週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 06月 27日号
本誌読者がスロットで7000万円、当事者が語るその瞬間
 6月1日、プラネットハリウッドホテルのスロットマシン で $581,670.11 (約7000万円) という高額ジャックポットが飛び出した。
 ここまでなら特に珍しい出来事ではないが、その幸運を射止めたのがラスベガス大全の読者となると話は別で、だれもが大いに興味を引くことだろう。
 今週は、的中者ご本人からの申し出がありインタビューが実現したので、そのラッキーな出来事の一部始終を対談形式で紹介してみたい。
(右上の写真のマシン本体に表示されている数字と、左下の写真の小切手の間に$10 ほどの差があるのは、マシン側の数値が停止したタイミングなどによる誤差)

 幸運のドラマの主役は東京在住の40代の会社員夫婦。舞台はプラネットハリウッドのプログレッシブ型スロットマシンの人気機種 "Wheel of Fortune"。(プログレッシブ型に関する解説はこちらをクリック
 ご両人の強い希望により、実名および顔写真の掲載は差し控えることになったため、この紙面ではAさん、いや Aさんでは味気ないので、「ラッキーさん」 と表記することとした。

 ラッキーさんが "事件" を起こしたのは、その日の観光スケジュールを予定通り無事に終え、夕食も済んだあとの夜9時すぎ。ちなみにその瞬間まで、ラッキーさんは7000万円という大金とはおよそ無縁の質素なラスベガス旅行を楽しんでおり、その日も、郊外にある地元民用の 99セントショップ (日本の100円ショップに相当) で安い土産を買ったりしていたという。それもレンタカーやタクシーを利用することもなく、炎天下の中、路線バスと徒歩で郊外の安い店を渡り歩いていたというからかなりの倹約家だ。そういった日ごろの質素な行いに、幸運の女神がほほ笑んでくれたのかもしれないが、さっそく的中に至るまでの経緯やその瞬間の様子について聞いてみた。

 まずは何はともあれジャックポット的中、おめでとうございます。さっそくですが、堅実なラッキーさんにとっての、これまでのラスベガス遍歴などをお聞かせ頂けますか?
 私たち夫婦はラスベガスが好きで、今回が5回目の訪問です。ちなみに過去4回の宿泊場所はサハラ、モンテカルロ、TI、バリーズです。
 街をブラブラ歩きながらショッピングをしたりするのが好きなので、最初のサハラ以外は立地条件でホテルを選んでいました。今回も立地条件でプラネットハリウッドにしたわけですが、本当はもう少し上のランクのホテルを考えていたんです。でもコンベンションなどの影響か、宿泊料金が予想以上に高かったので断念してプラネットハリウッドにしました。それが結果的に幸運につながったみたいです。
 高級ホテルの断念がジャックポットですか。偶然の巡り会わせって不思議ですよね。ところでその直前までのカジノにおける戦績とかツキとかは、いかがでしたか? やはりいつも運は良い方なんですか?
 旅行の目的はいつもショッピングとナイトショーですが、ギャンブルもまったくしないわけではありません。そこそこ楽しんでいます。でもギャンブル予算は他の人よりはかなり少ないと思います。ですから過去の戦績といっても、勝っても負けても大した金額ではなく、今回も前日に15ドルほど勝っただけで、大全さんの他の読者さんが聞いたら笑われる程度の金額しか動かしていません。
 ちなみに今回の旅行はラスベガスに5泊で、ジャックポットに遭遇したのは真ん中の日の晩です。大当たりが出る兆候や予感などまったくなかったですね。翌日の朝の予定が早かったのと、路線バス利用の倹約ショッピングで疲れていたので(笑)、その晩はカジノで遊ばずに早めに寝ようかとも考えていたぐらいです。
 まさに 「無欲の勝利」 といった感じですが、すぐには寝ずにカジノへ足を運び、その台を選んだ経緯などをお聞かせください。
 その日の昼は、99セントショップでみやげ用の安い菓子類を買ったり、オールドネイビーで一着5ドルのTシャツ、短パン、タンクトップなどを15着も買い込んだりで、かなり疲れていましたが、安物ばかりを買ったためか、スロットの予算は少しだけ余っていました(笑)。
 でも宿泊ホテルのバフェで食事を済ませたら、どっと疲れが出てきて眠くなってしまい、私は 「今日はもう寝ようよ」 って言ったんです。でも妻は 「飲みたりないから売店へビールを買いに行く」 と言い出し、仕方なく付き合って売店へ行ったら、「ついでだからスロットちょっとだけやろうよ」 っていうことになり、彼女の言葉に負けて 「じゃぁ軽くやるか」 っていうことで、カジノで足を止めちゃったんです。
 じゃぁ奥様のひとことがなければ、その晩はまっすぐ部屋に帰って寝ていた。一生、奥様には頭が上がらないですね。で、そのラッキーなマシンを選んだのも奥様ですか?
 いや、それはちがうんです。幸いなことに私が選びました。だから彼女は私に頭が上がらない(笑)。
 彼女は安い5セント台でだらだらと長時間やるのが好きなんですが、私は早く寝たかったこともあって彼女とは逆に、ボーナスゲームとか何か刺激があるような台でワクワクしながら短時間遊べればいいって思っていたんです。
 そんなわけで、彼女はすぐにボーナスゲームなどがない単調な5セント台を見つけてプレーを始めました。だらだらやっている割には気合が入っていたのか、「会話禁止」 って言われ、仕方なく私は 「こういう台、眠くなるから上がグルグル回る台でやってくるよ」 と言い残し、その場を離れ自分の台を探しに行ったんです。
 実は台を探しに歩いている間にすでに眠くなり、やる気はなかったんですが、彼女がまだしばらくやりたそうな雰囲気だったので、とりあえず軽い気持ちで 25セント用の Wheel of Fortune 機の前に座りました。
 その台、なにかラッキーな予感がしたとか、何番目の台が好きとか、なにか理由があって選んだんですか?
 いいえ、たまたまその台だけ空いていて、他の Wheel of Fortune 機は全台うまっていたんです。ただそれだけのこと。ですから選んだ理由なんて特にありません。まぁしいてあげれば、その台は、ちょうどそこから妻のマシンが直線で見通せる位置関係にありましたので、位置的に好都合、という理由はありましたけどね。
 じゃぁやはり奥様が先に台を選んだことと今回のジャックポットは無縁ではないですね。「私があの位置に座っていなければ、あなたはあの台を選んでいなかった」 と、一生いわれ続けたりして (笑)。
 冗談はさておき、いよいよですね大事件は。だんだんワクワクしてきました。そこからの状況、詳しく教えてください。
 たしかスタート時に15ドルほど突っ込んでプレーを始めました。あっという間に5ドルぐらいにまで減ってしまい、妻のほうに目をやると、彼女の台の残高などは死角になって状況把握はできませんでしたが、まだしばらくやりたそうな雰囲気に見えましたので、私もさらに10ドル紙幣を追加投入しました。
 その直後に飛び出したんですね、58万ドルが。
 いや、そうではないんです。しばらくそれでデレデレとプレーは続き、増えたり減ったりしていました。その間に、2回ほどボーナスゲームの円盤が回りましたよ。でも 30枚とか 60枚ぐらいしか出ませんでしたね。で、そろそろ飽きてきて妻の終了を待っていたころです。
 来た来た、いよいよですね大事件は。
 そうなんですが、その瞬間も眠かったので、ただ惰性でボタンをペシペシたたいていただけなんです。
 すると左側のリールから 「Wheel of Fortune」 のシンボルマークが止まり、次のリールでも同じマークが、そして3番目のリールにもそのマークがピタリと停止。
 一瞬の出来事だったので何がなんだかわからなかったんですが、1000枚とか 2000枚とか、何かが当たっただろうぐらいのことは思いましたよ。
 でも残高のメーターが増えるわけでもなく、音が鳴るわけでもなく、まったく何も起こらないので、スタートボタンやらキャッシュ化ボタンやら、いろんなボタンをたたきまくりました。それでもまったく反応なし。残高のカウンターは61枚で止まったまま。
 まさか特別な賞が当たってマシンが停止したなんて思いませんから、「チクショー! フリーズしやがった」 と思いましたよ。
 画面を見ると、「CALL ATTENDANT」 と出ていました。英語は苦手ですが、「係員を呼べ」 っていうことぐらいはなんとなく理解できましたので、素直に 「CALL」ボタンを押したんですが、それもまったく反応しない様子。パソコンなら電源切って再起動って感じですね。
 残高61枚っていうことは、15ドルぐらいですよね。お疲れで眠かった様子ですし、翌朝の予定も早かったので、「チクショー、バカヤロー!」 って思って、その15ドルを捨てて帰って寝ちゃうってことは考えませんでしたか?
 そんなことを考えたかどうかあまり覚えていませんが、さらにしぶとくあれこれボタンをたたきまくっていたことだけは覚えていますね。
 そしたらとなりの台でプレーしていたお姉さんが早口の英語で話しかけてきたんです。意味は聞き取れないんですが、なにやら興奮している様子だけはよくわかりました。
 話しかけてきてくれた人に対して無視するわけにもいかず、私は身振り手振りで、「フリーズ、フリーズ、こいつ壊れやがった」 と意思表示をしました。
 するとお姉さんは自分の台の 「CALL」 ボタンを押し、すぐに私の台の上の方にある電光表示の数字をバンバンたたき始めたので、「おい、オマエ、オレの台だよ。勝手にさわって何すんだよ」 と思いましたが、それを英語にすることができず悩んでいると、彼女の指はさらに激しく、私の台のパネルに示されているマークが3つ並んだイラストの部分と、58万ドルの電光表示の間を行ったり来たり。そのあたりからやっと、かなり大きいジャックポットであることに気づき始めました。
 ガッツポーズを取って飛び跳ねたとか? 奥さんのところに駆け寄り思いっきり抱き合ったとか?
 いや、まだそのときはそんな状況ではなかったですね、完全には理解できていなかった感じで、「えっ、ひょっとしてこれってジャックポット? 大当たり? 一等賞?」 ぐらいの感覚です。で、金額を確かめても 「58万ドルって何? いくらよ?」 ってな感じでした。
 頭の中で計算すると、とんでもないことになっていることがやっとわかり始め、とにかく誰か呼ばなきゃ、ってことで、思わず妻の名前を大声で叫んでしまいましたが、聞こえる様子はまったくなしで、5セント台のボタンをペシペシたたいていました。
 金額を理解したあとの、そこからの行動とか心理状態をぜひ知りたいです。
 妻には気づいてもらえず、となりのお姉さんも残高がなくなってしまったのか、いつの間にか姿を消し、ひとり寂しくしばらく途方にくれていたわけですが、だからといって席を離れていいものかどうかもわからず困っていると、ちょうどすぐ近くの台でメンテナンスのお兄さんがマシンの修理か何かをしていたんです。で、彼に声をかけると 「ちょっと待て」 とのつたない返事。こちらも英語がうまくしゃべれず、しばらく彼の指示通り放心状態で座って待っていると、やっとそのメンテナンスマンが到着。
 私はすかさず台を指差し、「これ、これ、どうすりぁいいの、何も動かないよ、これ」 って言うと、彼もきょとんとした様子で、機械に手も触れずしばらく呆然と見ていました。が、突然表情が変わり、無線機を取り出し、だれかと早口でしゃべり始めました。で、その場を去ろうとするではありませんか。
 おいおい、このまま 58万ドルが見捨てられてしまってたまるか、と思い、「ウェイト!」 と呼び止めたのですが、彼は 「ステイ・ヒア」 と言い残して、どこかへ消えていってしまいました。この場を動いちゃいけない、ってことなので、そのまま待つしかないと思い、待つことに。
 奥様の反応を早く知りたいんですが。
 彼女は引き続き5セント台をペシペシです。ガイドブックなどに、「ジャックポットが出たら、けたたましい音楽が流れ、従業員と野次馬が飛んできて、あっという間に周囲は黒山の人だかりで、カクテルウェイトレスがシャンペンを持ってきたら思いっきりチップをはずみましょう」 といったことが書かれていましたが、そんな気配はまったくなく、ただ静かに時が流れていくだけで、かなり孤独なひと時でした。
 ですからその間は、のどが渇いたとか、ビール飲みたいとか、カクテルウェイトレスはこんな壁際の目立たない場所には来てくれないのかとか、こんなことならもっと目立つ場所の台でやればよかったとか、ワケのわからないことをあれこれ考えていました。
 でも目立つ場所で他の台でやっていたら、こういう結果にはなっていなかったわけですよね。それより奥様はまだ?
 そうこうしているうちに、さっきのメンテナンスマンが呼んでくれたのか、ようやくスーツ姿の偉そうな人が3人やって来ました。一人は年配の女性、もらった名刺の肩書きは Senior Executive Slot Host で、「おめでとう」 を連発し、「これからは私が担当します」 みたいな事を言っていました。もう一人の年配の白人男性もやはりエグゼクティブクラスの人で、「何か必要なものは?」 と聞いてくるので、あの5セントマシンで遊んでいる妻を呼んできて欲しい、と頼みました。
 さらに黒人の大きな人も登場。名前はアル 。「アイ・プロテクト・ユー」 とか言ってきましたので、ガードマンとかセキュリティーの人であることはわかりました。あとから聞いてわかったのですが、高額当選をした客を不測の事態から守るために必ずこの種の人を付けてくれることになっているそうです。
 で、しつこいようですが奥様は? (笑)
 いや、実は妻は感動するどころか、恐怖というか、かなりこわい思いをしたみたいです。なんたって、5セント台をのんきにたたいていたら突然、見知らぬ人から 「あなたのハズバンドが呼んでいます」 と声をかけられ、それだけでも緊張してしまうというのに、私のほうを振り返ると、私はでっかい黒人にガードされている。何をやらかしたのかと、本当にあわてて動転したそうです。
 で、やっと妻と再会しました。といっても分かれてから30分ぐらいしかたっていないんですけどね。マシンの当たり目を見た瞬間は、私同様、状況が理解できず、しばし呆然といった感じでした。
 「えー! えー! ほんとに〜?!」 とようやく気づいたようで、それからは 「すご〜い! すご〜い!」 の連発でしたが、金額の大きさをどこまで理解していたのか。
 アメリカ人のカップルならそこで熱い抱擁とかになるんでしょうが、そういうことはなかったですね 。(笑)
 たぶん読者も感動の涙とキスの嵐とかのシーンを期待していたと思うんですが、意外と普通なんですね、残念!
 その後は、アルさんが私たちを台の前にいるように指示してきて、周囲をロープで囲い始めたんです。まるで犯罪者にでもなったような心境でしたが、まわりの人たちはみんなニコニコしていました。
 すると、新しいスーツ姿の若い白人男性が登場。名前はフレッディー、肩書は Slot Shift Manager。彼は私の身分証明とクラブカードを預かりたい、といってきたので、パスポートとカードを渡すと、「通訳を手配するのでもうしばらく待ってください」 とのこと。
 それから待つこと1時間。ロープに囲まれた 「さらし者」 状態で、非常に居心地が悪いのですが、アルさんが、飲み物はいらないかとか、軍の関係で日本に行ったことがあるよとか、いろいろ話をしてくれましたので、けっこうリラックスできました。
 次に登場したのが白人の年配女性ビバリーさん。今回のスロットマシンを管理している IGT社の人で、この人がジャックポットの認定から当選金の支払いまでを行ってくれるとのこと。それからスパニッシュ系の通訳の人も来てくれ、あまり日本語がうまいとはいえない人でしたが、一生懸命に対応してくれました。
 さすがにプログレッシブマシンの高額ジャックポットとなりますと、登場人物も多いんですね。数万ドルクラスの大当たりの報告は、これまでにもときどき読者の方々から寄せられていますが、これほどたくさんの人は登場していないようです。今回の金額がいかに大きいかがよくわかります。
 ビバリーさんは細長い看板のようなものを持って来ていました。そして分厚い書類の束も。さらにもう一人が登場しました。IGT社のエンジニアです。これから彼がマシンのチェックをし、不正や誤動作でジャックポットが出たのではないことを確認する必要があり、それまでにあと1時間ほど要するとのこと。
 たぶん誤動作などではないだろうとのことで、記念撮影の開始です。ビバリーさんが持っていた細長い看板は、金額、日付、私の名前などが書かれた大きな小切手で、それを私が持ってマシンの前で撮影。
 フレッディーさんがカメラマンになり、私一人、妻と一緒に、スタッフと一緒に、何枚か撮影したあと、さらに私と妻のカメラでも数枚撮ってもらいました。野次馬はほとんどいませんでしたので、本当に目立たない場所の台だったようです。その後は、エンジニアの確認作業が終わるまでしばらく時間がかかるとのことでしたので、いったん部屋に戻りました。
 やっと二人っきりになれた瞬間ですね。奥様とはどんな会話をされましたか? 家を建てようとか、フェラーリを買っちゃおうとか?
 あまり覚えていませんが、すでに深夜0時を回っていて疲れていましたので、すぐにベッドに倒れ込みましたが、やはり興奮していたのか、さすがに眠くはなりませんでしたね。二人とも今起こっていることが現実なのか夢なのかもわからない状態でした。シャワーを浴びたりしていると、あっという間に1時間が経過し、また現場に戻ることにしました。
 会話する時間がないほど忙しかったんですね。お金の使い道で、ケンカとかになっているんじゃないかと心配してしまいました。(笑)
 まだ自分たちが現実を認識するのに時間を必要としていましたので、そんな会話はその時点では無理でしたね。そもそもまだエンジニアの確認作業も終わっていませんし。
 で、現場に戻ると、何ごともなかったかのように、多くの人が Wheel of Fortune 機でプレーしていました。ただし私の台だけはまだ使用停止中です。このあとでも説明しますが、ジャックポットのマークがそろっている状態の台を最初に回してそのマークをくずす作業は、ジャックポット的中者が行う儀式だそうです。ですから私が回すまでは、だれもプレーしない状態でキープされていたんです。
 それはともかく、みんながプレーしている Wheel of Fortune 機、当然のことながら電光掲示板の数字はすべて $200,000 付近の数字に変わっていました。妻に自慢げに、「これはオレが当てちまったから振り出しに戻ったんだよ」 と言うと、「ラスベガス中の台がいっせいにリセットされちゃったのね」 という返事。なるほどそういうことかと思いつつ、つくづくすごいことをしでかしたものだと改めて感動しました。
 金額リセットの光景やファーストスピンの儀式、的中者だけが味わえる最高の気分ですね。ところでまだ確認作業は終わっていないわけですが、その時点でもまだ不安はありましたか。「故障でした。誤動作のジャックポットでしたので無効です」 とか言われる不安が。実際にそういうことが過去にあったみたいですよ。それともすでに完全に的中を確信していましたか?
 そうなんです。夢に終わったらどうしようっていう気持ちは少しありました。が、もうそのときは新たに通訳さんも現場に待機してくれていて、日本語が通じるようになっていましたので、かなり精神的にはリラックスできていました。
 そして、ちょうどエンジニアの確認作業が終わったのか、ビバリーさんが満面の笑みを浮かべながら 「おめでとうございます」 と握手を求めてくると、すぐに前述のファーストスピンの儀式をやるとのこと。そのときになって夢が確信に変わり、やっと的中を現実のものとして実感できるようになりました。この儀式でもまた記念撮影がありました。
 その儀式でまたジャックポットが出たりして。そう考えませんでしたか?
 そうなんですよ、また当たったらどうしようって本気で思いましたよ。
 それはそうでしょうね、直前に実際に起こっていることなんですから、またあるかも、って思うことは普通ですよね。
 ところでくだらない質問ですが、そのファーストスピンの儀式、その資金の 25セントはだれが投入するんですか? 儀式だから無料で回せるように設定されているとか、ちゃんと的中者がポケットからお金を出して投入しなければならないとか、25セントコイン1枚だから現場スタッフが寄付してくれたとか。
 その資金は自腹です。というか、ジャックポットが当たる直前の状態の61枚の残金がそのまま台の中に残っていましたので、スタートボタンを押すだけです。
 せっかくそろっている Wheel of Fortune を崩してしまうのにためらいがありましたが、まわりがみんなカメラを構えて、「早くしろ」 といった感じでしたので、仕方がないなという気持ちで回しました。
 もちろん何もそろいませんでしたが、マークが崩れてしまって残念そうにしていたら、通訳さんが 「まだ続けますか?」 ときいてきくるんですよ。さすがに 「いや、もう十分です」 と答えましたね。ですから最後には 15ドルほどが残ったわけですが、ちゃんとバウチャーをプリントアウトし、しっかり自分で換金しましたよ。
 58万ドルを当てても、15ドルを粗末にしないその心構え、いいですね。ところで、そのあとに待っているたくさんの書類手続きなどが大変だと聞いていますが、そのへんの手順などを説明していただけますか?
 そうなんです、いろいろな書類にサインさせられます。ファーストスピンの儀儀が終わると、「場所を事務所に移します」 と言われました。
 アルさんとはその場で別れ、ビバリーさん、フレッディーさん、通訳さん、そして私たち夫婦の5人は、キャッシャー脇の扉をくぐって迷路のような通路を通り、奥の事務所に案内されました。
 あれ? ガードマンのアルさん、そこまでしか守ってくれないんですか? これからが大金を手にする重要な場面だというのに。
 そういわれてみればそうですね。キャッシャー奥の事務所なんて、映画 「オーシャンズ 11」 とかでしか見ることができないような場所で、かなり緊張しました。しかもこれから大金をもらうための手続きに入るわけですからアルさんにいてくれたほうが安心でしたね。まぁ私たちにとってはアルさんよりも通訳さんの方が精神的に頼りになりましたので、いなくても気になりませんでしたが。
 ところで、フレッディーさんが 「コピーを取ったことをご容赦ください」 といいながら、預けたパスポートを返してくれましたが、身分証明はパスポートひとつだけで大丈夫でした。ガイドブックに、「大当たりが出た際は最低2種類の身分証明が必要」 と書いてあったのを記憶していますが、そんなことはないようです。そもそもパスポート以外に写真付きIDなんて日本の運転免許証ぐらいしか持っていないのが普通ですし。
 あ、そうそう、事務所が非常に小さいんです。机とイスが二つあるだけ。アメリカにしては異常に狭くてびっくりしました。ビバリーさんと私が着席し、妻と通訳さんが脇に立つともうスペースはいっぱいで、フレッディーさんはドアから半分身体が出ている状態でした。だれが何のために使っている部屋なんでしょうかね。
 ジャックポットというめったに起こらない出来事のための専用の部屋なら狭いのも理解できますが、なにやらマフィア映画の場面を思い出してしまうような怪しげなニオイもしますね。カジノで不正をした人を捕まえて連れ込む取調室だったりして。
 壁にはこの部屋を使っている人の家族や子供と思われる写真がベタベタ貼ってありましたので、怪しげな雰囲気は特にしませんでしたが、異常に狭いのだけは不思議ですね。で、ビバリーさんが差し出してきた書類は全部で5通。

【1】. 「当選おめでとう」 というタイトルで始まり、当選総額、一時金として 20分の1の額を今ここで小切手で支払う、残りは毎年6月1日に 20年に渡って支払う、などといったことが書かれた書類。

【2】. 今回支払う一時金の額、所得税、差引きの金額、などを記載した書類。

【3】. 納税管理に必要な社会保障番号の確認書。私の場合、海外居住者なので全体に斜線が引いてありました。

【4】. メディアリリースに関する書類。マスコミに今回のことを公表してもよいかどうかという確認書。

【5】. 賞金の受取りを20年分割ではなく、一括で受け取るための申請書を後日送ります、という内容の書類。(ちなみに一括支払いの額は、現在の金利水準などから計算されることになっており、今回の場合、当選金の約52%を受け取ることができるとのこと)

 これら書類のすべてに署名を求められ、署名が終わると、その場で小切手 (看板ではなく本物の小切手) を手渡されました。金額は $20,358.46 で、これは的中額の 20分の1の金額から米国連邦税 30% が差し引かれた額です。なおラスベガスはネバダ州ですので州税は無しです。
 近年の日米租税条約の見直しで、アメリカ側では天引きされずに、日本側ですべての税金を納めることもできるようになり、その方法を採用しているホテルも増えてきているようですが、プラネットハリウッドはまだ天引き方式なんですね。それはともかく、4番目の書類で 「ノー!」 を選ぶことはできないんですか?
 確認する前に署名してしまったのでそれはわかりません。「ノー」 を選ぶことができたのかもしれませんが、書面をよく読んだり、ノーといったりする心の余裕はまったくありませんでしたね。出された書類にただひたすらサインをするだけ、っていう感じでした。
 あと、これもついでに紹介しておきますと、「アンケートに協力してほしい」 と言われ、フレッディーさんから以下のような質問を受けました。覚えている範囲で申し上げますと、
 Q: ジャックポットが出るまでどれくらいの時間、その台のプレイに要したか?
 Q: ジャックポットが出るまでに、いくらぐらい使ったか?
 Q: なぜこのホテルを選んだか?
 で、その質問のお答えは?
 時間は 20分ぐらいで、使った金額は、投入額と残金を考えますと $10ぐらいですね。この$10には皆さんびっくりしたようで、LUCKYMAN と か PROFESSIONAL という単語が聞こえてきました。
 3番目の質問の答えは、私は 「ロケーションがいいので以前から泊まろうと思っていた」 と答えておきましたが、妻は何を思ったのか 「HANS KLOK のショーがよいから」 と答え、一同大喜びでした。あのマジックショー、本当に良かったですよ。
 え、そうなんですか? 地元の有力新聞があのショーのことをボロクソに酷評していたので、まだ観ていないんです。もしあのショーを観ると幸運に恵まれるというなら、ラッキーさんにあやかって観てみようかな (笑)。
 地元紙は酷評ですか? 私としてはすばらしいショーでしたよ。早く大全さんが紹介記事を書いて、もっと多くの人に知ってもらい、「これがマジックショーのスタンダードだ」、みたいな感じで日本でも報道される日が早く来るといいな、ぐらいに思っていますけど、言い過ぎでしょうか。
 話はジャックポットと関係ない方にそれてしまいましたが、書類手続きはそれで終了し、「お疲れ様でした」 ということで一連の書類のコピーと小切手を受け取り部屋を出ることになりました。
 なおその際、フレッディーさんが、「小切手の現金化は当ホテルのキャッシャーでもできますが、どうしますか?」 と聞いてきたのですが、金曜の深夜というか、すでに土曜日の早朝になってしまっていたため、「現金化できるのは月曜日」 とのことで、「月曜日は日本に帰る日です」 と言って、結局この申し出は遠慮しておきました。
 彼もニッコリ笑いながら 「それがベストだ」 と言い、そこで皆さんとお別れとなったんですが、そこで最後にビバリーさんが、「これ、お持ち帰りになりますか?」 と聞いてくるんです。あの記念撮影用の小切手の看板でした。
 えっ、あの大きな看板? 持って帰れっこないですよね。
 私も一瞬そう思ったんですが、妻が大喜びで、持って帰るしかないって感じでしたので、ありがたく頂いてきました。そうそう簡単に手に入れられるものではありませんしね。
 妻ったらその小さな事務所を出ると、看板を頭上に掲げ、カジノ内をスキップしながら歩き出すんです。周囲の人たちから歓声が上がり、私は恥ずかしくなって妻の手を引っ張ってエレベーターへ急ぎましたよ。この写真はその看板を部屋に持ち込んだときの様子ですが、どうやって包んで持って帰ればいいのか本当に悩みましたね。
 その数日後の話になりますが、帰りの空港までの送迎をしてくれた旅行会社の方に、「スーツケースともうひとつ、こいつを預けたいんですけど。こわれものなのでよろしくお願いします」 と言いながら、茶紙でぐるぐる巻きにしたスノーボードみたいなものを差し出すと、不思議そうな顔をされました。多分絵画か何かと思ったんでしょうが、本当のことを話すと非常にびっくりして、かなり興奮状態のようでした。当然私たちは得意満面なわけですが、たぶん次の送迎客などに話しまくっているんでしょうね。
 本当のことを言っちゃったんですか。そりぁまずいですよ、絵画かスノーボードにしておけばよかったのに。すでに、その旅行会社の日本の本社経由でラッキーさんのお名前がバレちゃっていますよ、きっと。
 あ、それは絶対にまずいです。今から口止め、お願いしたほうがいいかな。
 ところで翌日以降、ライフスタイルが変わってしまったとか、何か変化がありましたか? 奥様が高級ブランドショップに直行してしまったとか、ご主人が高級レストランで必ず超高級ワインとキャビアをオーダーするようになったとか。(笑)
 いや、翌日はちゃんと予定通り早朝に起きて、安いオプショナルツアーに普通に参加しましたよ。キャンセル料、取られるのイヤですからね (笑)。さらにその翌日には 99セントショップにまた出かけましたよ。
 またですか?! でも今度は路線バスと徒歩じゃなくてリムジンをチャーターしたとか。最低でもタクシーですよね? で、買った物は今度は高級品ですね。あ、99セントショップに高級品はないか…。
 また路線バスです(笑)。節約という意味よりも、一般市民の生活が見られるようで、ああいうの好きなんです。で、99セントショップに行ったのは、例の看板を持ち帰るための包装紙とテープを買うためです(笑)。ついでに、会社の同僚のための安い駄菓子もたくさん買い込んでしまいました。
 「7000万円的中者が 99セントの駄菓子を土産に買ってきた!」 なんてことが同僚にバレたら、友だちの縁を切られちゃいますね。(笑)
 だから絶対に秘密なんです!
 わかりました、秘密は厳守ということにいたしましょう。でも、ラスベガス大全からバレることはありませんが、空港までの送迎をしてくれた運転手さんの会社のルートに関しては知りませんよ。
 ま、それはともかく、今回は大変貴重な体験談をお聞かせいただきありがとうございました。また、改めて、おめでとうございます。
 いいえ、こちらこそ。これから日本の税務当局に対してさまざまな手続きをしていかなければならないわけですが、また機会を改めて、「7000万円当てても、税金を払うと最終的にはこんな額になってしまいました」 といった感じの報告をさせていただきたいと思いますので、そのときはまたよろしくお願いします。ちなみに、20年分割ではなく、一括払いのオプションを取る予定でいます。

<インタビュー後の感想>
 ジャックポットを当てても浮き足立っていない堅実なご夫婦、安心してお話をお伺いすることができました。
 「的中した翌日の晩はちょっと贅沢して WYNN のバフェで食事を取りました」 という話をその後に聞かされ、何かほのぼのとしたものを感じました。また、帰国後も、高級レストランなどへ行ったりすることはほとんどせずに、「ソーメンなどを食べています」 とのこと。さらに、「妻も私もいつもとまったく変わらない生活を送っています」 との報告も受けています。消費は美徳だ、という考えもあり、極端なケチケチも問題ですが、こういう境遇ではあまり浮かれていないラッキーさんのような話のほうがホッとするものです。
 的中後もほのぼのした話題で盛り上がれるのは、ラッキーさんご夫婦のお人柄もありますが、的中金額がちょうど理想的 (多くもなく、少なくもなく) だったことも理由のひとつにあるような気がします。日本人の的中者の話ではありませんが、ジャックポットを当てた直後から、仕事をやめ、友人も失ってしまった、などという話はこの街では枚挙にいとまがありません。
 特に20億円、30億円といったレベルの超高額ジャックポットになりますと、友人、知人、親戚、兄弟など周囲の人たちからは 「サポートしてもらって当たり前、おごってもらえて当たり前」 と思われるようになり、おごってあげる的中者側も、おごられている側が感謝していないとわかり始め、おごってあげる喜びもなくなり、結局、過去の人間関係をすべて壊してしまうばかりか、自分自身に対する 「たまの贅沢」 という楽しみもなくなってしまうのが現状のようです。
 一方、今回のような 5000万円から1億円程度ぐらいまでの中規模なジャックポットは、人生を変えるほどの大金でもなく、だからといって数回のちょっとした贅沢ですべてがなくなってしまうほどの小さな金額でもなく、また、友人から一生うらやましがられ、人間関係を損なうほどの大金でもなく、今までのライフスタイルを変えずに 「中くらいの幸せ感」 を味わうのにちょうど適したハッピーな金額のようです。ぜひ読者の皆さんも、ラッキーさんと同じようなジャックポットを狙ってみてください。ラスベガスにはまだまだ日本人向けの幸運の女神がたくさんいると思いますよ。


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