週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2004年 11月 10日号
ブラックジャック、行き過ぎたハイテク化で裁判沙汰に
 ありとあらゆる分野に押し寄せているハイテク化の波。カジノの世界でも例外ではない。スロットマシンやビデオポーカーなど、もはやハイテク無しには存在し得ない。
 が、伝統的なスタイルが守られてきたテーブルゲームはどうか。じつはテーブルゲームの世界にもハイテク化の波が押し寄せており、今その行き過ぎた運用が波紋を投げかけている。
 ちなみに、今の技術では、おもてを向いて配られるカードはもちろんのこと、伏せて配られたカードもその内容がわかってしまう。
 今週は、ハイテク技術を駆使したブラックジャックテーブルの製造メーカーと、それを導入したカジノ、そしてそれを承認したカジノ当局が、プレーヤーから集団訴訟を受けているというブラックジャックファンにとっては聞き捨てならない話題を紹介してみたい。

 物議をかもし出しているのは、ギャンブル機器製造大手の Alliance Gaming 社 (ニューヨーク証券取引所上場) 傘下の MindPlay社が開発した MP21 というハイテクブラックジャックテーブル (写真左)。
 すでに二年ほど前にその原型はデビューしていたが、ここへ来て性能がアップしてきたことに加え (正確には 「性能アップ」 というよりも 「運用範囲の拡大」 というべきかもしれない)、主要カジノが導入し始めたことから一躍注目されるようになった。
 このハイテクテーブル、各プレーヤーやディーラー自身に配られた一枚一枚のカードをすべて読み取ってしまう能力を有しているばかりか、各プレーヤーが置いた賭け金の額も瞬時に把握してしまうというすぐれもので、これが広範囲に導入されると、カジノ側の管理部門に革命をもたらすとも言われている。

 このテーブルで使用されるトランプには、目に見えない特種なインクでバーコードが印刷されており、チップトレイのふちの部分に隠されたセンサーが、各プレーヤーごとのカードおよびチップの金額と枚数を読み取る。
(写真右。カードもチップもすべて本物。1デック台。クリックして拡大表示させると、センサーから出ている光の様子を見ることができる。この光、写真にはハッキリ写っているが、波長が可視光線ギリギリの青よりもやや短いのか、現場での肉眼ではわかりにくい)
 今の時代、スーパーのレジでのバーコードや、駅の改札口での定期券など、非接触型の読み取り装置はいくらでもあるので、読み取る技術自体、今さら誰も驚かないだろう。
 驚くべきことは、読み取った情報の管理や、その運用に対する発想だ。ではこの MP21、読み取った情報をどのように管理運用しているのか。

 まず知っておくべきことは、この MP21 自体の一義的な目的が 「カードカウンターに対する防御」 にあるということだ。それを理解しておかなければ、1台 2万ドルもする高価なテーブルをカジノ側がわざわざ導入する意味もわからないだろう。
 二義的な効用として、「顧客に対するコンプのためのレーティングを正確に行うことが可能」 などの副産物もあるとされるが、あくまでもメインはカードカウンティング対策で、この MP21 がチェックしている主な項目は以下の 3つとなっている。(Card Counting、Comp.、Rating などの用語については、このラスベガス大全の [辞書]セクションを参照のこと )

 どのプレーヤーがどういう状況でどのように掛け金を変動させているか。
 どのプレーヤーがどのような手を打っているか。
 シャッフル後のその時点までに、テーブル全体で何のカードが何枚使われたか。

 まず、についてだが、個々のプレーヤーが不自然に賭け金を上下させたりすると、ハイテクシステムがそれを感知し、ディーラーの前に設けられた小型ディスプレイ (写真右) にそれが通知されるようになっている。

 については、カードカウンターならではの特種な打ち方、たとえばインシュランスを突然賭ける、ダブルダウンすべき場面でなぜかしない、絵札をスプリットするなど、奇妙な打ち方を監視し、必要に応じて小型ディスプレイでカジノ側に注意を促すことになっているとのことだが、初心者プレーヤーによるそういった奇妙な打ち方と区別することがむずかしく、まだそのプログラムがうまく機能していないとの噂もある。

 は、残りの未使用カードがカジノ側に不利な状況になった際、ハイテクシステムがディーラーにシャッフルをうながす、というもので、今回裁判沙汰になっているのは主にこの部分だ。

 参考までに、カードカウンティングを知らない読者のために 「カジノ側に不利な状況」 とは何かを説明しておくと、たとえば、非常に極端な例だが、山に残されているカードがすべて 8であることが推測できた場合、カジノ側は絶対に負けることになる (ディーラーは 16を超えるまでヒットしなければならないため、8のカードばかりだと必ず 21を超えてしまう)。同様に、絵札が多く残されている場合も、プレーヤーだけに認められたダブルダウンなどが効果的に使えるため、やはりカジノ側が不利になる。
 つまり今回の のシャッフルの話は、「そのようなカジノ側が不利な状況ではさっさとシャッフルしてしまおう」 という発想だ。
 右の写真の場面 (シングルデックでの実戦。右側のプレーヤーがスプリット、左側のプレーヤーがソフトハンドからダブルダウンした局面) などがまさにその状況に近いと言えるのかもしれないが (絵札や大きいカードがあまり出ていないため、次のプレーではそれらカードの出現率が高いと予測される)、このような場合、未使用のカードが十分に残っていてもシャッフルしてしまことが可能になり、カジノ側はそのタイミングをハイテクの力を借りて判断することになる。
 本来、残りのカードの推測は、すでに出たカードを記憶しながら頭の中で推理するものであって、ハイテク機器にたよるべきものではなく、事実プレーヤー側にはその種の機器の使用が認められていない。しかしこの MP21 ではカジノ側にだけ事実上それを認めていることになり、集団訴訟の原告側が指摘しているのはその部分だ。

 原告側の言い分はもうひとつある。カジノ側が結果的に期待値を操作できてしまうという点だ。どんなに念入りにシャッフルしても、そのシャッフルされた束の中で絵札などが偏って存在してしまうことは自然のバラツキとして当然起こり得ることで、そういったバラツキがあるからこそ、ツキがあったり、ツキに見放されたりすることが自然に存在するわけだが、この MP21 による 「シャッフルを早めに促す行為」 は、そういったツキのムラの中から、「カジノ側が不利なムラ」 だけを除外してしまうことになり、本来ランダムであるべき現象を人為的に操作できてしまうということを原告側は厳しく指摘している。

 カリフォルニア在住のプレーヤーらを中心とするその原告は、メーカーの Alliance Gaming 社、ネバダ州のカジノ当局とも言われている Nevada Gaming Control Board、そしてこのハイテクテーブルをいち早く導入したカジノ El Dorado Hotel (リノ市) などを相手に 10月 18日に訴えを起こしている。
 その翌日、本誌が独自にラスベガスでの MP21 の導入状況を実地調査したところ、その時点でフラミンゴがこのテーブルを 3台導入していることが確認できた。
 その裁判のニュースをきっかけに、この 3台は遅かれ早かれ撤去されるのではないかと思い、その後のフラミンゴの動向を注意深く見守っていたら、なんと撤去どころか 11月に入りその台数は 11台に増えていた。
 さっそく 11月 6日、現場のピットを取材すると、「裁判沙汰になっているニュースはもちろん知っているが、機材の導入や撤去に関しては我々の仕事ではないので、それに対してはコメントする立場にない。我々の仕事はここで正しくプレーが行なわれていることを監視し、お客様が楽しくプレーできる環境を作ること」 とのことで、今後の方針に関しては回答を得ることができなかった。日を改めて別部門を取材してみるしかなさそうだ。
 ちなみに他のメディアの報道によると、フラミンゴを所有する Caesars Entertainment 社 (Harrah's 社に吸収合併される予定) は、今後 MP21 を積極的に導入していきたい考えでいるらしい。

 そんな調査をしているうちに 11月 5日、偶然まったく別の裁判で、「カードカウンターがカジノ (インペリアルパレス) に勝訴した」 というニュースが飛び込んできた。インペリアルパレスが 40万ドル支払うことになったという。
 ちなみにカードカウンティングに関する法的解釈は、「特殊な装置を使わずに、自分の頭だけを使っている限り、使用されたカードを記憶し、次に出てくるカードを予測する行為は合法」 とされていると同時に、カジノ側には、そのようなカードカウンターのカジノへの出入りを拒否できる権利が認められている。
 この拒否権に対しては以前から賛否両論あったようだが、自宅に招待する客を家主が選べるのは当然であるのと同様に、「カジノ内」 といういわば 「私有地」 内へのアクセスであるカードカウンターの入場を、そのオーナーであるカジノ側が自由に裁定できるのは当然、という理論には一理あり、今も昔もカジノ側はカードカウンターを容赦なく追い出しているのが現状だ。
 が、その追い出し方がかなり強引で、警備員が手錠をかけて追い出すケースも少なくないと言われており、今回のインペリアルパレスのケースでも、プレーヤーはまるで犯罪者であるかのように手錠をかけられ、数日間拘置されたという。
 今回インペリアルパレス側が敗訴したことにより、カジノ側は今後カードカウンターに対する強引な追い出しができなくなる分だけ、ハイテク機器に頼った未然のカウンティング対抗策に走る可能性もあり、今後 MP21 に対する法律論争は益々熱気を帯びてきそうだ。

 話が前後するが、取材ピットでは MP21 導入や撤去に関する質問は拒否されたが、MP21 自体に関することはかなり回答してくれた。
 これは彼らの立場を考えると当然とも思える返答だったが、「MP21 導入の最大の意義は、コンプのためのレーティングが正確に行えるようになること」 とのこと。たしかに今まではどんぶり勘定的な部分もあったので、それが正確になることは大いにけっこうなことだが、どんぶり勘定であるがゆえに実力以上の待遇を受けていた者も存在するわけで、必ずしも利用者のメリットになるとは限らないだろう。
 あと、これは半分笑いながら教えてくれたことだが、賭け金をチェックするセンサーには盲点があるらしい。それはカジノチップを 19枚以上重ねて置いた場合、それより上は角度的にチェックできずカウントされないのだという。せっかく教えてくれたこの盲点、さっそく実行しイタズラしてみたくもなるが、カウントされずにコンプの査定が下がると損するのは客の方なので、査定対象のプレーヤーは実行しない方がよいだろう。
 あと、ディーラーがプレー開始前にデックを機械にかける行為があるが、それはシャッフルのたびに枚数がきちんと 52枚 (1デックの場合) あるかどうか確認しているのだという。ちなみに現在フラミンゴの MP21 には、1デック、2デック、6デックがあり、1デックのブラックジャックの払い戻しは 1.2倍となっている。

 最後に我々の最大の関心事、「訴訟問題に発展していることがわかった今でも、早期のシャッフルを本当に行なっているのか」 に対してはやはりノーコメントだった。
 今後の裁判の結果を待つしかないが、判決を今から勝手に推測してみるならば、カウンターを早期に発見する目的で賭け金を自動的にチェックすることは認められ、カジノ側が不利な時だけの早期シャッフルは認められないような気がしないでもないが、いかがだろう。
 いずれにせよ、なんらかの形で MP21 は生き残るというのが業界関係者の一致した見方だ。それは 「正確なコンプの査定」 以外にも、用途がいくつかあるためで、メーカー側の宣伝文句などによると、チップの在庫などカジノ側の収益状況をリアルタイムで管理できることや、ディーラーのミス (多めの支払いなど) をチェックできるなど、効用が少なくないからだ。
 そうはいっても、わざわざ MP21 のテーブルでやりたいとは思わない、というのが大多数のプレーヤーの心情ではないだろうか。法律論争よりも単なる不人気が理由で MP21 が消えることもありそうだ。


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