週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2003年 06月 04日号
トレジャーアイランドの消滅が意味するものは?
 いよいよトレジャーアイランドが消えることになった。といってもホテルそのものが消えるわけではない。呼称が変わるだけだ。新しい名前はなんと TI で、この夏から秋にかけて登場するという。
 フルネーム"Treasure Island" がイニシャルの "TI" に変わるだけのこの変更が意味するものは何か? 今週はこの不可解な名称変更についてさぐってみたい。

 見かけはわずかな変更でも、看板、印刷物、館内の物品など、その刷新に伴う経費は決して少なくないはずだ。あの巨大なドクロの看板も解体され、新たなものに置き換わるという。
 業績が極端に落ち込んでいるわけでも、買収や身売りなどでオーナーが変わるわけでもない。なのになぜこの時期に名称変更をする必要があるのか。今年が同ホテルにとって開業十周年目という節目の年ではあるものの、それだけが理由であるはずもない。

 実は今回の名称変更の意義は、同ホテルにとってもラスベガスにとって小さくないようだ。同ホテルにとっては "過去の一掃"、ラスベガスにとっては "テーマホテルブームの終焉" を意味する、と多くの業界関係者は見ている。

 過去の一掃が目的であるならば、まったく別の名前にすべきようにも思えるが、そうでもないらしい。そのへんについては社長の Scott Sibella 氏が地元メディアで次のように語っている。
 「まったく新しい名称にすると "元トレジャーアイランドの○×ホテル..." と呼ばれることになり、何かと不便。TI ならば特に変更を意識してもらう必要はなく、不便も混乱も生じない。また、まったく新しい名称はこれまでに築いたソフト的資産の良い部分を切り捨てることにもなりかねず、好ましいことではない。そして今回の名称変更の最大の目的は、単語として意味を持たない名称にすることであり、その点において TI は最高の選択」
 その後のホテル側の発表などをまとめると、なにやら "テーマをなくすことが今後のテーマ" で、ホテル名から何かをイメージさせるような名称はもはや避けたいらしい。

 たしかにテーマホテルの問題点は数年前から指摘されていた。何をやるにもそのテーマに束縛され、幅広い事業展開ができないからだ。たとえばエジプトがテーマなら、すべてのものをエジプトに関連づけなければならず、新たな施設などを建設する際にそのテーマが足かせとなる。
 問題は施設的な部分だけにとどまらず、マーケティング的な部分にもあるようだ。たとえばそのテーマに関心を持たない者やマイナスのイメージを持つ者に対して、テーマの存在は逆効果となりかねない。奇しくも昨今のテロ事件やイラク戦争で、その種の問題が露呈してしまった。アメリカ人の間で起こった反フランス運動や、アラブ諸国を敬遠する動きが、パリスホテルやアラジンホテルの経営に少なからず影響を与えたという。

 多くのテーマホテルが国や地域などをテーマとしているのに対して、トレジャーアイランドは "宝島" という極めて特種な対象物をテーマとしてきただけに、テーマによる束縛という弊害は他のホテルよりも大きかったようだ。
 さらにそのテーマから来るイメージがおとな向けではなかったことも問題を大きくしており、Sibella 社長は、
「宝島のようなディズニーランド的なテーマでは、子連れファミリーや遊び心あふれる客以外は集めにくい。さらにそのテーマを目的に集まる客はリピーター客になりにくい。今後は TIへの名称変更で宝島のイメージを払拭し、おとな感覚のホテルに変えていく」 と語っている。
 少々下品な表現になるが、日本の事情をよく知るホテル業界の者が今回の名称変更の背景を以下のように語っていたのは興味深い。
「日本のラブホテルにおいて、テーマを持つ部屋に泊まりたいと思う者はいくらでもいるが、同じテーマの部屋に何度も泊まりたいと思う者はいないはずだ。リピーター客はテーマがない部屋を好むだろう」
 この推論が正しいかどうかは別にして、現在のトレジャーアイランドの経営陣はそれと似たようなことを考えているといってよいだろう。

 では現在のトレジャーアイランドの生みの親であるホテル王・Steve Wynn 氏のアイデアは間違っていたのだろうか。それはそうでもないようだ。10年前の開業当時はテーマホテルがまだ珍しく、テーマを持つことがトレジャーアイランドの業績に大きく寄与したことは疑う余地がなく、多くの関係者は Wynn 氏を高く評価している。つまり、たまたまテーマホテルが乱立してしまった今は、時代遅れとなってしまったということだろう。
 その Wynn 氏も、テーマを持つことのマイナス効果をすでに認識しているようで、現在自身が建設している大型ホテル Le Reve (2005年春開業予定) には特にテーマを持たせないという。どうやら今後のラスベガスは 「脱テーマ」 がトレンドとなりそうだ。

 なお今回の経営方針の変更にともない、現在同ホテル前で行なわれている海賊船ショーは、独立記念日の連休の最終日となる7月6日を最後に打ち切られることが決まっている。
 それに代わる新たなショーは、セクシーな美女たちが多数登場するアダルト向けの内容に一新され、10月26日から始まる予定で、すでに名物振り付け師 Kenny Ortega 氏がその内容をアレンジしているという。
 なお現在のショーで使われている池と船はそのまま流用され海賊船のイメージも残されることになるようだが、それはたまたま既存施設を有効利用するためのものであり、海賊船を従来のようにホテル全体のイメージとして位置づけるようなことはしないとのこと。
 また前述のドクロの大看板は、もはやホテルの内部やコンセプトを代表するものではなくなってしまったため、まもなく撤去されることになるが、消滅を惜しむ声が高いことから、ダウンタウンのネオンミュージアムでの展示が検討されている。
 ホテル内部の変更はすでに始まっており、ほとんどの場所から海賊をイメージするものは取り除かれ、おとなのイメージのホテルへの改良工事は急ピッチで進められている。この秋にはまったく新しいコンセプトのホテルが誕生しそうだ。


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