週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 04月 18日号
モンティ・パイソンファンは必見! 「スパマロット」 が開演
 人気ブロードウェイミュージカル 「モンティ・パイソンズ・スパマロット」 の上演が 3月 8日、ウィンラスベガス内のグレイルシアターで始まった。
 ナンセンスな笑いとドタバタギャグで、70年代から 80年代半ばにかけて一斉を風靡したモンティ・パイソン。ファンにとっては待望のラスベガス上陸ということになるが、ここでモンティ・パイソンが何者かに関する知識がまったくないという読者のために、その概要を説明しておこう。

 モンティ・パイソンは、1969年に英国国営放送 BBC で放映されたテレビ番組 「空飛ぶモンティ・パイソン」 (Monty Python's Flying Circus) を契機に結成されたイギリスのお笑いグループ。
 メンバーはグレアム・チャップマン、ジョン・クリーズ、エリック・アイドル、テリー・ジョーンズ、マイケル・ペイリン、テリー・ギリアムの 6人。
 同番組は放映開始後まもなく、イギリス国内はもちろん、ヨーロッパ全土、アメリカで大きな話題を集め、70年代半ばには日本でも放映された。
 活動そのものは 1983年に公開された映画 「人生狂騒曲」 (Monty Python's The Meaning of Life) を最後に休止しており、1989年にメンバーの 1人であるグレアム・チャップマンが 48歳の若さで死去したことを機に、グループも事実上、解散した。しかし、現在も世界各地で同窓会イベントが企画されたりと、パイソン人気が衰えることはないようだ。

 さて、今回始まった 「スパマロット」 は、モンティ・パイソンの 2作目の映画で 1975年に公開された 「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」 (Monty Python and the Holy Grail) を舞台化したもの。ミュージカル版の脚本と作詞はモンティ・パイソンの一員であるエリック・アイドル (写真右) が担当、作曲もジョン・ドゥ・プレッツと共同で行っている。
 なお、演出は舞台演出家で映画監督でもあるマイク・ニコルズが担当。ニコルズはこれまでトニー賞を 7回受賞しているほか、「ワーキングガール」、「心の旅」 などのヒット映画を手がけており、「卒業」 ではアカデミー賞監督賞も受賞している。

 「スパマロット」 は 2005年 3月にニューヨークのブロードウェイで初演され、大ヒットした。2004〜2005年のトニー賞には 14部門でノミネートされ、最優秀ミュージカル賞のほか、最優秀女優賞 (ミュージカル部門)、最優秀演出賞 (ミュージカル部門) の3賞を受賞するという快挙を成し遂げている。
 ちなみに SPAMALOT の語源は 「SPAM がたくさん (a lot)」 とされ、SPAM とはアメリカ人のだれもが知る缶詰のハムで (写真左)、「安物」 の代名詞的な意味として使われることも少なくない。迷惑メールのことをスパムメールと呼んだりするが、やはり語源はこの缶詰だ。

 ストーリーだが、架空のイギリス王、アーサーが、キャメロット城を拠点に円卓の騎士たちとともに聖杯を求めて旅をするという、アーサー王伝説をパロディー化した単純なもの。
 イギリスが誇る英雄、アーサー王と勇敢な騎士たちを徹底的に笑いものにしてしまう、という不謹慎極まりない話なのだが、その大胆不敵さこそモンティ・パイソンの持ち味といえるだろう。
 ラスベガス版で主役のアーサー王を演じるのは、ジョン・オハーリー (写真左下)。アメリカでは伝説的ともいえる大人気シットコム 「となりのサインフェルド」 で J・ピーターマンを演じ、人気者となった彼だが、残念ながら日本ではほとんど無名のようだ。

 オハーリー演じるアーサー王は、パッツィーという名の従者を連れて登場。馬に乗っているかのように、スキップをしながら軽やかに登場するのだが、パカパカと蹄の音のような音を立てているのは、実はパッツィーが両手に持ったココナッツの実。このような馬鹿馬鹿しいお笑い、ドタバタ劇が全編続くのである。
 ちなみに、このココナッツの実のレプリカ(?) が劇場内のギフトショップで販売されている。
 ストーリーそのものがパロディーなら、ブロードウェイミュージカルのパロディーも次々に登場する。「オペラ座の怪人」、「レ・ミゼラブル」、「屋根の上のヴァイオリン弾き」… といった具合で、このあたりは映画版にはなかった楽しみだ。
 また、人種をモチーフにしたギャグも続出。人種に対するステレオタイプなイメージを笑いのネタにするという、アメリカではスタンダップコメディーなどでもよくある古典的なギャグのパターンだが、例えば、フランスの城を訪ねるシーンでは、登場するフランス人が皆、フレンチカンカンやパントマイムをする大道芸人の姿をしている、といった具合だ。
 多数の人種が暮らすアメリカでは、人種差別は絶対にタブー。特定の人種をステレオタイプな見方で見ることは決定的に 「政治的に正しくない」 のだが、だからこそドキッとするし面白いし、大声をあげて笑うとなんだかすっきりする、というわけだ。
 このミュージカルがニューヨークで絶賛されたのは、ドタバタ、ナンセンスギャグの合間に、そんな大胆不敵なブラックユーモアがたっぷり盛り込まれているからではないだろうか。

 ラスベガス版の 「スパマロット」 に対する批評家たちの反応はまずまずのようで、地元紙などでも 「とにかく面白い」、「椅子から落ちるほど笑えた」 といった好評がほとんどだ。
 確かに、次々と繰り広げられるドタバタ劇の連続は、ドリフターズの 「全員集合!」 さながら。何も考えずに頭を空っぽにして、ただ大声で笑う、という、これまでのブロードウェイミュージカルとは違った楽しみ方ができるのが魅力だ。
 しかし、英語が理解できないと、頭を空にすることができない、という点が多くの日本人には辛いところ。このミュージカルの醍醐味は、観客全員が馬鹿になって一緒に笑う、という点にあるのだが、英語を必死に聞き取ろうとしていたのでは、その輪の中に入ることができない。役者の発する一言一言を聞き漏らさまいと眉間にシワを寄せていては、オフビートな笑いの渦に巻き込まれることはできないのだ。

 ストーリーはいたってシンプル、というより、ストーリーはない、といっても過言ではないほどわかりやすい話で、歌詞にも比較的平易な単語しか登場しない。その点だけを考慮すれば、このミュージカルは日常会話程度の英語で十分理解できそうだが、問題は各国語のなまりが頻発するということ。
 人種ネタが多数出てくると前述したが、例えばフランス人やアイルランド人など、さまざまな国の人々が登場する。劇中で使われている言語はすべて英語だが、各国人を表現するため、役者はそれぞれのお国なまりの英語を話す。このなまった英語が外国人には聞き取りにくい。
 また、人種をネタにしたギャグもその背景を理解していないと笑えない。ユダヤ人がブロードウェイを牛耳っていることを揶揄した歌が登場し、これで一気に会場が笑いの渦に包まれるのだが、これもブロードウェイにおけるユダヤ人パワーに対する基本的な知識があってこそ初めて笑えるネタだ。ブロードウェイミュージカルをモチーフにしたパロディーも同様で、ミュージカルファンでなければ、その面白さを十分に味わうことはできないだろう。
 元ネタであるアーサー王伝説も同じで、欧米人にとっては学校の指定図書で必ず読まされる古典中の古典、知っていて当たり前のこの物語も、日本人にはなじみが薄い。伝説のヒーローたちをいじり倒してできあがった各キャラクターのおかしさも、オリジナルの知識がゼロだと半減してしまう。

 一方、話の筋が理解できなくても楽しめるのがミュージカルのよさで、実際、世界中から集まった英語を理解しない観光客でブロードウェイは連日賑わっている。
 それでも、「せっかくラスベガスに来たのだから、ブロードウェイミュージカルを1度見てみたい」 という者には、やはりスパマロットはお勧めしない。
 なぜなら、一般の人々がブロードウェイに期待しがちな、華麗な衣装やステージセット、見事なダンスにダイナミックな歌は、このミュージカルの本質ではないからだ。ブロードウェイならではの華やかなステージを楽しみたい、という者は他ホテルで上演中の 「ザ・プロデューサーズ」、「マンマミア」、「オペラ座の怪人」 などのほうがよいだろう。

 というわけで、「スパマロット」 のすばらしさを満喫できるのは、さしずめミュージカルファン、英語が堪能な人、そしてモンティ・パイソン・ファンと、限られた人になりそうだ。すべての人にお勧めできないのは残念だが、上記に該当する者ならビルボードに張り出された宣伝文句の 「You can die of laughter」 の通り、「笑い死に」 できるかもしれない。
 公演は月、水、日が 8:00pm、火、金、土 は 7:00pm と 10:00pm の 2回。木曜日は休演。チケット料金は $49、$69、$89、$99 の4種類で、劇場前のボックスオフィスで買うことができる。


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