週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 08月 29日号
一等地に出現した 「10ドル以上のメニューがない」 レストラン
 「ラスベガスでの食事は安い!」 と言われていたのは一昔前までの話。
 当時のラスベガスは 「カジノがすべて」 という風潮が支配的で、レストランもナイトショーもカジノを補足するための、いわばオマケ的な存在だった。だから値段も安かった。
 しかし今はちがう。各ホテルはレストランやショーを経営の中核、つまり大きな利益を生み出す重要な施設と位置づけ、その内容を競うようにグレードアップさせている。
 その結果、これまでは 「ギャンブラーの空腹を満たせればいい」 といった安易な発想の元で運営されていた平凡なレストランが、次々とグルメ族があこがれるような高級レストランに生まれ変わり、今はどこのホテルもカリスマシェフとタイアップした高級店が目白押しだ。当然のことながら料金は高騰しており、ディナーひとり 100ドル程度は当たり前で、200ドル以上という高級店も珍しくない。

 そんなトレンドの中、時代に逆行するかのような風変わりな店が出現した。「$10 を超えるメニューはひとつもありません」 をウリ文句にする倹約家にとってはなんとも頼もしいレストランだ。
 その店の名前は stripburger。(写真右)
「なんだハンバーガー屋か」 と思うことなかれ。たしかにマクドナルドのようなファーストフード店なら 「全品 $10 以下」 は当たり前だが、ここはその種の店ではない。れっきとしたレストランだ。それどころかロケーションや席からの景色はカリスマシェフの高級店に勝るとも劣らない好条件で、「全席オープンエアは当店だけ」 がこの店の自慢だ。さらに 「冷凍肉不使用、ハンバーガーは生の肉から手作り」 を自負するほど料理にもこだわりを見せており、その上、経営も一流企業とくれば、倹約家ならずとも聞き捨てならない話だろう。

 ちなみにここで言う 「オープンエア」 とは 「屋外にある」 という意味で、ヨーロッパの小洒落た街並みなどでよく見かける歩道沿いにテーブルを並べたダイニングと考えればよい。
 もちろんその種の店はラスベガスにまったくないわけではなく、たとえばパリスホテルの歩道に面したお洒落なフランス料理店 Mon Ami Gabi (写真左) やファッションショーモールの前にある人気のタパス店 Cafe Ba-Ba-Reeba (このページの一番上の写真。バックナンバー 401号で特集記事) などもこのタイプの店だが、それら店は 「オープンエア席もある」 というだけで、室内にちゃんとメインダイニングルームがある。ということで、「全席オープンエア」 は本当に stripburger がラスベガスで初めてのようだ。

 ではこの店はどこにあり、どんな景色を眺めながら食事を楽しめるのか。
 答えはラスベガス屈指の高級ホテルを自負するウィンラスベガスの目の前。ストリップ大通りを隔てた向かい側だ。つまりウィンラスベガス方向を眺めながら食事を楽しむことになる。 (写真右。stripburger の店内からウィン方向を見たところ)
 まさに世界に冠たる目抜き通りに面した一等地で、カジノの奥の暗い場所に潜んでいることが多い高級店よりも開放感があり、「視覚的にはラスベガスにいることを最も実感できる店のひとつ」 と言い切ってもあながち大げさではないだろう。
 屋外席だと今の時期や冬は気温的にきびしく利用しづらいが、今後は秋に向かって快適なシーズンになる。これからがまさに 「この店の旬」 といってよい。なお、ミスト設備 (霧を吹き付ける装置) や電気ヒーターが頭上に設置されているので、夏や冬でもそこそこの環境が保たれるようになっている。

 経営はシカゴに本拠を置く Lettuce Entertain You Enterprises 社。といってもなんのことだかわからないだろうが、ラスベガスをたびたび訪れている者なら次の店の名前を聞けば 「へぇー」 と思うのではないか。
 その店とは、すでに登場している Mon Ami Gabi と Ba-Ba-Reeba、さらにパリスホテルのエッフェル塔の中に入っている高級フレンチ Eiffel Tower (写真左、バックナンバー 144号で特集記事) 、そしてカニ料理が自慢のフォーラムショップス内にある Joes Seafood。これらはすべて Lettuce 社の経営だ。

 「高級店を中心に展開している会社がなぜ10ドル以下の店を?」 と思うかもしれないが、その理由は、以下の話を聞けばすぐに納得できるだろう。
 実はこの stripburger は、「Ba-Ba-Reeba の休遊スペースの有効利用」 として誕生した店で、もともとは Ba-Ba-Reeba のオープン席の一部だったのである (写真右)。つまり、Ba-Ba-Reeba は店の東側 (ストリップ側) と北側にオープン席を持っていたが、北側は使われることがほとんどなかったため、「一等地を遊ばせておくぐらいなら安くても何かを売ったほうがトク」 ということになり、そこを stripburger にしたというわけだ。
 そんな背景もあって、この店の厨房は Ba-Ba-Reeba と共通になっており、結果的に 「値段は安くても調理現場は高級店と同じ」 ということで、少し得した気分になれる。

 さて 「全品 $10 以下」 というのは本当なのだろうか。もちろん本当で、ビールやカクテルの特大サイズを除けばメニュー内に $10 以上のアイテムを見出すことはできない (写真左)。
 ハンバーガーなどを中心とするメニューとはいえ、家賃が高いこの一等地での価格設定としては立派としか言いようがなく、ちなみに各種あげ物類などのサイドディッシュに至っては、なんと 3ドル台というから本当に激安だ。ダウンタウン地区の大衆レストランより安いかもしれない。 (その他のメニュー表示  ←クリック)

 低価格路線に対するこだわりは意外なところにも見ることができる。それはビールだ。
 なんとこの店では驚くことに激安ビールとして知られる Pabst Blue Ribbon (以下 PBR) をメニューに載せている (16オンスジョッキ、約480ml で $3.25)。
 この PBR は19世紀中期から続くミルウォーキー拠点の老舗ブランドで、全盛時代はそれなりの地位を築いていたが、近年は安売りが裏目に出て 「安かろう悪かろうの代名詞」 といった不名誉なブランドイメージが定着してしまい、スーパーマーケットなどで低所得者層向けに激安販売されることはあっても、一般のレストランでこのビールを見かけることはほとんどなくなってしまった。
 そんな安い PBR をわざわざ置くこの店のこだわりは、立派というよりも、もはやニュースといってよいのではないか。それほど PBR は全米のレストランから姿を消してしまったのである。
 蛇足ながら、PBR はスーパーなどで一箱 (355ml入りの缶 1ダース) $5 以下で売られているが (最近はブランドイメージを回復させるためか、もう少し高く売られる傾向あり)、実は 2001年の自社工場の閉鎖にともない、現在は大手のミラー社から OEM品 (相手先ブランドによる委託製造品) として供給を受けている。したがって、「安かろう」 は事実でも、「悪かろう」 というのはもはや風評かもしれない。

 話が横道にそれてしまったが、気になる各種料理の味についてもそこそこのレベルにある。
 もちろん味覚によって人それぞれ感じ方はさまざまなので、きびしい評価をしたくなるアイテムもあるだろうが、今のラスベガスにおける物価水準と立地条件を考えると、だれもモンクは言えないのではないか。そもそもハンバーガーをオーダーする際、ウェイトレスに 「焼き方」 を聞かれるなどということはファーストフード店ではないわけで、それが可能なこの店は (レアとかミディアムとか指定できる)、それだけでもファーストフード店とはちがったワンランク上の気分を味わえるはずだ。

 ハンバーガーは日本人にとってもすでに国民食的な存在。見知らぬレストランでへんな料理に遭遇するよりは、よっぽど当たりハズレが少ない。「予算に限りがあるが、だからと言ってファーストフードはイヤ。できればラスベガスらしい雰囲気が楽しめ、なおかつ和食以外で日本人の味覚からかけ離れた味ではないものを食べたい」 という場合には、この店を第一候補に考えて損はないだろう。
 なお難点は、ロックンロール風のBGMのボリュームがかなり大きいこと。それが好きなら問題ないが、そうでないとやや騒々しさを感じるかもしれない。
 営業時間は日曜日から木曜日が 11:30am 〜1:00am、金曜日と土曜日が 11:30am 〜2:00am。以下は今回試食したアイテムの感想。

South of the Border Chicken Sandwich : $8.95
メキシカンスタイルのチキンサンドイッチ。pico de gallo (トマト、タマネギなどを細かく刻んで合わせたもの) から出る水分があまりにも多すぎ、パンがびしょびしょに濡れてしまうところが難点。
Atomic Cheese Fries, hot & spicy : $3.95
ビールのつまみによく合うボリューム感あふれるフライトドポテト。メニューに Hot & Spicy と書かれているので、どれほど辛いものかと思いきや、それほどでもなく、辛党ではない人も楽しめる万人向けの味。
Hickory Bacon Burger : $8.95
ベーコン、トマト、レタス、オニオン入り。バーベキューソースの味がしっかりしているので、甘辛い系の味が好きな人なら満足できるはず。一方、マヨネーズ系の味を求める人は避けたほうがよい。
Our Famous Blue Cheese Burger : $9.95
Our Famous と名付けられた当店自慢のバーガー。ブルーチーズ独特の臭みは非常に少なく、あの臭みを期待する人には少々物足りないかもしれない。薄くスライスして揚げたタマネギがよいアクセントに。
Fried Onion Strings Combo : $5.50
フライドポテトとフライドオニオンのコンビネーション。オニオンはかなり薄くスライスされているため、通常のオニオンリングとはまったく異なる食感。サクサク感がよい。
Fresh Ahi-Tuna Sandwich : $8.95
中央がピンク色のミディアムレアに焼かれたツナとアボガドが程良く調和し、通常のハンバーガーよりヘルシーな味わい。銀色のカップに入っているのは寿司などに付いて来る生姜のガリ。
Pickle Fries, with Ranch dip : $3.50
フライにするとピクルス独特の酸味が消えてしまうのか、想像したより酸味が少なく、味的にも食感的にも、アメリカではよくあるズッキーニのフライに似ている。ビールのつまみに合う。安さに感激。
Wagyu Beef Hot Dog : $4.95
最近のアメリカでは「和牛」という言葉が安易に使われているので素材に関するコメントはむずかしく、あえてそれは避けるが、強烈な辛さを放つ酢漬けのハラペーニョが多すぎ、和牛の味がほとんどわからない。
Strawberry Tall Cake : $6.95
アメリカのケーキにしては甘すぎず、添えられている生クリームは本物(よくあるスプレーのクリームではないという意味)。酒場的な色彩の濃い店だが、ケーキとコーヒーといった、喫茶店風のオーダーも可能。
Strawberry Shake : $3.95
シェークは、バニラ、チョコレートファッジ、ストロベリー、バタースコッチの4種類の中から選べる。この写真はストロベリー(左はビール) で、しっかりイチゴの果肉も入っており、この場所でこの料金なら十分納得。
Sangria (red wine) : $5.50
サングリアは Ba-Ba-Reeba の名物だが、キッチンが同じということもあり、この店でもオーダー可能。レッドワインをベースにするかホワイトワインをベースにするか、オーダー時に聞かれる。
Frozen Margarita (strawberry) : $8.95
他の場所ではときどき 「アルコールがちゃんと入っているのだろうか?」 と思いたくなるようなノンアルコール系のものに出会うことがあるが、ここのはしっかりとアルコールが入っていて正当な味。


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