週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2016年 2月 24日号
米メディア、トランプ氏と柏木氏の壮絶バトルを開示
トランプタワー  今年の秋に行われる大統領選挙の予備選や党員集会がスタートしたばかりというこの時期に、共和党から立候補している「不動産王」ことドナルド・トランプ氏と、「世界で五指に入るギャンブラー」(Politico の記事) と称されながら、日本刀らしき凶器で惨殺された柏木昭男氏の関係を論じる記事が、2月14日に米メディアから発表された。
(右上の写真内の金色の高層ビルはラスベガスにあるトランプ・タワーで、この記事内に登場するトランプ・プラザではない)

 発表したのは政治専門メディアのポリティコ(Politico)。日本での知名度は低いようだが、ワシントン・ポストの記者たちが 2007年に独立して立ち上げた硬派のメディアで、アメリカではそれなりの評価を得ている独立系のジャーナリズムだ。設立当初は右寄りの論調も多かったようだが、近年の思想的な立ち位置は、やや左寄りとされている。
 政治全般を対象としているが、とりわけ大統領選挙に関する報道を得意としており、立候補者の経歴や素性などを徹底的に調査して報道することで知られている。

 記事の内容は、1990年、トランプ氏がアトランティック・シティー(アメリカ東海岸のカジノ都市)で経営していたカジノホテル「トランプ・プラザ」における柏木氏との壮絶なバトルについてだ。
トランプタワー  もちろんバトルと言ってもケンカや法廷闘争などではない。カジノ対ギャンブラーの真剣勝負で、トランプ氏が日本まで行って柏木氏を自身のホテルに招待する経緯から、柏木氏の滞在中の様子、バカラで一張り 25万ドル(当時のレートで約3700万円) という超高額の賭け金で1時間に約70回のペースで勝負する柏木氏のプレーぶり、その現場に立ち会うトランプ氏、そしてトランプ・プラザ側が最終的に 600万ドル(同、約9億円) 負けるまでのトランプ氏の心の動きや、そこからカジノ経営理論を学んだことなど、トランプ氏にとって人生の大きな転換点となる出来事として、その一連の流れがこと細かく克明につづられている。
 また、1997年発行のトランプ氏の著書「The Art of the Comeback」(写真右上)からの引用なども含まれているため、当時のトランプ氏の考え方や生き様もわかる興味深い内容に仕上がっており、この時期の政治記事としては良くも悪しくも物議をかもしそうだ。

 ちなみに大勝ちした柏木氏はその後あらためてトランプ・プラザを訪問し、こんどは大敗を喫することに。また、ラスベガスやオーストラリアにあるトランプ氏以外が経営するカジノにおいても大勝ち、大負けを繰り返し、世界中のカジノ業界からホエールとして名を馳せることになった。(クジラを意味する「ホエール」は、超高額でプレーするギャンブラーを意味する業界用語)
 ニューヨーク・タイムズの記事としてポリティコが今回の記事内で報じたところによると、柏木氏が謎の死を遂げた 1992年1月の時点における、アトランティック・シティーやラスベガスの各カジノに対する未払いの負け金の総額は約 900万ドルで(各カジノは常連客に対して、現金を所持していなくても、いわゆるツケでのプレーも許可している)、そのうちの約400万ドル(同、約6億円)がトランプ・プラザに対するものとされる。

 さて、その借金がその後どのように精算されたのか、あるいはされていないのかはさておき、柏木氏が富士山麓の自宅で何者かによって惨殺されたことに関しては、今回のポリティコの記事がその冒頭で、
 Akio Kashiwagi was found dead in his palatial home near Mt. Fuji. The scene was gruesome. The house's white paper screens were spattered with blood. The 54-year-old had been stabbed as many as 150 times. By some reports the weapon of choice was a samurai-style sword. (white paper screens は障子、samurai-style sword は日本刀)
 とかなりセンセーショナルに描写するほど衝撃的かつ有名な事件ではあるが、大統領候補となっているトランプ氏と柏木氏の間に接点があったことを知る人は少ないのではないか。

 そんな知られざる二人の接点を、20年以上も経過した今、予備選が真っ盛りというこの時期にわざわざポリティコが報じた意図や真意はなんなのか。
 ポリティコが左寄りのメディアということを考えると、それなりの意図がありそうだが、行間などを探ったりすることなく記事の文面だけをそのまま読む限りでは、事実関係の描写だけにとどめているようで、トランプ氏をおとしめるような論調は特に見当たらない。
 とはいえ、少なくともトランプ氏の好感度が増すような記事ではないことだけはたしかであり、共和党もしくはトランプ氏の支持者にとってはありがたい記事ではないだろう。
 このラスベガス大全の読者の大多数は米国での選挙権を持っていないであろうことを踏まえ、あえてこのポリティコの記事をここでこのようにふれることにしたわけだが、トランプ氏の経歴としてカジノを経営することも、そこにホエールを客として迎えることも合法である限り特に批判される行為ではなく、公人に対する事実の公開という大義名分があるにせよ、ポリティコの今回の報道はトランプ氏にとっては掘り起こしてほしくない過去のはずであり、気の毒なような気がしないでもない。

 民主党のネバダ州(最大の都市はラスベガス)での党員集会は先週終わりクリントン氏が勝利。今週 23日は共和党の番で、この記事を書いている今、ここラスベガスでトランプ氏ら共和党の候補者が舌戦を繰り広げており、どうやらトランプ氏の勝利に終わりそうな気配だ。
 両党とも予備選レースはまだ始まったばかり。秋の本戦に向けた今後の戦いは果たしてどうなることやら。なにかと物議を醸すトランプ氏の言動や行動から目が離せそうもない。

 なおポリティコの今回の記事、非常にセンシティブな内容であり、ラスベガス大全がヘタな日本語で訳したり主観が入ってしまうことは好ましくないので、あえてそれを訳したりすることはしないが、本件に関して興味がある人は、ポリティコの公式サイト (←クリック) で原文を閲覧することができる。

 最後に、柏木氏が殺害された事件そのものは、山梨県警の努力もむなしく 2007年1月に時効になっている。(現在は殺人事件の時効が廃止されているが、当時はあった)
 運悪く捜査の時期が、同じく富士山麓の山梨県上九一色村に本拠を構えるオウム真理教の全盛時代と重り、忙しすぎてこの事件に手が回らなかったのではないかと、県警を擁護する意見もあるようだが、一度逮捕された容疑者が証拠不十分として釈放されるなど不可解な部分も多く、「犯人像がつかめていても逮捕できない事情があったのではないか」 との噂もあるなど真相は不明のままだ。
 なおこれは余談になるが、柏木氏のラスベガスでの滞在中の様子は、実話を再現した映画 「カジノ」(1995年公開、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演) の中で、高級和食レストラン NOBU の創業シェフである松久信幸氏が俳優として演じている。
(「カジノ」に関するあらすじは、このラスベガス大全の基本情報セクション内の「ラスベガス題材の映画」のページに掲載)

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