週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2016年 7月 13日号
親子2頭が同時に?! 異例のキャトル・ミューティレーション
 宇宙人のしわざだ。いや単なる交通事故だ。病死か餓死だろう。人間のいたずらに決まっている-----。
キャトル・ミューティレーション  このたび UFOマニアの聖地 レイチェル村の近くを走る ETハイウェー脇の荒野で、親子2頭の牛が同時に同じ場所でキャトル・ミューティレーションされる (写真右、クリックで拡大表示) という極めて異例の事態が発生した。7月9日、その現場を取材した。
 なお以下は、現場で起こった現象をありのままに伝えるだけのものであって、その現象の原因を憶測で勝手に断定したり、また現場に行ってみることを奨励したりするものではない。あくまでも、事実だけを扱う現場レポートだ。

キャトル・ミューティレーション  多くの読者にとっては何のことだかわからないと思われるので、まずは今ここで取り上げた3つの単語、レイチェル、ETハイウェー、キャトル・ミューティレーションについて説明しておきたい。
 レイチェル(Rachel)とは、ラスベガスから北北西の方向に車で2時間半ほど走った荒野の中にある村の名前だ。現在の人口はわずか 68人。
 あまりにも目立たない超小さな村ではあるが、かの有名な謎の空軍基地 Groom Lake Airforce Base (通称 「エリア51」) に近いだけでなく、UFO (未確認飛行物体)に遭遇できる可能性が高いとのうわさも定着しており、さらに周辺区域のボートル・スケール(夜空の暗さを示す尺度。この評価値が高いほど星がきれいに見えるとされる)が非常に高いレベルにあることなどから、UFOマニアのみならず、軍事マニア、天文マニアなどにとっても知る人ぞ知る聖地のような場所として世界に名を馳せている。

キャトル・ミューティレーション  次に ETハイウェーについてだが、これはネバダ州の中南部を東西に横切る高速道路375号線のこと。
 UFOマニアの聖地レイチェルに通じる道ということで、1996年、ネバダ州当局がこの高速道路を正式に Extraterrestrial Highway と命名。(Extraterrestrial の意味は 「地球外の」)
 したがって単なる俗称ではなく、公認の道路名として、現場には右上の写真のような標識が実際に設置されている。(標識内の点々としている黒い部分は、いたずらによって貼られたシールや落書き)

キャトル・ミューティレーション  なお、高速道路といっても、管理上の区分がそのようになっているだけで、構造としては平地を走る片側一車線の道だ。(写真右。黄色い標識は、『低空飛行物体に注意』の警告)
 したがって、日本の高速道路のような高架道をイメージしてはいけない。
 それでも 「全米一のさびしい高速道路」 といわれるほど交通量がゼロに近いため、片側一車線といえども必要十分な規模が保たれており、時速 100km以上の快適な高速走行が楽しめるようになっている。もちろん有料道路ではない。

キャトル・ミューティレーション  キャトル・ミューティレーション(cattle mutilation)とは、そのままの意味としては牛の惨殺死体といったところだが、怪奇現象のような場合にのみ用いられるのが普通で、原因が明らかな単なる牛の死体に対してこの言葉が使われることはない。
 レイチェル周辺でひんぱんに目撃されることから、UFOマニアなどの間では、「宇宙人のしわざだ」 といったうわさが絶えず、それに便乗してか、ETハイウェーの東端付近には、キャトル・ミューティレーションされた牛で作ったとされるパロディー的なビーフジャーキーを売るギフトショップが出現したり、UFOが牛に向かって光線を発している様子を描いた看板(写真右上) が設置されるなど、近年この地で商売をしようと考える者も目立ち始めている。

キャトル・ミューティレーション  マニアなどの情報によると、広い意味でのキャトル・ミューティレーション (*) と思われる現象が多発している場所は、ラスベガスからレイチェルに向かってレイチェルの手前約40km の地点から15km の地点までの、極めて見通しの良い一直線に伸びた約25km の区間 (写真右) とされる。
 実際に本誌がこれまでに数回目撃しているのもその区間で、今回の親子2頭の現場も例外ではない。
(* せまい意味では、死体から目や血液が抜かれていたりする場合のみをキャトル・ミューティレーションとする場合もある)

キャトル・ミューティレーション  レイチェル一帯における一般的なキャトル・ミューティレーションでは、右の写真 (弊社アーカイブ写真) のような状態で、車線からかなり近い場所で1頭だけが倒れているのが普通とされる。(人目につきにくく認識されていないだけで、道路から離れた場所でも多発しているという説もある)
 ただ、このようなケースでは、オカルト系のことを信じない一般の人たちはもちろんのこと、マニアの間でも、キャトル・ミューティレーションと呼ぶことをためらう者が少なくない。なぜなら、車との衝突、つまり単なる交通事故の可能性が高いからだ。

キャトル・ミューティレーション  その一方で、路肩に倒れる1頭だけでも十分に不思議で交通事故では説明が付かない、とする意見も根強い。
 なぜなら、右の写真でもわかる通り、これほど見通しの良い直線の道路で、運転手が牛に気づかないわけがないからだ。また牛は、犬や猫のように急に飛び出す動物ではないため(闘牛の牛とかなら話は別だが)、常識的な感覚として衝突事故につながるとは考えにくい。
 実際に現場の道を運転してみるとわかるが、もし牛が路上にいたら、夜でも簡単に気づく。ヘッドライトに照らされ光り輝く黄色のセンターラインや両端の白線はもちろんのこと、路面もはるか先までクッキリよく見え、牛ほどの大きさのものが路上に存在した場合、その先のセンターラインや白線が視界から遮断されすぐに異変に気づくし (右上の写真の位置関係がまさにその状態)、仮に遮断されない位置関係に牛がいたとしても、ヘッドライトに照らされた路面は十分に明るく、居眠りでもしていないかぎり、牛に気づかないことはまずありえない。
 百歩譲って、居眠り運転がキャトル・ミューティレーションの原因と仮定したとしても、一般的な車両が体重600キロ以上と推定される牛に高速で衝突した場合、大破することはもちろんのこと、人命も失いかねない大事故になるはずだ。
 しかしレイチェルの住民によると、このエリアで牛との衝突による大きな事故はほとんど報告されていないという。たしかに、この平穏で静かな村でそんな惨事が起きたというニュースは聞いたことがない。

キャトル・ミューティレーション  極端なUFO信者の間では、そもそもこの地域に牛がいること自体、説明が付かないとする意見もある。さらに、どの牛も目つきが異常で、人間をにらみつける習性があるところが通常の牛ではない、とのうわさもしばしば耳にする。
 目つきのことはともかく、たしかに砂漠地帯であるため、地平線の彼方まで、食料となりそうな草も水も見当たらず、牛の生存に関しては奇妙に思える部分が少なくない。背丈の低いサボテン系の植物があるにはあるが、それだけで生きていけるものなのか。

キャトル・ミューティレーション  気候や環境的に野生の牛がこの地に生息しているとは考えにくいので、人間が関与していると仮定すると、乳牛にしろ肉牛にしろ皮革業にしろ、ビジネスとして飼っていると考えるのが妥当なわけだが、それにしては頭数が少なすぎる。
 正確に数えたわけではないが、体感としては、事故現場付近の牛密度は 10km 四方(東京ドーム約2000個分) ほどの範囲に2頭か3頭といったところではないか。どう考えてもビジネスとしては採算が取れない。だれが何のために飼っているのか。
 また、人的に飼育されている牛だとするならば、所有する土地の圏外に牛が出て行かないよう、必ず柵が設置されているはずだが、そのようなものは見当たらず、その結果、高速道路を歩行したりすることが起こっている。他州の酪農地帯などで、牛が高速道路を歩くようなことはあり得ないのではないか。

キャトル・ミューティレーション  そもそも 「人的」 といっても、このエリアにはレイチェルの 68人以外、ほとんど人間が住んでいない。右の写真はETハイウェーの東端付近の集落に立っている 「ここより先、150マイル(240km)は給油所がありません」 という道路標識だ。
 牛が点在しているエリアもレイチェルも、この240km の区間内にある (つまりレイチェルにすら給油所はない)。いかに人が住んでいないか、いかに交通量が少ないか想像できよう。
 なお、その牛が点在するエリアの南側 5km ほどの地点に、牛を人的に飼育していると思われる極めて小さな施設の存在が確認されているが、死体が見つかる現場からはかなり距離があり、日ごろ犠牲となっている牛がこの施設のものなのかどうか、キャトル・ミューティレーションとされる現象との関連性ははっきりしていない。

キャトル・ミューティレーション  さて前置きが長くなってしまったが、存在すら奇妙な牛の死体がしばしば目撃されているのは事実で、それらの原因をすべて強引に交通事故とするにしても、今回の親子2頭のケースはそれでは説明できそうもない不思議な事象といってよいのではないか。現場の状況はこうだ。
 現場は、東西に走るETハイウェーの路肩から北方向に約40メートルも奥まった荒野の中。体型や毛の色などから親子と思われる2頭の牛が、まったく同じ方向を向いた状態で倒れており (写真右上)、腐敗の状況などから、同じ日時に死亡したと推定される。
 ちなみに現場の正確な位置は、北緯 37.516度、西経 115.571度。地図上でこの場所を確認したい場合は、これら数値をGPSなどに入力してみるとよいだろう。(グーグルマップの場合、37.516, -115.571 と入力)
 現地の地理に明るい人には、「かつて存在していたホワイト・メールボックスとレイチェルの中間地点の付近」 といえば、わかりやすいかもしれない。

キャトル・ミューティレーション  この現象をどのように解釈したらよいのか。現実的ではない宇宙人説は始めから除外するとしても、交通事故説ですべてを片付けるのは簡単ではなさそうだ。
 どんなに大きな車両であったとしても、2頭を同時にひくこと、そしてそのどちらにも同様な致死的ダメージを与え、さらにその巨体を道路から 40メートルも離れた場所まで飛ばし、2頭をそろった向きに着地させることは、いくつもの偶然が重なり合ったにせよ、あり得ないと考えるのが妥当だろう。
 特に、進行方向に対して横方向に 40メートルも飛ぶことなど絶対にあり得ない。なので常識的な角度で縦方向に飛んだと仮定するならば、最低でも 200メートルほどは飛ばないと 40メートルも道路からずれることはないはずだ。
 しかし、車輌と牛の重量差がどんなにあったとしても、牛が200メートルも飛ぶことなど現実の世界を完全に超越しており、もはやオカルトの議論になってしまう。
 始めから牛が 40メートル離れた場所にいて、居眠り運転などで車両がそっちに飛び込んで行ったということならあり得そうだが、荒れ地の中にタイヤの痕跡などは見当たらなかった。ちなみに路面にもタイヤのスリップ跡はない。
 衝突後、道路上に横たわった死体を片付けるために、運転手もしくはその他の者が 40メートル移動させることはあり得なくはないが、重量的に一人や二人の手で動かすことは不可能だろう。

キャトル・ミューティレーション  そうなると消去法的に考えられるストーリーとしては、衝突後、路上に横たわる2頭の死体を、同乗者や後続の車両の運転手なども含めた複数の者が力を合わせて 40メートル移動させた、ということならあり得るかもしれない。
 もしくは事故後、放置されたままになっていた死体を、まったく別の数人の第三者が見えない場所まで動かした。当事者は負傷していたかもしれないので、こっちのほうが可能性が高いかもしれない。
 いずれにせよ、現場の地面をよく見ると、実際に牛を引きずって移動させたような痕跡が、わずかながら確認できる。(写真右上)
 たぶんこの 「交通事故→人が動かした説」 が最も有力なストーリーのような気がするが、前述の通り見通しが良い道であり、衝突そのものが起こりにくい環境にある上、2頭同時に死亡というのも状況として想像しづらく、読者の中にはそれぞれまったく別の推理をしている人も多いと思われるので、ここでは断定的なコメントは避けたほうがよさそうだ。

キャトル・ミューティレーション  長くなってしまったわりには何も結論を導くことができなかったが、これ以上、推論ばかりを重ねてもあまり意味が無いので、このような事象が実際にあったという事実だけを伝えて終わりとしたい。
(右の写真は、牛の死体を求めて荒野の中を散策するマニア)
 最後に余談になるが、以下は UFOマニアから聞いた話だ。
 「これほど見通しのよい道路で、そしてこれほど交通量が少ない道路で、めったに存在しない牛、それも人間よりも遥かに大きく目立つ牛が、非常に限られた短い区間で、運転手の不注意によって轢き殺されるという事故がひんぱんに発生しているとするのであれば、ラスベガスのような都市部では毎日何百、何千もの人身事故が発生していないと理屈に合わないことになる」
キャトル・ミューティレーション  たしかにそうかもしれない。しかし、「だから宇宙人がやったのだ」、というのはあまりにも飛躍しすぎで根拠や証拠がほしいところだが、このようなマニアがいるからこそ、レイチェル一帯が長年に渡り神秘のエリアとして注目され続けていることもまた事実。結果的にラスベガス経済にもプラスになっている。宇宙人説を肯定も否定もせずにマニアに敬意を評したい。(右上の写真はレイチェルのレストラン)

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