週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 12月 12日号
最近のクリスマス、日本もアメリカもどこかヘン!
 毎年この時期になると同じような質問がメールで多数寄せられる。「クリスマスらしい雰囲気を楽しめる場所は?」
 それに対する今年の返答はこう決めてある。
「それらしき場所は地元民が住む郊外に少しあるだけで、ホテル街から観光客が徒歩で行けるような場所にはほとんどなし。日本のクリスマスの方がはるかにゴージャスなので、あまり大きな期待は禁物。ラスベガスではラスベガスでしか楽しめないカジノやショーを楽しみましょう」
(右上の写真は、クリスマスらしい雰囲気を楽しめる数少ない場所で、ベラージオホテルの室内植物園内に飾られたクリスマス装飾。クリックで拡大表示)

 現在のラスベガスの状況説明はそれで十分ということで、さて、左の写真は昨年12月のシーザーズパレスの前庭の様子だが、今年はこの同じ場所に何も飾られていない。この写真のツリーは毎年飾られていた名物ツリーだっただけに非常に寂しい。今週はそんな最近のクリスマス事情について、不満の気持ちを込めながら疑問を呈してみたい。

 最近のクリスマス、日本もアメリカもどこかおかしい。アメリカでは、「公共の場で特定宗教の行事をおこなうのはいかがなものか」 といった考え方が広まりつつあり、街の中に漂うクリスマスらしさが年々低下してきている。このままではクリスマスという文化や風物詩が消滅しかねない状況だ。
 存続が危ぶまれているのはクリスマスツリーだけではない。「メリークリスマス」 という言葉も企業間で取り交わされるクリスマスカードの中からほぼ姿を消した。そもそも 「クリスマスカード」 という言葉自体、ビジネス現場などでは死語になりつつある。取引先や顧客はもちろんのこと、社内にもいるかもしれない他の宗教の信者たちに対する配慮だ。
 一方、日本は逆に、「キリスト教国でもないのにどうしたことか」 と思われるほど年々派手になっている。個人や家庭主導ならまだしも、自治体あげてのイルミネーション競争などはどう考えてもおかしい。クリスマスは他国の宗教行事だ (もちろん日本にもキリスト教信者はたくさんいるが)。もし公共機関がやるなら新年に向けた門松や松飾りが筋だろう。

 両国のこのような事態の背景には、「文化的行事」 と 「宗教行事」 のバランス感覚の欠如にあるように思える。つまりアメリカは、宗教行事という部分にこだわりすぎるがために法律論争になりがちで、結果的に裁判に負けるのを恐れるあまり、文化的行事としてのクリスマスまでを葬ってしまう傾向にある。しかしこの種の問題は法律や理論での論争は似合わない。「豆がもったいない」 と言って、日本から節分の豆まきの文化を消し去ってしまっては味気ないのと同じで、ここはあまり固く考えずにクリスマスという伝統文化を楽しむべきだろう。キリスト教徒が圧倒的多数であるならば、たとえ公共の場所でも 「常識の範囲内での文化の保存」 という価値観はあってもいい。他宗教の者は静観していればいいだけのことだ。
 逆に日本は宗教行事であることを完全に無視し単なるイベントとして暴走しているように思えてならない。アメリカ人からみれば滑稽なことで、不愉快には思わないにしても、日本人をバカにするような気持ちを抱く可能性は十分にありそうだ。それは逆の立場を考えてみればある程度想像がつく。たとえば、日本のお盆の宗教行事とされる大文字焼きをアメリカ人が遊び半分でマネし、全米各地の山で大文字焼きをやるようになったら多くの日本人は滑稽に感じることだろう。

 話はアメリカに戻るが、アメリカの現状を象徴するかのような 「事件」 が昨年、全米各地の空港で起こった。
 最も話題になったのがシアトル空港の騒動で、毎年飾っていた巨大ツリーを出したり引っ込めたりする事態となった。
 さまざまな人が利用する空港という公共の場所でキリスト教の文化にだけ肩入れするのはいかがなものかといった議論が法律論争に発展したためだ。
 その種の話題がニュースになるたびに、ことなかれ主義の組織、つまり役所や大企業は、クリスマスツリーを飾ることを躊躇し、今年は多くの公共の場所からクリスマスツリーが消えている。

 ちなみにラスベガス国際空港も、到着ターミナルのバッゲージクレームエリアなどに小さなツリーがささやかに飾られている程度で (写真右上)、天井に届くほどの巨大ツリーは見当たらない。反対派の許容範囲の限界がこのサイズということか。
 出発ターミナルでは、独特な社風で知られるサウスウェスト航空だけがひとり気を吐きそのカウンターをクリスマスらしく飾っているが (写真左上)、他社はほとんどが静観を決め込んでいる。そのサウスウェスト航空でさえ、公式ウェブサイトの中では 「クリスマス」 という言葉を使っていない。

ホリデー ホリデー ホリデー ホリデー ホリデー ホリデー  役所や大企業の間から消えてしまったクリスマスという言葉。それに代わって登場したのが 「ホリデー」 だ。これはすでに広く定着しており、全米規模で使われている。つまり、クリスマスシーズンはホリデーシーズン、クリスマスセールはホリデーセール、メリークリスマスはハッピーホリデーズといった具合だ。
 ちなみに 11月の第4木曜日のサンクスギビングデー、12月25日のクリスマスデー、1月1日のニューイヤーズデーは国民の祝日で、日本とちがって祝日が非常に少ないアメリカでは、この時期は本当にホリデーシーズンなのである。そして、昨今の法律論争が起こるよりもかなり前から、11月の下旬から正月にかけての5〜6週間ほどの期間をホリデーシーズンと呼ぶ習慣があり、そのためハッピーホリデーズといったあいまいなフレーズも自然な形ですんなり受け入れられたようだ。
 参考までに右のそれぞれの写真は 12月11日の地元紙に折り込まれていたチラシ広告だ。クリックすると 「ホリデー」 の意味が、ある特定の日曜日や祝日のことではなく、ばくぜんと今の5〜6週間ほどの時期、つまり 「クリスマス時期」 に置き換わる言葉であることが読み取れるはずだ。いずれにせよ 「クリスマス」 という言葉はもはや使わないのが一般的な認識で、使っている企業は時代遅れか、確固たる信念を持っているかのどちらかということになる。

 さて一方、日本では、仙台、神戸ルミナリエ、東京の表参道に代表されるような大規模なイルミネーションが全国各地に続々と登場している。
 「宗教行事ではなく単なる装飾」 と割り切れば、それはそれでいいのかもしれないが、現状を放置しておけば遅かれ早かれクリスマスが正月を駆逐してしまうことは間違いないところで、それは多くの日本人にとって歓迎しがたい由々しき問題だろう。
 その傾向は至る所で見られ、たとえば幼稚園や保育園などではクリスマスツリーを作ったり飾ったりすることはあっても、松飾りなど正月のことにはあまり深くかかわらないところが増えてきているという。一般企業やレストランや小売店などでもクリスマスツリーを飾ることはあっても門松は飾らないところが多いと聞く。
 そんな背景もあってか、「門松を見たことがない」 という若者が増え、さらにひどいことに、門松を 「かどまつ」 と読めない若者も少なくないというから事態は深刻だ。
 そこまで正月が軽視されてくると、もはや若いゼネレーションが伝統文化を守ることはむずかしく、すでに 「おせち料理の作り方は知らないが、バレンタインデーのチョコは手作り」 というのも普通のことのようで、このままでは秋の風物詩の十五夜がハロウィンに駆逐される日もそう遠くはなさそうだ。

 他国の文化も自国の文化に取り入れてしまうところが日本の文化の良い部分だとすれば (実際に昔から大陸文化を多く取り入れてきている)、昨今の傾向もやむをえないのかもしれないが、もともとの日本古来の文化が消えてしまうことはやはり寂しい。
 また、他国の文化と言っても食文化などならいざ知らず、宗教文化をイベント的なものにしてしまうのはいかがなものか。外国からの訪問者が日本の官民あげてのクリスマスイルミネーションの競演を見たらどのように感じるのか非常に気になるところだ。さらに、他国の文化が好きなように見えても欧米文化ばかり、とりわけアメリカ文化に偏りがちで、イスラム諸国の宗教行事など(たとえば断食のラマダン) が日本で流行する兆しは見えてこない。

 バレンタインデーに象徴されるように、他国の文化の輸入だけでなく改造も日本の得意とするところで、日本におけるクリスマスは 「恋人と一緒にすごす日」 といったロマンチックなイメージが定着しているようだが、アメリカでは 「家族と一緒」 が一般的な概念だ。そもそも日付も日米では異なる。日本は24日がメインで翌日の25日はごく普通の日だが、アメリカでは24日までは普通の日で、25日は神聖な日として街中が静まりかえる。
 もっとも、日本ばかりが欧米文化の 「輸入改造」 を得意としているわけではなく、「クリスマスのイベント化」 は中国や韓国でも多かれ少なかれ見られる傾向だ。それでも自国文化の軽視は日本ほどひどくないように思えるが、いかがだろう。

 とにかく日本の宗教的な背景を無視したクリスマスフィーバーぶりは異常だが、クリスマスという言葉を使うことに敏感になりすぎているアメリカの企業社会も異常だ。そしてそのような背景もあり、今のラスベガスにロマンチックなクリスマスイルミネーションがほとんどないことを改めて強調しておきたいのと同時に、海外に長期滞在する日本人が祖国に帰った際、かつて体験した日本文化が跡形もなく消えているのはあまりにも寂しい、ということを海外からの声として伝えておきたい。
(右の写真は、クリスマスらしい雰囲気を楽しめる数少ない場所のひとつで、タウンスクエア内にある子供向けクリスマスアトラクション。サンタクロースおよびアメリカの人気画家ノーマン・ロックウェルの作品と一緒に記念撮影ができる)

 なお、誤解があるといけないのであえて補足しておくと、アメリカにおけるクリスマス文化の縮小傾向はあくまでも公共的な部分が強い場所での話であり、個人や家庭レベルではクリスマスカード、クリスマスツリーはもちろんのこと、自宅の装飾ライティングなども従来通りに行われている。また公共の場所でも、各ホテルなどが常識の範囲内のクリスマスツリーを飾る程度のことは今まで通りと考えてよい。
 そして早くも 「揺り戻し的な反動」 が現れ始めている。つまり伝統文化を守ろうとする勢力の発言力や存在感が増してきているということだ。ラスベガスに派手なイルミネーションが戻る日もそう遠くないかもしれない。来年のクリスマスに期待したい。


バックナンバーリストへもどる