週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2006年 05月 31日号
人類史上最大の土木工事 「ユッカマウンテン」
 今週は、ユッカマウンテンを視察してきたので、それについてレポートしてみたい。なお、ラスベガス観光とはまったく無関係な退屈極まりない話題と思われるので、電力、土木、原子力などに興味がある者以外はここで読むのをやめた方がよいかもしれない。

 「ユッカマウンテン」 という言葉を聞いたことがあるだろうか。アメリカではニュースに登場しない日がないほど露出度の高い時事用語だが、日本ではどうか。
 検索サイト・日本語グーグルで 「ユッカマウンテン」 を検索してみると、800件ほどがリストされる。これは 「ランスバートン」、「レッドロックキャニオン」 とほぼ同じ数字で、思ったよりも知られているようだ。
(このページに掲載されている写真はすべて米国エネルギー省のサイト www.ocrwm.doe.gov/ym_repository/index.shtml から当社が特別に提供を受けたもので、無断転用禁止。クリックで拡大表示)

 ユッカマウンテンとは、ラスベガスから車で北西方向に2時間ほど走った場所 (核実験場やエリア51 にほど近い場所) にあるなだらかな山の名前で、現在そこの地下では千年、万年という超長期 (放射性物質の半減期は途方もなく長い) を見据えた壮大な国家的プロジェクト Yucca Mountain Repository (核廃棄物処理場) の建設が進められている。
 現時点ですでに 600億ドルを超える予算が組まれており、最終的には 1000億ドルを超えるとされる人類史上最大の土木工事だ。放射性物質を廃棄する運用期間は 50年から 300年を見込んでいる。
 日本における歴史的土木工事といえば、近年では東京湾アクアライン、明石海峡大橋、青函トンネル、古くは黒四ダム、世界に目を向ければドーバー海峡トンネル、アスワンハイダム、フーバーダム、古くはスエズ運河、パナマ運河、さらに時代をさかのぼれば万里の長城、ピラミッドなどというものまであるわけだが、ユッカマウンテンはそれらをも上回る規模になるという。
 もっとも、貨幣価値や土木技術が異なる今と昔を単純に予算だけで比較すること自体、あまり意味をなさないが、とにかくとてつもないプロジェクトであることだけはたしかだろう。

 山の下、地下深く掘られる主トンネル (右図の一本の太いトンネル) の全長が 7.9km、そこからムカデの足のように無数に枝分かれする核廃棄物格納用の側坑トンネル (同、3本描かれている細いトンネル) の総延長が最低でも 70km、最終的には 150km を超える予定だ。
 その壮大な規模もさることながら、地下水などへの放射能漏れ対策なども必要となり、単なるトンネル工事とは設計コンセプトが根本的に異なるとのことで、それが理由で日本円で 10兆円にもなるような巨額の予算が必要になってしまったらしい。

 では、なにゆえラスベガス近郊が選ばれたのか。それはもちろん人口密集地から遠く離れた広大な砂漠という地理的要因であることはいうまでもないが、さらに地下水脈などの構造が千年、万年の単位で放射能汚染に対して最も不安要素が少ない場所ということらしい。つまり、雨水の浸透などで地下に放射能が漏れても、その地下水が都市部に流れ込む可能性が低い地下構造とのことだが、一部の専門家や反対派らは活断層の存在や地震の危険性を指摘している。
 ラスベガス市およびネバダ州はこのプロジェクトに当初から反対し続けてきたが、国益を優先するという国の方針で、 2002年 7月に連邦議会で可決し、すでに工事は着々と進んでいる。
 主トンネルなど全体の骨格はすでに出来上がっており、工事自体は順調だが、輸送ルートや搬入方法なども含めた運用の部分の議論が百家争鳴で、政治的に解決しなければならない難題があまりにも多く、目標の 「2010年運用開始」 は大幅にずれ込むだろうというのが関係者の一致した見方だ。すでに目標を 2015年以降に変更する動きも出始めている。

 さてそんな工事現場に実際に行ってみたわけだが、納税者や反対派に対するパフォーマンスなのか、「なにごとにおいても原則公開」 がこの国の哲学なのか、一般市民にも現場を公開しているところは立派だ。年に数回、米国エネルギー省が主催し、ラスベガス発の無料見学ツアーが催行されている。
 ちなみに現場は、基本的には電力業界からの核廃棄物を主な対象としているため軍事的な機密性はあまり大きくないが (核兵器関連の廃棄物も処理される予定ではある)、それでも建設に反対する市民運動がいまだにおさまっていないこと、そして 911テロ事件以降、世界情勢が緊張していることなどもあり、ツアー参加に際しては事前にそれなりの身元審査が行なわれる (といっても書類を提出するだけだが)。

 そんな審査をパスしての参加だったので、施設へ進入する際は空港でのX線検査のような厳しいボディーチェックがあるものかと思いきや、検問所ではバスの中に検査官が乗り込み車内を簡単に見回すだけで、参加者一同いささか拍子抜けといった感じだった。ただしカメラの持ち込みは禁止されている。
 長くなってしまったのでツアーの詳細は割愛するが、日本でも関心が高いのか、100人ほどのツアー参加者の中に、日本の電力会社からも数名参加していた。主トンネルの入口から 100m ほどの地点までしか進入が許されていないが、技術的な質問に対する質疑応答なども充実しており、業界関係者にとってはそれなりに有意義な見学ツアーといってよいだろう。

 石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料の枯渇や、地球温暖化が騒がれている昨今、煙や二酸化炭素をほとんど出さないクリーンな原子力発電が最も現実的かつ効率的な発電手段であるということに、もはやだれも異論はないはずだ。その証拠に、風力や太陽光などに軸足を移してきたドイツを中心とする反原発国の間でも、再び原子力が見直される気運が高まってきており、また、長らく新規の建設を見合わせてきたアメリカでも原子力への回帰が叫ばれている。
 事故の際の恐怖という問題が完全に払拭されたわけではないが、それ以上に二酸化炭素排出による温暖化問題の方が地球全体を見据えればはるかに重要で、やみくもに原発を否定することは人類としてかしこい選択肢ではない。昨今の原発回帰への動きは正しい選択であると同時に、21世紀のエネルギー政策のトレンドとなることだろう。

 プルサーマルを採用する日本と、そうでないアメリカとでは廃棄物の形態が異なることになるが、フランスと並び世界に冠たる原発大国日本にとって、廃棄物処理の問題は避けて通ることができない。
 日本政府もやっと重い腰を上げ、資源エネルギー庁がこの問題に取り組み始めたことは評価すべきことだが、その動きに対して、ただ単に反対意見を述べるだけの世論が形成されつつあるのは悲しいことだ。資源エネルギー庁が、廃棄物処理場の建設候補地として名乗りを上げた自治体に対して交付金を出すというと、「金で釣る政策はいかがなものか」 といった批判が出る。四国や九州など西日本を中心にすでにいくつかの自治体が名乗りを上げているようだが、たとえそれがカネ目当ての立候補であったとしても、それを単純に非難するのは建設的な態度とはいえない。非難するからには少なくとも何か代替案を出すべきだろう。
 一般のゴミ焼却場の建設でも住民は反対する。核ならなおさらだ。しかし一般ゴミでも核でも、どこかに捨てなければならないという事実を直視すれば、交付金という手段も極めて妥当な選択肢だろう。
 「住民の安全は金の問題ではない」 という一見だれもが納得してしまう意見に大衆も政治家も反対しにくい部分はあるが、やはり解決策は金になってしまうのが世の常だ。交通事故でも、医療ミスでも、遺族にとっては 「金をもらっても家族の命は返ってこない」 と思いつつも、加害者側は金で解決するしかないし、遺族側も金を受け取る。イヤなことを引き受けた者 (自治体) に対して何らかの代償を供与するのは当然のことだ。
 海洋投棄が世界的なコンセンサスで禁止され、宇宙への廃棄がコスト的にまるで現実的ではないならば (1トンの質量を地球の引力圏外に運び出すには数十億円が必要。日本国内の原発からの新規の核廃棄物は年間 1000トンを超える)、消去法により、「どこかに埋めるしかない」 という結論に達する。もはや埋めるか埋めないかの議論ではなく、どこに埋めるかの問題だ。金で候補地を募集するしかないのであれば、それを早く実行に移すべきだろう。

 アメリカは、少なくともその候補地だけはすでに決めた (フィンランドもそうらしい)。それだけでも大いに評価されるべきで、それを具現化したユッカマウンテンは日本にとって学ぶところが非常に多い。関係者はぜひ一度見学しておくべきだろう。
 また、その見学によって得られる地理的、地学的、土木的、物理的な情報は、日本での候補地選定の際、政治的、経済的なファクターに勝るとも劣らない貴重かつ不可欠なデータとなるはずだ。
 さて長くなってしまったが、このユッカマウンテンの見学ツアーは、現地が夏期は猛暑、冬期もかなり冷え込むため、基本的には春と秋に行なわれるが、電力会社の関係者などはチャーターでの見学も可能なようなので、興味がある企業や研究機関などは季節に関係なく米国エネルギー省のサイト経由でコンタクトしてみるとよいだろう。(右上の写真は、ラスベガスにあるインフォメーションオフィスで、ツアーの集合場所にもなっている)

 米国エネルギー省公式サイト: http://www.ocrwm.doe.gov/ym_repository/index.shtml
 この記事の執筆: http://www.lvtaizen.com   記事はバックナンバー488号。

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