週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2004年 9月 22日号
レストランのABCグレードの意味と今後の課題
 「レストランの入り口に掲示されている "A"、"B"、"C" って何?」 という問い合わせが時々寄せられる。今回はその疑問にお答えしたい。

 各レストランに A、B、C のグレードを付与しているのは、ラスベガス市を含むクラーク郡 (郡は、市よりも広範囲で、州よりもせまい行政単位) を管轄している 「クラーク郡衛生保健局」。つまり、A、B、Cグレードは、レストランの味やサービスに対する指標ではなく、衛生状況を示すもの。
 具体的には、衛生保健局の担当官が各レストランを訪問。厨房を中心に衛生状態を検査し、その結果に応じて A、B、Cのグレード (右写真。"グレードカード" と呼ばれている証書) が付与される。

 こうした衛生基準と査定システムは、全米の多くの自治体で実施されており、その目的は外食産業の衛生状況の改善と、それによる食中毒などの予防だ。
 食品の衛生状態が原因で発病する疾病は 250以上あり、全米で毎年約 6000人が食中毒などで入院、うちの 1800人が死亡しているという。その医療コストは実に 10億ドルにのぼるとのことで、アメリカにとって食中毒予防は、国の医療費負担を減らす上でも非常に重要だ。
 この全米規模の取り組みも、具体的な評価基準や検査方法においては自治体ごとに多少異なっているという。そこで今回、ラスベガス市を管轄するクラーク郡衛生保健局を訪れ、飲食店衛生査定担当責任者のスティーブン・J・グード氏 (写真左上) に話を聞いた。

 「クラーク郡が飲食店の衛生査定を始めたのは 50年代のこと。査定基準と検査方法を定めた郡条例は、その後何度も改正され、現在は 1999年 4月改正の条例にのっとって検査、評価を行っている」 と同氏。
 他郡・州の査定システムと比べ、クラーク郡のシステムが優れているかどうかについては、「他州の実情はわからない」 とコメントを避けたが、「カリフォルニア州から進出してくるレストラン関係者に、『こちらのほうがずっと厳しい』 と言われることは確かに多い。我が郡の衛生査定は、全米水準から見ても、厳密かつ包括的なものだと考えている」 と話してくれた。

 飲食店の衛生査定は一般に 「レストラン・インスペクション」 と呼ばれるが、対象となっているのはレストランだけではない。カフェやコンビニ、バー、食料品店など、食べ物、飲み物を販売するすべての施設が対象となっている。ルームサービス用の食事を作るホテル内のキッチンも、もちろん検査対象だ。
 グード氏によると、飲食店の検査、査定はまず、開業時に 2度、その後は 1年に 1度の割合で行われるという。オープン前の検査は、内装工事が完了し、冷蔵庫やオーブンなどの調理器具が揃えられた段階で 1度、開店直後にもう 1度行われる。
 「開店前の検査では、調理設備が郡の基準に合っているかどうかをチェック。一方、開店後は食品の取り扱い方法など、よりオペレーションに注力した検査内容になる」 とグード氏は説明する。
 なお、開店後、年に 1度の割合で行われる定期検査は、事前通告なしの抜き打ちで行われることになっている。

 ラスベガス市での飲食ビジネスは毎年約 1000軒の割合で増え続けているという。そのため、クラーク郡の検査官は多忙を極めており、「現在 38人の検査官がいるが、息つく間もないほど忙しい」 とグード氏。
 気になる検査内容だが、検査項目は全部で 40項目あり、各項目に対し、その重要度によって 1〜10点が配点されている。基準を満たしていない項目があれば減点され、減点の合計によって A、B、C のグレードが決まる仕組みだ。
 Aグレードは 10点以下の減点、Bグレードは 11〜20点の減点、Cグレードは 21 〜40点の減点となっており、41点以上減点された場合は即刻営業停止処分となる。
 また、B、C の場合は再検査を受けることが義務付けられており、Bグレードの場合は 30日後、Cグレードの場合は 10日後と、その規定はかなり細かい。
 なお、41点以上の減点で営業停止処分となった場合は、再検査で Aにグレードされなければ営業が再開できない決まりになっている。
 減点が多いからといって、罰金などが課せられるわけではないが、再検査にかかる費用は店側の負担なので、その評価結果はただ単に顧客に対するイメージの問題だけではなく、費用的にも軽視できない問題となる。
 ちなみに最初の検査で Bグレードになった場合は、再検査で Aにランクアップしなければ 165ドルの再検査費用が、また、Cグレードの場合は再検査結果によらず 165ドル、営業停止処分の場合は 250ドルの再検査費用が徴収される。
 検査の中身を見てみると、食品の取り扱い方法、保存方法、調理器具の状態や調理器具の保管方法などが細かく規定されており、鶏肉料理の温度から従業員の手洗いまで広範囲に及んでいることがわかる。以下がその検査項目だが、厨房にごきぶりやねずみが 1匹もいなければ Aがもらえるという、甘いものではないようだ。
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     【 クラーク郡衛生局の検査項目と、基準を満たしていない場合の減点
 
 [ 検査項目 ]
 ・食品は規定に合った調達源から調達されている。
 ・食品は新鮮で、腐ったり劣化したりしていない。
 ・怪我をしている人、できもののある人、呼吸器系感染症にかかった人は
  食品の取り扱いをしていない。
 ・冷蔵庫、冷凍庫、加熱器内の温度が適温に保たれており、
  メンテナンスが行き届いている。
 ・食中毒などの危険が高い食品(肉、卵など) は所定の方法で急速に
  冷やされ、保管されている。
 ・鶏肉、鶏料理の詰め物、詰め物を施した肉料理などは、内部の温度が
  華氏165度以上になるまで加熱した上で提供されている。
 ・ひき肉や肉加工品は内部の温度が華氏155度 (約 74℃) 以上に
  なるまで加熱した上で提供されている。
 ・豚肉料理は内部の温度が華氏155度 (約 74℃) 以上になるまで
  加熱した上で提供されている。
 ・食中毒などの危険が高い食品(肉、卵など) は、華氏40度 (約 4℃)
  以下、あるいは 140度 (約 60℃) 以上の状態で保存されている。
 ・冷凍肉は所定の方法で解凍されている。
 ・サラダなどの素材で、食中毒の危険が高いものは一旦冷蔵されたものを
  使っている。
 ・腐敗しやすい食品は所定の温度以下で保存されている。
 ・正確な温度計が用意され、必要に応じて使用されている。
 ・生肉、鶏肉、魚介類、生卵は、他の食品と分けて保管されている。
 ・調理人は生肉などの細菌が他の食品を汚染しないよう、十分に
  注意している。
 ・生肉などの細菌が他の食品を汚染しないよう、化学物質を使って
  予防している。
 ・生肉などの細菌が他の食品を汚染しないよう、適切な保存方法が
  とられている。
 ・食品の取り扱いを行う従業員は、トイレ使用後、咳をした後、食事後、
  喫煙後、生肉の取り扱い後に、適切な方法で手洗いを行っている。
 ・手洗い施設が整っている。清潔な状態に保たれ、規定の石鹸、
  使い捨てタオル(ペーパータオルなど)、ごみ箱が用意されている。
 ・調理器具、調理台は適切な方法で洗浄、消毒、乾燥されている。
 ・汚水は公共の下水道、または認可された施設に流されている。
 ・水道は温水、冷水の両方が出る。
 ・野菜、果物は提供される前に洗浄されている。
 ・食品が床に置かれていない。
 ・食品の保存用容器は規定に合ったものが使用されており、内容を示す
  ラベルが貼られている。
 ・雇用主は食品の取り扱いを行う従業員の健康状態を把握している。
 ・従業員の衣類は清潔で、髪はまとめられている。
 ・調理器具は適切に使用され、保管されている。
 ・調理器具を洗浄する施設は適切に建設され、清潔な状態に保たれ
  ている。
 ・サーモスタット、化学物質検出用器具、圧力計が用意されている。
 ・使い捨ての調理器具等は適切に保管されている。
 ・使い捨て用の物品は再利用されていない。
 ・ふき取り用のキッチンクロスは消毒器内に保管されている。
 ・適切な調理台が備えられており、表面はなめらかで清潔に保ちやすい。
 ・プラスティックラップ、プラスティック製保存容器は、食品用のものが
  使われている。
 ・食品が直接触れない部分についても、適切に建設されている。
 ・食品が直接触れない台の上も清潔に保たれている。
 ・従業員用のトイレは清潔に保たれ、適切なメンテナンスを施している。
  ごみ箱は蓋付きのものが用意されている。
 ・ごみ箱が清潔に保たれている。蓋がついており、水を吸わない素材で
  作られている。手洗い場が清潔に保たれている。
 ・適切な害虫予防策が取られている。
 ・換気扇が清潔に保たれている。
 ・配管が適切な状態になっている。
 ・床、壁、天井が適切に作られており、清潔に保たれている。
 ・住居を併設した店舗の場合は、住居と店舗が完全に分けられている。
 ・店舗内には動物はいない(規定で認められた動物は除く)。
 ・喫煙に関して、ネバダ州法202.2491が遵守されている
 
 
 [減点]
6
6
 
6
 
4
 
10
 
6
 
6
 
6
 
6
2
 
3
2
3
4
 
4
 
4
 
4
 
6
 
3
4
6
6
2
1
 
1
1
1
1
 
1
1
1
1
1
1
 
1
1
1
 
1
 
1
3
1
1
1
1
1
1
    
              


 では、消費者は B、Cグレードの店を避けるべきなのだろうか。この質問にグード氏は 「難しい質問ですね」 と頭を抱えつつ、「行き付けの店がもし Cグレードになったとしても、私はその店に行き続けるでしょう。検査結果はあくまで目安であり、B、Cグレードの店が必ずしも 『危険な店』 というわけではないので」 と答えてくれた。
 また、Aグレードの店でも、結果はあくまで検査が行われた当日のものであり、その後、高い衛生水準が保たれているという保証はどこにもない、とのこと。
 それでもグレードが 「食中毒の心配をせず、安心して食べられる店」 選びの信頼に足るひとつの目安であることは確かだろう。今後はレストラン選びの基準のひとつに、味やサービスだけでなく、店頭の ABCも加えてみるのもいいかもしれない。なお、飲食店側にはグレードのいかんに関わらず、検査結果 (グレードカード) を外からよく見える場所に掲示することが義務付けられている。

 現在、クラーク郡衛生保健局 (写真左) では、検査結果をウェブサイト上で公開することを検討しているというが、残念ながらまだその準備は進んでいない。
 しかし、「店に行く前にグレードを知りたい」 という消費者からの電話での問い合わせには対応しており、「気軽に問い合わせてほしい」 とのこと。もちろん、検査結果を店に直接問い合わせることもできる。
 また、地元紙 Las Vegas Review Journal では毎週水曜日発行号にて、その週の検査結果を公開しているので、興味がある者はこちらをチェックしてみるのもいいだろう。
 ちなみに、つい数ヶ月前、ストリップ地区のだれもが知る著名ホテルの某有名フレンチレストランが C評価を受け、その結果が同紙に掲載された。(店名は、すでに新聞紙面で公表されているが、すでに再評価を受け改善されているので、あえて名前は伏せることとした)
 なお、今回のこの記事内では A評価の写真ばかりを掲載したが、実際の店頭では B や Cも多数あり、ほとんどの店が A だと思ったら大きな間違いだ。

 全米各地で実施されているこのレストラン査定は、飲食店の衛生状態を大きく改善するという成果を挙げた。しかし一方で、この検査システムが物議の的になることも少なくないようで、事実ロサンゼルスの検査官が複数の店から賄賂を受け取り、その代償として Aグレードを与えていたという事件なども発覚している。
 グード氏によると、クラーク郡では同様の問題が表面化したことはないとのことだが、こうした検査、採点システムが贈収賄の温床になりやすいことは認めている。
 「これは 1人 1人の検査官のモラルの問題であると同時に、マネージメントの問題でもある。我々は常にそうした問題が起こりうることを考慮に入れ、十分な監督体制を採っている」 と話す。
 問題は賄賂などの不正だけではない。評価基準の客観性に関しても、悪く評価されてしまった店などからは不満が出やすく、そういった問題も今後の課題だ。
 たとえば、「食品は新鮮で、腐ったり劣化したりしていないこと」 といっても、どこまでが新鮮でどこからが劣化なのかは規準があいまいだ。また、同様に 「〜は清潔な状態に保たれていること」 といっても清潔の度合いには主観が入りやすく、その公平な判断はむずかしい。

 その他の問題として、クラーク郡ではかつて、地域のアジア系商工会が 「当局はアジア系レストランに厳しすぎる」 とし、衛生保健局に抗議するというトラブルが発生したことがある。衛生保健局が後にアジア系レストランの検査結果を調査したところ、商工会側の誤解であることが判明したというが、これを機に局の飲食店対応は少しずつ変わってきたとグード氏は話す。
 「郡は食品の保存法や調理法に細かい基準を設けているが、料理は文化であり、各国料理ごとにその国ならではの調理法があるのも事実。それを無視して一方的にルールを押し付けるのは間違い。そのことに我々は気づいた」 とグード氏は言う。

 例えば、これまで問題視されていたのが寿司の握り方だ。衛生局ではサンドイッチに具をはさむなど、人の口に入る直前の作業をする際は、手袋をつけるよう指導しているが、寿司に関しては手袋着用を免除した。
 「寿司は素手で握るもの、というのは日本の食文化。我々は店側との話し合いにより、ベストな方策を模索し、柔軟な対応をとるように努力している。我々の究極の目的は、飲食店の衛生状況を改善し、人々が安心して外食を楽しめるようにすることであり、飲食店を閉店に追い込むことではない」 と異文化にも理解を示す。

 クラーク郡衛生保健局の人々の努力により、ラスベガスの飲食店の衛生状態は著しく改善されてきているようだ。グード氏によると、現在、年1度の査定で 「即時営業停止」 を言い渡される店は、全体の 0.5パーセント程度だという。この数字は以前と比べ、大幅に減少しているとのこと。
 「ラスベガスは観光都市。この街で食中毒騒ぎが起きれば、観光客が減少し、市の経済にダメージを与える。食中毒を未然に防ぐという我々に課された使命は、この街ではとても大きなものなのです」 との言葉にはそれなりの重みを感じた。

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