週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 08月 01日号
評価 「C−」 の Hans Klok のマジックショー 、実態はいかに?
 地元有力紙の評価で 「C−」 の烙印を押されてしまったマジックショー "Hans Klok, The Beauty of Magic" を観てきた。
 このショーがプラネットハリウッドホテルで始まったのは 6月 2日 (プレビューはその一週間前から)。
 すでに 2ヶ月が経過したことになるが、このコーナーですぐに採り上げなかったのには理由がある。
 「3ヶ月程度の短期の公演」 という噂があったこともさることながら (今でもその噂はあり、9月1日に終了する可能性がある)、評判があまりにも悪く、1〜2ヶ月で消えてしまうだろうと勝手に考えていたからだ。

 競争が激しいラスベガスでは、実際に1〜2ヶ月で消えてしまうショーはいくらでもあり、この Hans Klok も評判が悪ければ、たとえホテルとの契約が 3ヶ月でも、それを待たずして消える可能性は十分にある。
 が、まだ消えていない。それどころか、ラスベガス市内での視覚的露出度は高まってきているように見受けられる。(左の写真をクリックすると、このホテルがいかに力を入れているかがうかがえ、また右下の写真でも宣伝に熱心なことがわかる)
 消えそうだから宣伝に力を入れ、結果的に露出度が高まっているだけなのか、それとも絶好調で、さらなる集客を目指し宣伝しているのか。実態を確認するため、劇場に足を運んでみた。

 Hans Klok はオランダ出身のマジシャンで現在 38才。英語では K を発音しないことが多いためか、彼の名前を 「ロック」 と発音するアメリカ人もいるが、正しくは 「時計」 と同じ発音の 「クロック」。
 14才で European Youth Magician Champion Trophy, そして 16才で Tommy Cooper Trophy を受賞し、その後も活動の拠点がヨーロッパだったこともあり、これまでにスポット的にシーザーズパレスなどで演じたことはあるものの、ラスベガスでの本格的な定期公演は今回が初めてだ。そんな彼がラスベガスでどんなマジックを披露してくれるのか。
 その実態を報告する前に、まず先に 「C−」 についてふれておきたい。彼を酷評しているのは地元の有力紙、いや有力というよりもほぼ独占状態にある日刊紙 Las Vegas Review-Journal の金曜版の芸能セクション "NEON" だ。
 この NEON では、ショー、映画、レストラン、アトラクションなど、ありとあらゆるエンターテーメントを論評しているわけだが (ちなみにページ数は先週号の場合 64ページ、左下の写真はその現物)、ここでクロックは 「最悪」 を意味する 「C−」 を食らってしまったのである。それも開演直後の記事だけでなく、先週号でも評価はそのままだ。

 この種の評価に権威も格もあったものではないが、発行部数的な影響力という意味ではその存在感は圧倒的で、NEONは評価される側にしてみればそれこそ死活問題になりかねないほど権威ある新聞だ。
 それがゆえに評価する側も慎重かつ公平を期していると思われるが (実際にはそうでもない様子)、そんな NEONがクロックに 「C−」 を付けたとなると、だれもが 「よほどひどいショーなのか」 と思ってしまうことだろう。
 参考までに他のマジックショーに対するこの新聞の評価を列挙すると、マックキング ペン&テラー A−ランスバートン B+ネイザンバートン スティーブワイリック ダークアーサー ワールドグレーテストマジックショー となっている。(リックトーマスは休演中のため、またカッパーフィールドは常駐ショーでないため評価なし)
 クロックの評価が悪い主な理由は、「何も新しいものがない」 とのことだが、他にもいろいろ酷評されているので、原文をそのまま読んでみたい者は左上の NEON の写真をクリックすると記事が表示されるようになっている。

 どれほどひどいのか、客は入っているのか、不安と期待を胸に会場へ足を運ぶと、意外や意外、観客はざっと数えて 1000人ほど入っていた。土曜日という条件を差し引いても、この数字は決して悪いほうではない。ちなみに会場は、旧アラジンホテル時代から存在していた "The Theater for the Performing Arts" だ。MGMグランドやマンダレイベイのアリーナを除けばラスベガス最大のキャパシティーを誇り、座席の配置によっては 7000人まで収容可能というとてつもなく大きな劇場だ。
 したがって、空席だらけというか、使用していない座席だらけということになるが、1000席埋っていれば寂しいという印象はまったく受けない。

 いよいよ幕が開く。コンサートなどに使われる会場のためか、音響設備を迫力という意味だけで語るならば非常に良い感じだ。照明も悪くない。また、煙も出て、さらになぜかステージの上では風も吹いている。ここまでの仕掛けや設備は、他のマジックショーにまったく引けを取らない。
 主役のクロックが登場する前に、ダンサーによる踊りが披露されるが、経費をケチった様子もなく、その数は 14人。ランスバートンのダンサーの倍で、数だけでいえば、ここでも 「C−」を食らう理由が見当たらない。
 そして主役の登場。いきなり人間を消したり出したりする豪快なイリュージョンの連発。が、ここで 「C−」 の理由がわかってしまった。ランスバートンとそっくりなのである。もちろん顔ではない。マジックが、だ。
 「あ、これ、ランスバートンがやっていた」 と思いながら観ていると、また 「あ、これも」、さらに 「あ、これも」 と次から次へとランスのマジックが飛び出す。それだけではない。トークの部分でも、「今のマジック、もう一回みたいですか?」 との問いかけに対して、会場から威勢のいい掛け声や拍手が沸き起こると、「じゃぁあしたの7時にここに来てください」 と、これまたランスとまったく同じではないか。

 さらにこれでもかこれでもかとランスと同じマジックが続いてくると、なぜか次第に、「他人と同じマジックをやることが、果たして悪いことなのか?」 と思えてくる。このクロック、なかなか動きが軽快で見ごたえがあるのだ。
 そもそも現代のマジックは、その仕掛けやタネを考え出す考案者と、それを演じるマジシャンは別人、つまり分業制になっていて、ランスバートンを始めとする著名のマジシャンの多くが考案者から権利を買って演じている。であるならば、このクロックが演じるマジックが 「C−」なら、同じマジックを買って演じているランスも 「C−」 になってもおかしくない。

 そんなことを考えながら寛大な気持ちで観ていると、ショーの後半になって突然、セクシー女優としておなじみのパメラ・アンダーソン (写真右) が登場するではないか。もちろん本物で、そっくりさんではない。コマーシャルモデルなどをきっかけにブレークし、その後 PLAYBOY誌のモデルなどを経て人気テレビドラマ Baywatch に出演するようになった売れっ子女優だ。
(広報部によると、今回の契約では彼女の出演は 9月 1日までで、このショーがそれ以降も続いたとしても、彼女が共演する可能性はほとんどない、とのこと)

 あくまでも彼女は脇役でクロックが主役だが、40才になった今でもセクシーなオーラを放つ彼女が登場してからはステージや会場の雰囲気がガラリと変わり、ランス色は完全に払拭された。また、気のせいか、クロックのノリも良くなり、その後は今まで以上のペースで次から次へと豪快なイリュージョンを披露、会場の興奮も最高潮に達する。

 長くなってしまったのでマジックの種類などの細かい説明は割愛するが、マジシャンとしてのクロックの特徴はとにかく速いこと。個々のマジックのつなぎ目が短く、すべてにおいてスピーディーだ。
 それを実現するためには、彼の能力だけでなく、仕掛けをセットする裏方さんの努力も不可欠だが、とにかく広報資料にも 「スピードがウリ」 と書かれている通り、その部分がこのショーの特徴と考えてよいだろう。ちなみにその資料によると、このショーで演じられるマジックの数は 40。他のショーのそれを数えたことがないのでなんともいえないが、たぶんこの数はかなり多いような気がする。

 というわけで、40 のうちの 20 か 30 ぐらいはランスバートンおよびその他のショーで見覚えのあるマジックかもしれないが、その数の多さとスピーディーな演出はそこそこ評価できるので、マジック好きにはかなりお勧めのショーといってよいだろう。少なくとも 「C−」 は厳しすぎで、とりあえずここでの評価は B+ としておきたい。
 最後にこれは余談だが、広告で使われている写真などの彼の人相は決していいものではない。暗い表情で、なおかつかなり怖い顔をしている。また年齢よりも老けて見え、華やかさもあまり感じられない。しかし、実際にはそれほど暗くなく、マジシャンらしい華やかさもあった。
 それが理由とは思えないが、なぜかこの取材において広報部から、「パメラ・アンダーソンの写真はたくさんあるが、クロックの写真は今、出版用として差し上げられるものがほとんどない。パメラの写真だけで何とか記事にして欲しい」 と言われてしまった。そんなわけでこの記事内にクロックの顔がハッキリわかるような写真はない。

 公演は木、金、土の週3日で、それぞれ 7:00pm と 10:00pm の2回。チケット料金は $38〜$108 (子供料金はなく、8才未満は入場不可) で、劇場前のボックスオフィスで買うことができる。( ticketmaster.com などで事前に買うこともできるが、会場が広く、売り切れになることはまずないので、事前に買う必要はないだろう)
 なお、ネバダ州の住民は、ボックスオフィスで 「Special offer code FAM241」 と言えば (住民であることを証明するための運転免許証などの提示を求められる可能性大)、いわゆる Buy one get one free、つまり 1枚買えば2枚目は無料になる。


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