週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 07月 25日号
大手ホテルチェーンの環境対策度を元LV市長にインタビュー
 アメリカが世界を代表する大量消費社会であることはだれもが知るところ。温室効果ガスの排出量は全世界の22%にものぼっている。中でもラスベガスは国を代表する大量消費地だ。
 街を歩いてみれば、それは一目瞭然で、常に明るいネオンに照らされ、1年365日、この街から光の洪水が消えることはない。

 噴水や火山など無料アトラクションが観光客の人気を集めているが、こうした演出にも大量のエネルギーが使われていることは容易に想像できる。
 カジノでお金を 「大量消費」 するハイローラーの送迎に使われるのは、もっぱらストレッチリムジン。
 「1度は乗ってみたい」 と思った読者も多いことだろうが、これぞ高燃費車の代表格。あの巨体を動かすには大量のガソリンが必要だ。
 「環境破壊につながる」 という理由で、アカデミー賞授賞式の会場にリムジンの代わりにトヨタのプリウスで乗り付けるハリウッドスターは増えているが、ラスベガスで 「リムジン反対!」 を叫ぶハイローラーは、まだいそうもない。
 大量消費は電力やガソリンだけではない。食べ放題でおなじみのバフェに行けば、所狭しと大量の料理が並んでいる。またレストランでは、どう考えても食べきれない量の料理を盛り付けた皿がテーブルに運ばれる。食べ残した料理はどこへ行くのか。世界には飢えた子供たちがたくさんいるのに、と胸を痛めた心優しい読者も決して少なくはないだろう。

 電力、ガソリンなどのエネルギーはもちろん、食料にいたるまで、ラスベガスでは大量に消費することがまるで当たり前のことのように毎日繰り返されている。もはや 「節約」、「もったいない」 などという言葉とはまったく無縁の世界だ。むしろそんな言葉を口にするのはヤボ、といった雰囲気さえ感じられる。
 世界中で、いやアメリカ国内ですら、グリーン、サステイナブルといった言葉が流行語になり、温暖化や環境破壊から地球を守ろうという動きが活発化しているというのに、一体これはどうしたことか。
 クールビズ、28度冷房、そしてエコバッグが常識の日本から来た観光客のなかには、「この街には 『エコ』 という言葉は存在しないのか」、そう首をかしげたことのある人もいるに違いない。
 そこで今回は、ラスベガスには 「エコ」 という発想は存在しないのかを探るべく、ラスベガスの大手ホテルチェーンの環境対策はどうなっているのかについて調べてみた。我々が取材を申し込んだのは、カジノホテルチェーンの最大手、Harrah's Entertainment 社だ。

 同社はラスベガスを中心に、東海岸のアトランティックシティー、ニューオーリンズ、さらにイギリスなどに 48のカジノホテルを展開するホテルチェーンだ。
 ラスベガスではシーザーズパレス、パリス、リオ、フラミンゴ、バリーズ、ハラーズを所有、運営している。
 従業員数は約 8万人、2007年 3月期の年間売り上げは 99億7000万ドル、アメリカ国内の大手企業をリストする 「フォーチュン500」 の 2007年度版では、カジノホテルとしては最上位の 254位にランクしている。ちなみに、ベラージオ、マンダレイベイ、MGMグランドなどを展開するライバルの MGM Mirage 社は 315位だ。

 我々が今回の取材対象に、MGM 社ではなく Harrah's 社を選んだ理由はもうひとつある。同社はカジノホテルとしては唯一、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティー・インデックスにリストされているからだ。ダウ・ジョーンズ・サステナビリティー・インデックスとは、全世界の大手企業 2500社から、「サステイナブル」 すなわち 「持続可能」 な企業であると認められた 300社をリストしたものだ。
 ダウ・ジョーンズ社が、持続可能企業であるかどうかを判断する基準には、人権保護、社会貢献など環境対策以外の要素もあるが、少なくとも環境破壊を行い問題になっている企業はインデックスに含まれることはない。

 Eメールでインタビューを申し込むと、数日後、電話で 「取材に協力します」 という快い返事が届いた。しかも、インタビューの相手はあのジャン・ジョーンズ氏である。元ラスベガス市長だ (写真左)。
 我々はいささか緊張しながら、シーザーズパレスの中にある彼女のオフィスに向かった。
 ジャン・ジョーンズ氏は、ラスベガスが単なるギャンブルの街から、世界を代表する巨大エンターテインメントシティーへと生まれ変わる足がかりを作ったともいえる敏腕市長で、当時は 「ラスベガスの女王」 の異名を持つラスベガスの顔だった。市長を 2期、8年務めた後、1999年に Harrah's 社のコミュニケーション・政府関係担当のシニア・バイス・プレジテントに就任。現在は、主に連邦政府、州政府、ラスベガス市行政との橋渡し役、そして消費者、コミュニティーを対象としたコミュニケーションの責任者として活躍している。
 多忙な彼女が、「御社の環境対策について知りたい」 という我々の申し出に協力してくれること、担当者ではなくトップ自ら語ろうという姿勢こそ、同社が環境に対し並々ならぬ努力をしていることの現われではないか。我々の期待は高まった。

 市長時代と変わらぬ明るくエネルギッシュな笑顔で我々を迎えてくれた。
 「御社ではどのような環境対策をしているのですか?」 我々の率直な質問に対し、ジョーンズ氏は真っ先にこう答えた。
 「過去 3年間で、我々はホテルの運営を持続可能なものに変えるために、5000万ドルを投じてきました。エネルギー効率のよい機器の導入、水を無駄にしないトイレ、シャワーヘッドへの切り替えなど、その大部分は電力、石油などのエネルギー、水の消費量を削減するために使いました。その結果、それらの消費量を大幅に減らすことができたのです」

 リサイクルにも近年、積極的に取り組んでいるという。なかでも残った食料品については、まもなく具体的な行動を起こすとのことで、恵まれない人たちに寄付するなどのプログラムを検討しているようだ。また、食料品を無駄にしないための、より計画的な調達方法も検討しているという。

 一方で、ジョーンズ氏はラスベガスという特殊な街が環境対策に取り組むことの難しさについても語ってくれた。
 「ラスベガスはエキサイティングで楽しい街であるべきで、ガソリンが無駄になるからと、リムジンに乗りたいという人々の夢を砕くわけにはいきません。最高のサービスを期待するお客様に不便を強いることもできません。もったいないからと、バフェから美味しい食べ物を減らすわけにもいきませんし、エネルギーが無駄だからと、アトラクションを廃止するわけにもいきません。それらは、この街に合った正しいやり方ではないと思います」
 観光客に気づかれない形で環境対策を施すこと。物が溢れているように見せかけて、裏側で巧みに節約すること。それが、彼女たちが考える環境対策ということのようだ。

 同社は昨年末、蛍光灯照明の消費電力を抑えることができるという環境に優しい最新のバラスト(安定器) を、他のホテルチェーンに先がけ採用することも決めている。
 エネルギー、水の消費量削減に同社が積極的に取り組んでいるのには理由がある。それは、収支にいち早く影響を及ぼすからだ。3年間で 5000万ドル投じることを決めたのは、当然ながら、投資額を回収できる見込みがあってのことで、エネルギー、水の消費量の削減は、直接的なコスト減につながる。
 利潤を追求する企業である以上、環境によければなんでもやる、金がいくらかかってもやる、という姿勢では長続きしない。「リターンを見込める環境対策」 であることが重要というわけだ。

 「御社の環境対策は単なるパフォーマンスではないのか? 環境に優しいとうたうことで、企業イメージを上げようとしてるだけではないのか?」
 いささか失礼な質問もしてみたが、ジョーンズ氏は顔色ひとつ変えず、「環境対策は見せかけでできることではありません。我々は真剣です」 と即答した。「環境対策にはお金がかかるし、長期的な視野、計画が必要です。実際、我々は 5000万ドルも投資していますし、環境を破壊すること、エネルギーや水を無駄にすることに伴うリスクも十分理解しています。パフォーマンスなんてとんでもないですよ」
 「では、使用していない劇場、会議室、宴会場などが常に冷房で冷やされているのはなぜですか? ここのオフィスにたどり着くまでに、たくさんのボールルームの間を通ってきましたが、そのほとんどはまったく使われていないのに冷房は入っていました」
 我々はかねてから疑問に思っていたことをぶつけてみた。さすがは元政治家、一瞬とまどい気味の表情を見せながらもすぐに落ち着きを取り戻し次のように答えてきた。
 「夏のラスベガスの暑さはご存知でしょう。いったん冷房を切ってしまうと、元の温度に戻すのに何時間もかかるし、そのほうがエネルギー消費量が大きくなってしまうんです。すべては、きちんとした計算に基づいて行っていることなのです」 とのこと。
 たしかに、「元に戻すのに何時間がかかる」 という部分は納得できる。が、「そのほうがエネルギー消費量が大きい」 には根拠を見い出せない (1ヶ月に一度しか使わない部屋に対してその理論が当てはまるわけがない)。
 それでも彼女が、我々の反論に応じられるだけの理系的な関心を持っているとは思えなかったので、反論は差し控えることにしたが、ひょっとすると、彼女が現場側から知らされていないだけで、冷房の常時運転には他に理由があるのかもしれない。清掃・管理スタッフに対する快適な労働環境の維持とか、温度変化が激しいと機器などに悪影響を及ぼすとか、なにか別に不都合なことがあるのかもしれない。
 いずれにせよ、冷房を付けっ放しのほうが節電できるという言葉が環境担当役員の彼女の口から飛び出すとは意外だったが、たぶん、それはとっさに思いついた即席の返答だったのだろう。

 さて話は変わって、電力、水、食料とは別に、彼女たちが注目しているのは空港とストリップ地区をつなぐモノレールの導入だ。
 ストリップ地区の渋滞は近年、ひどくなる一方で、観光客の利便が損なわれているばかりか、無駄なガソリン消費も招いている。それを解消するためには、タクシー利用を減らす効果があるモノレールの導入が一番というわけだ。
 ちなみに現在モノレールはスリップ地区内を走るだけで、空港には接続していない。空港接続の建設計画は前からあるが、既存路線の収益性があまりにも悪く (毎年赤字)、建設資金が集まらない、という問題を抱えている。
 「渋滞する車の中で費やす時間を我が社のホテルで楽しんでもらえれば、ホテルの経営にプラスになるばかりか、ガソリンの消費量を抑えることもできます。これは大規模な計画なので時間はかかるかと思いますが、10年後には空港路線が実現できるよう、現在一生懸命取り組んでいます」 と、希望に満ちた表情で語ってくれた。

 ジョーンズ氏はその他、同社がこれまで取り組んできたコミュニティー支援、恵まれない人たちへの支援を含む社会貢献、そしてかねてから熱心に取り組んできたギャンブル中毒問題の解決についても熱心に話してくれた。
 ちなみに同社は 2000年に、「責任あるギャンブルの推進」、「従業員の人権保護」、「コミュニティー支援」 の3つの柱から成る行動規範 (Code of Commitment) を定めており、なかでも高齢者への支援、医療施設の整備に関しては、毎年多額の寄付を行っている。そしてギャンブル中毒対策にも熱心で、カジノの宣伝に使うキャッチフレーズひとつについても詳細な社内規定を設け、中毒につながるような行き過ぎたギャンブルに警鐘を鳴らしている。ギャンブル中毒は全米的、いや世界的な問題だが、同社がイニシアチブを取ってスタートしたプログラムのなかには、その後、全米規模で実施されているものも多い。
 しかしながら、なぜかこの会社の行動規範の中に 「環境保護」という言葉が見当たらない。実際、公式サイトを見ても、環境に対する取り組みについては一切触れられていない。したがって、5000万ドルを投じたこともそのサイトからは知ることができないわけだが、この点を指摘すると、「たしかにそうですね。今後は一般の消費者にわかりやすい形で、我が社が行っている対策を伝えていきたいと思います」 とジョーンズ氏は答えてくれた。
 今後は、環境面でのコミュニケーション、そして、さらなる環境対策の実施で、ラスベガスを 「隠れたグリーンな街」 に変えていってほしいものだ。


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