週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2003年 09月 03日号
もうひとつの絶景スポット・ザイオン国立公園
 ラスベガスから車でわずか 2時間半の場所に、全米有数の絶景スポット、ザイオン国立公園がある。暑さが一段落するこれからの季節がまさに旬だ。

 圧倒的知名度を誇るグランドキャニオンの陰に隠れてしまっているのか、このザイオンを知る日本人観光客は意外と少ない。航空機を利用した手軽なツアーがたくさん存在しているグランドキャニオンと違い、主要なアクセス手段がレンタカーしかないということも、日本人観光客を遠ざけている理由のひとつなのかもしれない。
 今週は、そんなザイオンに簡単に行ける 「日本語ガイド付き日帰りザイオンツアー」 というものに参加してみたので、体験レポート形式で、ザイオンのすばらしさを紹介してみたい。

 出発は朝の6時半。宿泊ホテルで待っていると、日本人のガイドが定刻通りに現れる。元気のいいさわやかな若者だ。
 この日の参加者 12人を乗せたバンは、そのままフリーウェイ 15号線を北上。ラスベガスのホテル街を出てわずか 15分もすると、周囲の景色は一面の砂漠だ。
 地平線のはるかかなたまでまっすぐに伸びたフリーウェイを走ること約1時間半。バンはユタ州へ突入し、まもなく現れるセントジョージという町を抜ければ、めざすザイオン国立公園はもうすぐだ。

 ザイオンが国立公園に認定されたのは、古く 1919年。ここは中央を流れるバージン川の浸食によりできた巨大な渓谷で、広さは約 600平方キロメートル。
 渓谷の深さは低いところでも 1128メートル、高いところになると 2660メートルもあるという。
 約 600万年前から大地が少しずつ隆起して出来たとのことで、露出している岩肌はそれよりもさらに古く、2億年近く前のジュラ紀の地層も見ることができるという。

 上から渓谷を見下ろすグランドキャニオンとは異なり、ザイオンは谷底から岩山を見上げる格好になっている。そのため、ともするとあまりの巨大さにその大きさを実感しにくいグランドキャニオンに比べ、こちらは同じ渓谷でもかなり親しみやすい。また、間近に切り立つ岩山を見るだけではなく、岩肌にじかに手で触れ、足で踏みしめ、岩間に咲く花の香りをかいだりと、自然を "体験" できるのも、ここザイオンの特徴だ。

 途中休憩もあり、ザイオン到着は 9時半。ツアーの一行は、ザイオンの歴史、生息する動植物、この地に暮らしたネイティブ・アメリカンの生活や文化を紹介する Zion Museum を見学した後、バンから公園内を循環するシャトルバスに乗り換え、渓谷内を見て回る。
 このシャトルは 2000年 5月から、排気ガスを削減する目的で国立公園管理当局が導入したもので、運行は毎年 4月から 10月のハイシーズンのみとなっている。したがって、この期間は一般車両の乗り入れが禁止され、シャトルに乗り換えなければならないことになるが、運賃は無料で約 10分おきに運行しているため不便を感じない (右の写真に写っている一般車両は、公園内のロッジに宿泊している者の車両。宿泊者は自家用車での進入が許されている)。なお、オフシーズンは一般車両の乗り入れが可能となるため、このツアーにおいてもシャトルに乗り換える必要がなくなる。

 車窓からの眺めは、渓谷の奥へと進むにつれ、ますますダイナミックになっていく。しばらくすると、アブラハム、イザク、ジェイコブ(ヤコブ)と、聖人たちの名が付けられた神々しい岩山が見えてくる。ザイオンの岩山には、この他 「天使が降り立つ地」 の意のエンジェルズ・ランディングなど、宗教的な名が冠せられているものが多い。
 ちなみに、ザイオンというのは 「平和の地」 の意。19世紀にこの地の存在を知ったアメリカ人たちは、周りを取り囲む巨大な岩山からまっさきに 「神」 を連想したのだろう。たしかに、威厳に満ちながらも人々を包み込む優しさと温かさを感じさせる大自然をまのあたりにしていると、さもありなん、という気がしてくる。

 さて、一行はシャトルバスの終点、Temple of Sinawava で降りると、いよいよ初のトレッキングに挑戦だ。ちなみにこのツアーでは、全部で 3カ所のトレイルを歩くことになっている (体力に自信がない者は、出発地点で待機していてもよい)。
 最初のトレッキングコースは、バージン川沿いを歩く、その名も Riverside Trail。片道約 1.6km のコースだが、標高差はわずか 5メートルなので、老若男女、体力に自信がない人でも無理なく歩け、トレッキングコースとしてはかなり初心者向けだ。それでも、左手に清らかに流れるバージン川、右手には巨大な岩山がそびえており、文句なしの絶景を楽しむことができる。

 野生動物も時折観光客の前に姿を見せ、シマリスはそれこそ何匹も見ることができ、また、目を凝らせば岩の上をトカゲが這っていたりする。さらに、運が良ければシカやピューマを目にすることもできるという。ただし、ピューマは人を襲うこともあり危険なので、必ずしも 「運がいい」 とは言えないが、その種の危険動物に遭遇した際の対応方法は同行のガイドがきちんと説明してくれるので安心だ。
 Riverside Trail の先には、Narrows が続いている。これは、高さ 300メートル超の絶壁に両側を挟まれた、幅の狭い谷底を川伝いに歩くコースだ。川に入りざぶざぶ進むため、暑さが残るこの時期は気持ちいいに違いない。「違いない」 というのは、取材当日は鉄砲水の危険が高く、川の奥に進むことができなかったため。

 再びシャトルに乗り移動すること約 10分。次のトレッキング地は Weeping Rock。「すすり泣く岩」 という、なんとも薄気味悪い名前の地点をめざすことになるが、ここはトレッキングと呼ぶにはあまりに短いコースで、あっという間に目の前に、文字通り涙を流す巨大な岩が現れる。
 ザイオンでは、岩山のあちこちで岩清水がしみ出す様子を目にすることができるが、この Weeping Rock からはかなり大量の水がしみ出す、というより 「噴き出す」。
 ガイドの指示に従い、その侵食でできた岩間に入り込むと、頭上を滝のように水がしたたり、まるで雨宿りをしているかのような格好になる。ちなみに目の前に落ちて来る水は、はるか 1200年前に降り積もった雪が解けて、巨大な岩の中をしみ通って出てきたものだという。そう聞けば、1200年前の水はどんな味がするか、と飲んでみたくなるのが人情というものだが、動物の死骸などが存在する地点を通過した可能性もあるため、衛生的には問題があるとのこと。味見は諦めたほうがよさそうだ。

 続いて、ザイオンロッジで昼食。ハンバーガー、サンドイッチなどの軽食メニューから、各自好みのものを選んで食べる。人里離れた地でグルメなランチは期待できないが、芝生に座り、巨岩に囲まれ、ピクニック気分を味わう食事は格別だ。

 ランチの後は、1930年に完成したという長さ 1.7km のトンネルを抜け、いよいよ最後のトレイル、Canyon Overlook Trail へ向かう。Canyon Overlook Trail は、ザイオンでは珍しく上から谷底を見ることができる貴重なトレッキングコースで、長さは 1.6km とそれほど長くないが、高低差が 50m あるため、体力的にはここが最もキツイ。それでも他の初心者向けトレイルと同様、登山用シューズなどは不要で、スニーカーで十分だ。運動不足で体力に自信がないという人でも、まず問題なく登れるだろう。
 このトレイルは崖っぷちに作られているため、「ここで落ちたら即死間違いなし」 というスリリングなスポットもいくつかある。初心者でも気軽に歩けるトレイルとは言え、注意が必要だ。足もとを見ながら無理せず、ゆっくり慎重に登るのが肝要だろう。
 このトレイルの終点には展望台が設けられており、胸を衝くような見事な景色をのぞむことができる。赤、黒、茶、白、そして紫がかったブルーなど、自然が作り出したとは思えないほどカラフルで美しい岩肌、そして谷底に広がる豊かな緑がどこまでも続く様子は、日本では決して見ることのできない雄大で荘厳な光景だ。

 ザイオンはときに神々しく、ときに穏やかに、そしてときに荒々しく、自然の偉大さと恐ろしさ、そして優しさを我々に感じさせてくれる。グランドキャニオンに比べると地味な存在ながら、グランドキャニオンとは一味もふた味も違う、もうひとつの壮大な自然がここにある。ザイオンはまた、春には咲き乱れる花々、夏には青々とすがすがしい緑、秋には紅葉、冬には白く輝く岩々と、四季ごとに異なる美しさで我々を迎えてくれる。ラスベガスを訪れる観光客には、ぜひ足を伸ばしてもらいたいところだ。


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