奥に細長くなっているため、施術スペースはオープン形式になっているものの、通行人からは見えにくい。人に見られたくない人におすすめ。料金はサイズや色や複雑さなどによってまちまちだが、150ドル前後から。施術ブースの数は3。

Club Tattoo  (プラネットハリウッドホテル)
 施術スペースのオープン度はこの店がナンバーワン。落ちついた黒を基調としたインテリアだが、雰囲気としては非常に明るい。ピアスなど販売商品も多く、タトゥーデザインを選択するタッチパネルの使い勝手も抜群。料金は150ドル前後から。施術ブースの数は3。場所はプラネットハリウッドホテルに隣接するショッピングモール「ミラクルマイル」内。ストリップ側から入った場合、Vシアターの少し先。

Hart & Huntington Tattoo  (ハードロックホテル)
 施術スペースはかなりオープンになっているが、人の交通量が他の店に比べやや少ないためか、全体として落ち着いた雰囲気が漂っている。販売している商品は少なく、施術に注力していることがうかがえる。場所はカジノフロアから北側の駐車場へ通じる通路の途中。料金は130ドル前後から。施術ブースの数は3。

Vince Neil Ink  (リオオールスイートホテル)
 施術スペースはかなりオープンになっているものの、店の一番奥にあるため、通行人などに見られることはまったくない。照明が暗いためか、店全体の雰囲気も暗く活気がないように見受けられる。料金は100ドルから。施術ブースの数は4。場所は新館カジノフロアの2階で、マスカレードショーのステージのほぼ正面。

Vince Neil Ink  (オーシーズカジノ)
 カジノとストリップ大通りに面しているため場所としてはかなり騒々しい。施術スペースは1つを除き、残りは奥まった位置にありオープン度は低い。待合室が狭く、あまりきれいな感じがしない。リオのショップと同じ経営だが、雰囲気はまったく異なる。料金は100ドルから。施術ブースの数は4。フラミンゴとインペリアルパレスの間にあるオーシーズカジノ内。

3 Lions Tattoo  (サハラホテル)
 日本のどこの町にでもあるような古い美容院と大差ない造りで、ゴージャス感はあまりない。サイズ的にも一番貧弱で見栄えがしない。料金は100ドルから。施術ブースの数は2。場所はサハラホテルのチェックインカウンターのすぐ向かい側。




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