週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2008年 07月 30日号
「超少量の高級和食」 vs 「C級のり巻き食べ放題」
 「海外旅行中にわざわざ和食を食べなくても…」、「せっかくの外国、その土地ならではのモノを食べるべき」
 よく耳にするフレーズだが、それでもついつい食べたくなってしまうのが和食。
 「こればかりは体が欲するものなので、どうすることもできない」、「食べないと元気が出ない」
 そんな和食党に朗報、いやガッカリ情報かもしれないが、超便利な場所に和食スポットが出現したのでレポートしてみたい。

 ラスベガスの繁華街の中心地はストリップ大通りとフラミンゴ通りの交差点 (写真左)。
 そこから限りなく近い便利な場所に、まったく新しい店と、店は新しくないが新しいシステムが誕生した。
 前者はベラージオホテル内に先週オープンしたばかりの高級和食店 Yellowtail、後者はパリスホテル内の既存店 Ah Sin が始めた 「のり巻き食べ放題」 だ。
 まずは Yellowtail から、といきたいところだが、先にゴージャスな話をしてしまうと、あとがつまらなくなってしまうので、あえて順番を入れ替え Ah Sin から。

 Ah Sin は 5年前の開業時にこのコーナー (バックナンバー322号) でも紹介したパリスホテル直営のアジア料理店。
 メニューが多彩であるばかりか店内の演出やサービスもユニークで、さらに世界に冠たる目抜き通り 「ザ・ストリップ」 の歩道に面しているとあって、さぞかし人気が出るだろうと思いきや、なんとその後は鳴かず飛ばずの低迷営業を5年も続けている。テナントとしての単独店だったらとっくに閉店に追い込まれているはずだが、ホテル直営のため現在もなんとか生き延びている。そこで起死回生のアイデアとしてこのたび打ち出されたのが、$19.99 での食べ放題メニューだ。

 ラスベガスでは、バフェィはもちろんのこと寿司店においても食べ放題は珍しくないが、この Ah Sin はだれもが簡単にアクセスできる絶好のロケーション、ここを紹介しないわけにはいかないと思い、とにかく足を運んでみた。 (右は Ah Sin の屋外席)
 結果は正直言ってガッカリ。問題はいくつかあるが、最大の難点はメニューが限定されていること。宣伝文句に 「のり巻き限定」 と書かれていたので、にぎり寿司は対象外であることは承知していたが、のり巻きの種類にも制限があった。つまり、この店の通常メニューに掲載されている多くののり巻きは対象外で、オーダー可能なのは次の10種類だけだ。

California Roll (アボカドとカニかまぼこ巻き)、  Crab Roll (カニかまぼこ巻き)、  Cucumber Roll (かっぱ巻き)、  Philadelphia Roll (サケの刺身とクリームチーズ巻き)、  Shrimp Roll (エビ天巻き)、  Salmon Roll (サケの刺身の巻物)、  Spicy Salmon Roll (サケの刺身をスパイシーにした巻物)、  Tuna Roll (いわゆる鉄火巻き)、  Spicy Tuna Roll (鉄火巻きをスパイシーにしたもの)、  Vegitable Roll (野菜巻き)、

 これらはアメリカでは極めて単純な巻物ばかり。じつはアメリカの一般の寿司店では、もっと奇抜な巻物がたくさんあり、それらは意外にもなかなかの美味。この店にもその種の巻物が多数あるだけに、この10品だけという限定ルールはいささか残念だ。
 宣伝文句をよく読んでみると 10種限定であることは明記されていたので、確認を怠ったこちらのミスではあるが、多くの客がガッカリしていることはまちがいないだろう。
 ガッカリさせられたのはそれだけではない。せっかく元気よく握っている板前さんがいるカウンター席に座ったものの、なんと食べ放題メニューはそこでは作ってもらえない。つまり板前さんにオーダーしてもダメで、ウェイトレスにたのまなければならない。そしてあらかじめ作られていたものが調理場から運ばれてくる。何とかならないものか。

 気になる味のほうだが、こちらもいまひとつ。コメがいわゆる 「半殺し」 になってしまっており (右写真、クリックで拡大表示。ちなみに半殺しとは、コメ粒を半分程度ついた状態のことで、ぼた餅などを作る際に用いられる手法)、寿司というよりもモチに近い食感だ。たまたまその日がそうだったと考えたいが、これがこの店の標準だとしたら改善を期待したい。
 そんな 「モチ風のり巻き」 でも、日本を離れ数日が経過し醤油系の味に飢えている和食党には妥協の産物として 「ハンバーガーよりはうまい!」 と思えるかもしれない。どうしても和食が恋しくなった際は、大きな期待をせずに入ってみるとよいだろう。

 なお、ここまでを読んで 「$19.99 で寿司が食べられるならまぁいいか」 と考えるのは早計だ。和食に飢えている者が寿司に出会えば、きっとお茶も欲しくなることだろう。なんとこの店ではお茶も有料で (それ自体、アメリカでは珍しいことではないが)、料金は 8ドルと決して安くない。
 結局、お茶をオーダーするとビールなどを飲まなくても消費税とチップを入れて 35ドル程度にはなってしまうので、予算がきびしい者は注意が必要だ。あと、曜日が限定であることも覚えておきたい。月曜日と火曜日は休み、つまり 水曜日から日曜日までで、この食べ放題が楽しめるのは 5:30pm から 10:00pm まで。場所は、エッフェル塔の真下付近のストリップの歩道に面した位置なのですぐにわかる。満席ということはめったにないので、予約の必要はないだろう。

 さて次は先週オープンしたばかりの Yellowtail。意味はブリやハマチのことだが、純粋な寿司店というわけではない。
 じつはこの店、ナイトクラブの経営など、エンターテーメント施設のクリエーターとして知られる人気集団 Light Group が運営している。
 純粋な和食を求める日本人にとってはなにやら怪しげな店にも思えるが、アメリカ人の間では開業前から話題に上っていた注目店だ。
 ちなみにこの集団は、ミラージホテルの人気ナイトクラブ JET、そしてアダルト向けトップレスプールとして話題の Bare、さらにはベラージオホテルの高級ナイトクラブ Bank など遊び系を得意としているが、最近はレストランにも力を入れ始めており、ミラージの STACK、ベラージオの FIX、モンテカルロの Diablos および Brand など、話題の店を次々とオープンさせている。

 ちなみにこの Yellowtail の場所は、これまで長らくラスベガス屈指の高級和食店として知られてきたベラージオ直営の Shintaro があったところ。つまり Shintaro に置き換わる形で登場したことになるわけだが、純粋な和食店ではないとなれば、その料理のジャンルはなんなのか。
 その答えはむずかしいが、現場の実態をそのまま表現するならば、「和食をベースにした創作系料理 & 寿司」 ということになる。
 内装はゴールド、ブラウン、ダークオレンジなどを基調とした落ち着いた雰囲気にまとまっているが、この会社にはナイトクラブのDNAがあるのか、BGMの音量が和食を楽しむには大きすぎ、また照明が非常に暗い (上の写真では暗く見えないが、日没後は非常に暗くなる)。女性スタッフの衣装も洗練された黒のミニワンピース、ウエイターも黒のシャツで、これまたなにやらナイトクラブ風だ。
 なお、窓からはこのホテル自慢の噴水ショーが楽しめるが、窓際の席はハイローラー(高額の賭け金でプレーするギャンブラー。ホテルにとっては大切な上客) のために確保されているようで一般客が座れる可能性は低い。

 さて料理についてだが、純粋な寿司メニューもあるが、それを紹介したのでは話題としておもしろくないので、ウェイターがすすめるままに、この店自慢の(この店が一番儲かる?) コースメニュー "Omakase $100" および "Grand Omakase $135" をオーダーしてみた。どちらのコースも料理の数は 「6品 + デザート」 で同じだ。
 予想に反して料理のレベルはかなり高く、両コースともデザートも含めて全14アイテム、すべて舌でも目でも楽しめた。皿も凝っているものが多く、見ていて飽きない。

Omakase $100Grand Omakase $135


ウェイターいわく 「鯛スナッパー」。スナッパーとは鯛のこと。この店ではやたらと日本語が飛び交っているところがおもしろいが、とにかくこれは鯛の薄切りの刺身。下の黒い部分は皿の色でソースの色ではない。白黒2色の皿に乗っている。 ウェイターいわく、イエローテールのタルタル。ハマチの刺身を細かくたたいたものに、ワサビ入りのそばつゆ風ソースが添えられている。氷が入った器の中に、小さな器を入れて冷やしている。



ヒラメにゆずソースがかかったもの。Yuzu という言葉も最近はかなり定着してきており、その風味もアメリカ人に受けている様子。味は申しぶんないが、薄切り3枚という量は、大食いのアメリカ人ならずとも、いささか少なすぎる。 ミル貝のオレンジ味噌ソース。ゆず味噌ならぬオレンジ味噌ソースを使っているところがおもしろい。左のアイテム同様、味は申しぶんないが、量が少なすぎるのが難点。



タタキサラダ。タタキという言葉が一般のアメリカ人にどこまで定着しているのかは不明だが、最近やたらと使われるようになってきた。マグロの表面を軽く焼いたもの、サーモンの刺身、薄切り大根で巻いた野菜が、ガーリック入りのドレッシングに乗って出てくる。 「タタキサラダ with ポーチドエッグ」
いわゆる「温泉卵」が添えられているだけで、それ以外は左のアイテムとまったく同じ。ウェイターいわく、その半熟の卵をくずして刺身にからめて食べるとマイルドな味わいになるとか。




スズキのうにソース添え。スズキの皮はパリッと揚げた感じで魚臭さがなく、うにソースを絡めて食べると美味。写真ではわかりにくいが、一口で食べられるほど小さい。 「Live Amaebi with Kinoko Sauce」 とウェイターが言いながら運んできたので、「甘エビの踊り食いか?」 と思いきや、「生きたエビを調理した」 と言いたかったようで、エビは死んでいた。泡立てたソースの味は絶妙。



これもそのまま日本語で Wagyu Staek。ミディアムレアに焼かれた和牛に (焼き方は聞かれない)、バルサミコ風味のソースが添えられたもの。味は抜群だが、これもとにかく小さい。 「Kobe Beef Steak」 と言って運ばれてきた逸品。Omakase ということもあり、焼き方は聞かれないがミディアムレアにうまく仕上がっていた。柔らかくて美味だが、一口で終わってしまうのが難点。



 にぎり5種盛り合わせ。寿司が運ばれてくる際に、「Regular Soy Sauce or Low-Sodium Soy Sauce?」 と聞かれる。ようするに普通の醤油か減塩醤油かということ。質問に答えると、小皿に醤油を注いでくれる。味は申しぶんない。問題は量だけ。 にぎり5種盛り合わせ。右端の軍艦巻きは、鯛の皮を細かくたたいたものでなかなかの美味。真ん中のカニはもちろん本物。ところでここまでの段階で、左よりも35ドルも高い価格設定になっているのがよくわからない。




カキ氷の上にシャーベットが乗ったデザート。見ての通りのもので、この写真から想像できる以上のモノでも以下のモノでもない。甘すぎず、さっぱりしているところが和食店らしくてよい。 チェリーのデザート&シャーベット。写真に写っていないのが残念だが、器の底に、LEDの点滅ライトやドライアイスが仕掛けられており、味覚、視覚共に楽める逸品。



 以上のようにどれもかなりのレベルにあり、味的には申しぶんないが、とにかく量が少ないことだけは問題になりそうだ。上の写真ではサイズがわかりにくいが、6品目の寿司が出てくるまでは、ほとんど一口で食べ終わってしまうものばかり。またその寿司もわずかに5個。よほど小食でもない限り、これで満腹になる者はほとんどいないだろう。大食いのアメリカ人客から不満が出て、遅かれ早かれ改善されるのではないか。
 ちなみにこの種の高級なコースメニューですぐに思いつくのは MGMグランドにあるロブション。現在ロブションの最上級のコースメニューは $385 なので、この Grand Omakaseの約3倍ということになるが、ロブションの場合、料理以外にもさまざまなパンやスイーツがサーブされるので、結局、食べる量としては 3倍以上になっているのが普通だ。そう考えると、この Grand Omakase は量当たりの料金としてはラスベガス屈指の高級和食店と言えるのではないか。味さえよければ料金にはあまりこだわらないという者はぜひ足を運んでみるとよいが、そうでないものは量的に不満が残るかもしれない。なお、これら Omakase メニューの内容は日によって変わる可能性があるとのこと。
 営業時間は毎日 5:00pm から 10:00pm までだが、週末は深夜12時までオープンしている。予約の電話番号は 702-693-7223。


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