週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2016年 4月 27日号
MGM社、"所有" 部門を切り離し、新会社として IPO
MGM、REIT による企業分割  観光情報というよりは経済ニュースになってしまうが、ラスベガスでの存在感があまりにも大きい会社なので、大多数の読者にとっては興味が無い話題であることを承知の上で、あえて取りあげてみたい。
 このたびラスベガスで多数のカジノホテルを所有かつ運営する MGM社が、みずからを2つの会社に分割し、先週 4月20日、本体から切り離したその新会社をニューヨーク証券取引所にIPO させた。(IPO: Initial Public Offering の略。未上場企業の新規上場)

 ラスベガスのホテル業界において、買収、身売り、倒産、爆破解体などはよく聞く話だが、分割はめずらしい。以前から上場していた MGM社に、いったい何が起こったのか。
 簡単に言ってしまえば、所有と運営の分離だ。つまり建造物としてのホテルそのものや土地を所有する部門と、ホテル、カジノ、レストランなどを運営する部門をまったく別の会社にしてしまおうというもので、運営する会社は、所有する会社に対して家賃を支払うことになる。
 ラスベガスではあまり多くは見られなかった企業形態だが、この世に今までまったく無かった発想ではなく、REIT (Real Estate Investment Trust の略。日本では不動産投資信託と訳されることが多い) と呼ばれる手法として、ウォールストリートなどでは昔からよく知られていた。
 それが最近静かなブームとなっており、ホテル業界のみならず、製造メーカーなどでも工場そのものの所有と生産事業を切り離すなど、この REIT による不動産部門の子会社化はさまざまな業界で注目されている戦略的企業行動だ。
 その背景にあるのは、REIT に対する会計ルールが異なることによる節税効果で、結果的に親会社の株価を押し上げることになりやすく、既存の株主に恩恵があるとされている。ただ、必ずしも思惑通りに株価が上がるとは限らず、分割を検討しながらも実行に踏み切れない会社も少なくない。

 今回のIPOの結果、従来から上場していたMGM社の正式名称は今までどおりの MGM Resorts International (以下、MGM)で、新たに誕生した会社は MGM Growth Properties (同、MGP)としてニューヨーク証券取引所に登録された。
MGM、REIT による企業分割  ちなみに、 MGM が企業分割を公表した昨年春も、先週 4月20日に MGP が上場した際も、本体の MGM の株価に大きな変動はなかった。
 したがって、現時点で既存の株主が大きく利益を得たといえる状況にはないが、1株 18〜21ドルと評価されていた MGP の株式が上場後のここ数日、22ドル以上で取引されていることを考えると、今回の企業分割はまずまずの成功といってよいのではないか。
 ちなみに MGM は IPO 後も MGP の株式の約76% を保有する筆頭株主であり、分割したといっても、両社は親会社・子会社の密接な関係にあることは言うまでもない。

 実際の企業活動としての両社の関係は、MGP が家主で MGM が借り手、つまり MGM が MGP に家賃を支払う形のリース契約を結ぶ取引関係になるので、MGM はホテルやカジノ運営による利益の追求、そして MGP は家賃収入がそれぞれのビジネスモデルということになる。
 したがって MGP という会社は、新たに株主になった人たちから見ると、業績の急伸などがあまり期待できない夢のない会社になってしまいがちだが、家賃の回収が滞らない限り安定的な利益が約束されているので、不動産投資信託という形態であることを考えると、ローリスク・ローリターンの理想的な会社と言えなくもない。もちろん MGM側の業績に応じて家賃が変動する契約であればリスクが増えることになるが、そのへんがどうなっているかは、まだ情報を得ていない。

MGM、REIT による企業分割  なお、今回の企業分割により、MGM は不動産の所有権を MGP に移転させたわけだが、すべてのホテルを手放したわけではなく、まだ一部のホテルは所有したままになっている。(右の写真は、右の手前から左奥の順にエクスカリバー、ルクソール、マンダレイベイ)
 具体的には、ベラージオ、MGMグランド、アリア、サーカスサーカスが、まだ MGM が所有し続けているホテルで、MGP に譲渡されたのはマンダレイベイ、ニューヨークニューヨーク、モンテカルロ、エクスカリバー、ルクソール、ミラージと、今月開業したアリーナ前の広場 ザ・パーク、それとデトロイトやミシシッピ州に保有する各カジノホテルとなっている。
 マカオにあるMGMグランドは現地法人が所有しているため MGP とは関係ない。なお今後さらに所有権を MGP に移転する可能性があるとの話も出ているので、ベラージオなども今後はどうなるかわからない。(右下の写真はニューヨークニューヨーク)

MGM、REIT による企業分割  さて一般観光客にとって気になるのは、今回の移転により、何が変わって何が変わらないのかということだろう。特に、常連のリピーターなどにとっては、カジノでのプレーやレストラン利用などでポイントが貯まる M life カードの運用に関する変化は大いに気になるにちがいない。
 結論としては、基本的には何も変わらないというのが業界関係者の一致した見方で、実際に MGM側もそのように発表している。
 そもそも MGP が所有することになったマンダレイベイなども、MGM が所有したままになっているベラージオなども、運営はこれまでどおり MGM なので何も変わらなくて当然だ。
 家賃を MGP に支払う必要が生じた分だけ宿泊料金などが値上げされるのではないか、といった不安の声も聞かれるが、最近あった同様な例 (トロピカーナホテルと Mリゾートホテルを所有していた会社も REIT による企業分割を 2013年に実行) からもそのようなことはほとんどないとされている。
 どうやら企業形態という意味では大改革ではあるものの、株主はともかく、一般の利用者にとっては特に大きな変化はないと考えてよさそうだ。

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