週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2004年 6月 23日号
アメリカのゴルフコースで見かける "SLOPE RATE" ってナニ?
 6週間ぶりにまたゴルフの話題。ちなみにこのあとに書かれている内容は、ラスベガス固有の話題でもなく、また、時期的にニュース性があるというわけでもないので、一般の読者はもうこれ以上読み進まない方がよいだろう。読んでも退屈きわまりないゴルフに関するうんちくばかりだ。
 ということで今週は、"ゴルフ天国ラスベガス" を積極的にアピールしているメディアとして、あえて数少ないゴルフファン読者のためにこの種の情報を提供していく使命感に駆られ、スロープレート (SLOPE RATE) という聞き慣れない話題を取り上げてみることにした。

 先週、くしくも全米オープンで丸山プロが難コースに苦しみながらも大健闘したため、多くのスポーツメディアが 「コースの難易度」 というものに少なからずふれることになったが、難易度といえば、プロの試合をテレビ観戦するゴルフファンのみならず、異国の地ラスベガスでゴルフを計画している者にとっても大いなる関心事だろう。コース選びの際に最も気になる部分と思われるが、その難易度を知る際に非常に重要な指標となるのがスロープレートだ。

 ラスベガスに限らずアメリカのゴルフコースのスコアカードには、必ずと言ってよいほど 「コースレート」 と並んで 「スロープレート」 が記載されている。(実物を見る ← クリックで現物を表示)
 コースレートは日本でも広く採用されているが、スロープレートはまだあまり普及していないようで、これを知る日本人ゴルファーは非常に少ない。
 「SLOPE」 という言葉から、傾斜度、つまりコース全体の高低差の数値だと勘違いしている者もいるようだが、それはまるで違う。なぜ SLOPE という単語が使われているかについてはこのページの後半でふれるが、コースレートとスロープレートの違いを簡単に説明すると以下のようになる。

■ コースレート (Course Rating)
 ハンデ0 のゴルファー (ようするにプロゴルファーレベルの者) が実力通りにプレーした際に期待できるスコアを数値化したもの。
 算定の際の判断規準はほとんどが 「距離」 で、その他の要因、たとえばバンカーの数や深さ、グリーンの傾斜、ラフの深さ、池の数や大きさ、フェアウェーの広さなどはあまり考慮されない。したがって、一般的には距離が長いコースほどコースレートは高くなる。
(実際はバンカーや池も考慮されるが、ハンデ0の者にとってそれらは距離ほどは大きな要因とならず、結果的にほとんど影響を及ぼさない)


■ スロープレート (Slope Rating)
 スロープレートは、ハンデ0のプロ級ゴルファーではなく、一般アマチュアゴルファーにとっての難易度を示す尺度で、標準が 113、最高が 155、最低が 55 となっている。バンカー、グリーン、池、フェアウェー、OB など、さまざまな要素を考慮して決められる。
 アマチュアゴルファーのハンデを算出する際、各コースにおける 「実力差による難易度の差」 を補正するために、USGA (全米ゴルフ協会) によって考案されたもので、現在アメリカではこのスロープレート無しにはハンデを算出できないほど、広く普及している。
(USGA の定義をそのまま表現すると、スロープレートとは、スクラッチゴルファーとボギーゴルファーの差による、各コースの難易度の変化を明示するための指標、としている)


 さて、ここまでの説明を受けただけでは、「どちらも難易度の尺度ではないか」 となってしまう。では両者の違いは何か?
 簡単に言ってしまえば、「コースの難易度は、プレーヤーの腕前によって異なってくるもので、プロ級の者にとってむずかしいコースと、一般ゴルファーにとってむずかしいコースはまったく別。したがって、プロ級の腕前の者と、一般のゴルファーでは、異なる "難易度の尺度" が必要」 ということである。
 つまり、日本でも広く採用されているコースレートは、一般ゴルファーにとってはほとんど意味が無く、また逆に、スロープレートは、ハンデを必要としないプロにとっては関係のない数字、ということになる。このことをわかりやすく説明してみよう。

 池もバンカーもOBもない単純なホールばかりが 18ホール集まったコースがあったとしよう。そして各ホールの長さはすべて 300ヤード。このゴルフコースの名前を 「三百カントリークラブ」 とする (以下、三百CC)。 コースの全長は 300 X 18 なので 5400ヤードということになる。

 次に、まったく同様に、各ホールの距離が 400ヤードのコース、四百カントリークラブ (同、四百CC) があったとする。合計距離は 7200ヤードだ。

 この二つのゴルフ場を比較した場合、コースレートは 三百CC よりも 四百CC の方が明らかに高いことがわかる。それはそうだろう、タイガーウッズといえども 四百CC ではワンオンできないわけで、確実に 四百CC でラウンドした方がスコアは悪くなるはずだ。
 たぶんハンデ0のゴルファーが実力通りにラウンドした場合、三百CC では 65前後、四百CC では 70前後になるのではないか (一流プロならもっと良いスコアが出るだろうが、ここではそんな議論はどうでもいい)。とりあえずここではそれぞれのコースレートを 65 と 70 としよう。
 もちろんアマチュアにとっても 四百CC の方がむずかしいわけで、スロープも 四百CC の方が高くなることは言うまでもない。

 さて次に、三百CC とまったく同じ距離だが、右の図のようにすべてのホールに長さ 150ヤードの池があるゴルフ場が存在したとしよう。全長は 5400ヤードと短いが、ティーショットはすべて池越えということになる。このコースを 「小池カントリークラブ」 と名付けよう。
 同様に、すべてのホールに 200ヤードの池がある 「大池カントリークラブ」 があったとする。こちらも全長は 5400ヤードと長くはない。

 この池ばかりの 2つのゴルフ場でプロがラウンドした場合どうなるか。
 150ヤードの池など、プロにとってはまったく存在しないに等しく、常識的には一発も池に入れることはないはずだ。つまり 小池CC の難易度は 三百CC と同じだ。ということは、コースレートは 65 ということになる。
 大池CC の 200ヤードの池もプロにとっては特に気になるほどのものではなく、18ホール中、一発ぐらい池に入れることはあったとしても、小池CC と 大池CC のスコアの差はせいぜい 1打か 2打程度といったところだろう。とりあえずここでは 大池CC のコースレートを 67 ということにする。

 ではアマチュアにとってはどうか。ハンデ 10 程度の熟練者ならば、三百CC、小池CC、大池CC のスコアはどれも距離が短いのでそれほど大きな違いはないはずだ。たぶん実際のスコアとしては、その順番に 78、80、82 といったところか。このハンデ 10 の者にとっては 大池CC よりも距離が長い 四百CC の方がバーディーを取りにくい分だけスコアは悪くなると予想される。7200ヤードもあればたぶん 85 ぐらいはたたくだろう。

 一方、ハンデ 30 の初心者はどうか。三百CC と 小池CC のスコアは最低でも 20打違ってくることが予想され、大池CC にいたっては、数十打違ってくるかもしれない (池に入れた場合、前進3打とか前進4打ではなく、公式ルール通り池を越えるまできちんと池の後方から打ち直すこととした場合)。
 その一方で、四百CC と 小池CC では、プロや上級者と逆の結果、つまり、距離が長い 四百CC の方が良いスコアになる可能性が高い。初心者といえども、池がなければ大たたきする可能性がほとんど無いからだ。
 したがって、このハンデ 30 の初心者が 三百CC、小池CC、大池CC そして 四百CC を実際にラウンドした場合のスコアを想定してみると、100、130、150、110 といった感じになることが予想される。現実の世界で 150 などというスコアはお目にかからないが、18ホールのすべてに長さ 200ヤードの池があるという極めて特種な状況で、ハンデ 30 の者が正式なルールを厳格に守ってプレーしたら 150 は軽くたたくだろう (ちなみに 1ホール 8打平均で 144 たたくことになる)。

 このような現実を考えると、同じコースレート 65 のコースでも 三百CC と 小池CC では、プロにとっては同じでもアマチュアにとっての難易度は大きく違ってくることがわかる。また同じアマチュアでもハンデ 10 の者は 四百CC が一番むずかしく、ハンデ 30 の者は 大池CC の方がむずかしいことになる。

 ではこの 「熟練度の差による難易度の違い」 によってどのような問題が生じてくるか…。同じコースレートのコースでも、池やバンカーの数などが違った場合、ハンデを算出する際には何らかの補正をしないと不公平、という問題が生じてくる。
 たとえばコースレート 65 の 三百CC をホームコースとし、そこで日ごろ 100前後で回っている Aさんと、同じくコースレート 65 の 小池CC で 100前後で回っている Bさんが同じハンデではまずいことになる。Aさんと Bさんは明らかに実力が違うはずだ。
 であるならば、ハンデを決める際、単純に小池CC の難易度を上げて計算すればよいのかというと、必ずしもそうではない。なぜなら、もし Aさんも Bさんもそれぞれのホームコースで日ごろ 75前後で回っていたとしたら (上級者だったら) どうなるか。その場合、二人の間に実力差がほとんどないことになる (上級者にとって小さな池の存在などほとんど関係ないので)。

 以上のように考えると、池などが多いコースの難易度を単純にかさ上げすればよいというものでもないことがわかる。初心者ゴルファーにはかさ上げする必要があるし、上級者にはその必要がない。
 この現実を、横軸に腕前 (ハンデ)、縦軸に予想スコアを取ってグラフ化すると、初心者にとって難易度が高いコースほど、グラフの傾斜が急になる (大きなハンデが必要になる) ことがわかる。
 この 「傾斜」 こそが 「スロープ」 の語源で、これが急なコースほど 「スロープが大きい」 ということになる。USGA はこの理論に基づいて各コースのスロープを独自の方法で数値化している。
 ここでやっとスロープという言葉が意味するところの結論に達したわけだが、それを言葉で表現するならば、「コースレートに関係なく、池やバンカーなどの障害物が多くなればなるほど、上級者と初心者のスコアの差が拡大する傾向にある。スロープレートとは、ハンデを決める際、より技量の劣るゴルファーに対して、どの程度そのコースの難易度をかさ上げすべきかを示す指標」 ということになる。

 理論上、いくらでもむずかしいコース (初心者にとって) は存在するわけだが、USGA ではこのスロープレートの上限を 155 に設定している。つまり、グラフにした場合の傾斜の最大斜度を 155 (あくまでも指標であり、角度の単位としての数値ではない) としているわけだが、この 「制限」 の意味は、「初心者にとってどんなにむずかしくても、それ以上のハンデの考慮はしないよ」、という意味と解釈すればよいだろう。
 最低値は 55 で、そのようなコースが実在するかどうかはわからないが、それは、どんな初心者がプレーしても上級者と差が付きにくいコース、ということになる。極端なたとえをするならば、全ホールが 10センチのパッティング、というコースがあったとするならば、だれがやっても差が付かないことになるが、スロープが最も低いと査定された現存コースがどのようなコースなのかは興味深いところだ。

 ちなみにスロープが一番高いコースは、ハワイにあるコオラウGC といわれており、USGA の算定ではリミットいっぱいの 155 となっている (「むずかしいコースほど格が高い」 と見られがちなためか、同コースのスコアカードには 162と印刷されているという)。
 参考までにラスベガス近郊ではウルフクリークGC (写真右) が 154 となっており、これは全米で三番目に高いとか。
 くどいようだが、これらコオラウやウルフクリークは、プロにとってむずかしいというわけではない。あくまでも 「初心者になればなるほどスコアを崩しやすい」 ということだ。

 日本では、職場の社内コンペなどの際、スロープを考慮に入れてハンデを決めている幹事などまずいないだろう (そもそも日本ではスロープレートがあまり普及していない)。
 だが今回の知識で、それではまずいことがわかる。たとえば大学ゴルフ部出身の新人社員がハンデ 3、課長がハンデ 10、部長がハンデ 20、社長がハンデ 30 で、どこのコースでもこのハンデを適用していたのでは、大池CC では新人社員が優勝し、三百CC では社長が優勝してしまう。スロープという概念の存在を知れば知るほど、現在の日本のハンデシステムの矛盾が浮き彫りになってくる。

 さてラスベガスで個人でゴルフを楽しむ際の難易度 (コース選び) を考えるとき、どのようなことを考慮すればよいか。重要なことは、大多数のゴルファーにとってコースレートは意味がない、ということだろう。すでに何度も述べた通り、コースレートはあくまでもハンデ0の人のための指標だ。ましてや自分が利用しない最もうしろのティーからのコースレートなどまったく意味がない。
 一番現実的なのは、コースレートではなく、自分が使用するティーからのスロープレートだろう。具体的には、中級ゴルファーにとっては合計 6500ヤード前後のティーからのスロープレートということになるのではないか。ラスベガスのコースの場合、一般的には 「うしろから2番目のティー」 がそのティーに相当する。そこからのスロープレートが大きいコースを選べば、スリリングで戦略的なプレーを楽しめるだろうし、逆に小さいコースを選べば、自己ベストなどをねらえるかもしれない、ということになる。ちなみにラスベガスの主要コースにおける 「うしろから2番目のティー」 からのスロープレートは以下の通り。

CourseS/RC/RYardPar CourseS/RC/RYardPar
Wolf Creek13870.9643672 Bears's Best13071.3662872
Rio Secco13874.0694672 Legacy12871.5674472
Reflection Bay13573.2686272 TPC Canyon12870.9677271
Paiute (Wolf)13473.5700972 Bali Hai12570.2660171
Falls13272.6687272 Angel Park (Mountain)12570.2622371
Royal Links13171.2660272 LV National12170.2641871
Boulder Creek13073.2707272 Rhodes Ranch12071.1645572
Primm Valley (Desert)13071.3654072Desert Pines11266.8646471

 前述の Wolf Creek はこのティーからでも 138 と、距離を考えると突出してむずかしい (アマチュアにとって) ことがうかがえる。ちなみに今回の全米オープンの会場となったシネコックヒルズの 「うしろから2番目のティー」 のスロープレートは 133 だ。

 さて余談になるが、「このあいだ行った○×ゴルフクラブ、すごくむずかしいんだよ。あんなむずかしいコース見たことがない」 などと、自分が体験したコースのむずかしさを誇張する者をよく見かける。特に自分がメンバーのコースは必ずといってよいほど 「むずかしいコース」 になる。
 「オレのコース、すごくむずかしいんだよ」 と言われた相手は往々にして、「いや、知らないかもしれないけど ○△カントリークラブの方がもっとむずかしいと思うよ」 となるのだが、多くの場合、両者の間で両方のコースにおける体験的な接点がないためか、「へぇー、あっそう」 という返事すらないまま会話が途切れ、真相はうやむやのままとなる。
 「むずかしいコース = 格調が高いコース」 という暗黙の図式が定着してしまっているため自分のコースの方がむずかしいと主張したくなるのかどうか知らないが、よく考えるとおかしな現象だ。なぜならその種の話を集めていると、世の中のすべてのコースはむずかしいコースばかりで、簡単なコースがほとんど無くなってしまうからだ。
 「むずかしい」 という言葉が、他の物と比較しての相対論として使われるべき言葉とするならば、世の中の半分ぐらいは 「簡単なコース」 も存在していないとつじつまが合わないことになるが、現実には、自分のコースを 「簡単だ」 とまわりに言いふらしている者はいまだかつて見たことがない。仮に本人が 「簡単だ」 とひそかに認識している場合でも、黙っているのが普通のようだ。
 日本にもスロープレートが広く定着すれば、少なくともアマチュアゴルファーに対する難易度の議論は多少なりとも客観的なものとなり、その種のバカげた自慢話は減るかもしれない。

 最後に、そんな合理性のあるスロープレートだが、これがなぜかアメリカ以外の国ではまだあまり普及していない。「イギリスでは R&A が USGA に対するプライドやメンツのようなものがあって導入しないのではないか」、といった噂も聞く。
 またその一方で、「USGA 側が、スロープレートというアイデア自体に著作権のようなものを主張したがる傾向にあるためアメリカ以外では普及しにくい」、という話もときどき耳にする。
 この種の動きはたえず変化するものなので、現在各国のゴルフ協会の動きがどうなっているのかわからないが、なにごとにおいてもアメリカに追随する日本のこと、遅かれ早かれ普及することだろう。
 ただ、このスロープレートの査定作業には時間と労力がかなり必要らしく (USGA は各コースの査定に丸二日かけているとのこと)、その公平な査定能力の会得や経費の問題なども含めて、導入国側にとっては解決しなければならない問題が少なくないようだ。

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