週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2018年 02月 28日号
ドアノブの「起こさないで」の代わりになるものは?
Do not disturb  ホテルの客室のドアノブにぶら下げる「Do Not Disturb」
 直訳すれば「じゃまをするな」になるが、現実的な意味としては「起こさないでください」、あるいは「入って来ないでください」といったところか。
 ホテルによっては 「Privacy Please」、さらには「Sweet Dreams」などといった洒落た表現のふだを用意しているところもあるが、いずれにせよ客の意思表示としてはどれも同じで、「部屋に入って来るな」 だ。
 今週は、この何十年も前から続く、ホテル業界の習慣、つまり Do Not Disturb およびそれに類似するふだが無くなるかもしれない、という話。

Do not disturb  きっかけは、昨年10月にラスベガスで起きた銃乱射事件だ。
 犯人は高層ホテルの客室から、地上で開催されていた野外コンサート会場に向けて発砲。多数の死傷者が出てしまった。
 犯人はそのホテルに連泊している間、Do Not Disturb のふだを出し続け、従業員などに気づかれないようにしながら、複数の銃を客室内に持ち込み犯行の準備をしていたとされる。
 「清掃スタッフなどがひんぱんに客室内に入っていれば、悲劇は防げたかもしれない」というのが、今回の Do Not Disturb を無くそうという大きな流れの発端だ。
(あの事件においては、ルームサービスなどのスタッフが何度か犯人の部屋に入ったという証言もあるが、ここではその議論にはふれない)

Do not disturb  事件後、ラスベガスのみならず全米の多くのホテルが、この問題を重要視し、すでに対応策を表明しているホテルも出始めている。
 「Do Not Disturb のふだを出していても、48時間以上連続して部屋にこもり続けることはできない」としたホテルもあれば、その 48時間を 24時間にしたホテルもあるが、いずれにせよ、「Do Not Disturb のふだを出していても、清掃スタッフなどが部屋の中に入ることがあり得ます」ということを、チェックインの際にきちんと宿泊客に告知する、というのが対応策の主流になりつつある。

 これらのトレンドは、安全性が高まったように感じられるためか、多くの宿泊客はこの方針を好意的に受け入れているようだが、その一方で、現場の従業員などからは不評らしい。
 なぜなら、今までは、Do Not Disturb のふだが出ている部屋があれば、「清掃しなくて済む。ラッキー!」ということになったが、今後はそのようにはならないばかりか、チェックインの際の告知を見落とした客などから、「Do Not Disturb のふだを出しているのに、なぜ部屋に入ってきたんだ」 といったトラブルに巻き込まれる可能性があるからだ。

Do not disturb  そんな現場スタッフの不満を少しは解消できるかもしれない新たな対策も注目され始めている。「Do Not Disturb そのものを無くそう」 という動きだ。つまり宿泊客は Do Not Disturb をドアノブに掛けることが出来ない。
 この背景には、「部屋にこもり続けることができる時間を最長 24時間に制限したところで、武器の準備は可能」という現実論がある。
 であるならば、一歩進めて 「時間に関係なく、常にホテル側は客室内に入る権利を有してる」としたほうが理にかなっているというわけだ。
 有名どころでは、ディズニー系の一部のホテルが 12月から試験的にこの方針を導入し、つい先日、ラスベガスでもシーザーズ系のホテルが同様の方針を検討していることを明らかにした。

 とはいえ、何もふだが無いというのも、客としては居心地が悪い。そこで、Do Not Disturb のふだに代わるものはないかと知恵を出し合った結果として新たに登場したのが 「Room Occupied」 というふだだ。
 このふだの意味は 「部屋に人がいます」ということになるわけだが、その真意は、宿泊客側に対して、部屋にいることの意思表示ができる機会を残しつつ、「部屋に入るな」といった主張はできないようにする絶妙なアイデアで、たぶんこれが今後のホテル業界のスタンダードになるのではないかと言われ始めている。

 その一方で、「そんなことをしても、武器を持ち込むことは可能。スーツケースに銃を入れて部屋に持ち込み、ベッドの下に隠されたら、清掃スタッフはそれをどうやって見つけることが出来るのか。毎回部屋の隅から隅まで点検するのか。爆弾製造のような大掛かりな犯罪の抑止には多少の効果があるかもしれないが、銃の持ち込みは防げない」といった指摘も根強く、従来通りの Do Not Disturb のふだを残しておいたほうが現場も楽だしトラブルも少ないはず、とする意見も少なくない。
 たしかにそれは現実的な意見で、24時間ルールも、Room Occupied のふだも、本気で犯行を計画している犯人にとっては、抑止力にはならないだろう。
 そう考えると、今回の騒動も一過性の議論で終わり、従来通りの Do Not Disturb に戻りそうな気がしないでもないが、たぶんそうはならない。

 その理由が何ともアメリカらしく言葉を失う。その理由は、万一このたびのような事件が再び起こった場合、従来通りの時間無制限の Do Not Disturb だと、「ホテル側は安全対策に無頓着だった」 ということで、被害者側から訴えられてしまうからとのこと。つまり、犯罪を抑止する効果があるかどうかはともかく、裁判沙汰を避けることを最優先したいという考えだ。
 ちなみに今回の乱射事件でも、被害者側は早くもホテルに対して訴えを起こしている。正確には、被害者が訴えを起こしたというよりも、金づるになると見た弁護士が被害者をたきつけて裁判沙汰にしたというべきなのかもしれないが、とにかくそんな形になってしまうのがアメリカだ。
 というわけで、これからの旅行者は、少なくともアメリカでは、今後客室内のプライバシーが保てない時代になる可能性が高いことを、覚悟しておいたほうがよいかもしれない。


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