週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2007年 01月 31日号
レストランなど公共の室内空間は全面禁煙に、ただし例外あり
 「公共の室内空間は原則として全面禁煙」  難産の末やっと決まったこの喫煙法が、ラスベガスを擁するネバダ州で 1月 23日から施行された。

 "Nevada Clean Indoor Air Act." と呼ばれるこの法案は、昨年 11月 7日に行なわれたネバダ州の住民投票で 54% の賛成票を得て導入が決まった。
 一ヶ月後の 12月 8日から施行されるはずだったが、バーの経営者を中心とする反対派から違憲論争などが持ち出され、12月 21日に延期。その後さらに問題点の修正などに時間がかかり、二度も施行日が見直されるという曲折があったものの、このたびなんとか施行にこぎつけた。

 すでに多くの州で採用されている喫煙法。他州では、住民投票さえ通過すれば反対派がいてもすんなり施行に至るケースが多いが、やはりネバダ州では少し事情がちがったようだ。
 喫煙者の利用が多いカジノを主要産業としているだけに、カジノを始めとする業界団体が反対したのだろう、と思いきや、そうでもないところがおもしろい。じつは今回の法案、主要カジノはほとんど反対していない。それもそのはず、住民投票の段階から、カジノは規制の対象から除外されていたのだ。
 話を進める前に、このたび施行されたルール、つまり屋内で喫煙できる場所とできない場所をまとめておきたい。

■ 喫煙できない場所 ■
ホテルのロビー、通路、トイレ、宴会場、コンベンション施設、劇場、レストラン(全席禁煙)、バー、映画館、空港、スーパーマーケット、コンビニエンスストア など、原則すべての公共室内空間。

■ 喫煙できる場所 ■
カジノ、ホテルの客室でホテル側が 「喫煙可能」 と決めた客室、ストリップ劇場、食べ物を提供しないバー。(ただしこれらの場所でも経営側の判断で禁煙にすることは可能)

■ 違反して吸ってしまった場合の罰則 ■
刑事罰ではなくて民事罰で $100 の反則金。取り締まりは、警察ではなく、Southern Nevada Health District (地域の保健局のような組織) によって行なわれる。

 ここで問題となっているのがカジノ。といっても、「カジノの適用除外」 に関してではなく 「カジノ」 の定義に関する不公平感だ。反対派の中心となっているのがバーの経営者であることはすでに述べたが、じつはほとんどのバーにはビデオポーカーなどのギャンブルマシンが設置されており、彼らの主張によると、「バーもカジノ」 ということらしい。
 ちなみにここでいうバーとは、いわゆる 「一杯飲み屋」 的な場所で、繁華街のみならず地元民が住む郊外にも無数に存在しており、日本でいうところの 「居酒屋」 よりはメニュー的にかなりシンプルで、「スナック」 をスペース的に広くしたような場所を想像すればいいだろう。

 さてそこでカジノの定義についてだが、カジノには、当局からの営業ライセンス的に、大きく分けて二つある。「制限なしのカジノ」 と、「制限付きのカジノ」 だ。
 前者は、スロットマシンやビデオポーカーなどのマシンゲームはもちろんのこと、ブラックジャックやルーレットなどのテーブルゲーム、さらにはスポーツブックまで何でも運営できるカジノのことで、後者は 15台までのマシンゲームしか設置できない店舗 (カジノ?) のこと。
 前者のライセンスを甲種、後者を乙種とするならば、甲種は観光客が宿泊するような大型カジノホテルが取得するもので、乙種はマシンゲームを設置するコンビニやバー向けのものということになる。
 つまり、今回の喫煙条例では、「甲種のカジノは喫煙OK、乙種はダメ」 ということになるわけだが、バーのオーナーらは、「喫煙条例とカジノのライセンスを関連づけるのはおかしい」 と反対している。ローカルのバーなどには、愛煙家の固定客が多く、新条例により、客を大型カジノに奪われてしまいかねないからだ。
 「ならばバーのオーナーも甲種免許を取得すればいいではないか」 と思うかもしれないが、それは不可能に近い。なぜなら、甲種には 「200部屋以上の宿泊施設、60席以上の 24時間営業のカフェの設置」 などきびしい条件があるからだ。(古いカジノでは既得権により、この条件を満たしていない場合もある)
 もちろんバーのオーナーには、全面禁煙にしたくなければ 「食事を出さない店にする」 という選択肢も残されているわけだが、「食事のあと軽く一杯やりながらビデオポーカーで遊ぶ」 という近所に住む独身層を中心とした常連客を失いたくないので、おいそれと食事をなくすわけにはいかない。
 ちなみに 「食事」 の定義は調理が必要な食べ物のことで、ホットドッグやハンバーガーは該当するが、市販されている袋入りの乾きモノ、つまりピーナッツやポテトチップなどは除外されている。
 立法側が、食事を出さないことを喫煙の条件にしている理由は、タバコの煙から守らなければならない子供など不特定多数の老若男女が利用する一般のレストランとの線引きのためだが、バー経営者らは、「ハンバーガーを出そうが出すまいが、オレの店には始めから子供なんて来ない」 と不満はおさまらない様子。その一方で、「食事を出して禁煙にすれば、これまでタバコが嫌いで足を運んでくれなかった近所の独身者などが来てくれるかも」 と新条例を前向きに見ている経営者いる。

 さて、バーの話が長くなってしまったが、一般の観光客にとって気になるのは滞在するホテル内での喫煙ルールだろう。
 カジノエリアから少しでもハミ出した場所、つまりカジノ内でも周囲の通路などはすべて禁煙と考えてよい (その区域には、右写真のような看板があるのですぐにわかる)。したがってカジノ周辺での歩きタバコなどには注意が必要だ。
 そしてやはりなんといっても、これまでとの最大のちがいはレストランが全席禁煙になったことだろう。「喫煙席にしますか? 禁煙席にしますか?」 と聞かれることはもう無い。
 もちろんバフェもカフェも禁煙で、ファーストフード店が軒を並べるフードコートも同様だ。したがって、「食事の際はタバコを吸いたい」 という者は自室で食べて吸うしかない。
 ちなみに、ホテルの客室内は今回の規制の対象外で、多くのホテルは従来通り喫煙ルームを用意している。ただしその数は全客室数の 10% 程度なので、必ずしも喫煙希望者全員が確保できるとは限らない。なお、ホテルのプール施設は、屋外部分である限り、ホテル側の裁量で喫煙可能にできる。

 今回の新条例は、完全に議論が尽くされてからの施行ではなく、見切り発車的な部分もあるようなので、今後多少の変更が加えられる可能性はあるが、カジノを主たる産業とするネバダ州においてこの種の法律が制定されたことは画期的なことであり、また高く評価されるべきだろう。
 ちなみに、ネバダ州は喫煙に対して甘い州と思われがちだが、全米平均で見るとそんなことはない。禁煙を啓蒙しているNPOのサイト http://no-smoke.org によると、今回のネバダ州と同等レベルの禁煙法を制定している州は、全米 50州の内の半数以下だ。(その州のマップ ←クリック)
 たまたま日本人にとって身近な存在のロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークなどが飛び抜けて厳しい喫煙規制を行なっているため (地区によってはビーチや野球場など、屋外でも喫煙禁止)、ラスベガスが甘いように見えただけで、まだ半数以上の州のレストランには喫煙席がある。

 ラスベガスにとっては、愛煙家のギャンブラー客を失う恐れがあり (といってもカジノは喫煙可能だが)、レストランの全面禁煙などはまさにギャンブルではあるが、人口的には非喫煙者がマジョリティーであるという現実を考えると、タバコ嫌いの客が足を運ぶようになる可能性もあり、それほど危険な賭けではなかったのかもしれない。
 ラスベガスのライバル的存在のマカオのお膝元ともいえる香港でも、奇しくも同じ今月からかなり厳しい喫煙条例が導入され、レストランなどが全面禁煙となった。昨年はイタリア、スペイン、そして今年はフランスでも同様な法律が制定され、その反則金はラスベガスとほぼ同じ 68ユーロ (約10,700円) になるというから、何やらそのあたりが世界標準になるのかもしれない。
 そう考えると、日本は主要先進国の中ではかなり甘いように見受けられ、また、規制だけではなく、タバコの値段という意味でも日本は甘く、まだまだ喫煙大国といってよいだろう。
 ちなみにアメリカにおけるタバコの価格は日本とちがい市場原理に任されているばかりか、州や郡によって税金が大きく異なるため、条件による価格差が非常に大きく一概に比較できないが、それでも日本と比べるとかなり高い。参考までにラスベガスにおけるマルボロ、ウィンストン、キャメルなど主力ブランドの自販機での値段は 6〜7ドル、安いといわれる郊外のスーパーマーケットで買っても 4ドル以上はする。カートンで 10箱まとめて買っても 3ドル以下ということはまずあり得ない。ヨーロッパは自販機でなくても日本円で 800円以上が珍しくないというから日本は本当に激安だ。
 世界の大きなトレンドを考えると、遅かれ早かれ日本のタバコも大幅な値上げ (増税) になり、喫煙規制も厳しくなることはほぼ間違いないだろう。そしてそのころ、世界では、タバコがマリファナなどと同等な扱いを受け、販売自体が禁止されている国が出現しているかもしれない。ラスベガスの今回の 「カジノは規制の対象外」 もあくまでも過渡的な措置と考えるのが妥当だろう。


バックナンバーリストへもどる