週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2017年 11月 22日号
うどんの味を初めて知った翌週に開業を決意した男
 今週は、シカゴやラスベガスで印刷会社を営むビジネスマンが、日本のうどんの味を初めて知った翌週に、うどん店の開業を決意し、一年以内にそれを実現したという自称 「情熱男」 と、その開業までの超高速ストーリーを紹介してみたい。

cafe SANUKI  男の名前は Henry Fan (写真右、クリックで拡大表示)。台湾生まれの 44歳だ。
 6歳のときに家族とともにアメリカ・シカゴへ移住。大学を卒業後、シカゴで印刷会社を起業し財を成すと、2001年、ラスベガスにも進出。
 ラスベガスでの印刷業も順調に進んでいた昨年12月、息子と一緒にバケーションで訪れていたハワイで、たまたま入った日系のうどん店 「丸亀製麺」 での味覚的な体験が、情熱男の起業魂に火を付けることになった。

 丸亀で日本のうどんの味に初めて出会った彼は、麺もつゆも、中華料理のうどんにはない奥深さがあることに感動。
 翌週、ラスベガスに戻るやいなや、ネットなどでうどんを徹底研究すると、早くもうどん店の全米展開を構想。
 「1分1秒でも無駄な時間を過ごすのは嫌いだ。スピード感が自分のモットー」 という情熱男の行動は非常に早い。翌月の 2017年1月には、すぐに日本へ飛び、本場四国のさぬきを訪れ、著名うどん職人から製造方法などをゼロから学んだ。
 アメリカに戻るとすぐに 1号店の場所の検討に着手。すでにシカゴからラスベガスに住居を移していた彼としては、やはり自分の目の届くところのほうがよいということで、1号店は、長年暮らしたシカゴではなくラスベガスのチャイナタウンに決定。店の名前も cafe SANUKI と決めた。

 うどんに関しては猛勉強したものの、日本の食文化全般に関してはくわしくない彼にとって、日本人のアドバイザーは不可欠なわけだが、人材を探すのも彼は早かった。
 たまたま趣味のバドミントンを通じて知り合った日本人女性 (Fumikoさん) に声をかけ、1号店の立ち上げや管理運営をすべて任せることで彼女を採用。自身は全国展開という大きな夢の方に余念がないようだ。
 余談になるが、彼は印刷業のかたわら、ラスベガスで室内バドミントン施設も経営している。

cafe SANUKI  そうと決まったら、すぐに彼女を日本へ送り込み、製麺機の選定に入ると、費用にはこだわらないという彼は何のためらいもなく即断即決で 4万ドル以上もする高級マシンを購入することに決定。
 製麺機だけではうどんは作れない。うどんの製造には、練った小麦粉を寝かせる熟成行程も必要なわけだが、安定した品質のうどんを製造し続けるためには、職人の勘などに頼った伝統的な手作業ではなく、正確な温度管理ができる熟成マシンも必要と考えた彼は、その選定にも着手。
 熟考の末、意外にも彼が選んだのは日本製ではなかった。フランス製だ。(右上の写真)
 「フランスパンや洋菓子の生地の熟成用として実績のあるフランス製のマシンはレベルが高い。かなりの出費になったが、あえて日本製にしなかった」 と、その経緯を得意げに語る。麺をゆでる装置にも高額を投じたことは言うまでもない。
 「$5.50 のかけうどんを売る商売に、そんな初期投資をして大丈夫か。利益を出せないと思うが...」 とのこちらからの質問に対して、情熱男は熱く語った。
 「これはビジネスとは考えていない。ビジネスは本業の印刷業で十分。これは日本のすばらしいうどんをアメリカに広めるためのオレの Passion (情熱) だ」

cafe SANUKI  ここまでトントン拍子ですべてが順調に進んできたようにも思えるが、失敗がまったくなかったわけではない。
 ディスプレイ・サンプル、つまり日本のレストランの入口などでよく見かける、ロウなどで精巧に作られた食品サンプルの製造委託において、無駄な寄り道をしてしまったのである。
 このサンプル、アメリカではあまり一般的ではないが、Kitsune、Bukkake、Kamaage、Zaru などの意味を知らないアメリカ人客には、メニュー内の文字で説明するよりも視覚的に見せたほうがわかりやすい、と彼は考え、その発想自体に問題はなかったものの、経費をケチって中国企業に発注したのが失敗だった。
cafe SANUKI  出来上がってきたものは、まるで幼稚園児の粘土細工のレベルで、とても店頭に陳列できるような代物ではなく、彼はすぐにすべてを廃棄。
 結局、何倍も値の張る日本のメーカーに発注し直すことになり、最終的には立派なものが出来上がってきたが、スピード感をモットーとする彼にとっては、出費よりも時間を無駄にしてしまったことのほうが痛手だったようだ。(右上のうどんとトンカツの写真は日本製サンプル)

cafe SANUKI  そんなこんなを経て、ハワイでの感動からわずか半年後の今年の夏にはほぼ開業できる状態にまでなり、その後、消防や衛生に関する地元当局からの認可などに数ヶ月を要したものの、ついにこのたび 11月25日に開業の運びとなった。(右の写真は 「お試し仮オープン期間」 の現在の様子)
 とにかく、うどんに対して何ら知識も経験もなかった彼が、短期間でここまでやってのけたことは、この店が成功するかどうかにかかわらず、その行動力は賞賛に値するといってよいだろう。

cafe SANUKI  さて、利用者として気になるのは、うどん店としてのメニューや価格も含めたその内容ということになるわけだが、基本的なコンセプトは、あくまでもファーストフード店であり、高級路線をねらった店ではない。
 自分でトレイを持って、天ぷらなどのトッピングを選び、オーダーしたうどんを受け取ってレジに並ぶセルフサービス方式の店だ。
 とはいっても、使い捨ての容器を使うような見るからにファーストフード店とわかる安っぽい感じの店ではなく、ダイニングルームなどは、なかなかおしゃれな雰囲気を演出している。したがって、「きちんとした和食店が、たまたまセルフサービスを導入した」 と考えれば、この店をイメージしやすいかもしれない。

cafe SANUKI  メニューは豊富だ。Henry さんいわく、「ベガスにはすでにうどん店が何軒かある。それらの店と差別化するためには、伝統的な日本のうどんに加え、若者が喜ぶような斬新なうどんも必要。伝統を守ると同時に、伝統にしばられないメニューも出していきたい」 とのことで、実際に、かけうどん、きつねうどん、ぶっかけうどん、かまあげうどん、カレーうどん、などのほかに、カルボナーラうどん、明太クリームうどんなど、全部で 16種類のうどんメニューが用意されている。
 そしてトッピング用の各種天ぷら以外に、天ぷら盛り合わせ、カレーライス、各種おにぎり、おでん、さらにはデザートメニューとして鯛焼きなど、うどん店の域を超えたメニューも少なくないので、単なるうどん店と考えないほうがよさそうだ。
 参考までに代表的なメニューの値段は、かけうどん $5.55、きつねうどん $6.45、カレーうどん $6.80、明太クリームうどん $8.80 などとなっている。

cafe SANUKI  ライバル店も伝統にこだわらないうどんを出してきていることを、こちらから指摘すると、Henry さんにはさらなる戦略があった。
 彼が重要視しているのは、味や価格設定だけではなく、フェースブックやインスタグラムなど SNS での拡散を意識した、見た目の驚きも大切にしているとのこと。いわゆる 「インスタ映え」 も狙っているようだ。
cafe SANUKI  「最近の和食店のレベルは高くなり、どの店も行き着くところまで行ってしまっている。そんな現状を考えると、ライバル店との差別化には、味や価格以外の部分でも目立つことをしなければならない」 と熱く語りながら、風呂桶のような大きなサイズの釜揚げうどん用の器を見せてくれた。大きすぎて管理がめんどくさいことは承知の上でそれを採用し、写真の拡散に期待しているのだという。
 どんぶりも、SNS 好きの若者が選びそうなうどんメニュー (たとえば 「ポークしゃぶうどん」、右上の写真) には、特に巨大なものを使うようにしているとのことで、SNS 戦略にも抜かりがないようだ。

cafe SANUKI  というわけで、比較的年齢層が高い人が好む伝統的なうどんから、若者ウケするような斬新なうどんまで、老若男女の需要に応えられるメニューを用意しているとのことなので、興味がある者はぜひ足を運んでみるとよいだろう。
 営業時間は、まだ変わる可能性があるが、とりあえず休業曜日を設けることなく、ランチの部が 11:00〜14:30、ディナーの部が 17:30〜22:00 となっている。
 場所はチャイナタウン地区で、番地は 4821 Spring Mountain Road, Suite-G 。道路としては、Decatur 通りと、Spring Mountain 通りの交差点の南東側のカド。焼肉店 Gyu-Kaku のすぐ南側だ。ストリップ地区のホテル街からは、トレジャーアイランド、ウィン、パラッツォなどから道が混んでいなければタクシーで 5〜6分。

 最後に、Henry さんが語ってくれたことの中で一番うれしかったこと。それは、「うどんは音を立てて食べてもいい。そのほうがおいしい。そんな日本の文化をアメリカ全土で広めること、それが私のこのビジネスにおける最終目標だ」 との情熱コメント。
cafe SANUKI  こちらが日本人であるための単なるリップサービスかと思いきや、なんと、笑いながら、自分が着ていたTシャツの胸に向かって指を差していた。そこには、SLURP と大きく赤い文字が書かれているではないか。
 「来店客のだれもが気兼ねなく音を立てて食べることができるように、このTシャツをスタッフ全員に着せている」 とのこと。どうやらこの男の情熱は本気のようだ。
 その情熱を賞賛すると、「そんなにほめてくれるなら、お礼として、大全の記事を読んだ人には、年末まで 20% OFF にしましょう」 と即決の太っ腹な大サービス。彼は最後まで豪快な男だった。
(スマホ上で、この右上の彼のTシャツの写真をタップして、その拡大写真をレジで見せると、20% OFF になる)

(この記事は、たまたま筆者と Henry Fan 氏の自宅が近所で、行きつけの寿司店が同じだったという偶然から、そこで意気投合し記事化したまでで、金銭の授受が伴う広告などではありません)
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