週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2006年 07月 12日号
想像をはるかに超える人体解剖展 "Bodies, The Exhibition"
 先月 23日から、トロピカーナホテルで、本物の人間の遺体を使った人体解剖展 "Bodies, The Exhibition" が始まった。(右の写真はその広告ビルボード、クリックで拡大表示)
 何が展示されているのか? それはズバリ、人体のすべてで、手、足、皮膚、骨などはもちろんのこと、胃、肝臓、心臓、脳、それに関節、神経、血管、さらにはガンに冒された臓器から胎児まで、おびただしい数の壮絶な展示だ。

 大した期待もせずに館内に入ったが、想像をはるかに超える大規模な展示にはただただ驚くばかりで、正直言って度肝を抜かれた。
 部位やテーマごとに別れたそれぞれの各展示セクションはいくつもあり、もうこれで終わりかと思いきや、まだ次のセクションが待っているありさまで、量的には飽きてしまうほど充実している。
 驚くべきはその数や規模だけではない。質や内容も圧巻で、すべて正真正銘の人間の遺体からの標本というから恐れ入る。中には全身丸ごとそのままのサイズで展示されているものもあり、それら全身標本だけでも、その数はなんと 17体。

 全身標本をもう少し詳しく説明すると、骨だけの全身標本、筋肉と骨だけを特種な方法で残した全身標本 (写真左)、内臓を重点的に残した全身標本、縦に真っ二つに切った全身標本 (写真下)、横方向に数十枚の輪切りにした全身標本、さらには全身の皮膚を剥がして一枚の皮にしたまるで動物の毛皮のような標本など、とにかく量的にも内容的にも充実している。
 ちなみに全身標本は全体の展示の中のごく一部で、個別臓器などの展示はその何倍もあり、それら標本の提供者の総数はおそらく 100人を超えるのではないか。
 さらに胎児だけでも、妊娠各週の成長段階の胎児が十体以上展示されており、その徹底したこだわりにはとにかく圧倒されるばかりだ。

 標本をただ単に並べるだけでなく、展示方法にも工夫が凝らされている。たとえば、ガンに冒された肺の展示場所の脇には、見学者が所持しているタバコを捨てるための大きな箱が用意され、実際に何人かがそこにタバコやライターを投げ込んでいた。また、喫煙や薬物などの害を知らせる目的で奇形児の遺体なども展示されている。

 総じてまじめな展示で、主催社側も 「これはエンターテーメントやアトラクションではない。あくまでも学術的な展示」 としているが、その一方で、「これはいかがなものか」 と思わせる演出もいくつか散見された。
 たとえば全身の標本で、野球のボールを投げるポーズ、テニスラケットでサーブをしようとしているポーズ、ダーツを投げようとしているポーズなど、それぞれの標本にむりやりポーズを取らせ、実際にボールやラケットを持たせている展示は、遺体を見せ物にしているようであまりいい感じがしない。
 また、前述の 「人間の毛皮」 も、皮膚を学術的に見せる目的だけならば、全身の皮膚を動物の敷物のように1枚に大きく伸ばす必要はないわけで、これもやや疑問が残る展示だ。
 また展示場の最後にはギフトショップが併設されており、そこでは遺体や臓器などが印刷されたTシャツが 25ドル前後で販売されているが、買っている者はほとんどいない。どうせ売れないなら、せっかくの学術的な高尚な雰囲気が、商業的な遊び心で相殺されてしまうようで残念だ。このギフトショップの存在にも違和感を覚える (学術的な資料も販売しているので、全面的に否定はしないが)。

 疑問や違和感といえば、この展示全体が疑問に包まれ物議を醸しているというから興味深い。遺体の入手経路に関してだ。主催社側は、中国の医学アカデミーから借りてきた、としているが、それに対して人権団体などは、死刑囚の遺体ではないか、と疑問を投げかけており、ここラスベガスに来る前のニューヨークやアトランタでの展示で、それがかなり問題になったらしい。
 主催社側は、「すべて自然死による遺体との報告を、中国側から受けている」 としているが、真実は主催社側も知らない可能性がある。そのへんの部分は取材しても教えてもらえず、謎に包まれたままだ。参考までに、全身サイズで展示されている遺体は前述の通り 17体で、そのうち男性が 14体、女性が 3体だった。自然死とするわりには、かなり偏った比率だが、この男女比が意味するものは何か…。
 ちなみに主催社は Premier Exhibitions 社という展示会専門企業で、ナスダックに株式公開している立派な上場企業だ (会社コード PRXI)。といっても上場企業としては会社の規模は小さく、従業員は 30人程度で、タイタニック号の遺品の展示や、この人体解剖展など、手がける展示会は決して多くない。

 娯楽都市ラスベガスにはまるで似合わない展示だが、とにかく貴重なイベントなので興味がある者はぜひ足を運んでみるとよいだろう。自分の心臓や胃の大きさ、腸の長さ、さらには胆石、腎臓結石の大きさなどがリアルに見て取れるのはそれなりに有意義で、たとえば食べ過ぎがどの程度胃に負担になるのかなどが視覚的にわかれば、健康管理の上でも大いに役に立つはずだ。また、全身の神経や血管の展示場所では、人間の身体がいかに複雑に出来ているか、生命体の起源やその神秘性などを改めて思い知らされる良い機会となるだろう。
 カジノで負けた者も勝った者も、この展示を見れば、自分の精神状態がまったく別の次元に飛んでいくことまちがい無し。浮かれた気分から少しでも冷静な気分になれること請け合いだ。
 なお、「見たいが見るのが恐い」 という者は、思い切って行ってみた方がよいだろう。ホルマリン漬けになったようなリアルな印象を受ける展示は、胎児以外のセクションではほとんどなく、大部分は水分をまったく感じさせないドライな標本ばかりで、こわいとか気持ち悪いといった印象はあまり受けない。
 入館料は一般 $24、シニア $22、子供 $16。開館時間は 10:00am 〜 10:00pm。最終入館は 9:00pm。場所はトロピカーナホテル内のイベントセンターで、展示期間はとりあえず 6ヶ月を予定している。


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