週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2017年 08月 30日号
日本のカジノ解禁、地元民に頼らざるを得ない現実
 昨年末のカジノ法案の通過に伴い、いよいよ日本でもカジノ解禁が現実味を帯びてきた。当然のことながら、MGM、シーザーズ、サンズ、ウィンなど、ラスベガスのカジノ関連企業は日本への事業進出を目論んでおり、1億人という巨大市場への期待は膨らむばかりだ。
 しかし、ここ数ヶ月の間に、彼らの日本に対する興味や関心が、「期待」 から「落胆」 へ大きく変化してきている。
 理由は、ギャンブル中毒などを懸念する反対派に配慮するあまり、このたび日本政府が開いた有識者会議や公聴会で、日本人の入場を制限する方向で話を進めるなど、中途半端な解禁になりそうだからだ。(ある程度の入場制限は以前から予想されていたことだが、どんどん話が厳しい方向に向かっている)
 反対派の意見にも一理あるだろうが、一度解禁と決めたからには、とりあえず可能な限り広く解禁すべきで、中途半端はよくない。
 このままでは海外企業からそっぽを向かれ、日本が恥をかくことになるばかりか、日本の IR (Integrated Resort: カジノなどを含む統合型リゾート) プロジェクトそのものが失敗し、日本の関連企業はもちろんのこと、地元自治体なども雇用や経済効果などの部分で大きな痛手を被ることになりかねない。

 カジノ運営の歴史や経験のない日本企業だけでは IRプロジェクトを成功させることが困難であることは、日本側の関係者も認識しているところで、そうであるならば、もっと現実に目を向けるべきであるが、法整備に関わっている者たちの考えはそうではないようだ。
 「現実」とは、地元民、つまり日本国民の利用無しに、カジノ経営は成り立たないという現実。ようするに、海外からの観光客だけでは、ラスベガスでもマカオでもシンガポールでもカジノは利益を出せず、まともに納税もできないということ。その部分を、世界展開しているカジノ運営企業は経験として理解しており、それを日本政府側に指摘している。
 にもかかわらず、現在日本では、いまだに解禁反対派の存在が大きいのか、日本人の利用を制限することばかりが検討され、とうとう今月その厳しいガイドラインのようなものが発表された。
 まだ最終決定ではないが、その内容は、入場回数の制限、入場料の徴収、マイナンバーでの本人確認の厳格化、家族からの依頼による入場拒否、カジノ内に日本人が使えるATMを置かない、などだ。
 これでは地元民の入場は大きく制限され、カジノ企業が日本に魅力を感じなくなってしまうのも無理はない。

 もちろん日本だけが異常というわけではなく、地元民が入れない観光客専用の小さなカジノは他の国にも点在しており、また大規模なIRを持つシンガポールでも似たような地元民制限が行われているのは事実だ。
 しかし日本のIRは小さなカジノではなく、広範囲な経済効果を期待した大規模な国家プロジェクトであり、またシンガポールは地理的な条件や環境が日本とは大きく異なっているので、それをそっくりそのまま参考にすべきではない。
 シンガポールはアジアの中心的な場所に位置しており、世界的なハブ空港からカジノが比較的近いという良好な地理的条件もさることながら、小国であるがゆえに日本ほど多くの観光資源が広範囲に分散しているわけではなく、結果的にシンガポールに滞在中の観光客にとってそのカジノは距離的にも身近で存在感も極めて高い。
 カジノの近くに観光客が滞在しているとは限らない日本と比べると、かなり恵まれた条件にあるシンガポールではあるが、それでもカジノ運営においては、少なからず地元民に頼っているのが現実で、シンガポールのカジノの入場者の3割ほどは地元民といわれている。

 ではラスベガスはどうか。じつはここでも地元民に大きく依存しており、ざっくり大ざっぱな数字として表現するならば、カジノ利用者全体の3分の1が地元民だ。
 さらに3分の1が 「準地元民」 ともいえるロサンゼルス地区からの訪問者で (国土が広いアメリカにおいては、車で4時間ほどの距離にあるロサンゼルスは準地元といってよいだろう)、残った3分の1がニューヨークやシカゴなど全米各地から飛行機でやって来る訪問者と海外旅行者となっている。ちなみにその海外旅行者の比率は全体の1割ほどしかない。

 どうしてこれほどまでに地元民が多くなってしまうのか。それは地理的な距離から来る訪問のしやすさで、以下のように考えれば、極めて当然の結果であることがわかるはずだ。
 ラスベガス周辺の総人口は大ざっぱに約200万人。ロサンゼルス周辺のそれはその 10倍、アメリカ全土はさらにその 10倍以上。
 逆に、それぞれのエリアからラスベガスのカジノへの行きやすさは、アメリカ全土、ロサンゼルス、ラスベガスの順に 10倍ぐらいの差で良くなってくる。
 個人差があるのであくまでも単なる標準的な例としての数字ではあるが、たとえばラスベガスの住民が自宅から 10分程度の場所のカジノに月に1回ほどの頻度で行くことになんら無理はなく、同様にロサンゼルスの住民が年に1回、4時間運転してラスベガスに行くこともなんら不自然な頻度ではないだろう。
 またラスベガスから数千キロ離れたニューヨークなどの住民にとっては、ラスベガス旅行が 10年に1度の出来事であっても少なすぎることはないはずだ。
 このように考えると、人口比でわずか 100分の1 の地元民が、アメリカ全土と同じサイズのマーケット規模としてカジノ市場を支えていることがわかる。

 日本でも同様に、北海道に住む大多数の人は、平均して 10年に 1度も九州に行かないだろう。逆も真なりで、ようするに飛行機に乗って行くような場所には、日本でもアメリカでもめったに行かない。
 一方、車で数時間の場所であれば 1年に1度程度なら気軽に行けるし、電車やバスで 30分程度の場所であれば毎週でも行けてしまう。
 結局、日本にカジノが出来た場合も、重要な客層はなんといっても地元民で、それもかなり近隣の地元民ということになる。

 以上の例から、日本のカジノ解禁論において、「飛行機で2〜3時間の近距離に、台湾、韓国、中国という巨大な市場があるので、海外からの訪問者に期待できる」 といった発想は、かなり楽観論であることがわかるはずだ。
 よほどのリッチな者か日本びいきの者ならいざ知らず、どこの国でも一般の人たちにとって、日本への海外旅行など、何年もしくは何十年に一度の出来事なのである。ましてや、浅草、京都、奈良、富士山などを目指す外国人観光客たちにとって、現在候補に上がっている日本のカジノの場所は決して近くない。そうなると、ギャンブル目的の訪問者でない限り、わざわざ足を運ぶ可能性は少ないだろう。
 そもそもアジアのギャンブル好きの者にとってはマカオがあり、規模や内容で日本のカジノはマカオに到底かなわない。

 旅行業界の研究調査機関として名高い Global Market Advisors (GMA) 社が発表した、今年の4月時点におけるレポートによると、アジア諸国からの航空便のアクセスが便利な大阪にだけカジノがオープンした場合、利用者全体の 47% が海外からの訪問者になるだろう、と分析している。
 さらに大阪、東京、佐世保、北海道の4ヶ所の場合、その海外依存率は 27%、大阪と横浜だけの場合は 25% とのこと。
 あくまでも一研究機関の分析であり、どこまで現実に近い数値か何とも言えないが、仮に大阪だけの場合の 47% という数字を取ってみても、残りの 53% は日本人ということになる。やはり地元民抜きに大規模なIRは成り立たない。

 何ごとにおいても良い部分と悪い部分があるのが世の常。自動車や鉄道や航空機は人々の暮らしを便利にしたが、事故というマイナスの要素はゼロではない。同様に優良な医薬品にも副作用は付き物。重要なのはバランス感覚で、利点よりも欠点が大きければ、実現に至らないか自然消滅するだけだ。
 日本のIRにも、雇用の増加、地域経済の活性化、観光振興、余暇の過ごし方の多様性など、プラスの部分と、ギャンブル中毒やマネーロンダリングの温床になりかねないといったマイナス部分が存在するわけだが、解禁と決めた背景にはプラス要因への期待が大きかったわけで、であるならば、その部分の伸びしろを抑え込んでしまうような規則を始めから作ることは本末転倒だろう。
 とりあえずプラスの部分を最大限にするような方法で解禁し、それと並行してマイナスの部分への対応策を検討していけばよいのではないか。ギャンブル中毒という一部の個人への配慮のあまり、地域全体の経済発展の機会を犠牲にすることは賢い選択肢とはいえない。
 少なくともラスベガスでは、ギャンブル中毒、マネーロンダリングといった部分にも公的機関が積極的に取り組んでいるが、それらの問題がカジノ業界の経済発展などよりも優先されて議論されることはまずありえない
 地元経済の衰退は雇用機会の喪失に直結するわけで、一部のギャンブル中毒者への過度な配慮により、カジノ業界が発展せず、結果的に失業者が増えるようなことは地元民も望んでいないはずだ。
 もちろん中毒患者の増加によるその対策費用などは社会全体の損失になるが、カジノからの税収や経済効果のほうがはるかに大きい。ここでも重要なのはバランス感覚ということになる。

 このたびの日本の動きに関しては、ラスベガスの地元紙も悲観的だ。「100億ドル(1兆円) ぐらいの投資をする用意がある」と、日本のカジノ解禁に期待し、実際にこれまでに何度も日本にも出向いてきた MGM社の CEO であるジェームス・ミューレン氏の 「The opportunity in Japan is unclear at the moment」 というかなりトーンダウンしたコメントを紹介していると同時に、「日本国民の半数以上がカジノ解禁に反対」 という日本の特殊な事情やパチンコの存在など、日本市場が一筋縄ではいかないことも報じており、それなりに分析していることがうかがえる。
 今後、地元民の入場制限ルールを煮詰めていくなかで避けて通れないのが、その矛盾だらけのパチンコだ。パチンコ中毒者は膨大な数に上るといわれているにもかかわらず、その入場には制限など一切無く完全な野放し状態。まさにダブルスタンダードといってよい。
 日本側が、厳しい入場制限の根拠に 「ギャンブル中毒対策」 という部分を強調すればするほど、アメリカのカジノ業界からはパチンコとの整合性を指摘されることになるだろう。
 パチンコ市場は縮小傾向にあるとはいえ、その経済規模はまだまだ非常に大きいので、一気に禁止といった過激な策は現実的ではないが、外圧がある無しにかかわらず、法的な位置づけの見直しは急がれる課題だ。

 カジノ解禁、はたして今後どのようなかたちで決着を見るのか。まだ日本人の入場料の金額や入場回数の上限値など具体的な数値までは示されていないが、もしそれが厳しいものになるようだと、名乗りを上げる海外企業は現れず、結局採算性の問題でカジノ解禁自体がご破算になってしまうような気がしないでもない。
 もちろん日本企業が手を挙げないとも限らないが、ただでさえ複雑なノウハウが必要なカジノ運営、よほど入場規制ルールが緩和されない限り、やめておいたほうがよいだろう。
 とにかく外国企業がやるにせよ、日本企業がやるにせよ、政府側が 「カジノは地元民によって支えられている」 という現実を理解しないことには、成功はない。
 そしてその成功のために最も必要なこと、それは、「賭けごと=悪」 という日本人の DNA の中に染み込んでいるような既成概念の書き換えで、「適度なギャンブルは、数あるエンターテインメントの中の一つ」 ぐらいに思えるような社会全体の合意の形成が必要だ。
 それには政治だけでなくメディアの力も不可欠になってくるが、大局的なメリットには目を向けず、過度なまでの弱者保護のスタンスに立ち、悲観的な記事ばかりを書くバランス感覚に欠けた新聞が多すぎることが残念でならない。

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