週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2008年 10月 08日号
サハラで、パソコンをテーマにしたラテン系ミュージカル
 10月3日、サハラホテルでパソコンをテーマにしたラテン系ミュージカル "Raw Talent Live" が始まった。
 ミュージカルといえば、通常ラスベガスはブロードウェー系がほとんどだが、このショーはラテン系。といっても中南米で生まれ育ったショーというわけではない。サンバなどラテン系の音楽をたくさん取り入れ、登場する役者も多くがラテン系というだけのことだ。

 このショーをクリエイトしたのはドイツ系のプロデューサー、通称 "ND" こと Nicole Durr で、彼女はキューバのハバナにダンススクールやスタジオを持つなど、ラテン系ダンサーの発掘を得意としている。
 ちなみに今回のショーは彼女にとって初めてのラスベガス進出というわけではない。じつは数年前にもラテン系ダンサーを多数起用したナイトショー Havana Night Club を、スターダストホテルで公演しており、その際、キューバ出身のダンサーたちにアメリカの入国ビザがなかなか発給されないという騒動で、ちょっとした話題になったことがある。

 そんな ND が、2年前からあたため満を持して始めたのが今回のショーで、やはり役者のほとんどはキューバを中心としたラテン系だ。
 その数、総勢53人 (生バンドのメンバーも含めると約60人)。もちろんこの数字には照明や衣装などの裏方さんは含まれていない。人数という意味ではまちがいなくラスベガス屈指の大規模なショーで、ステージの幕が開いた瞬間、視界に飛び込んで来るその歌手やダンサーの数にはだれもが圧倒されることだろう。

 ジャンルとしてはミュージカルということになっているが、一般のミュージカルに比べ、役者がしゃべる部分が総じて少なく、そのぶんダンスと歌が多い。
 結果的にストーリー性も希薄になりがちで、ダンスや歌を漠然と見たり聴いたりしていれば、そこそこ楽しめるようになっているのがこのショーの特徴だ。つまり通常のミュージカルと違い、英語が苦手な者でも取り残されることはないので、語学力のことを心配する必要はほとんどない。

 はっきりした明確なストーリーはないものの、とりあえずテーマのようなものはある。それは、パソコンに支配される人間に対する風刺だ。
 一台のパソコンをめぐる冒険のようなカタチで話は進められていくわけだが、役者がしゃべる言葉や歌の歌詞の中に、ときどきスペイン語も登場するので、一般のアメリカ人客のように英語がわかる者でも理解できていない部分があるように思える。つまり、このミュージカルにおいては、言葉の役目はその程度でいいということのようだ。

 結局、基本的にはダンスと歌ということになるわけだが、それがなかなかのレベルにあり、観る者を飽きさせない。また、役者の数が多いので、だれかが踊っている間にだれかが歌うといった密度の濃い演出が可能になっているのもこのショーの特徴だ。
 さらにうれしいことに音楽は録音ではなく生バンドで、ラテン系の打楽器の活用もうまい。
 舞台シーンの切り替えは、小道具などのセットで行うのではなく、すべてハイテク映像。といっても手抜きという意味ではなく、むしろその独創性に感心するばかりで、どのシーンにおいてもカラフルで幻想的な演出が楽しめる。ちなみにステージ奥の壁の端から端までが巨大スクリーンになる。

 いいことばかりを書き並べてしまったが、すべてが完璧というわけではない。
 まず衣装があまりパッとしない。さらに一人ひとりの衣装がばらばらで統一されていなかったり、色も地味なものが多く、照明や映像などを駆使した舞台ディスプレイに比べ、華やかさに欠ける。
 そしてなにより、タイトルの通り、まだ完成度が低い発展途上の役者が多いのか、全体として荒削りな部分が目だち、細かい部分をあまり気にしていないという印象を受けた。それがラテン系らしい部分なのかもしれないが、せっかく人数が多いのに、「高級」や「ゴージャス」といった言葉がまったく連想されてこない演出はもったいない。

 初めてラスベガスを訪れる者がわざわざこの無名のミュージカルを見る必要はまったくないが、すでにほとんどのショーを観てしまったというリピーターや、照明や舞台を研究している者などは足を運んでみるとよいかもしれない。決して後悔するようなショーではないはずだ。
 場所はサハラホテル。公演日時は金曜日から火曜日までの毎日 8:30pm で、水曜日と木曜日は休演。チケットは $79.95。なお、まだ始まったばかりということもあり、半額チケットショップなどでこのショーのチケットは売られていないが、満席にはほど遠い状態だったので、遅かれ早かれ安いルートでも販売されるようになると思われる。
 最後に、現状の集客で、これだけの数の役者を維持していくことはかなりむずかしいように見受けられる。キューバのダンサーたちの給料がどうなっているのかわからないが、常識的に考えて、このショーが長続きするとは思えない。ストリップの北端というロケーション的にも今後集客が激増するとは考えにくいので(過去この劇場が満席になったショーはあまり記憶にない)、興味がある者はできるだけ早めに観ておいたほうがよいだろう。


バックナンバーリストへもどる