週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2006年 06月 14日号
オペラ座の怪人、堂々たる内容で華々しくオープン
 今月12日から、ベネシアンホテルの専用シアターにて、フランス人作家ガストン・ルロー原作、アンドリュー・ロイド・ウェバー版の 「オペラ座の怪人」 が始った。
 86年、ロンドンでのオープニング以来、20カ国 110都市で 65,000回以上の公演数を誇り、88年にはトニー賞を受賞、ブロードウェイの歴史を塗り替えたロングラン作品だ。
 また 90年代に入り、妻であり当事のオペラ座の怪人のヒロイン役でもあったサラ・ブライトマンと離婚したウェバーは、自身が権利を買い取り、2004年、映画化にも成功。興味がある者は映画と舞台の両方を見比べてみると良いだろう。

 今回の初公演は今月 4日に予定されていたが、準備が間に合わず 12日に延期に。
 ここ最近ラスベガスでは 「アベニューQ」、「ヘア・スプレー」 など、ブロードウェイ・ラッシュとなっているが、結果的に集客に苦しみアベニューQ は先月 28日に、ヘア・スプレーも今月 11日にその姿を消している。
 そんな矢先の今回の参入、もちろん不安がないわけではない。「ラスベガスにブロードウェイ・ミュージカルの遺伝子を植えつけることは困難」 と言われるが、事実、開幕直後だというのにチケットの販売は芳しくないようだ。
 圧倒的な知名度を誇るオペラ座の怪人。他のミュージカルに比べ有利な条件にあることはまちがいない。マンマ・ミーアのように定着できるのかどうか、関係者のみならず、オペラ座ファンにとってもここしばらくの興行成績からは目を離せないだろう。

 オペラ座の怪人はとかく 「暗い」、「怖い」、「ただのストーカー話」 と、どこまでも陰気なイメージを持たれがちだが、果たしてそれだけで終わってしまう程度のショーなのか。そんな思いでベネシアンに足を運んでみた。
 ベネシアンはホテルそのものの豪華絢爛さからしてパリのオペラ座と共通するものが感じられ、公演会場のホテル選択としては申し分ないだろう。
 シアターの場所は、カジノフロアにある 24時間営業のグランド・ラックス・カフェのすぐ脇。
 現場に到着するやいなや、シアターからカジノまで続くその長蛇の列に目を疑った。中には 「ブルーマン」 (隣接する劇場で行なわれているナイトショー) の列と勘違いして並ぶ慌て者、何もわからずただの好奇心で並ぶ迷惑な者も。もっとも、この混雑は開幕初日ならではのものかもしれない。

天井のシャンデリア ステージのサイド  シアターに続く階段の頭上には等間隔で吊るされたシャンデリアが目につき、オペラ座を思わせる気品が。
 期待に胸をふくらませ劇場内に入ると、ステージに向かって両サイドには何やら気になる黒幕がかかっており、また、オーケストラ席中央の頭上にはあの噂のシャンデリア (写真左、クリックで拡大表示) が斜めに落下している。
 客席での飲食を歓迎していないのか、カップ・ホルダーは用意されていない。

 予定時刻の7時をやや過ぎた頃、いよいよ開演。まずはオークション・シーン。かつてオペラ座に吊るされていたシャンデリアが暗幕に包まれ、競売にかけられる。それはオペラ座の怪人の不吉な物語に由来すると言われるシャンデリアだ。
 その暗幕が上げられた瞬間、あのパイプオルガンの荘厳なテーマ曲と共に客席の頭上に傾いていたシャンデリアに光が灯り、最後には天井に戻っていく。
 次にサイドの黒幕が一気に消えてなくなり、ルイ13世紀の時代に建てられた19世紀のパリのオペラ座にタイムスリップするのだが、まるでわれわれがオペラ座の観客席に座って劇中劇を観ているような錯覚に陥らせてしまうところにこのシアターの計算の繊細さが伺える。

 ストーリーは19世紀のパリのオペラ座。実はこのオペラ座そのものが当時の階層社会の象徴であり、貴族の観客はボックス席から舞台の役者を見下ろし、舞台の地下に行けば行くほど、代役、スタッフ… そして排水溝の下にあの怪人が住んでいる、という設定だ。
 その怪人が、いわば雲の上の存在であるヒロイン役の天使の声を持つクリスティーヌに恋をする。さらに怪人は、クリスティーヌを自身が潜む地下に連れていき、自分のためだけに歌って欲しいと懇願する。
 ある日、怪人の仮面を剥ぎ取りその正体を知ってしまうクリスティーヌ。怪人はクリスティーヌが愛する男性 (ラウル) に嫉妬し、オペラ座にさまざまな奇怪現象をその魔力で引き起こす。
 しかしそんな怪人にも普通の人間と同じように純粋な気持ち、孤独な想いなどがあるということを悟ったクリスティーヌが最後には同情し、自分の心を開いて怪人にキスをする。
 そしてそのキスが、怪人を悪者からものわかりの良い普通の人間に変えてしまう… といった単純明快なストーリーだが、オペラ座ファンからは、「もっと深く、もっと混沌としたストーリーだ!」 と言われてしまうかもしれない。

 さて、オペラ座の怪人が他のミュージカルと異なる部分は、まったく英語がわからなくても簡単に感情移入ができるということ。そしてすでに述べた通り、ストーリーが他のミュージカルに比べ至ってシンプルなことも特徴だが、やはりなんといっても、この怪人のキャラクターがどうしても愛らしいところがこのショーの最大の魅力だろう。
 まだ観ていない者は、怪人をさぞ悪者に違いないと思っていることだろうが、実際には怪人が演じる感情表現は、たとえば愛する女性が他の男性とキスするのをコッソリ覗きガックリ落ち込む孤独な姿や、好きな女性に突然キスされ興奮のあまり手が異様にガタガタ震える様子など、誰もが普通に体験する当たり前のものばかりだ (コッソリ覗くストーカー行為はよろしくないが)。

 英語力があればより深い理解が得られるのは間違いないが、それがなくても、迫力あるオペラから心地良くどこまでも柔らかく声が伸びるオペラまでたっぷり堪能できる。そして何より、お決まりのあの荘厳なパイプオルガンで始まるテーマ曲を生のオーケストラで聴けるだけでも十分に価値があるはずだ。あれだけの音の厚みを一度体感してしまうと癖になるのか、実際にそれを理由にリピーターになってしまう者も少なくないと聞く。
 上演中は指揮者の後ろ姿のみが見え、オーケストラは更に一段低い舞台の下に潜んでいるので (写真右) 見ることはできないが、舞台終了後にステージの前まで行ってみると、現場の様子がよくわかる。また、彼らの機嫌さえ良ければ、そこでいろいろ質問をすることも可能だ。
 驚いたのは暗いストーリーの中でも笑いの部分がたびたび登場すること。また、オペラを一曲歌いあげるごとに、割れんばかりの大きな拍手が起こり、観客がショーをどんどん盛り上げていくようになっているところも、このショーの特徴といってよいだろう。
 エンディングのキャスト挨拶では予想通りスタンディング・オベーションで、誰よりも拍手喝采をより大きく浴びていたのは、悪役のはずである怪人のキャストだった。

ベネシアンホテルとオペラ座の怪人 ベネシアンホテルとオペラ座の怪人 ベネシアンホテルとオペラ座の怪人 ベネシアンホテルとオペラ座の怪人  ベネシアン・バージョンとも言えるこのオペラ座の怪人の上演時間はインターミッション (休憩) なしの 95分。
 ラスベガスのショーとしては極めて標準的な上演時間ではあるが、ブロード・ウェイ・バージョンに比べると、かなり短縮されている。ラスベガスのホテルは基本的に観客をシアター内に長く閉じ込めておくことを嫌う傾向があり (なるべく早くカジノに流れてほしいというホテル側の思惑がある)、マンマ・ミーアを除くほとんどのラスベガス版ミュージカルは短縮版だ。
 シアターに投じられた費用は 4000万ドル。たしかにキャストの豪華かつ繊細な衣装、アンティークな家具、ビロードのうねりが美しく重みのあるゴージャスなカーテン、といったひとつひとつの細かいオブジェから、奥行きを見事なまでに表現した複雑な地下室、コンビュータ制御によって作動するシャンデリアまで、手のかけ方がとにかく贅沢極まりない。
 ただひとつ、ステージのセットの豪華さに比べ、オペラ座に仕立てた観客席に座るマネキン人形がやや見劣りしていたのが残念だった。豪華に着飾った本物の貴婦人たちをエキストラにするほどの費用はかけられないにしても、もう少し芸の細かさを感じられるセットであれば、さらにオペラ座のリアル感が出ていたに違いない。
 フロアは思ったほど傾斜がないので、前に大きな観客がいるとやや観にくい。あまりにも前方に座るとシャンデリアが落ちる瞬間を見逃しかねないので、お勧めはオーケストラ・セクションのやや後方、またはフロント・バルコニー (2階席)。それらの席からは、シャンデリアが落ちる迫力を目の前で味わうことができる。
 会場がそれほど広いわけではないので、高額なチケットに抵抗がある者はメインフロア後方にあるパールテア・セクション、アッパー・メザニンでも良いだろう (音楽業界ではオーケストラ鑑賞には音が少しでも均等に聞こえるシアター後方が良いとされている)。いずれのセクションも、あまりに端すぎる席だけは避けたい。

 最後に、ショーが始まる前に必ずトイレを済ませておくようにしたい。シアター内にはトイレがなく、カジノフロア (出て左) まで行く破目になるからだ。
 関係者に何故シアター内にトイレがないのか尋ねたら、カジノフロアを指差し、「そこにあるのにどうしてシアター内につくる必要があるのか」 とやや逆ギレされた感があったが、酒が入った観客が多いことが予想されるラスベガスの劇場において、この設計はどう考えても不便だろう。また、単なる不便だけでなく、せっかく 19世紀のパリ、オペラ座の余韻に浸っている時に、ネオンも人間もギラギラの欲望に満ちたカジノフロアを抜けることにはどうも抵抗がある。

 チケットはインターネットで買えるが、どの日のどのセクションにおいても、ほとんどの場合、一番端に近い席から割り当てられる。「とにかく端の席から売っていこう」 というプログラム設計のようだが、これはいかがなものか。ちなみにショーの前日などになると、いい席が割り当てられる傾向にあるようだが、まだ試した回数が少ないので断定的なことはなんとも言えない。売り切れになることはまずないと思われるので、直前まで待ってから行動を起こした方がよいだろう。(ちなみに 14日の時点では、本公演が始る 24日だけが売り切れ)

 今月 23日までがプレビュー公演で、そのスケジュールは休演日の火曜を除く毎日 7:00pm (ただし水曜と土曜は 10:00pm 公演も有)。24日以降は 7:00pmと 10:00pm の 2回公演 (木曜は 7:00pmのみ)、火曜休演は同じ。
 チケットはハイ・ローラー用に用意されているゴールド・サークルが $150、オーケストラとフロント・メザニンが $125、パールテアと呼ばれる 1階後部席が $100、2階席アッパー・メザニンが $75 となっている。(ただし、2階席でも前のセクションはフロント・バルコニーと呼ばれるオーケストラ席と同じ料金の席、中央もミドル・バルコニーと呼ばれパールテアと同料金となっているので、アッパー・メザニンは 2階席の最も後ろのセクションと思ってよい)

 詳しくはベネシアンホテル公式サイト http://www.venetian.com/Phantom/ まで。


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