週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2018年 07月 04日号
高級レストランも朝営業、成功するかどうかは微妙
高級レストランのブランチ  高級レストランも日曜日にブランチをやり始めるかもしれない。今週は、そんな新たなトレンドについて取り上げてみたい。
 ブランチ(brunch)とは、もちろん朝食であるブレックファスト(breakfast)と、昼食のランチ(lunch)の合成語。もともとの意味としては、朝でもない昼でもない中途半端な時間帯に食べる食事のことだったようだが、はっきりした時間帯の定義などがないためか、飲食業界ではブランチメニューを提供するいわゆる「ブランチタイム」を、午前9時ごろから午後2時ごろまでに設定しているところが多い。午後2時といったらランチタイムよりも遅いことになるが、そのへんは柔軟に考えているようだ。
 だとすると、正午前後の時間帯は「ランチメニュー」「ブランチメニュー」がぶつかってしまうのではないか、と気になったりもするが、それは心配無用だ。
 なぜなら「ブランチ」とは、一般的には特に曜日の定義などはないものの、少なくともラスベガスのホテル内の飲食業界においては、「ブランチは日曜日」という暗黙の了解があるからだ。
 つまりブランチメニューを提供している店では、日曜日の昼前後の時間帯にはランチメニューがない。その時間帯はすべてブランチタイムという扱いになっている。(日曜日以外にもブランチをやる店がまったくないわけではないが)

高級レストランのブランチ  ブランチそのものに関する説明はそのへんにして、一般的にホテル内の高級レストランは「ディナータイムだけ営業」という店が多い。ときどきランチタイムもやっている店も見かけるが、朝からオープンする高級店はまずない。(写真は後述する、今回取材させてもらった Asteria COSTA のキッチン)
 一方、人は原則として1日3食なので、朝食の需要は夕食と同様、確実にある。この需要と供給のバランスの差はどうなってしまっているのか。
 たとえば、ホテルの館内に 20軒の飲食店があったとして、そのうちの 7軒は「夜だけ営業」であるとするならば、朝食や昼食の需要に対して、供給がいちじるしく不足してしまう。もしくは逆に、13軒で朝食や昼食の需要を十分に満たしているとした場合、ディナータイムの 7軒は供給過剰になりかねない。

 実はこの需給バランスの調整、朝は客室内のルームサービスで食事をする人もいるという理由も多少はあるだろうが、ラスベガスならではの事情も大きく影響しているようだ。
 それは、通常の朝食の時間帯に朝食を食べる者が少ない、ということ。一般的な都市のホテルにおける宿泊者は、朝になればきちんと起きて朝食を取り、観光であれビジネスであれ、すぐに予定していた行動に取りかかる。昼になるまで寝ているといったことはまずない。
 一方、ラスベガスでは、ナイトショー、カジノ、ナイトクラブなど、夜遅くまで遊ぶのが当たり前で(特にナイトクラブは早朝3時すぎまで盛り上がっている)、結果的に「朝はゆっくりしたい」という行動パターンになりがち。そうなると当然のことながら、朝食の需要は他の都市のホテルと比べると落ちることになる。

 ところが、日曜日の朝だけはそうとも限らない。週末をラスベガスで滞在した人たちが、帰る準備のために早起きして、チェックアウトの前に朝食を食べたいと考えるからだ。
 もちろん平日など他の曜日でもチェックアウトする者はたくさんいるが、その曜日をまたいで滞在する人も多くいるわけで、ほぼ全員がチェックアウトする日曜日とは状況が異なる。
 さらに日曜日は、3分の1ぐらいの滞在者にとっては、絶対にゆっくり寝ていられない事情がある。渋滞を避けるためだ。ラスベガスを訪れる観光客の3割以上がロサンゼルス地区から陸路でやって来る人たちといわれており、彼らにとっては、帰路における高速道路の渋滞を避けるためには早めの行動が求められる。

 そんな事情もあり、日曜日の朝は、他の曜日と比べて昼まで寝ている人は少なく、朝食の需要も相対的に高まるわけだが、そこに目を付けたのが MGM 社の飲食部門だ。
 これまでは、食べ放題のバフェィ、カジュアルレストラン、ファーストフード店などが、早起き族に対して朝食を提供してきたが、日曜日に限っては、高級レストランにもビジネスチャンスがあるのではないかと考え、このたび同社の系列ホテル内にある直営店で、試験的にブランチ営業を始めることとし、その第1号に選ばれたのが、MIRAGE ホテル内にあるイタリアンレストラン Asteria COSTA だ。
 通常の営業時間は午後5時から午後10時30分までだが、日曜日に限って午前9時30分から午後2時まで店を開ける。朝からエビがたっぷり入ったシーフードスパゲティーなどを楽しめるほか、エッグベネディクト、パンケーキ、フレンチトーストといった朝食の定番メニューも用意されている。
 このような店の朝食営業は、店のグレードの幅に選択肢が増えるという意味で大いに歓迎されるべきことで、特に「せっかくラスベガスに来ているのだから、朝食もファーストフードじゃなくて、おしゃれなレストランで食べたい」という人にとっては朗報となるはずだ。

高級レストランのブランチ  とはいえ、「やはり朝から高級店に来る客は少ない。店を開けていても採算は取れそうもない」といった結論に至ってしまう可能性も否定できない。
 というのも、この COSTA のブランチ営業、約一ヶ月が経過した現在、かなり苦戦しているように見受けられるからだ。
 この写真の、向かって右半分が COSTA で、左半分がもともと朝食もやっている PANTRY というカジュアル店。20人ほど写っている人の行列はすべて左側の PANTRY の入口に並んでいる人たちで、写真ではわかりづらいが、右の COSTA 内には空席がかなり目立っている。
 入り口がとなり合わせになっているばかりか、朝の時間帯は重複しているメニューも少なくない両店。ちなみにエッグベネディクトやパンケーキなど、同じメニューに対する価格差は約2割程度だ。
 この差を大きいと見るか小さいと見るかは意見が分かれるところだろうが、価格に敏感な者が多いからか、利用者の数は決定的に異なっており、現時点において COSTA の朝営業の戦略が当たっているようにはとても見えない。現場で、COSTA の受付スタッフが、PANTRY に並んでいる人たちに COSTA のメニューを配っているのには笑えたが(両店はホテル直営のため経営的にはライバルというわけではない)、集客に苦労していることは間違いないようだ。

 高級店の朝営業が今後どんどん増えてくるのか、それとも失敗に終わってしまうのか、今の段階ではなんともいえないが、朝営業がトレンドになるとも限らない。高級店での朝食に興味がある者は、ベガスを訪問する前、もしくは滞在中にネットなどで、各高級店の営業時間を調べてみるとよいだろう。


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