週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2008年 02月 06日号
モンテカルロ火災が残してくれた多くの教訓
 1月25日、まさかの火災に見舞われたモンテカルロホテル。ニュースで流れたそのリアルな映像は、世界中の人をビックリさせたにちがいない。
 幸いにも人的被害はなく、現在現場では営業再開に向けた復旧作業が続けられている。まもなく再オープンの時期が正式に発表されることだろう。
 今週は、このホテルの現在の様子、および火災から学ぶべき教訓、特に可燃性の外壁材などを中心に考察してみたい。

 今回の火災事故は、結果的に犠牲者ゼロで多くの教訓を残してくれた。そういう意味では、全世界のホテルや高層建造物に関わる者にとって非常に有益だったといえなくもない。もちろん利用者が被った不便、そしてこのホテルや保険会社にとっての経済的な損失は無視できず、火事を有益などというと 「不謹慎」 との異論も出てきそうだが、学ぶべき教訓がたくさんもたらされたことは疑いのない事実で、それは今後の防災に生かされるべきだろう。たとえば、火災の原因が屋内ではなく屋外にあったこと、当然のことながら屋内に設置された煙探知器やスプリンクラーは役に立たなかったこと、宿泊客を避難させたあとでも人命にかかわる問題が出てきたこと (理由は後述)、避難サイレンが鳴っても機器の試運転や誤動作だと思い込んでいた者があまりにも多かったこと、そして可燃性の外壁材に対する危険性など、さまざまな問題が浮き彫りになった。

 当局の調査によって、火災の原因は屋上で行われていた溶接工事と断定された。
 その作業を行う際には耐熱マットを周囲に敷かなければならないが、それを怠っていたらしい。溶けた高温の金属が落ちた場所がたまたま可燃性の外壁材で、そこから火が燃え広がったようだ。さらにそこで燃えた外壁材が数階下にある出っ張りの部分に落下し (写真右、26日撮影。クリックで拡大)、そこでも燃えた。
 館内に無数に設置してある煙探知器やスプリンクラーもそんな想定外のことには機能せず、消火活動を遅らせることになってしまったが、結果的には消防隊の努力もあって、被害は上層階の外壁と一部の客室の焼失、それに放水による浸水だけで済んだ。火は上に広がるものなので、もし出火場所が下層階であったら、そして、もし出っ張りの部分がもっと下にあったら、大惨事になっていたかもしれない。
 さて、そこでだれもが疑問に思うことは、外壁材はそんなに簡単に着火するものなのか、ということだろう。じつは簡単に着火する。いや、それほど簡単には着火しないはずだったが、実際にはしてしまった、というのが現実だろう。
 着火するのも無理はない。じつは外壁材は発泡スチロールのような素材で出来ている。その表面に装飾用のコーティングがなされているだけだ。ちなみに右上の写真の色が異なる部分、つまり薄いオレンジ色の部分がその素材でできた外壁で、他の白い部分はそうではない。したがって、正確に言えば、燃えやすい部分は 「外壁」 ではなく、「外壁に取り付けられた装飾部分」 ということになる。

 発泡スチロールと聞けば、だれもが 「なんという安物を!」 という印象を受けることだろう。
 しかしそれはホテルの格などの問題ではない。もっと格上の高級ホテル、たとえばシーザーズパレスやベラージオでも同様な材料が使われている。つまり外観の装飾にはどこでも発泡スチロールのようなものが当たり前のように使われているというわけだ。特に 「世界の名所のコピー」 を得意とするラスベガスでは、他の都市に比べ多用される傾向にあるという。(右の写真はシーザーズパレスの最上階部分。この円柱形の柱の部分も中心部は鉄骨だが周囲は発泡スチロールのような素材。その柱の上下にある装飾部分も同様)

 右下の写真は、上から4つ目までがその種の素材で外壁を装飾している代表的なホテル、下の3つが、その種の素材をほとんど使っていないホテルの代表だ。(写真の上でマウスを静止させるとホテル名を表示、クリックで拡大)
トレジャーアイランド パリス エクスカリバー ベラージオ マンダレイベイ ウィン MGMグランド  さらに話を進める前に、「発泡スチロール」 という言葉について補足しておきたい。日本語で言うところの 「発泡スチロール」 に対して英語ではしばしば 「スタイロフォーム」(Styrofoam) という言葉が使われるが、じつはこれは化学大手のダウケミカル社の商標、つまり固有名詞だ。したがって、正式にはダウ社以外の発泡スチロールをスタイロフォームと呼ぶことは正しくないが、一般的にはスタイロフォームという言葉が広く使われてしまっている。サランラップ、ナイロン、テフロンなど、化学製品には固有名詞が一般名詞のように使われる例が少なくないが、それと同じと考えればいいだろう。
 そしてその本物のスタイロフォームは梱包材の発泡スチロールとは微妙に異なっており着火しにくく、建材としての評価も高い。だからといって、アメリカのビルの外壁の装飾材のすべてがダウ社のスタイロフォームかというと、必ずしもそうではなく、むしろ類似の競合製品であることがほとんどだ。
 したがって今回のこの記事内では、他に適当な言葉がなかったので発泡スチロールやスタイロフォームという言葉を使ってきたが、厳密にはどちらも正しくないので、以下 「フォーム」 と表現することにした。(アメリカの各メディアも今回のニュースにおいては 「foam」 を使っている。もともとの意味はもちろん 「泡」)

 建築材にフォームが使われていることは、業界関係者ならずとも、アメリカでは多くの人が知るところだ。一般の住宅にも広く使われているからだ。Do it yourself の習慣が浸透しているため、日曜大工などで実際に触れる機会も少なくない。
 じつはフォームにまつわる愉快なハプニングに遭遇したことがある。立派な豪邸の友人宅で開かれた子供の誕生パーティーでのこと。アメリカでは (特にメキシコ系の人たち) 、オモチャや菓子をたくさん詰めたクス玉を、庭の木や玄関などの軒先につるして小さな子供が野球のバットなどで割るという遊びがある。スイカ割りならぬクス玉割りだ。簡単に割れてしまったのでは割れたときの喜びが大きくないので、強度は年齢に合わせて親たちが調節したりするわけだが、その主役の子供は全身の力をこめて思いっきりバットを振った。しかしバットはクス玉に当たらず、力あまって玄関脇に立つ荘厳な柱 (ひさしを支える柱) に当たり、そのまま突き刺さってしまったのである。その柱は誰が見ても立派な石質の柱だっただけに、その軟らかさを知らなかった日本人の親たちは一同ビックリ。柱の中心部はもちろん強度のある木材やコンクリートで構成されていたが、美しい曲線美などを造っていたのはすべてフォームで、そしてその表面に石に見せかけた素材が薄くコーティングされていたのである。

 ホテルの外壁の装飾材でも同じようなことが行われており、くしくも今回の火災ではそれが露呈してしまったわけだが、フォームを建築材として使うことはなにもアメリカに限ったことではない。ダウケミカル社の日本語サイトを見ればわかるとおり、利用方法に多少の差こそあれ、スタイロフォームは日本でも優秀な建材として広く使われている。
 そもそもフォームは悪いものなのか。梱包材などに使われるため 「タダ同然の物」 としての認識があり、安物素材のように思われてしまいがちだが、断熱性、防水性、加工のしやすさ、軽さなど、その特性には目を見張るものがある。また、高層ビルの外壁装飾に本物の石材やコンクリートを使ったのでは、コストも工期もかさむばかりか、落下したときには危険で、フォームの利用にはそれなりの利点も根拠もある。
 それでも今回の火災がフォームの利用に改めて問題を投げかけることになってしまった。じつはフォームの可燃性がこれまでまったく指摘されてこなかったわけではない。その証拠に、原則として室内で使うにはきびしい条件をクリアする必要があり、また屋外での使用においても、フォームをコーティングする材料や厚さにルールがある。つまり、フォームは燃えやすいので、必ず燃えにくい材料でしっかり包み込め、というわけだ。
 もちろんモンテカルロの外壁装飾材もフォームがむき出しになっていたわけではなく、石に見せかける素材で覆われていた。それでも燃えたという事実。これは、そこに落ちた高温の鉄があまりにも常識とはかけ離れた特殊な条件だったのか、それともフォームを覆っていた素材が悪かったか厚さが不十分だったか、ということになるわけだが、いずれにせよ、規則の見直しが行われようとしており、今回の火災から学ぶべきことは少なくないようだ。

 フォームの話が長くなってしまったが、安全に避難した後にも問題が発覚した。宿泊客はそのほとんどが、MGMグランドのアリーナに避難したが、鎮火後も長時間、客室に戻ることが許されなかったため、数時間おきに摂取しなければならない医薬品を部屋に置いてきてしまった者などは、健康上の問題に直面した。市販の薬ならばすぐに調達できるが、医者の処方箋が必要な特殊な薬の場合、そうもいかない。結局、赤十字のボランティアなどが出動して、ことなきを得たようだが、こういった問題は地震災害などが少ないアメリカでは想定しにくく準備不足になりがちだ。ラスベガスのホテルが日本などから学ぶことは少なくないかもしれない。
 避難サイレンを誤動作や機器のテストと思い込んでしまった者が多かったという問題は、今回のケースに限らずどこでも抱える悩みと思われるが、実際の火災で各自が何をどのように勘違いし、最終的にどのように行動したのか、そういった検証は有益だろう。どこの国でも大規模ホテルでの火災事例はほとんどないはずなので、貴重な情報になるはずだ。

外壁工事1 外壁工事2 外壁工事3 外壁工事4  教訓の話はそのへんにして、最後にモンテカルロホテルの今後の営業再開に関してだが、最大の支障は焼けた外壁の落下問題だという。運が悪いことに、延焼した部分のほぼ真下にこのホテルの正面玄関があり、焼けた外壁をすべて取り除くまでは営業を再開できないようだ。右の写真の通り(2月4日と 5日の様子)、工事は着々と進んでいるが、まだ完成には至っていない。2月11日からの開業を目標に準備を進めているとのことだが、それよりも長引く可能性もありそうだ。
 なお、このホテルで開催されているナイトショー 「ランスバートン・マスターマジシャン」 も、ホテルの開業までは休演することになっており、休演期間中のチケットをすでに購入してしまっている者に対しては、モンテカルロホテルの公式サイトおよびランスバートンの公式サイトを通じてそのチケットを購入している限り、購入時に使用したクレジットカードに自動的に返金 (マイナス金額の伝票処理) されるという。
 とりあえず宿泊もナイトショーの予約も、ホテルの開業を確認してから行動を起こしたほうがよいだろう。


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