週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2006年 08月 30日号
トニ・ブラクストン、抜群のファンサービスも、会場にやや難あり
 R&B界の歌姫 トニ・ブラクストンのコンサート "Revealed" が 8月 3日からフラミンゴホテルで始まった。
 (右の写真は、壁にこのショーの宣伝が描かれたフラミンゴホテル。クリックで拡大表示)

 見切り発車的に始めてしまったためか、スタート直後の2週間ほどは演出の変更や見直しなどがくり返され、地元メディアでも厳しい評価が少なくなかったが、やっと落ち着いてきたようなので、8月 26日に取材してみた。

 まず先に感想をひとことで言ってしまうと、「特徴があってなかなか良いショー」 という印象を受けたが、ブラクストン自身とはあまり関係のない部分でいくつか問題があるように思えた。
 グラミー賞を6回受賞しているという実力者なので、彼女自身のパフォーマンスに関してここで改めて説明する必要はまったくないが、会場の物理的な構造や演出には問題が多いようだ。
 まず会場についてだが、このホテルの伝統といってしまえばそれまでだが、昔ながらのディナーショースタイルの座席配置がそのままこのショーにも引き継がれ、一般の劇場のような (映画館のような) 座席配置にはなっていない。
 つまり細長いテーブルの周囲にイスを並べたセクションと、ブース席のセクション (小さなテーブルを半円形のブース席が取り囲むようになっているセクション) で構成されており、客がステージの正面を向けるようになっているのはブース席の中央付近ぐらいで、大多数の席からは、首が疲れるような角度でステージを見ることになる。イスを勝手に動かせばなんとかなるが、となりの人との間隔が狭いため、それもなかなかむずかしい。もちろんブース席は動かすことができず、座り心地はテーブル席より良いものの、角度的にはさらに条件が悪い。

 会場の問題はそれだけではない。大げさにいえば、左右の壁に近い席からは、ステージの半分しか見えない。つまり左の壁に近い席からは、ステージの右半分しか見えず、右からはその逆だ。いや決して大げさではなく、最前列付近の両端の数席からは、ステージの半分も見えない。
 ということで、チケットを手配する際は、極力中央に近い席を確保する必要があるが、前後の位置に関してはあまりこだわらなくてよいかもしれない。この会場はステージからの奥行きが短いため、最後列でも、それほど遠くない位置で見ることができるからだ。
 なお、バルコニー席と呼ばれる2階席に関しては、今回の取材では現場に足を運んでいないので、残念ながら良し悪しの状況を把握していない。

 さて次に演出だが、舞台装飾がまったく変らないのは少々寂しい。「コンサートなのでそれでいい」 といわれてしまえばそれまでだが、中央に階段 (写真左)、その右に生バンド、左にピアノという配置で、背面の壁に映し出される映像と小さな装飾がときどき入れ替わる程度で、基本には始めから終わりまでこのパターンだ。
 オープニングの2曲、「You're Makin' Me High」 と 「Take This Ring」 が、いわゆる 「口パク」 なのもいただけない。
 もっとも、この2曲は、ブラクストンおよびその他のバックダンサー(男女合計 11人) がステージに次から次へと登場するシーン、つまり激しく踊りながら全員が顔見せの挨拶をするような場面で使われ、ゆっくり落ち着いて歌っていられないという事情もあり、口パクも理解できないわけではない。しかしそうであるならば、ヘッドセットの小型マイクロホンを付けて (写真左) あたかもライブで歌っているかのような演出にはせず、始めからレコーディングされたものを BGMで使うようなカタチでの演出 (歌わずに踊りだけ) の方が客をガッカリさせないですむのではないか。

 あと、多くの観客が期待しているヒット曲 「Breathe Again」 をじっくり聞かせてくれなかったのも残念だ。じっくり聞かせてくれないの意味は、ブラクストンが客席に降りて、観客一人ひとりと肩を組みながら一緒に歌うということ。つまり彼女が一人でステージ上で熱唱してくれるわけではない。
 観客と歌うからこそ、だれもが知っている曲をその場面に持ってきたとも考えられるが、聴衆の大多数はガッカリしたにちがいない。
 それでも、この曲をブラクストンと肩を組んで歌うことを目的に会場に足を運んでいるファンも多いと聞くので、これには賛否両論ありそうだ。
 ちなみに彼女はファンサービス旺盛で、肩を組むどころか、観客の膝の上に乗りセクシーなポーズまで取って記念撮影などに応じてくれる。どさくさに紛れて彼女の肌に必要以上に密着している男性ファンも少なくないが、常に笑顔を絶やさない彼女のサービスぶりはさすがだ。
 ステージ近くに座っている 10人前後がこの恩恵にあずかるが、手を挙げ目立つように振る舞えば、うしろの方の席にも彼女は来てくれるので、勇気がある者はそれなりに振る舞ってみるとよい。(右上の写真の男性はダンサーで、観客ではない)

 衣装を頻繁に変えてくれるのもファンにとってはうれしい限りだ。ほとんどが露出度の激しいセクシーな衣装なので男性ファンにとってはたまらない。
 ちなみに左の写真の衣装はこのショーの目玉商品のひとつで、広報部からの資料によると、世界的なガラス工芸メーカとして知られるスワロフスキー社製のクリスタルが、なんと 11,000個も使われているというから驚きだ。(拡大写真
 また、この写真でブラクストンが手に持つマイクは、彼女自身のステージ上でのトークによると 100万ドルもするらしく、ダイヤモンドがたくさんちりばめられているとのこと (拡大写真)。警備員が小型金庫のようなケースに入れてステージに運んで来るという重々しいパフォーマンスとは逆に、彼女が客席に降りたり、観客をステージに上げたりしながら、このマイクにさわらせてくれるという気さくな振る舞いぶりはなんともほほえましい。
 さきほど会場の座席配置に関して酷評したばかりだが、頻繁に客席に降りてくる彼女を見ていると、これでいいのかもしれない、と思えてきたりもする。イスが自由に動かせるようになっているからこそ、彼女が客席の奥深くに入って行くことができ、客の膝の上に乗ったりすることも可能になるわけで、一般の劇場ではなかなかそうはいかない。

 ストリップ大通りを隔てたすぐ向かい側のシーザーズパレスではセリーヌディオンがコンサートをやっているが、二人を比較すると興味深い結果が得られる。共通点もあるが、多くの部分において両者は対照的だ。
 歌がうまいこと、そして母親であり、子供と一緒にいたいがために世界各地を転々とするよりも一ヶ所定住型のコンサートを希望しラスベガスを選んだことは共通しているが、会場はセリーヌディオンが 4000席を誇る最新式の巨大シアターであるのに対して、ブラクストンは 800席にも満たない古ぼけた劇場だ。(ちなみにシーザーズパレスもフラミンゴも同じ会社が運営している)。
 また、歌がうまいといっても、あちらはつややかな透明感のある声だが、こちらはハスキーなセクシーボイスをウリにしている。
 会場での振る舞いも両者は大きく異なり、観客と距離をおきながら気品やゴージャス感を強調したいセリーヌに対して、こちらはまったく上品ぶらずにセクシー路線で観客の中に飛び込んでいく。衣装もロングドレスに対して超ミニと対照的だ。
 人種の話題は何かとタブーなアメリカ社会だが、あえてレポートするならば、客層も大きく異なり、今回取材した公演では3割ぐらいが黒人だった (ラスベガスにおける他のナイトショーにおけるその数値は 1割前後かそれ以下といわれている)。これは開演直前に、かなり母数を大きく取り正確に数えた結果なので、統計学で言うところの有意差、つまり単なる偶然ではなさそうだ。

 いろいろな意味でかなり特徴的なブラクストンのコンサート。セリーヌディオンのみならず他のすべてのショーと比べても、極めて異質のなにかオーラのようなものを放っているので、ファンもそうでない者もぜひ一度観てみることをおすすめする。
 ちなみに今回歌った曲は、前述の3曲以外に、「I don't Want to」、「Spanish Guitar」、「Please」、「Let It Flow」、「Un-break My Heart」、「Trippin」 など。
 CDやロゴグッズは専用ギフトショップ (写真左上) で買うことができるが、場所は劇場の前ではなく、このホテルのフロントロビーからモノレールの駅に向かう通路の方向に少し歩いた右側にある。
 公演日時は、定休日の日曜日と月曜日を除く毎日 7:30pm 開演。チケット料金は各種案内などでは "Balcony 席" (2階席) $69、"Main Floor 席" (1階席) $99、"Golden Circle 席" (かぶりつき席) $125 となっているが、実際にはそれに税金、さらに "Handling fees" と称する手数料が加算され、オンラインで手配するとそれぞれ、$86.35、$108.35、$130.35 となる。詳しくはフラミンゴの公式サイト www.harrahs.com/casinos/flamingo-las-vegas/hotel-casino/property-home.shtml まで。


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