週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2009年 06月 03日号
日米比較でわかる英語版ライオンキングの楽しみ方
 先月からマンダレイベイホテルの専用シアターでディズニーのミュージカル 「ザ・ライオンキング」 が始まった。
 数あるディズニー作品の中でも人気的にも興行的にも圧倒的規模を誇るこのミュージカル、今さらその内容やストーリーを説明するまでもないので、日本での劇団四季のバージョンとの違いなどを中心に書いてみたい。 (このページ内の写真の著作権はディズニー社にあり転載厳禁です。 (c) 2009, Disney. Photo Credit: Joan Marcus )

 1994年のアニメ版のヒットのあと、ニューヨークでの初演が1997年、劇団四季による日本初公演が1998年。そこから遅れること11年、エンターテーメントの総本山というべきラスベガスでこの名作がやっと始まった。
 そこで今回、東京浜松町の四季劇場 「春」 で行われている公演を5月22日に観て、その記憶が薄れない5日後の5月27日にラスベガス公演を観てきた。

 結論から先に言ってしまえば、それほど大きな違いは感じられなかった。最大のちがいは日本公演は日本語、ラスベガス公演は英語、という極めて当たり前のことになってしまうが、それ以外はほぼ同じで甲乙付けがたいほどすばらしい。特に最初にラフィキが歌うシーンなどはどちらも感動的だ。
 「本場のほうがレベルが上」 という先入観で日本公演を観ると冷静な判断をしにくくなるのでよくない。そもそも本場はラスベガスではなくニューヨークということになるが、初公演が行われた場所を本場と定義することにも合理性がなく、そう考えるとどこが本場でもいい。また、この作品は手塚治虫の影響を受けているといった噂が前からあるが、だとしたら 「日本が本場」 と言いたい四季や手塚ファンもいることだろう。
 いずれにせよ、中立な立場で両公演を短期間のうちに観て比較すれば、だれもが劇団四季の予想以上の完成度の高さに驚き、英語版にまったく引けを取っていないことがわかるはずだ。そうなると日本人にとっては日本語版のほうがストーリーをよく理解でき、より深く楽しめるということになるが、そう言い切ってしまうと、ラスベガスを宣伝する立場にある本誌としては具合が悪い。英語版にもいいところがある。

 先ほどの本場の議論に戻るが、このミュージカルにおいては、「本場はアフリカ」 と考えるのが妥当ではないか。理由はもちろんストーリーがライオン社会だからだ。
 そう考えるとラスベガス公演は、非常に自然な形でストーリーに溶け込め、ステージ全体にリアル感が漂っている。なぜなら、出演者の大半がアフリカ系アメリカ人だからだ。
 人種にかかわる話題は非常に微妙かつ敏感な問題で、差別発言などと指摘されかねないが、そういった主旨の話をするつもりはまったくないので誤解を恐れずにあえて書くと、このミュージカルにおいては白人よりも黒人のほうが動物を演じる役者として体形的、運動能力的に適任で、実際にその特徴を生かした演技はサバンナの雰囲気を実にうまく表現している。ディズニー自身もそういった人種的な差異を認めた上で黒人を多数起用しているにちがいない。
 そこが劇団四季と決定的に異なるところで、サバンナの描写において黒人の活躍がもはや不可欠となっているわけだが、劇団四季においては日本人が動物に扮してもどうしてもぎこちないというか、いかにも 「私はシマウマを演じています」的な感じになってしまい自然ではない。
 したがって、ストーリーの理解という部分を重要視する者にとっては確実に聞き取れる日本版に勝るものはないが、自然な形でサバンナらしい雰囲気に溶け込みトータル的な感動を味わいたい者は英語版のほうがいいかもしれない。
 もし両方とも観たいという場合は、もちろん日本版を先に観るべきだろう。ストーリーを完全に把握し、個々の場面でそれぞれの役者がどんな台詞をしゃべっているのかを知り尽くしておけば、英語がどんなに難解でもなんら問題はなく、特徴ある動物の動きや舞台セットの美しさなどをゆっくり楽しむゆとりも出てくるはずだ。

 台詞といえば、ミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァのやりとりのシーンがおもしろい。それまでのライオン王国における王様などの威厳のあるしゃべり方とは違い、彼らのシーンでは話し方がべらんめい調というか軽快な江戸言葉になるわけだが、「ハクナマタタ」=「何とかなるさ、気にしない気にしない」 の雰囲気がとてもうまく表現されている。そしてその部分は英語版ではいわゆるブロンクス訛りになり、現在福岡でも行われている公演では博多弁になるというから興味深い。ぜひその福岡版も観てみたいものだ。
 他に気づいた点としては、劇場の入口などの雰囲気がかなり異なっている。「春」 では、劇団四季のオフィシャルサイトなどにも書かれているように、無駄な装飾を排除し、低コストでの建設を実現してシンプルな造りになっているが、マンダレイベイの劇場は、赤いカーペットに金色の壁や柱といったゴージャス感を出した荘厳な雰囲気に仕上がっている。ちなみにこの劇場は今年の1月までマンマミーアが行われていた場所で、わざわざライオンキングのために壁や床などを大改造したという。座席数は春が1255席、マンダレイベイが約1700席で、こちらのほうがやや大きい。
 どちらもほぼ満席だったが、客層の違いはハッキリ認識できた。劇団四季の客層は修学旅行中の高校生および子連れファミリーが非常に多かったが、ラスベガス版では大半がオトナで子供はほとんど見かけなかった。ラスベガス自体に子供があまり来ないという意味では、当然の結果なのかもしれない。大人の雰囲気で楽しみたいという場合、ラスベガス版にはそれなりのメリットがありそうだ。

 娯楽気分が充満しているラスベガスでは、サーカス、マジック、コメディーなどのショーはヒットしても、高尚なミュージカルはヒットしないというジンクスがあるが、それが理由かどうかは別にして、このライオンキングはあえてラスベガスサイズに縮小されていない。
 ラスベガスサイズとは、「休憩時間無しの約90分」 という公演時間のことで、観客が劇場に長居することを嫌うカジノ側への配慮などもあり、これまでラスベガスで行われてきたミュージカルの多くは、ストーリーに支障のない範囲で不要な部分がカットされ、このサイズに縮小されていた。ライオンキングは今回の実測値で前半が65分、20分の休憩時間をはさみ後半が60分、正味125分で他の都市の公演とほぼ同じサイズになっている。これが吉と出るか凶と出るかわからないが、ジンクスを破りぜひロングランになってもらいたいものだ。
 チケット価格は、$113.50、$86.00、$53.00。この劇場は、劇団四季の春と異なり、2階席がなく、すべての座席セクションが同一のフロア面に収まっているため (それでもフロアの傾斜が十分にあるため、前の人の頭によって視界がブロックされるようなことはほとんどない)、左右の横幅よりも奥行きの長さが気になる。ちなみに最後列からステージの先端まで50メートルもある。座席を選ぶ際は、左右の位置関係よりも奥行きを重視したほうがいいかもしれない。
 公演日時は金曜日を除く毎日 8:00pm で、土、日は 4:00pm の部もある。チケット売り場は劇場前にあるが、エクスカリバー、ラクソーなど系列ホテルのボックスオフィスでも買うことも可能。



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