週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 09月 05日号
ベネシアンの開業に沸くマカオ、エンターテーメント分野は発展途上
 先週の水曜日、マカオにベネシアンホテルがオープンした。ラスベガスの同名ホテルとほとんどそっくりのホテル (もちろん中国が得意とする違法コピーではない。両ホテルは同一の企業による運営) が、中国人のハートをとらえ大賑わいだというので、さっそく現地へ足を運んでみた。
 (右の写真は 9月4日、小雨の中を飛ぶヘリコプターから撮影。なお、マカオで 「Venetian」 は、一般の日本語表記 「ベネチアン」とは明らかに異なる 「ベネシアン」 と発音されていたので、日本からの訪問者が現地でも通じるように、この記事内でもあえて 「ベネシアン」 と表記。ちなみにラスベガスでの発音は 「ヴェニーシャン」 に近い)

 ということで、今週はラスベガスの話題ではなく、マカオ視察レポートということになるが、少々長くなってしまったので、結論から先に書いてしまうと、次のようになる。
 「マカオは建設ラッシュではあるが、古いカジノはもちろんのこと最近完成した新規カジノホテルもその内容はギャンブル一辺倒で(特にバカラ一辺倒)、楽しさや華やかさではラスベガスに大きく見劣りし、ショー、グルメ、ショッピング、アトラクションなども含めた総合的なエンターテーメントではまだまだ発展途上。5年後はどうなっているかわからないが、現時点で 『ラスベガスよりもマカオの方が楽しい』 と感じる者は極めて少数派と思われ、ギャンブルだけに重点を置く者や、アダルト系の遊びが目的という者などを除けば、大多数の一般の観光客にとっては、"地理的に日本に近い" (飛行時間が短く航空運賃も安い) ということ以外に利点を見い出すことはできないだろう」 というのが結論だ。

 これはラスベガス住民という立場からひいき目に見た感想ではなく、近年のマカオとラスベガスの両方を知る香港人の多くもそう考えていることで、住む地域や国を超えた最大公約数的な共通意見と考えてよいのではないか。
 もちろん、たとえば 「中華料理が安くて豊富」、「ルーレットに 00 が無い台が多い」、「18才でもカジノOK」 (ラスベガスは 21才から) といった細かい部分で利点を探せばまったくないわけではないが、観光地としての要素を総合的に比較すれば、だれがどう考えても 「ラスベガスの圧勝」 といってよいだろう。
 以下はそんな上記結論に至った経緯と、ラスベガスをひいき目に見た気持ちも込めて書いたマカオ訪問のレポートだが、もうすでに結論を書いてしまったばかりか、かなり長いレポートなので、特にカジノ業界などに興味がある者以外は、ここまで読んでいただければ十分だ。

 1999年の中国返還前のマカオはお世辞にも健全といえる状態ではなかった。「帝王」 と称される地元の超大物実業家スタンレー・ホー氏(現在 87才) がほぼ独占的にカジノ業界を支配していたため、良い意味での競争が無く、長年に渡りほとんど発展が見られなかった。その結果、さまざまな部分で腐敗や非健全な活動が定着し、裏の世界が形成されるなど、「どこか暗い怪しげなイメージ」 というのが、おおかたの日本人観光客が抱いたマカオに対するイメージだったのではないか。
 ところが 2002年、中国政府によってホー氏の利権が制限され、それと同時に外国企業の参入が条件付ではあるが認められるようになると、状況は一転。それを機会にマカオは改革の道を歩むことになる。

 マカオはここ数年、ホテルの建設ラッシュに沸いている。(左の写真は建設中の Grand Lisboa。色が不自然なのは大雨の中、車内から撮影したため)
 その急成長ぶりを示す話題にはこと欠かないが、中でも象徴的なのが、昨年ごろから報道され始めた 「マカオのギャンブル市場の売上げはラスベガスのストリップ地区を超えた」 というニュースだろう。
 「統計の取り方が違うのでは」、「数字の根拠が示されていない」、「マカオの現場を見ればだれもそんな話を信じない」 といった声も聞かれ、真偽のほどは定かではないが、そんな話にラスベガス側が振り回されていること自体、マカオが急成長していることのなによりの証拠で、「すでに観光客を奪われているのではないか」 と心配する業界関係者も少なくない。また、ライバル都市の状況を自分の目で確かめようと、はるばる太平洋を渡る関係者も多く、筆者自身も今年2回目のマカオ訪問だ。

 マカオを元気づけてしまったきっかけは、皮肉なことにラスベガス資本だ。いや、皮肉というか、むしろ商機を逃すまいと自ら進んで進出したわけで、マカオの発展はラスベガス資本にとっても望むところなのかもしれない。
 ラスベガス資本とは、具体的には、ラスベガスでベネシアンホテルを所有する Las Vegas Sands 社、ウィンラスベガスを所有する Wynn Resorts 社、そして MGMグランドやベラージオなど複数のカジノホテルを所有する MGM Mirage 社だ。
 中でも Sands のマカオ投資は積極的で、同社は 3年前、各種エンターテーメントも備えた 「カジノ一辺倒ではないラスベガススタイルの大型カジノ」 の第1号として、フェリーターミナル (香港などからのフェリーが到着する場所) の近くに 「サンズ」(写真右上) をオープンさせマカオに新風を吹き込み、そして先週、新エリア "Cotai Strip" 地区に巨大なベネシアンをオープンさせ新時代の幕開けを演じて見せた。

 Wynn と MGM はやや慎重な姿勢を見せており、Wynn は昨年、ウィンラスベガスと姿や形はそっくりだが、客室数が4分の1以下の 「ウィンマカオ」 (左写真の中央、約600室) をオープンさせ、MGM は帝王スタンレー・ホー氏の娘と半々出資のジョイントベンチャーとして、約600室規模のカジノホテル 「MGMグランドマカオ」 (左写真の左側にある三色のビル) を現在建設中で年内にオープンさせる予定だ。
(余談になるが、MGMがホー氏と直接手を組むことをしなかったのは、ラスベガス側の当局が、ホー氏の経歴などを理由に難色を示したため。もしホー氏と手を組む場合は、MGMはネバダ州のカジノライセンスを手放さなければならず、娘と提携することになった。ちなみに、娘も 「たたけばホコリがいくらでも出て来る人物」 とされ、今年のMGMの株主総会ではこの娘との提携に関して意見が交わされた)

 以上のようにラスベガス資本によるラスベガススタイルのカジノホテルがマカオに続々と進出しているわけだが、今回オープンしたベネシアン以外はすでに多少の方向転換を余儀なくされ、早くも改造や計画変更が行われている。
 方向転換の理由は、「客がホテル側に求めているものがラスベガスとはまったく異なっていた」 ということがわかり始めたからだ。簡単に言ってしまえば、客はギャンブル以外のものを求めていない。そのギャンブルもほとんどがバカラだ。
 正確には、今になってわかり始めたわけではなく、それは始めからわかっていたことで、今わかったことは、「ラスベガス的なエンターテーメントも受け入れられるだろう、という期待と予想でやってみたが、やはりダメだった」 ということだ。大多数の客はナイトショーも豪華なレストランもショッピングモールもナイトクラブも不要ということがわかったのである。
 さっそくサンズは高級レストランなどのスペースを削減してカジノフロアを増床し、ウィンでは、せっかく開業させたゴージャスなナイトクラブ "TRYST" (ラスベガスにあるものとまったく同じ名称、同じコンセプトのクラブ。ラスベガスでは大繁盛。右の写真はウィンマカオで今年の春に撮影されたもの) をわずか半年で閉鎖してしまった。また、高級ブランドのショッピング街も閑古鳥が鳴いているので、今後の存続が危ぶまれている。MGMマカオも開業を前に、高級レストランなどの各種施設をカジノフロアに変更しているという。

 不要なのはレストランやナイトクラブだけではない。宿泊施設すら不要という客が多いというから驚きだ。
 「香港からは日帰りの距離」 だけが理由ではない。そもそも現在は香港よりも中国本土からの客の方が圧倒的に多い。
 ようするに、夜も寝ないでバカラに興じる客が多いということで、その種の客が現在のマカオ観光客のマジョリティーを形成している。
 その証拠に、ウィンマカオはウィンラスベガスよりも広いカジノフロアを持っているにもかかわらず客室数は4分の1以下、建設中の MGMマカオも同様のサイズで、サンズにいたっては、700台以上のテーブルゲームを持つ超巨大カジノであるにもかかわらず、客室数は 100部屋に満たない。
 さように少ない客室数で、「ラスベガスを抜いた」 とされる膨大な数のギャンブラーたちをさばけているのだから、「客室すら不要」 という客がいかに多いかが想像できよう。

 にもかかわらず、今回オープンしたベネシアンだけはあえてラスベガス流のコンセプトにこだわりゴージャス路線を踏襲した。劇場もアリーナもショッピングモールも持ち、さらに客室数も約3000と飛びぬけて多い。その客室もすべてがスイートルームというから、もはやこれはマカオの従来の価値観とは根本的に異なる。レストランも今後続々とカリスマシェフ系の高級店を誘致するという。
 そこには Sands 社のオーナー Sheldon Adelson氏の 「今は受け入れられなくても、いつかきっと中国の人たちもラスベガス流のエンターテーメントの楽しさをわかってくれるようになり、この地は必ずラスベガス・ストリップのような街になる」 との夢と賭けがある。
 ちなみに Adelson氏はかつて世界最大のコンベンションといわれた COMDEX (ラスベガスで開催されていたエレクトロニクス業界の祭典) の創始者で、それを日本のソフトバンク社に売却して得た資金でラスベガスのベネシアンを建設し、今マカオに夢を託している。そしてその夢は、今までのマカオとはまったく異なる世界をゼロからクリエイトしようという壮大なプロジェクトだ。

 だからこそ Adelson氏は、既存の繁華街ではないまったく新しい "Cotai Strip" と呼ばれる地区を選んだ。そこには帝王スタンレー・ホー氏の臭いも足跡も、とりあえず現在は存在していない。なぜなら、つい近年までこの土地は海だったからだ。
 Cotai Strip とは、ラスベガスストリップにならって付けられた俗称で、従来からのマカオの中心街から南へ数キロメートルの沖に浮かぶ Taipa島 と Coloane島の間を埋め立てて出来た造成地の中にある。したがって、ベネシアンの周りは野原か湿地帯もしくは空き地か工事現場で、現時点では大型カジノホテルはおろか、コンビニなどの店すらほとんど見当たらない。そもそも歩行者が行きかうような場所ではないので、ラスベガスストリップのような繁華街を期待して行くとガッカリすることになる。もちろん夜は真っ暗だ。
 ちなみに左上の写真は、さらにその上に掲載されているホテルの全景の写真を撮った場所とほぼ同じ位置から逆方向を向いて撮影したものだが、これを見ると、ベネシアンの周囲の環境がウィン、サンズ、MGMなどがあるマカオ中心街とはまったく異なっていることがわかるはずだ。

 そんなベネシアンの館内に入ってみた。うわさ通り、玄関やフロントロビーの造りなどはラスベガスとまったく同じで、スタッフのほぼ全員がアジア人であることと、中国語が飛び交っていること以外、ラスベガスとの違いを見い出すことはむずかしい。
 ショッピングモール (写真左下) もあり、もちろん名称はラスベガスと同じ 「グランドキャナルショップス」 で、そこにはベニスの水路も用意され、コンドラライドも楽しめるようになっている。しかしそれを楽しむ人は非常に少なく、モール全体も総じて人通りが少ない。Adelson氏に言わせれば、「そんなことはすべて想定内。5年後を見ていなさい」 といったところか。

 一方、カジノフロアは活気がある。ラスベガスのベネシアンよりもはるかに広いフロアにびっしりとバカラテーブルが並んでいる光景は壮観だ。(残念ながらホテル側の広報部門とのやり取りがうまくいかず、写真の入手が間に合わなかったので、その様子を写真で紹介することはできない)
 最低賭金の設定は 200香港ドル (約3000円) のテーブルが目立った。スロットマシン、ビデオポーカー、ルーレット、ブラックジャック、クラップスなどは驚くほど少ない。

 カジノ以外のエンターテーメント施設を寝かせておくのはもったいないが、利用者が少ないということは、細々と運営している限り経費も少なくて済むことになり、巨大なカジノに経営資源を集中できるという現在の状態は、考えようによってはラスベガスよりも利益を出しやすいといえなくもない。
 そんな理由もあってか、マカオ依存度が著しく高い Sands社の株価は同業他社に比べ過大評価されがちで、ちなみに現在の利益に対する株価収益率は107倍前後とかなりの水準まで買い上げられている (業績表示 ←クリック)。それでも今後の予想利益に対しては常識の範囲内の低い倍率になっており、とりあえずバブル感はないようだ。
 参考までに、「寝ないでバカラ」の客室不要の訪問者が多いマカオとしては異例の3000室も保有しているにもかかわらず、現場に確認したところ、すでに満室の日もあるという。開業直後の一時的な人気という要因を差し引いて考えても出足は予想以上に順調なのかもしれない。

 今回の視察では、「マカオへギャンブラーを送り出している土地」 として、広東省シンセンにも行ってみたが、一昔前までは野原だったような場所に高層ビルが所狭しと並んでいた。また、シンセンで流通する人民元の交換レートは香港ドル以上に評価されており、かつて外国人には別の通貨を使用させるほどローカル通貨だった当時の人民元の実態を考えると、まさに隔世の感がある激変ぶりだ。
 だれも予想できなかったような変化が簡単に起こってしまうのが今の中国。外貨準備高でも日本を抜いてしまった現在の経済力とその勢いを考えると、ベネシアンの周りの野原に高層カジノホテルがラスベガスのように林立する日が本当に来るかもしれない。すでに大手ホテルの進出計画がいくつか決定している。この先 2〜3年は黎明期と思われるが、5年後ならホテル林立もありえそうだ。
 そのときラスベガスはどうすべきなのか。その答えはわからないが、東京ディズニーランドを訪れると本家のロサンゼルスやオーランドのものも見たくなる、という利用者がたくさんいるのと同様に、マカオのベネシアン、ウィン、MGMなどを見ると、本家ラスベガスのものも見たくなる、そういう図式で人が流れてくれるようになればありがたいが、はたしてそううまくいくか。

 長くなってしまったが、以上のようにマカオでは、各種エンターテーメント施設がそろっている最新のベネシアンでさえ、現時点ではバカラ一辺倒というのが現実で、周囲の環境も含めた街全体の楽しみという意味では、まだまだマカオはラスベガスに遠く及ばない。次の休暇の訪問先をマカオにすべきかラスベガスにすべきか悩んでいるのであれば、迷わずラスベガスを選ぶべきだろうし、そうしてもらいたい。
 ラスベガスの観光業界もマカオ、とりわけ Cotai Strip 地区の 5年後10年後の発展に対して特に心配する必要はないと思われるが油断はしてはいけない、そんな印象を受けたマカオ訪問だった。


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