週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2003年 07月 30日号
豪華な内装とオリジナル料理で話題の Prana
 ラスベガスは今、ちょっとしたアジア料理ブーム。日本、中国、タイなどのアジアの味を独自のスタイルでアレンジした、クリエイティブなレストランが続々登場している。
 ユニークなアジア料理店のなかでも、豪華なインテリアと凝った料理で話題になっている店がある。先日オープンしたフレンチベトナミーズの店、Prana (サンスクリット語で 「生命の息吹」 の意) だ。
 場所は、プラネットハリウッドによる買収でまもなく名前が変わろうとしているアラジンホテルのデザートパッセージ内。

 同店はサンフランシスコとビバリーヒルズにある高級店 Crustacean の姉妹店。フランスとベトナムの料理を巧みに融合させた、オリジナリティー溢れる料理で知られ、なかでもビバリーヒルズ店は大物セレブが集まることでも有名。西海岸の食のメッカ、サンフランシスコとビバリーヒルズの超人気店が、遂に今回ベガスに登場したことになる。

 Crustacean、Prana のオーナー兼エグゼクティブシェフの名はヘレン・アン (右側の女性は長女でゼネラルマネージャーのエリザベス・アンさん)。
 彼女、清王朝の 「ラストエンペラー」、溥儀帝も顔負けのユニークな経歴の持ち主なので、ここでその数奇な半生を紹介しよう。
 ベトナム王室の一員として生まれた彼女、30代半ばまではサイゴンにある宮廷で何の不自由もない生活を送っていた。しかし、1975年のサイゴン陥落で、彼女と夫、そして3人の娘は何もかも失ってしまう。命からがらベトナムを脱出、サンフランシスコに移った彼らは、「生活のために」 と小さなベトナム料理店、Thanh Long を始めた。
 サイゴンの宮廷には何人ものコックが遣えていたため、料理などしたことがなかったヘレンさんだが、子供の頃から超一流の料理だけを食べて育ったこともあり、味覚には絶大な自信があったという。幸い、舌に刻まれた記憶を元に、王室が選んだ一流シェフの味を再現した料理は大人気に。
 そして、91年にはゴージャスなインテリアの中、ベトナムとフランスの味を融させたクリエイティブな料理を提供する Crustacean をオープン、97年にはビバリーヒルズに姉妹店をスタート。アン一族の成功物語のスタート地点となった食堂 Thanh Long も今ではエレガントな高級店に様変わりしている。

 運命のいたずらに翻弄されつつも、見事セレブシェフの仲間入りを果たしたヘレンさんが、新たな挑戦を求めて始めたのが、この Prana。
 それでは、3階建て 2万スクエアフィート (1850平方メートル) の広い店内を、順に案内していこう。

 1階はバーエリア。中央の橋で2つに分けられ、橋の右手は "レッドバー"、左手は "ロータスバー" と名づけられている。ステージも設けられ、週末の午後 10時以降にはジャズなどの生演奏が行われるほか、竹でできた赤い床は深夜には ダンスフロア に変わる。
 2階はメインダイニングだ。上質なシルクでカバリングされた ブース席が、ゆったりと豪華な雰囲気。ヨーロピアンスタイルのファブリック と、アジアスタイルのシャンデリアを組み合わせたところも、フランス統治下のベトナム風でなかなかお洒落だ。

 しかし、これぐらいで驚いてはいけない。この店の最大の見せ場は 3階の VIP専用ダイニングなのだ。
 中国やベトナムから取り寄せたアンティーク家具や 贅沢な調度品で飾られた3階には、ゴージャスながらもどこか退廃的で 怪しいムード が漂う
 それもそのはず。中央に鎮座しているのは、ベトナムから取り寄せた "阿片ベッド" なのだ。
 今から 100〜200年前、中国や東南アジア諸国に暮らす特権階級の間で大流行したドラッグ、阿片。ここには、彼らが夜な夜な、イケナイ遊びに使った専用ベッドが置かれているのだ。ベッドは中央をくりぬき、ダイニングテーブル&チェアにアレンジ。全部で5つあり、それぞれ VIPのためのプライベートな空間を演出している。

 その他、個室 も 3室あるが、どれも1階のバーエリアを見下す専用バルコニー付き、という豪華さだ。
 しかも、インテリアデザインがすべて、今アメリカでも大流行中の風水に基づいているというから驚く。家具や調度品のひとつひとつが、地、水、風、火を象徴、エネルギーの流れを配慮して配置されているというのだ。ただ美しく贅沢なだけでなく、意味のあるデザイン。ベガスにインテリア自慢の店は数あれど、ここまでこだわっている店は少ない。

 では、インテリアの話はこれぐらいにして、肝心の料理を紹介しよう。まず、今回試食した前菜は 「ハマチの刺身・レモン皮風味ドレッシング添え」、「牛肉のカルパッチョ」 の2品。新鮮なハマチはほんのり甘く、さわやかなドレッシングとの相性も抜群。カルパッチョは生の牛肉に砂糖をかけ、軽く火であぶった、という手の込んだものだが、これも砂糖を使うことでベトナムのエッセンスを加えたということだろう。これは日本人好みの味だ。
 続いて 「ビーツ、ルッコラ、グレープフルーツのサラダ」 と 「グリルしたアスパラガスのサラダ」 の2種類のサラダを試してみた。前者はロースト、ゆでたもの、生と、ビーツを 3種類の調理法で食べさせるという、これまた凝ったもの。後者は旬のアスパラガスにベトナムのハーブを添え、ざくろ入りのドレッシングで食べる、というユニークな料理だ。
 メインコースは 「コロラド産子羊のロースト」 と 「ハワイ産オナガのソテー・マカダミアナッツ、マンゴ、ゴートチーズ入りリゾット添え」を食べてみた。
 「子羊のロースト」 は、周囲にまぶしたハーブがさわやか。「オナガのソテー」 は、外側パリパリ、中ふんわりの絶妙な焼き加減。添えられたリゾットは、マカダミアナッツにマンゴ、おまけにゴートチーズを入れる、という大胆というより無茶な料理なのだが、これが不思議な美味しさ。あっさりとした魚を、複雑な味のリゾットが引き立てている。

 と、ここまで読んでいただければおわかりのように、同店の料理は Crustacean のフレンチベトナミーズとは一味もふた味も違っている。イタリアのリゾットにハワイの魚やナッツ、おまけに日本の刺身まで持ち出すという、無国籍料理なのである。そして、ベトナム人シェフならではの持ち味は、ベトナムで多用されるハーブを添えたり、隠し味に魚醤を加えたりすることで発揮。ベトナムとイタリアの味をミックスするなど、とんでもなく強引な試みに思えるのだが、これを成功させているあたりはさすが、と言わざるをえないだろう。
 しかし、「そんな凝った料理ばかりじゃ疲れてしまう」 という人もいるだろう。そんな人には、ヘレンさんが 30年間、変わらぬ味を守り続けているクラステシアン名物、「車エビのロースト・ガーリックヌードル添え」 がお薦めだ。マリネしてローストしたエビに、ガーリック風味のヌードルを添えた、というシンプルな料理だが、これが後を引く美味しさ。特にヌードルの味付けは絶妙だ。

 というわけで、ベガスの新顔 Prana は、インテリアも一見の価値あり、料理もうまい、ということなしの名店なのだが、ひとつだけ気になる点がある。それは料金設定だ。
 前菜、サラダはいいとして、メインコースが1品40ドルを超えるというのは、アメリカでは最高値クラス。ビバリーヒルズ店で $34.95 の 「車えびのロースト」 が、ここで一気に $42 に跳ね上がるのは気になる。前菜、サラダ、メインにデザートと食べ、ワインの1本もあければ、税金、チップ込みで、軽く1人 $100 は超えてしまうので、出かける前にはそれなりの覚悟が必要だが、「うまいものには金にいとめはつけない」 という者であれば、目にも舌にも贅沢なひとときを満喫できるだろう。場所、営業時間などは以下の通り。

Prana
3663 Las Vegas Blvd. South, Suite 570、 (デザートパッセージ内)
電話:702-650-0507
ディナー: 月〜木 5:30PM〜10:30PM、 金・土 5:30PM〜11:30PM
レイトナイトタパス (メニューはつまみ程度) : 金・土 11:30PM〜1:00AM、
バーの深夜営業: 金・土 11:00PM〜4:00AM


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