週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2003年 12月 17日号
Steve Wyrick、"中央進出" を果たすも、会場に難あり
 12月 11日、人気マジシャン・スティーブワイリックがとうとうセンターストリップでのデビューを果たした。場所は、ストリップ地区のド真ん中ともいえるアラジンホテル。今週は、ついに "中央進出" に成功した彼の新作ショー "STEVE WYRICK Mind Blowing Magic" を取材してみた。

 かつて若手新鋭マジシャンとして注目を集めていたワイリック氏は、その実力を評価されながらも、1999年末までは、ダウンタウン地区の裏通りに面したレディーラックホテルの仮設テント型ステージで下積み公演を続けていた。場所もさることながら、その場末風の会場は、ゴージャスというイメージからはほど遠く、実力者である彼にとってはさぞかし不本意だったに違いない。
 そんな彼も努力が実ったのか、その後サハラホテルへの移籍に成功し、大型専用ステージを持つまでに大躍進した。が、いかんせんロケーションが悪く (サハラはストリップ地区ではあるが、中心街からほど遠い)、約3年間、立地条件のハンデを背負いながらの苦しい公演を余儀なくされた。

 今回の復活劇は、そんなサハラ公演を今年の8月に打ち切っての中央進出だが、未来に対する期待やご祝儀ムードとは裏腹に、これからが正念場といった感じがしないでもない。
 ロケーション的にはこれでゴールに達したことになるが、スーパースターがひしめくこの激戦地区での安定的な公演は決して容易ではなく、ここで確固たる地位を築かなければならない今の彼の立場を考えると、今回始まった公演は楽観や予断を許さないばかりか、やや不安すら感じる。

 このショーを観て誰もが感じる第一印象は、「ショーの内容自体はまずまずだが、会場がよくない」 ということに尽きるだろう。地理的条件こそ最高だが、とにかく客席もステージも構造的な問題が多すぎ、一流ショーをめざすにはあまりにも心もとない。すべては天井の低さに帰因している問題だが、これでは観客も役者もかわいそうだ。
 ちなみに、今回の専用ステージ (約 450席) が設けられたアラジンホテルの 2階は、もともとはレストランやバンケットのためのフロアで、ステージへの改造そのものに無理があったように思える (これまでにも簡易劇場に改造されたことはあったが)。特に、歌やダンスのショーならいざ知らず、大がかりな装置を必要とするマジックショーならなおさらのことだ。

 とにかく客席フロアに傾斜がほとんど無いため、前の人の頭がじゃまになりステージがよく見えない。天井の高さが一般のオフィス程度しかないため、後方の座席をもっと高くしたくてもそれはできず、改善の余地がない。フロアの傾斜がない劇場は他にもあるが、その場合ステージの位置が高いのが普通だが、この会場のステージは異常に低い位置に作られており、これがさらなる問題を生んでいる。ステージを低くしないと小道具などが天井にぶつかってしまうのでやむを得ない部分もあるが、目線よりも低いため最前列の座席以外からはステージの表面がまったく見えず、前の座席の客が長身だったりした場合、役者の下半身が完全に視界から消える。
 一般的にはステージは低い方がその表面がよく見えるものだが、ここでは違う。この状況をわかりやすく説明するならば、飛行機の中で映画を見ている状態で、前の座席越しに見える正面のスクリーンが通常の位置よりかなり低い位置に設置されている状態を想像するとわかりやすいだろう。

 それだけステージを低くしても、天井までの距離はごくわずかで、サハラ時代にやっていたオートバイを天井に吊り上げて消すような上下のスペースを必要とする大規模なイリュージョンはもはやここでは行なわれていない。その分、観客から借りた指輪や紙幣で行なうトリックなど、小技系のマジックが目立つ。
 その他の一般のマジックは、サハラ時代とほとんど同じだが、それでもスペース的な制約に対する苦心が至るところでうかがえ、かつての彼のショーを知る者にとっては興味深い。たとえば、回転ノコギリで胴体が切られる前に緊急脱出するというイリュージョンでは、ノコギリ自体の刃の並び方や設置方向などを旧バージョンと大きく変えてある。
 それら大型装置を出し入れする際、天井にぶつからないよう裏方さんが苦労している場面を見ていると、マジックそのものよりもハラハラしたりするのは皮肉というものか。
(右上の回転ノコギリの写真は、旧バージョンのもの。現在のバージョンのメディア向け写真はまだ広報部が準備中)

 豪快かつ荒削りなマジックが彼の持ち味だっただけに、狭いステージに押し込まれてしまった彼が気の毒でならないが、その一方で、なぜそんな会場を選んだのか、理解に苦しむ部分もある。もちろんそれなりの理由があってのことだろうが、とにかく、ロケーション的には "大出世" といえる今回のアラジンへの移籍も、会場的には "左遷" といった印象はぬぐえない。
 ちなみに同ホテルは来年プラネットハリウッドホテルに変わることになっており、それにともなう改造を機会に、将来的にはこの会場も広くなるとの話もあるが、それまで現状の施設でどうやって演出するか、関係者の腕の見せ所だ。
 語学力不要なマジックショーは、日本人を始めとする海外からの観光客にとって貴重な存在といえる。Siegfried & Roy が姿を消した今、ひとつ減ってしまったマジックショーを補強する意味でも、とにかく頑張ってもらいたいものだ。

 場所はアラジンホテルのカジノフロアの上にある Mezzanine Level。公演は火曜日を除く毎日 7:00pm と 10:00pm。チケットは全席指定で、料金は $65.95 (税込)。なお、$20 高い VIP Package というチケットもあるが、それは記念品や、会場に隣接する Steve Wyrick Magic Shop での商品券が付いてくるもので、座席の位置とは特に関係ない。
 チケット販売窓口は、同ホテルが誇る座席数 7,000席の巨大劇場 "Aladdin Theatre for the Performing Arts" の正面入口前のボックスオフィス。問い合わせは 702-785-5000 まで (英語のみ)。



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