週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2017年 08月 09日号
8月21日の皆既日食の観測スポット7ヶ所
メキシコ皆既日食  今週は、問い合わせが急増している 8月21日の皆既日食について。(右の写真は 1991年7月11日のメキシコ皆既日食。筆者撮影)

 太陽が月にすっぽり隠されて、昼でも星が見えるほど暗くなる皆既日食は、ぜんぜん珍しくない天体現象ともいえるし、超々珍しい大珍事 といえなくもない。
 なぜなら、1〜2年に1度は、地球上のどこかで発生している反面、その多くは洋上であったり、極地やジャングルやツンドラ地帯であったり、とにかく簡単にアクセスできない場所で発生しているため、そう簡単には見ることができないからだ。
 つまり今回のような、人がごく普通に住んでいるエリアでの発生は珍しく、ちなみにアメリカ本土での皆既日食は 1979年以来の 38年ぶり。皆既帯がアメリカ大陸を西から東に横切るようなカタチで広範囲で見られるのは 99年ぶりというから、大多数の存命アメリカ市民はまだ一度も見たことがないことになる。
 広大なアメリカですらそんな状況なので、ましてや、ある特定の一ヶ所、たとえば日本でもアメリカでも、自分の家から観測できる機会となると、それこそ数百年、あるいは千年に一度の出来事であり、自らの意思で発生場所を目指して出かけて行かない限り、ほとんどの人は一生見ることができないのが普通だ。
(なお、さきほど 「星が見えるほど暗くなる」と書いたが、楕円軌道で地球の周りを回っている月が、十分に地球に近くないときに発生すると、星が見えるほどには暗くならない場合もある。月がもっと遠い場合は太陽を完全に隠すことができず、金環日食になってしまう。ちなみに金環日食は近年アメリカでも数回観測されている。今回の場合は、それなりに暗くなると思われる)

アメリカ皆既日食  それほど珍しい皆既日食。このチャンスを逃すまいと、大挙して天文ファンがアメリカにやって来るわけだが、観測可能な町やその周辺のホテルは何年も前から予約で満室になっているため、アメリカまで来れば簡単に見られるというものでもない。(右の地図の赤い線の部分が今回の皆既帯、黄色の星がラスベガス)
 皆既帯に比較的近い都市としては、ポートランド、デンバー、カンザスシティー、セントルイスなどがあるが、これらの都市のホテルも旅行会社などによって押さえられてしまっており、仮に空室があったとしても、通常時の何倍もの宿泊料金になっているので、よほどのリッチな者以外にとっては現実的ではないだろう。民泊の Airbnb も同様で、皆既帯の近くは高すぎて泊まれないか、すでに満室だ。

 そこで注目したいのがラスベガス。皆既帯から近くないためか、現時点では 8月21日前後の宿泊料金になんら影響が出ていない。つまり通常の料金で宿泊可能だ。
 気になるのはラスベガスからの行き方。片道 1000キロ ほどの距離になってしまうが、レンタカーで行くのが最も現実的な方法だろう。空路は満席か、現地のローカル空港からのレンタカーの確保がむずかしい。ラスベガスからの格安の 「日食観測ツアー」 などは、長距離すぎて違法運行の可能性もあるので注意が必要だ。(最近、日帰りでモニュメントバレー、アンテロープキャニオン、グランドキャニオンの3ヶ所に行く違法ツアーが横行しているが、それらツアーと同様、この皆既日食ツアーも違法になる可能性が高い。違法になるかどうかの法令などに関しては、文末で紹介)
 片道 1000キロと聞くと、想像を絶する距離のようにも思えるが、大部分の行程が、交通量が少ない高速道路(有料道路ではなく全線無料)なので、運転時間としては片道正味 10時間を大きく超えるようなことはない (皆既日食渋滞というものがあれば話は別だが)。もちろんそれでも長時間運転であることに変わりはないが、一生見られないかもしれない皆既日食を見られると思えば、大した苦労ではないだろう。

アメリカ皆既日食  というわけで、ラスベガスからレンタカーでアクセスしやすい皆既帯を7ヶ所ピックアップしてみた。
 右の地図の赤で囲まれた部分の拡大地図がその下の地図で (クリックで拡大)、その中の7つの赤い丸が、主要道路から近い皆既帯の中心地。
 それぞれの観測地点における各種情報を以下に示してみたので、実際に行く際の参考にしていただければ幸いだ。

アメリカ皆既日食  なお表内のデータに関してだが、現場の位置の座標である北緯と西経の数値は、そのままカーナビ・アプリやグーグルマップなどにコピー&ペーストして使うことが可能。
 ラスベガスからの距離や運転時間は、この記事を書いた際のグーグルマップによる計算値であり、渋滞状況なども含めて計算されているので、そのつど変わる可能性があるが、おおむね正しいと考えてよいだろう。
 皆既日食開始時刻に関しては、時計を合わせ忘れた場合に遅刻する可能性があるので、あえて現地の時間帯(山岳地方夏時間) ではなく、ラスベガスの時間帯(西海岸地方夏時間) で表記した。方位は、北が 0度、東が 90度、南が 180度、西が 270度。

アメリカ皆既日食
アメリカ皆既日食
アメリカ皆既日食
アメリカ皆既日食


 というわけで、どの地点にも一長一短があって悩むところ。したがって、当日の朝、とりあえず Idaho Falls まで行って朝食休憩をし、そこでピンポイントの天気予報などに注意を払いながら、最終目的地を決めればよいのではないか。
 一番心配なのは、天気もさることながら交通渋滞だろう。過去100年、この地域に住むだれも経験したことがない出来事だけに、大渋滞になるのか、平常と変わらないのか、だれにも予測が付かない。
 今回候補にあげた7ヶ所の周辺で最大の都市はソルトレイクシティー。郊外も含めれば 100万人以上の人口を抱える大都市だ。彼らの 5人にひとりがこの世紀のイベントを見に行くとすると 20万人。2人が1台の車に乗るとして 10万台の車両が同じ時間帯に現場に向かうことになる。
 この 5人にひとりという推論が多いか少ないかはまったくわからないが、仮に 10人にひとりだとしても大渋滞になるような気がしないでもない。

アメリカ皆既日食  そう考えると、Idaho Falls を通過しないルート、つまりソルトレイクシティーの人たちが使うことが少ないと予想される西の West Wendover (右の地図の青い丸) から北に抜ける 93号線で Twin Falls 経由で赤丸1番2番の観測地点を目指すのがよいのかもしれないが、はたしてどうなることやら。
 なお日食と関係ない余談になるが、West Wendover のすぐ東側には、北米のウユニ塩湖といわれる Bonneville Salt Flats があるので (右下の写真。バックナンバー 1000号に詳細情報あり)、時間があれば立ち寄ってみるとよいかもしれない。

アメリカ皆既日食  いずれにしても地図情報や気象情報は不可欠なので、スマートフォン用の車内充電ケーブルもしくは予備のバッテリーは必携。もちろん砂漠の中での長時間滞在に備えて、水や食料も不可欠なことはいうまでもない。
 太陽を直視することができる日食用サングラスも必携だが、本格的なカメラや三脚はあえて持っていかないほうがいいかもしれない。なぜなら、今回の日食はたった2分間なので、撮影に夢中になっていると、肉眼で見る時間がなくなってしまうからだ。
 天文マニアは撮影に夢中になりすぎる傾向にあるが、皆既日食体験の醍醐味は、周囲の動物たちと一緒に大地が暗くなる過程や気温の低下を肌で感じつつ (鳥たちは夕暮れがやって来たと思い、鳴きながら巣や森に帰る)、暗黒の太陽を肉眼で見て太古の人たちの驚きや恐怖に思いを馳せながら、大宇宙の神秘を五感で感じ取ることであり、カメラのファインダーをのぞき込んでいたのではそのような体験はできない。

 さて専門的な話になってしまうが、今回の日食はサロス 145番であることを知っておくと、興味も倍増してくるはずだ。
 サロスに関しては、この週刊ラスベガスニュースのバックナンバー 799号に詳しく掲載されているが、簡単に説明すると、日食を語る上でサロスは欠かせない番号で、台風やハリケーンに号数や名前があるように、日食もサロス番号できちんと整理されている。そして日食の場合、台風とは異なり一度やって来たら二度と来ないというわけではなく、その同じ番号のまま 6585日 (18年と10日) ごとに何度も再来するという長い付き合いになるので親近感が湧くばかりか、それぞれのサロスには 「クセ」 もあり、マニアにとっては、まるで生き物かペットのような存在になりやすい。
 話を 145番に戻すと、こいつの前回の出現はもちろん 18年前の 1999年、そして次回は 2035年ということになるわけだが、なんと、この 2035年の皆既日食こそ、日本の天文ファンが待ちに待っている 本州では 148年ぶりとなる皆既日食 (北陸地方から北関東を横切る形で見られる皆既日食) に他ならない。
 つまり言い換えれば、その日本の皆既日食もまったく同じクセを持った 145番なので、マニアにとって今回の日食観測は、その 2035年の予行演習にもなるというわけだ。
 ちなみに同じ番号のサロスは 100年くらいはクセが大きく変わることはないので、その日本の北陸・北関東皆既日食も継続時間は2分台で、ほぼ真西から真東に抜ける形で出現する。なお、このサロス 145番の特徴などに関する詳しい情報は、以下の NASA のサイトで見ることが可能。

https://eclipse.gsfc.nasa.gov/SEsaros/SEsaros145.html

 最後に、前述の長距離ツアーにおける法令に関して。営業用の車両に対して、United States Department of Transportation (通称 US DOT、日本でいうところの国土交通省に相当する組織) が定める規則はいろいろあるが、一番わかりやすく、なおかつ重要なのは以下の3つだ。

運転時間は 10時間以内
拘束時間(勤務時間) は 15時間以内
勤務と勤務の間は最低8時間、ベッドがあるところで休息

 運転時間は文字通り運転している時間のこと。拘束時間は、たとえ運転していなくても、給油所で給油している時間などはもちろんのこと、観光地でツアー客を案内している時間や、ツアー客と一緒に食事をしている間も、ツアー客からの質問に答えたりする状態にあるため拘束時間に含まれる。8時間の休憩に関してはそれなりの場所で休む必要があり、車内での仮眠などは休息とは認められない。
 したがって、仮に運転手が二人いたとしても、助手席に乗っている間は客との会話などから完全に離れることができないため拘束時間となり、結果的に、この日食ツアーをラスベガス発で法令を守って催行することはほぼ不可能ということになる。くわしくは以下の日本語サイトを参照のこと。(あまりくわしく書かれていないかも)

https://www.lasvegas-anzen.com/blank-c1ur7
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