週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2005年 11月 23日号
あのロブションが MGMに進出。話題のコースはなんと 325ドル!
 「20世紀最高のシェフ」 と称されるフランス料理界の重鎮、ジョエル・ロブションが今年 10月、遂にアメリカで初めてのレストランをラスベガスにオープンさせた。世界に名だたる天才シェフが、アメリカ最初の舞台に選んだのはMGMグランド。
 MGMグランドといえば、数年前までは 「ただ大きいだけで、チープで子供っぽいホテル」 が、ここ 2〜3年で有名人シェフによる高級レストランを続々オープンさせ、今や 「ラスベガス一のグルメゾーン」 と呼ばれるまでに様変わりした。
 館内には、ウォルフガング・パック、エメリル・ラガシ、マイケル・ミナなど、そうそうたるセレブシェフが手掛ける名店がずらりと並ぶが、その一角に究極のセレブシェフであるロブションが加わったことになる。ロブションの登場は、同ホテルが数年かけて行ってきた大規模なリニューアルの総仕上げともいうべきものなのだろう。今回のオープニングにはかなり気合いが入っているようで、「文句なしにラスベガス一の最高級店。ラスベガスで最高に贅沢な食体験ができる空間」 と胸を張っている。

 15歳で料理の道に入り、28歳の若さで 「コンコルド=ラファイエット・ホテル」 の総料理長に就任、31歳で 「フランス最優秀職人賞(MOF)を受賞したロブション。1981年、36歳で独立し、パリにオープンさせた 「ジャマン」 は、わずか 3年後に料理人として最高の栄誉であるミシュラン3ツ星を獲得している。ちなみにこれはミシュラン史上最短記録だという。
 過去30年以上に渡りフランス、いや世界最高のシェフの名をほしいままにし、グルメを自称する人々の羨望の的であり続けたロブション。大の親日家としても知られ、日本には 1994年に進出。東京は恵比寿に贅の限りを尽くした超高級店 「タイユバン・ロブション」 をオープンさせ話題を集めた。
 2003年には六本木ヒルズに 「ラテリエ・ドュ・ジョエル・ロブション」 をオープン。翌年 4月には、東京日本橋タカシマヤ内に 「ル・カフェ・ドゥ・ジョエル・ロブション」 をオープン、12月には 「タイユバン・ロブション」 をリニューアルし、「シャトー・ロブション」 の名で再出発した。
 つまり、都内には現在、ロブションの店が 3軒あることになる。アメリカよりもむしろ日本で 「ロブション=最高のフレンチ」 という認識が広まっているのはこのためだろう。ちなみに一部の美食家を除き、アメリカでのロブションの知名度は意外と低い。

 さて、今回 MGMグランド内にオープンしたロブションの店は2軒。ひとつは高級版の 「ジョエル・ロブション・アット・ザ・マンション」、もうひとつは、六本木ヒルズにもあるカジュアル版 「ラテリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」 で、両店は同じ場所に軒を並べている。さっそく試してみた。
 まずは、高級版の 「ジョエル・ロブション・アット・ザ・マンション」 から。「アット・ザ・マンション」 という店名から、勝手に城のような巨大なレストランを想像していたのだが (「マンション」 とは英語で 「豪邸」 の意)、店内は驚くほどこぢんまりしている。
 入って左手にラウンジがあり、右手がプライベートダイニング、その奥がメインダイニングになっているのだが、メインダイニングの席数はわずか 42席。
 「タイユバン・ロブション」 のスケールの大きさから比べると、実にひっそりとしたものだが、最近のロブションは 「インティメート (「親密な」の意) な食空間」 にこだわっているのだという。たしかに、だだっ広いレストランより、こうした小規模店のほうが 「特別な人のための特別な店」 という雰囲気を演出するには有効だ。
 なお、メインダイニングの右手には、生きた植物で壁一面を飾った 「ガーデンダイニングルーム」 がある (写真左、全12席)。メインダイニングにある座り心地のよいカウチはないが、恋人同士、夫婦でロマンティックなひとときを楽しみたいなら、こちらのセクションを選ぶのもよいだろう。

 スペースこそこぢんまりとしているが、内装は 「世界最高のシェフ」 の名に恥じぬ豪華さだ。テーマカラーは黒と紫 (写真右)。
 1930年代のパリをモチーフにしたというインテリアデザインは、パリのジョルジュサンクホテル、ロンドンのセントジェームズホテルを手掛けたことで知られるインテリアデザイナー、ピエール・イブ・ロションによるものだ。
 ベルベットの大きなカウチにシルクのクッション、大理石製の暖炉、天井には巨大なクリスタルのシャンデリアと、すべてがため息が出るほどの贅沢さ。その一方で、モダンアートを飾ったり、花はシンプルにカラーリリーでまとめたりと、モダンな要素も巧みに取り入れられており、今風のエクレクティックなデザインも印象的だ。豪華絢爛でありながら、ギラギラとした派手さは決してなく、心地よい空間に仕上がっているのはそのためだろう。

 メニューはアラカルトとコース料理の 2種あるが、ロブション匠の技をすみずみまで堪能したいのなら、「デギュスタシオン」 (「試食、試飲」の意) と呼ばれるコース料理がお薦めだ。食後のエスプレッソを含め 17品からなるコースはなんと 325ドル。もちろん一人分の料金だ。(開業直後は 295ドルだったが、すぐに 325ドルに値上げされた)
 「コースだと予算オーバーだからアラカルトで」 という人もいるかもしれないが、アラカルトも 1品 35〜160ドルという、かなりしっかりした値段設定になっている。
 料理の中身や顔ぶれは季節ごとに変わるということだが、今回の取材時のコースメニュー 17品目は以下の通り。

「アニセット」 とは、アニスの香りをつけたリキュール。レモンのジュレ(ゼリー) は固まるか固まらないかのゆるさで、舌の上ですーっと溶ける。上品な酸味がさわやかで、「さあ、これから食べるぞ」 と食欲を喚起するのにぴったりな一品。
薄くスライスしたトマトとキングクラブをミルフィーユのように重ねた、非常に美しい一品。トマトの酸味と蟹の甘みがベストマッチで、意外にもスパイスのきいたソースが全体をうまくまとめている。
固めにゆでたアスパラガスに、ベルーガに次いで高級だとされるオセトラキャビアを添えたシンプルな一品。絶妙なゆで加減でシャキシャキとしたアスパラに、プチプチッとしたキャビアの歯ざわりがマッチして美味。
親日家のロブションが日本料理からヒントを得たと思われる、ネギトロ風料理。上質なマグロにレッドベルペッパーのソースが好相性で、日本人好みの一品に仕上がっている。
スイートオニオンを加えた甘くないプリンに、レタスで作ったという独創的なソースをかけていただく。茶碗蒸しを思わせる、シンプルだが実に洗練された一品。トロトロのプリンが舌の上でとろけ、至福の味わい。
かえると聞いてややひるむが、さくさくに上げられたフリッターは軽く上品なさっぱり味。ガーリックとパセリのピュレがパンチを与えている。香り高いシャントレルマッシュルームもたっぷり添えられた贅沢な料理。
ウニの甘みとかすかな苦味が堪能できる、こってり濃厚でセクシーな料理。通常カプチーノの上に乗せるミルクの泡が添えられ、食感のバリエーションが楽しめる。
生のポルチーニマッシュルームをたっぷり加えたフランは、香り高く秋らしい味。ガーリックとパセリのソースが絶妙なアクセントになっており、優しい味わいのフランを巧みに引き立てている。
日本料理からヒントを得た料理が出たかと思えば、お次はラビオリとイタリア風。パスタの代わりにキャベツで具材を包んでいるのだが、フォアグラとソースに加えられたトリュフがなんともいえない複雑な味を演出している。
タイ料理で広く使われるレモングラスを使ったエスニックな一品。火の通り加減が絶妙なスズキに、さわやかで上品なフォームがマッチして美味。各国料理を巧みに取り入れ、オリジナル料理を次々と創造するロブションらしいクリエイティブな一品。
日本の食材であるユリ根と甘鯛を使ったユニークな一品。ゆずの香りが効いて、デリケートながらパンチのある料理に仕上がっている。
生のロブスターが入った器に、目の前でウエイターがシーフードのスープをかけてくれる。スープの熱さで軽く火が通ったロブスターは、プリプリとした歯ざわりが絶品。スープもエスプレッソを思わせる深くコクのある味わいで、シーフード料理とは思えないほど奥深く濃厚な味に仕上がっている。
肉汁を加えてソテーした仔牛肉は、舌の上でとろける柔らかさ。ガーリックの風味がきいた付け合わせ野菜も美味。
ラムのコンフィに北アフリカ料理であるクスクスを添えた一品。フランスの伝統的な料理スタイルであるコンフィに、アフリカ料理のエッセンスを加えるという遊び心溢れる料理。
いよいよデザートへ突入。ライム風味のシロップでいちごを煮込んだいちごスープは、甘さ控えめでさわやかな味わい。テキーラのソルベを添えた南アメリカ風の気取らないデザート。添えられたサボテンの形をしたクッキーがかわいらしい。
おなじみのペパーミントチョコレートをロブション風に解釈するとこうなる? チョコレートでムースとスープを作り、さらにそこにパリパリのチョコレートを加えているので、さまざまな食感が楽しめるのがポイント。ダークチョコレートにミントをきかせた大人っぽいデザート。

 17品も出てくるというと 「最後まで食べられるだろうか」 と不安になるかもしれないが、一品一品の量が非常に少ないので、よほど少食でない限り、問題なく完食できるだろう。
 ただし、食事の前にカートに 10種類ほどのパンが乗せられて運ばれるのだが、これを調子に乗って 5、6個立て続けに食べてしまうと、あとが苦しくなる。
 なお余談だが、開業時のベーカリーシェフはパリ店で働いていたタウチヨシロウさんという日本人だった。しかし残念ながらわずか一ヶ月で日本へ転勤してしまったとのこと。彼が焼いたパン、特にバゲットの絶妙な味は評判だっただけに残念だ。

 ワインのセレクションも豊富だ。今回一緒に食事をしたワイン評論家によると、「珍しいワイン、特に最近評価の高まっている注目のワインをいち早く揃えたところが評価できる。また、高価なもののみならず、手頃なものも種類豊富だ」 とのこと。また、アメリカではよくあるように、どさっと分厚いワインリストを手渡され、「ご自由にお選びください」 と言われるのではなく、経験豊富なソムリエが料理に合ったワインを薦めてくれるあたりもうれしい。

 最近、「テイスティング」 と呼ばれるコース料理が、アメリカ料理、フランス料理、カリフォルニア料理と料理のスタイルに関わらず流行している。これは、日本の懐石料理にヒントを得た、いわば 「おまかせコース」 で、少量の料理を数多く提供するのが特徴だ。つまりロブションの 「デギュスタシオン」 も決して目新しいものではないが、17品というのは聞いたことがない。
 軽い味わい料理に始まり、こってりとボリュームのある料理で締めくくる、というのが、いわばコース料理のあり方だが、なにしろ数があるため、客を飽きさせない工夫には余念がない。ところどころにエスニックな料理をからめたり、上品な味の次にはスパイスの効いた料理でアクセントをつけたりというように、コース全体に流れと変化があり起承転結がある。どれひとつとして同じ味の料理がないあたりもさすがだ。「次は何が出てくるのだろう」 と毎回わくわくさせ、そしてその期待を上回る一品で最後まであっといわせてくれる。

 今回のラスベガス店オープンに際し、インテリアデザインはもちろん、テーブルクロスからナプキンまで、細部にまで厳しい目を光らせたというロブション。パリとモンテカルロ、そして東京にも店を持つ彼のこと、この店で彼が実際に腕を振るうわけではないが、少なくともこの店は 「単に有名人シェフの名前を借りただけ」 というものではなさそうだ。実際、今後ロブションは、1カ月に 5〜6日程度はラスベガスに滞在し、キッチンに入る予定だという。

 取材時には 「20世紀最高のシェフ」 の名に恥じぬ、味とサービス、演出で感嘆させてくれた同店。ただし、このコースに 325ドルの価値があるかどうかの判断は、読者に委ねることにしたい。
 ちなみに東京の 「シャトー・レストラン」 では、18品のコースが 3万5000円なので、内外価格差はほとんどないといっていいが、忘れてならないのはアメリカではチップが必要だということ。
 チップの割合はディナーで通常 20%といわれているが、高級店になればなるほどサービスが良くなるためか、こうした高級店でのチップの相場は一般店に比べかなり高くなりがちだ。高級店ほど、セレブなど経済的に余裕のある者の利用比率が高まるため、自然な成り行きといえなくもないが、ちなみにこの店では 25〜30% が普通で、40% おく者も珍しくないようだ。
 したがって、ディナー、ウォーター、ワイン、チップ、それに税金を含めると、軽く 600ドルを超えてしまうという計算 (ワインの値段にもよるが)。二人なら日本円で 15万円といったところか。予約を取る前には財布としっかり相談し、冷静に考えてからにしたほうがいいかもしれない。

 「財布に余裕はないが、ロブションの味をぜひとも体験したい」 という者は、「ジョエル・ロブション・アット・ザ・マンション」 と同時にオープンした、隣の 「ラテリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」 (写真右) に行ってみるのも手だ。コースで食べるのが常識だったフランス料理を、もっとカジュアルに手軽に楽しめるようにしたのがこの店。
 ここにも 11品からなる 「デギュスタシオン」 コースがあるが、こちらは 85ドルと本店に比べて手頃。アラカルトの約半数はタパススタイルの小皿料理になっているので、こちらを腹のすき具合に合わせて 2、3品オーダーするという楽しみ方もできる。もちろん、1品とワインで軽く、というチョイスもある。
 この 「ラテリエ」 は、おそらく寿司店にヒントを得たと思われる、カウンター席を中心にしたユニークな店で、カウンターに座れば、忙しく働く料理人の姿を見ながら食事ができる。インテリアデザインは六本木店と同様、赤と黒が基調。「アット・ザ・マンション」 に比べれば随分カジュアルながら、お洒落度は十分高く、特別な店で食事をしているという気分は味わえるはずだ。

 この店ではタパスメニューから、La Tomate(9ドル)、Le Fois Gras(32ドル)の 2品、メイン料理として L'onglet(30ドル)の計 3品を試してみた。
 La Tomateはスペインの伝統料理であるガスパチョ。米サイズの小さなクルトンが乗せられた、とてもかわいらしい一品だ。シェリービネガーとオリーブオイルの香りが効いたさわやかな味。
 Le Fois Gras はソテーしたものと冷たいものの2種類あるが、今回は定番スタイルである冷たい方を試してみた。しっかりと濃厚でうまみたっぷりながら、後味はあくまでさっぱり。上質なフォアグラならではの美味しさが堪能できた。
 メイン料理の L'ongletは、エシャロットのソテーを乗せたステーキ。フランスのビストロで提供されるような、シンプルでカジュアルな料理が用意されているのもこの店の特徴だ。
 小皿料理は 1品 9〜60ドル、メイン料理は 14〜54ドルと、アメリカの水準では十分 「超高級店」 にカテゴライズされる価格設定だが、前述のように 1、2品だけで軽く、という楽しみ方もできるので、これなら財布が多少寂しくても大丈夫だろう。東京のロブションに行く機会がないという地方在住者なら、ラスベガス滞在中に 1度行ってみる価値は十分だろう。

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