週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 06月 06日号
謎の巨大ビル群に潜入! ワールドマーケットセンター
 ダウンタウンにあるアウトレットモール、「ラスベガス・プレミアムアウトレット」 に出かけた際、となりにそびえる巨大なビルの存在に気づき、「これは、いったい何なんだ?」 と思った者も多いに違いない。(右写真、クリックで拡大表示)
 実際、こちらにも読者から 「あのビルは何?」 といった問い合わせがときどき寄せられる。

 ガイドブックでは紹介されていない謎のビル。茶色にグレーの半円を乗せたユニークなデザインが目をひく巨大なダンボール箱のような形のビル、そしてその後ろには窓がほとんどない奇妙な形のグレーのビル (← いかに巨大であるかは、クリックして自動車の大きさなどと比較するとわかる)。さらに、周辺をブルドーザーやクレーン車が慌しく行き交う様子から、現在もこれらビル群が増殖中であることは一目瞭然だ。
 ホテルなのか、遊園地なのか、巨大ショッピングモールなのか、それとも窓が非常に小さいから留置場なのか、と、疑問を募らせていた読者のために、今回はその謎の巨大ビルの秘密を解明しよう。

 ビル群の名称は World Market Center。直訳すれば 「世界市場センター」 になるが、なんともあいまいなネーミングで、これだけでは、このビルがなんなのかはわからない。実はこの建物、家具のショールームなのである。
 ラスベガスの主要産業はカジノや観光だが、この街の経済を担うもうひとつの巨大ビジネスがコンベンション (トレードショー) だ。実際、ラスベガスでは毎日のように大小さまざまなコンベンションが開催されており、その数は世界一といわれている。
 ラスベガスがコンベンションのメッカとして世界に名をとどろかせるに至った理由としては、まず宿泊施設が十分にあること、そして、カジノ、ナイトショーなどのエンターテインメントが充実しているため、参加者を誘致しやすいことが挙げられる。ラスベガス観光局などもこうしたメリットを強力に打ち出し、新たなコンベンション誘致に積極的だ。
 ちなみに現在、ラスベガスで定期的に開催されている巨大コンベンションとしては、家電業界の CES、放送業界の NAB、自動車業界の SEMA、アパレル業界の MAGIC、などがあるが、1月と7月の年2回開催される家具とインテリア業界のコンベンション Las Vegas Market もここ数年でこれら巨大コンベンションの仲間入りを果たすほど急成長している。

 World Market Center はずばり、この Las Vegas Market の会場として建築されたものだ。しかし、敷地面積は実に 57エーカー (約 23万平方メートル)、現在計画されている施設のすべて (全部で8棟) が完成すると、総展示スペース 1200万平方フィート (約 111万平方メートル) と、とてつもなく大きく、年に2回しか開催されないコンベンションのために、こんな巨大な施設を作る意味があるのか、と誰もが疑問に思うことだろう。

 この疑問に、同センターのジェネラルマネージャー、デイブ・パルマー氏 (写真右) はこう答えてくれた。
 「家具というのは他の商品に比べ、大きいし重い。コンベンションのたびに輸送すればコストもかかるし、準備期間も長期に及んでしまう。また、コンベンション開催期間以外にも商品を展示したり、保管したりしておけるスペースがあるほうが、出展企業にとっては好都合」
 いくらラスベガスは大規模なコンベンション会場には事欠かないとはいえ、世界中から家具メーカーが何千社も集まり、新製品を一同に展示できるスペースはない。ないのなら作ってしまえ。そうして誕生したのが World Market Center なのである。
 行政も、ただの空き地だった場所に道路などのインフラが整備されるというメリットがあるため、税制面などでバックアップはしているものの、基本的には完全な民間プロジェクトだというから恐れ入る。

 パルマー氏に施設を案内してもらった。2005年 7月に完成した第1棟 「ビルディング A」 は 10階建て。といってもワンフロアの天井の高さが普通のビルとはまるでちがうため、高さ的には 20階以上は軽くあるだろう (左の写真は、吹き抜け構造になっている空間から見下ろすとユニークなデザインに見えるエスカレーターや階段)。
 そこに大小 230のショールームがあり、展示スペースの広さは全体で 130万平方フィート (12万平方メートル) に達する。玄関ホールは広々としており、壁一面から滝のように水が流れる仕掛けにするなど、外装のみならず内装もユニークで、総工費は 2億 3000万ドル (約 280億円)。
 1階、2階はデザインセンターになっており、インテリアデザイナーや建築家が随時訪れ、商品を見たり、注文したりできるようになっている。入居しているのは、家具、インテリア雑貨、照明器具メーカーなどで、各ショールームのデザイン、雰囲気は企業ごとに異なるが、一見したところ一般のインテリアショップとなんら変わりがない。違っているのは、客の姿がほとんど見えない、という点だけだ。
 3階以上に入居するショールームは、コンベンション開催時以外は営業しておらず、施錠され、照明も落とされている。ときおりメンテナンス係の姿を見かける以外は、人影もほとんどない。ちょうど閉店後のショッピングモールを歩いているような雰囲気だ。
 倉庫のように商品をただ積み上げている企業もあれば、明かりをつけたらすぐに顧客を招き入れられるよう、美しくディスプレイされたショールームもある。
 それらをガラス越しにのぞいていると、「これだけの商品をコンベンションごとに搬入するのは確かに大変そう。やはりこの巨大施設は業界から求められていたのだな」 ということがわかってくる。
 また、この施設は、売る側 (家具メーカー) だけでなく、買う側、つまり家具の販売店側からも強く求められていたもので、この種の施設がないと、家具のバイヤーは全世界に点在する各メーカーのショールームを見て回らなければならず、非常に効率が悪い。メーカーが一ヶ所に集まり一年を通じてショールームを持つということは、やはりバイヤーにとっても大きなメリットがあることがわかる。

 家具メーカーの数が多すぎるのか、2棟が完成した今でも、入居希望が殺到しており、今後もひたすら建設を続けるという。
 ちなみにその第2棟目となる 「ビルディング B」 は、今年1月に完成したばかりで、16階建て、160万平方フィート (約 15万平方メートル)、ショールーム数 300 と、ビルディングA よりもさらに規模が大きい。総工費は 3億 4500万ドル (約 420億円)。
 内部の様子は Aとほぼ同様だが、こちらの建物には、取材で訪れる記者たちのためのメディアルーム、商談を行うためのスペースやカフェ、レストラン、最上階には展望バーまでが備えられている。

 すでに 第3棟の建設も始まっており (写真右)、最終目標である 第8棟目が完成するのは 2013年。
 その 8棟すべての総工費は 30億ドル (3600億円)、展示スペースの合計 1200万平方フィート (111万平方メートル) は、家具のショールームとしてはもちろんのこと、コンベンション施設としても文句なしに世界最大になるという。また、ショールームのみならず、イタリアのピアッツアをモチーフにした広場など、憩いの施設なども造られる予定だ。

 なにやら壮大なプロジェクトで完成が待ち遠しいが、じつは明るい華やかな話ばかりではない。このプロジェクトの陰には寂しい話題もある。
 これまで家具のメッカといえば、ノースカロライナ州のハイポイント市 (City of High Point)、というのが長年の業界の常識だった。町のキャッチフレーズはずばり 「世界の家具業界の首都」。逆の見方をすれば、町一番のイベントが家具のコンベンションという、家具業界のために存在しているような町なのである。
 今でもハイポイント市では家具業界のコンベンションが毎年定期的に開催されており、その際は、市役所や図書館まで、それこそ町中のありとあらゆる施設が展示場に早代わりするほど、町にとっては大きなイベントだ。
 そんな家具の町が、ラスベガスの World Market Center のおかげで滅びようとしている。多くの家具メーカーが、自社商品のお披露目の場をラスベガスに移そうとしているからだ。(右下の写真は 8棟すべて完成したときの様子を示す模型。現在完成しているのは左端の2棟)
 もちろんハイポイント市側の商工関係者も何もしていないわけではなく、それなりの対抗措置を検討しているようだが、出展企業やバイヤーなどの声を聞く限り、ハイポイント市に勝ち目はないように思える。
 ハイポイント市の場合、コンベンション施設として作られていない建物も会場とするため、「移動が大変」、「スペースがたりない」 といった不満の声が以前からあり、なにより、宿泊施設が足りないことが業界にとっては大きな悩みの種だったようだ。
 World Market Center はこうした業界のニーズをいち早くキャッチし誕生した施設ともいえ、業界関係者の多くは、ハイポイント市の家具コンベンションは今後縮小し、いずれなくなるのではないかと考えているようだ。このような状況についてパルマー氏は、
 「我々はハイポイント市をライバル視しているわけではないし、あの町の産業を奪おうとしているわけでもない。我々は業界が求めていたものを作っただけ」 と語っていたが、ハイポイント側の関係者は、ラスベガスに続々と出現する巨大ビル群をどのような気持ちで見ているのだろうか。なにやら複雑な心境だ。

 世界最大のカジノシティー、世界最大のコンベンションシティーはこうして今、「世界最大の家具のメッカ」 という新しい肩書きを手に入れようとしている。ホテルの建設ラッシュが続く中、「供給過多になってしまうのでは?」 と心配する声も聞こえてくるが、この怪物ショールームを見た後では、「いやいや、まだまだ足りないかも」 と感じてしまう。
 なお、World Market Center は業界の人たちのための施設であり、またコンベンション Las Vegas Market も同様だ。したがって、一般消費者は中に入ることができないので、巨大ビルの前での記念撮影ぐらいで我慢するしかない。場所は冒頭でも述べたとおり、ダウンタウンにほど近いプレミアムアウトレットのすぐとなり。
 なお、業界人のためのそのコンベンション Las Vegas Market は、7月 30日から 8月 3日まで開催される。詳しくは www.lasvegasmarket.com まで。


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