週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2009年 05月 20日号
モニュメントバレーの新ツアー、聖なるホーガンで原始を体験!
 アメリカ大西部を代表する景勝地モニュメントバレー (写真右、クリックで拡大)。
 この地が別格なのは、その圧倒的な絶景だけではない。ここは先住民族(ネイティブアメリカン) が統治するいわゆるインディアン居住区で、アメリカ合衆国の一般の州や都市とはまったく異なる特別自治区だ。
 そんな彼らの社会に古くから伝わる独自の住居 「ホーガン」 (写真右下) に一般観光客も宿泊できるというので行ってきた。

 電気もガスも水道もないワイルドな宿泊体験レポートの前に、まずはインディアン居住区について簡単にふれておきたい。
 ここでいうインディアンとは、白人がヨーロッパからアメリカ大陸へ渡って来るよりも前からその地に住んでいた先住民族のことで、彼らはアメリカ建国の歴史の中で、白人から土地、住居、物資、権利、時には生命までも奪い取られてきたという悲しい過去を持っている。
 そのような民族に対して現在の米国政府は、一般のアメリカ市民に対する法律を超越した特別扱いとして、古くから伝わる彼ら独自の生活習慣やルールを認めており、その治外法権的なことが許される区域を明確に定めたのがいわゆるインディアン居住区だ。(差別用語にもなりかねない 「インディアン」 という言葉の代わりに 「ネイティブアメリカン」 が使われる傾向にあるが、ここではあえて認知度が高いこれまでの通称 「インディアン」 を使用)

 米国政府が認定している部族数は500 以上あり、彼らの多くは、米国内に300ヶ所以上点在するインディアン居住区内で生活している。
 このモニュメントバレーもその居住区内にあり、統治しているのは、面積的にも人口的にも最大勢力を誇るナバホ族。
 その面積は九州と四国を合わせた広さよりも広大で、人口は約18万人。(居住区外に住む者も含めると約30万人。右上の写真は、今回のツアーに含まれているキャンプファイヤーの際に、伝統衣装をまとい踊りを披露してくれたナバホ族の長老)
 「州と同格の自治権が与えられている」、というのがインディアン居住区に対する現在の米国内での一般的な法解釈だが、「州ではなく国だ」 といわんばかりの部族も多く、このナバホ族も自らの領土を NATION (国家)と呼んでいる。もちろん NATION には通常の国家という意味以外にも、ただ単に文化を共有する集団の領土的な意味もあるが、ナバホ族は他の部族に比べ独自の言語を大切に保護するなど文化保存の意識が非常に高く、一般観光客にとってはその独自性がはっきり見えるため、ここはまさに国家と呼ぶにふさわしい異質の世界といってよいだろう。
 ちなみにこの区域内でスピード違反などを犯すと、米国の各州や市の警察ではなく、ナバホ警察によって反則切符が切られる。(反則切符の現物の写真 ← クリックで表示。小さな部族の場合は独自の警察を持たず、治安維持を米国の州警察などに委託している場合もある)

 さて、話をホーガン体験に戻すと、ラスベガスから砂漠の中を車で走ること約7時間 (途中で立ち寄った他の観光スポットでの消化時間や休憩時間を除く)。途中、幻想的な光で有名なアンテロープキャニオン (写真右)、断崖絶壁からコロラド川の蛇行を見下ろすホースシューベンドなどに立ち寄り、ナバホ族の聖地モニュメントバレーに到着。
 まずは、ビジターセンター脇に今年開業した 「ザ・ビューホテル」 のロビーに入り休憩。長旅の疲れを癒す間もなく、ロビーのガラス越しに、西部劇に出てくるあの絶景が目に飛び込んでくる。

 じつはこのビューホテル、まさに展望台のような場所に立つ絶景ホテルで、デッキに出ると広大なモニュメントバレーを一望できるようになっている。レストランや客室からも同様な景色を眺めることができ、名前が示すとおり、ビューという意味では世界屈指の超一級ホテルといってよいだろう。
 モニュメントバレーに宿泊する観光客の多くは、今年からこのビューホテルに泊まることになるわけだが (昨年までは少し離れた場所にあるグールディングスロッジが中心的な宿泊施設)、今回の我々の目的はここではない。もちろん目指すはホーガンだ。
 「新」の代表がビューホテルなら、ホーガンは 「旧」 の代表で、いにしえの時が今も脈々と流れるこの大地には、やはり断然ホーガンが似合う。過酷な原始の環境の中に身を置いてこそ、この地に眠る大自然の魂を肌で感じることができるので、モニュメントバレーの本質を本当に知りたいと思っている者はホーガンに泊まるのが常識だ。

 眼下に広がるその壮大な景色はすでに十分すぎるほどの大自然の環境下にあるわけだが、目的のホーガンは、そんな光景の中にいくつか見えるビュート(垂直に切り立つ巨岩) のさらにはるか向こうの秘境にひっそりと隠れているという。
 どれほどの環境かまったく想像できないが、とにかくナバホのガイドが用意してくれた四輪駆動車に乗り込んだ。(写真では大きさがわかりにくいが、ビュートの高さは東京タワー並みの約300m。右上の写真内の右下に写っている米粒ほどの赤い車と比較するといかに大きいかがわかる)

 赤茶色の砂の中を爆走しながら、途中数ヶ所あるビューポイントで車を止めてくれる。
 ジョンフォード監督が映画 「駅馬車」の撮影の際に使った通称 「ジョンフォードポイント」 (写真右) をはじめ、ゾウに似ているビュート、ドラゴンに似ているビュート、さらにアーチ状になったビュート、そして岩と空の境界部分がアルファベットの W と V に見え "Welcome Visitors" や "Wonderful Valley" と読むとされる奇岩 (写真右下) など、どれもまさに大自然が造った芸術で見ていて飽きない。

 あまりにも広すぎてどれほどの距離を走ったかわからないが、ホーガンがあるエリアは、ビジターセンターやビューホテルの位置からはまったく見えない完全な秘境にあり、周囲を見回しても地平線の彼方まで人工物はそのホーガンと我々が乗ってきた車と壊れかけた簡易トイレだけだ。
 今夜はここに泊まる。そう思うとこの広大な大地のすべてが自分のものになったような気分で、思わず大声を出したくなる。

 こちらの気持ちを察したのか、ガイドが我々に代わって日本語の発音でヤッホーと大声を出してくれた。なんと、その声は近くにあるビュートに跳ね返って戻ってくる。これほど鮮明なこだまはいまだかつて聞いたことがない。
 我々も試してみると、快晴無風だったせいもあり、風の音にじゃまされることもない静寂の中で、自分たちの声が大地に何度も何度もこだました。
 ちなみにここにあるホーガンの数はわずか3つ。広大なモニュメントバレー全体でもそんなにたくさんあるものではないらしい。そして今夜ここに泊まるのは我々取材班だけで他にだれもいない。まさに大地の貸し切り状態だ。

 照明が無いホーガン内は、陽が沈んだら何も見えない。今のうちに寝床をセットしようと思っていたところ、ガイドが夕陽がきれいなポイントに案内するという。そしてそのあとは、このツアーに含まれているバーベキューディナーとキャンプファイヤーとのこと。
 バーベキューの場所がこことはまったく別の遠く離れた場所にあることを初めて知らされるが、とにかく何をやるにもスケールが大きく、移動距離も長い。
 話が横道にそれるが、ガイドはどことなく誰かに似ている。モンゴル出身の力士、旭天鵬だ。そういえば、インディアンは太古の昔、北東アジアからベーリング海を渡りアラスカ経由でアメリカ大陸に入って来たという説がある。肌の色がやや濃いのと、小太り気味なところを除けば、たしかに身長も体系も顔の形も日本人に近い。やはりルーツをたどれば同じアジアの同胞だったのか。そう思うと親近感がわいてくる。

 夕陽のポイントとして案内されたのが、トーテンポールと呼ばれる場所 (写真右)。夕陽が見事に当たりオレンジ色に輝く絶景だ。
 このあと数キロほど走行した場所でバーベキューディナーとキャンプファイヤーを楽しむことに。
 こういうものは少しでもにぎやかなほうが楽しいだろうと、人数の少なさを気にしていたら、十数人ほどの別のグループも集まってきた。どうやらホーガン宿泊の人たち以外にも、ビューホテルに泊まりながらオプションでこの野外ディナーを選択することもできるらしい。(野外ディナーを選択しない場合は、ビューホテル内のレストランで食事をすることになる)

 料理は、知る人ぞ知るナバホタコ。メキシコのタコスとは似て非なるもので、ナバホ特製のやわらかい皮にマメ、トマト、オニオン、レタスなどを乗せて食べる。どんなものを食べてもこの環境ならばなんでもうまく感じるわけだが、そういった条件を差し引いても、このナバホタコはそこそこうまい。ビーフのバーベキューは安い肉なのか、かなり固く食べづらかったが、そのへんはご愛嬌といったところか。

 それよりも問題は飲み物。知っている人はもうお気づきの通り、ビールが無いのだ。
 ナバホの聖地ここモニュメントバレーではアルコール類は伝統的に禁止となっており、コーラやミネラルウォーターなどのソフトドリンクしかない。
 ビューホテルのレストランのメニューにもアルコール類は無く、さらにモニュメントバレーの外でもナバホ居住区内であればコンビニなどでの酒類販売は原則禁止だ。
 空港のセキュリティーチェックのような手荷物検査があるわけではないので、ラスベガスから持ち込めないことは無いが、「郷に入りては郷に従え」で、彼らが決めたルールを破ってはいけない。

 食事とキャンプファイヤーが終わると再びホーガンまで案内される。
 予想通りホーガンの中は真っ暗だ。彼らが用意してくれたローソク以外に、自分たちで持って行ったローソク4本にも火をともすと、意外と広いことに気付く (写真が明るいのはストロボの光)。8人ぐらいまでは楽に寝られるスペースがあるが、我々取材班は2人だけなのでスペースがあり余った。
 フロアはもちろん大自然そのままの土。その土の上にガイドがスポンジ製の薄いマットを敷きつめると、あとは寝袋を手渡されるだけ。そのあとすぐに、「明日の朝はサンライズツアーがあるので、日の出の直前に起こしに来るよ」 と言い残し、闇の中に消えていった。

 ちなみにホーガンは、木を組んで形を造ったあとに外を土で固めたものなので、内側からの見かけの印象よりは気密性が高く、すきま風などはほとんど入ってこない。寒くもなく暑くもなく快適だ。たまたま気温が最適だったのかもしれないが、「夏は涼しく冬は暖かい」 がホーガンの特長らしい。
 心配されるサソリやヘビだが、外側のしっかりした土盛を見る限り、それらが室内に入ってくることはほとんどないと考えていいだろう (地中から攻めて来られた場合は話が別だが)。

 出入口のドアの隙間からわずかに外が見えるが、なにやらローソクがともる室内よりも明るい。ドアを開けてみると、東の空から満月の光が差し込んでいることに気づく。これほど明るい月は見たことがない。
 ちなみにホーガンの出入口は、朝日で目が覚めるように必ず東向きに造るのだという。たしかに朝の起床にしろ、満月の夜の活動にしろ、出入口が東向きというのは実に理にかなっており、それが当然であることを体感として理解できた。
 弥生時代や縄文時代、もしくはもっと古い時代、人々は日の出と共に起床し、夜の行動は東から昇る満月の明かりに頼っていた。そして生活のリズムまでもが月の公転周期と一致してしまったのではないか。そんな太古の昔に思いをはせながら、あれこれ考えていると興奮も収まりやっと静かに眠りにつくことができた。
 ちなみに右上の写真はシャッターを15秒間開放にしたまま撮影したもので、写っている明かりも影もすべて月光によるもの。拡大すると空に無数の星が輝いていることがわかる。(ホーガンの出入口のすぐ上の位置に流星が写っているのも確認できる)

 翌朝は、約束どおり夜明け前に起こされ、車に乗って日の出のポイントへ。あいにく雲が低く朝日は拝めなかったが、大自然の中で迎える朝はすがすがしい。
 話が長くなってしまったので、このあとの細かい行程は割愛するが、8時にモニュメントバレーをあとにして、トムハンクス主演の映画 「フォレスト・ガンプ」の撮影現場 (写真右) に立ち寄り一路グランドキャニオンへ。

 昼前にグランドキャニオンに到着し (写真右)、4ヶ所のビューポイントで休憩。
 その後、旧道ルート66 でおなじみの宿場町セリグマンに立ち寄り、フーバーダム経由でラスベガスへ。
 結局、1泊2日で、ホースシューベンド、アンテロープキャニオン、モニュメントバレー(ホーガン宿泊)、グランドキャニオン、ルート66、フーバーダムを見て回る忙しい行程ではあったが、日常を脱しての原始生活の体験は一生忘れない思い出となった。シャワーを浴びることができないなど不便な部分は多々あるものの、たまにはこれぐらい過激な体験があってもいい。アウトドア派、大自然派はもちろんのこと、自分探しの旅などが好きな者、そしてスピリチュアル系のことが好きな者などにも最適だ。なんといってもホーガンは、昔から単なる住居ではなく、さまざまな儀式を行う聖なる場所で、大地と天からのパワーが凝縮しているのだという。なにか幸運にあやかれるかもしれない。よほどの潔癖症以外の者はまちがいなく楽しめるのでぜひ参加してみるといいだろう。
 なお、このツアーは、ラスベガス大全のツアーセクション内にて日本語ガイド付きツアーとして紹介されている。



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