週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2016年 2月 17日号
夢の真空超特急、実験線の建設開始で本気度急上昇
Hyperloop, ハイパーループ  今週は観光情報とは無縁のテクノロジー系の話題なので、旅行中に役立つような情報ではないが、ラスベガスを愛する人にとっては、「夢物語のような壮大なプロジェクトの中心地がラスベガスになるのか?!」 というワクワクするような楽しい話題なので、「話半分」程度の気軽な気持ちで読んでいただければ幸いだ。
(掲載写真はすべて Hyperloop Technologies もしくは CNN のサイトから)

Hyperloop, ハイパーループ  音速にせまる時速 1,000km 以上という夢の超特急の実験線の建設が、先月からラスベガス郊外の砂漠の中で始まった。
 話半分といっても、それは営業運転の実現性のことであって、実験線の建設はすでに始まっている現実の話で、めざす速度にも偽りはないようだ。
 これまで長らくこの実験線の計画自体が疑問視されてきたことを考えると、今回の建設開始は大きな前進といってよいだろう。 これにより、机上の空論のように語られてきたこのプロジェクトの本気度が多少なりともラスベガス、そして全世界に示された形となり、CNNを始めとする大手メディアの取材の本気度も今後はかなりアップしそうだ。

Hyperloop, ハイパーループ  この夢の超特急、JR東海が東京と名古屋間で建設を進めている浮上式のリニアモーター駆動による高速鉄道とは根本的に仕掛けが違う。駆動がリニアモーターか回転モーターかという次元の話ではない。真空に近い状態にしたチューブの中を走らせようというまったく新しい発想による超高速交通システムだ。
 この乗り物の利点は、時速1,000km 以上という猛スピードだけではない。その程度の速度なら、すでに航空機が実現している。
 最大の利点は、空気抵抗がゼロに近いため、一度加速して目標の速度に達したら、あとは惰性で走り続けることが可能ということ。つまり電力や燃料を供給し続ける必要がほとんどない。新幹線でも航空機でも成し遂げられなかった究極の超高速エコ交通システムというわけだ。

Hyperloop, ハイパーループ  ちなみにチューブの中を走らせるという発想自体は、むかしからSFの世界などで見られたことで、ぜんぜん画期的なことではない。子供でも思い付くレベルのアイデアだ。
 ただ今回のプロジェクトが評価されるべき点は、その空想の域を出なかったアイデアを現実の世界に引っ張りだし、開発という実際の行動に移したことだろう。古今東西どのような分野の開発においても、夢に描くことだけならだれにでもできる。実行に移す決断がむずかしい。

Hyperloop, ハイパーループ  もちろん実験線の工事に着手したからといって、まだ当事者も本音の部分では営業運転の実現を 100% 確信しているわけではないようだ。さまざまな困難が待ち受けていることは、彼ら自身が一番よく知っている。
 それでも行動に移し、そしてそこに資金も集まる。その情熱と勇気、なんともアメリカらしいフロンティア精神ではないか。
 そのような無謀とも思えることにも挑戦するパイオニアたちがいたからこそ、人類社会は発展し続けてきたわけで、いつの時代もそういった人材は貴重な存在だ。そして世間は彼らを温かい目で見守り、行政なども最大限のサポートをする必要がある。今回ノース・ラスベガス市がそのサポート役を買って出たことは、当地に住む者として誇らしい。ぜひとも成功してほしいものだ。

Hyperloop, ハイパーループ  今回のパイオニア、つまりこのSF級のプロジェクトの言い出しっぺはだれか。
 それは今をときめく イーロン・マスク氏にほかならない (写真右)。宇宙ロケットの開発を手掛ける SpaceX社の創業者で、高級電気自動車メーカー Tesla社のCEOとしても知られる。
 実績の上では、まだマイクロソフトのビル・ゲイツ氏や、アップルのスティーブ・ジョブズ氏ら著名経営者に及ばないが、シリコンバレーやウォールストリートでの最近の注目度においてはだれにも引けを取らないカリスマ経営者だ。

Hyperloop, ハイパーループ  彼の算段によると、この夢の超特急の実現は不可能ではないらしい。ただ、上場企業であるTesla社の最高経営責任者をやりながら未知の分野の仕事にうつつを抜かすことは、投資家など世間の目が許さないため、直接的な経営参加は困難と判断。自身の夢を他の者に託すことにした。
 そこで彼はその詳細な設計コンセプトを世界に公開。そして自分に代わってプロジェクトを進めてくれる賛同者を募ることにした。
 その結果、Hyperloop Technologies (HT)と Hyperloop Transportation Technologies (HTT) という似た名称の2つのグループが実行部隊として結成され、競争しながら実現を目指すことになった。
 両社はいつの日か合体するようなことがあるかもしれないが、現時点では同じ夢を追いかけるライバル同士ということになり、出資母体も異なる。同床異夢という四文字熟語があるが、両社の関係はまさにその正反対の同夢異床といったところか。

Hyperloop, ハイパーループ  このたびの実験線を手がけたのは HT のほうで、建設場所はノース・ラスベガス市が管理する広大な工業用地 Apex Industrial Park の中。ラスベガス・ダウンタウンから北に20分ほどの砂漠地帯だ。
 長さは約3km とまだ短いが、これでは時速1,000km の実験走行には短すぎるので、今後さらに延長することになっている。初期のテスト軌道は年内に完成し、実験もただちに開始される予定だ。
 ちなみにライバルの HTT はカリフォルニア州の砂漠の中に実験拠点を構えている。

Hyperloop, ハイパーループ  まだ両社ともに 100〜200人規模の会社ではあるが、人材はすごい。
 HT の創業者でもありエンジニアでもある Shervin Pishevar 氏は、あのウーバーの初期の出資者という知る人ぞ知る業界の大物、そして実質的な社長を務めることになった Rob Lloyd 氏 (写真右)は IT業界の巨人、シスコ・システムズ社のかつての社長だ。
 HTT も負けてはいない。幅広い層から集めた優秀なエンジニアのみならず、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)もプロジェクトに参加させるなど強力な人材をバックにチームを結成している。
 なにやら両社の顔ぶれを見ているだけでも、本当に実現できるのではないかと期待が膨らんでしまうが、果たして現実はいかに。

Hyperloop, ハイパーループ  ちなみに両社は同夢異床なので目指すところはほぼ同じだが、あえて両社の違いを探すならば、HT は貨物輸送の分野に、HTT は旅客輸送の分野に、より多くの関心を示しているようだ。(右は HT がイメージするコンテナ輸送の想像図)
 とはいえ、どちらの集団が先に技術を確立することになったにせよ、予期せぬ事故など安全面のことを考えると、やはりまずは貨物の分野での実用化が先行され、その実績を積み重ねたあとに旅客という順番になるだろう。
 時間的なスケジュールとしては、両社ともに、ロサンゼルスとサンフランシスコ間の距離(約600km)を 30〜40分で結ぶ交通機関を 10年程度のタイムスパンで実現したいとしている。

Hyperloop, ハイパーループ  ただその実現性に関して、技術的な部分はもちろんのこと、経済的な部分においても疑問視する声が無いわけではない。
 カプセル内は一気圧に近い環境に保たれるとはいえ、人を乗せたそのカプセルを真空の環境に置くということは、極めて危険なことで、宇宙船や潜水艦レベルの気密性や強度が求められる。万が一にも空気漏れなどでカプセル内が真空になってしまったら乗客は全員即死だ。

Hyperloop, ハイパーループ  また、膨大な金額になるであろう建設コストを運賃収入で賄うことができるのかという問題を放置したまま、このプロジェクトの実現はありえないわけだが、そのへんの議論はあまりなされていないように思われる。技術的な問題よりも解決困難な難題かもしれない。今は技術者主導で夢を追っている段階なので、経済的な議論でプロジェクトにブレーキをかけることはタブーのような雰囲気もあるが、そのうち必ず採算性の問題は表面化してくるはずだ。

Hyperloop, ハイパーループ  そうは言っても 「実現させてほしい」、「自分も乗ってみたい」 というのが、多くの人たちの本音だろう。自分たちの血税が使われない限り、そして株主でもない限り、どれだけ開発に費用がかかろうと知ったことではなく、単純な好奇心として実現を願うのは当たり前のことだ。そしてその完成シーンを空想することは実に楽しい。
 実現するとした場合それはいつになるのか、運賃はどの程度になるのか、ガラス越しに見える車窓の景色はどのようなものになるのか、それとも地下や真っ暗闇のチューブの中で何も見えないのか、もしくは退屈しないように窓に景色を映像として映し出したりするのか、気圧に耐えられないので窓など始めから無いのか、興味は尽きない。
 また技術的な部分においても、チューブ内と駅の気圧差をどうやってコントロールするのか、左右のみならず上下においてもほぼ完璧な直線性が求められる軌道を(直線ではない軌道を時速1,000km で走った場合、乗客は体力的に耐えられない)、山岳地帯や障害物が多い市街地でどうやって敷設するのか、全線を地下にして完全な直線にするのか、緊急時の脱出などはどうするのかなど、これまた興味が尽きない。
 さらに、これはもっと専門的になるが、チューブとの隙間が狭い場合、車体の右側ばかりが(北半球の場合) チューブと接して摩耗してしまうコリオリの力に対する対策なども見ものだ。

 現場はまだ一般の人が立ち入ることはできないが(ラスベガス大全もまだ許可がもらえず現場に足を踏み入れていない)、近い将来、見学が可能となることだろう。
 そしてこのプロジェクトが着々と進み現実味を帯びてくれば、次のステップとして、日本のリニア中央新幹線の実験線のように体験試乗といった話にもなり、世界中から視察団や要人などが押し寄せるようになるかもしれない。そのときはまさにラスベガスは夢の交通システムの最前線かつ中心地となる。夢は膨らむばかりだ。
 中部地方を走るリニア新幹線、チューブ内を走るハイパーループ、10年後、どちらが世界から注目されているかわからないが、宙ぶらりんのまま計画が頓挫してしまうことだけは無いことを祈りたい。

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