週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2015年 10月 21日号
リメイクされた ZARKANA、シルクの原点回帰に成功
ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  シルク・ドゥ・ソレイユがラスベガスで手掛ける 8つの常設ショーのうちの一つ ZARKANA。
 2012年秋に始まったデビュー当初の評判は決して芳しいものではなかったが、昨年大規模なリメイクを行い、さらにその後も演目を入れ替えたりこまめに修正するなど日々改良を重ね、やっと完成の域に達したとのことなのでさっそく観に行ってきた。

 もともとこのショーは、ジャンル的には最もシルク・ドゥ・ソレイユらしい「元祖サーカス・ショー」といった感じの構成になっており、昔ながらのシルクらしさを求めるファンからの期待は大きかった。
 他のシルクのショー、たとえば 「O」 や 「KA」 は、水上ステージや可変ステージといった極めて特殊な舞台設備が圧倒的な存在感を示すいわゆる 「装置系のショー」 で、また 「LOVE」、「MICHAEL JACKSON ONE」、「CRISS ANGEL Believe」 は、それぞれビートルズ、マイケル・ジャクソン、クリス・エンジェルといった特定の人物をフィーチャーしたショー。「ZUMANITY」 もアダルト向けエロスという明確なテーマを持ったショーとして人気を博している。
 それらのショーはどれもアクロバットなどシルクらしいサーカス系の要素を残しながらも、それぞれのテーマを尊重する必要があるからか、そのテーマの特色を損なわない範囲での演出になりがちだ。
 それはそれでそのショーの個性が明確でわかりやすく悪いことではないが、シルクの原点に戻った純粋なサーカス系のショーを求める根強いシルク・ファンにとってはやや不満が残ったりする。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  そんな状況にあった 2012年秋、満を持してこの ZARKANA が登場したわけだが、冒頭でもふれたとおり、装置型やテーマ型のショーに慣れてしまっていたシルクの制作側に迷いがあったのか、コンセプトが中途半端になってしまい、地元メディアから酷評されるなど、評判は決して芳しいものではなかった。(右の写真はデビュー当時の演目)
 それでもすぐに修正できるところがシルクのすごいところで、わずか1年数ヶ月後の 2014年1月、大幅に内容をリメイクし、新生 ZARKANA として再出発させることに成功。今では 「これぞシルクの原点」 といった評価を得て、人気の常駐ショーとしてすっかり定着した感がある。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  さてシルクのファンであれば、ここまでを読んだ段階でだれもが同じ疑問を持つのではないか。それは 「MYSTERE」 との違いや位置づけだ。
 たしかに両者はコンセプト的には似ている。相違点をしいてあげるとするならば、新旧、つまり新しいか古いかの違いになるのではないか。
 MYSTERE は 20年以上も前にデビューしているので、それこそ正真正銘の超ロングランの「元祖シルク」、ZARKANA はまだ数年。古さに伝統的な価値を見い出すのであれば MYSTERE に軍配が上がることになるが、古いがゆえに装置的なハンデもあったりするので評価はむずかしい。
 デビューした 1993年当時はまだだれもインターネットもメールもやっていなかった時代で、当然のことながら、今では当たり前のように使っている一部のハイテク装置も当時は存在していなかった。
 もちろん MYSTERE も過去20数年、舞台設備の更新やハイテク機器の導入をこばんできたわけではない。それでもどうしても ZARKANA を超えられない部分がある。それは会場施設そのものの規模だ。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  ZARKANA のステージはシルクの中でも飛び抜けて大きい。
 客席側からは見えないが、奥行きが一般的なステージの倍以上もある。これには理由があった。
(右の写真はクモの巣状に張り巡らされたロープの中で行われる空中ブランコ。かなり奥行きがあるように見えるが、これでも施設の半分も使っていない)
 ZARKANA がデビューする前、この劇場は、同じくシルクが演じるエルビス・プレスリーをテーマにしたショー 「Viva Elvis」 の会場だったのである。この Viva Elvis は、超大型の出し物をこれでもかというほど次から次へと繰り出すショーで、巨大なステージを必要としていた。(すばらしいショーではあったが、エルビスを知る世代の高齢化に伴い需要が減り、約2年であえなく閉幕)
 そのようなわけでこの ZARKANA のステージはとてつもなく大きく、結果的に導入可能な装置にサイズ的な制約が少ないというアドバンテージがあり、そういった恵まれた物理的な環境は MYSTERE がどうしても超えられない部分で、そのへんに両者の違いが表れやすい。
 実際におびただしい数の LEDパネルを合体させて造り上げたステージ背面の超巨大スクリーンなどは、MYSTERE のステージでは絶対にできない芸当といってよいだろう。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  そのような状況を考えると、同じサーカス系のショーではあるが、MYSTERE が古き良き時代のテイストを感じさせるショー、ZARKANA がハイテク装置をフルに活かしたモダンなショーというように、明確な違いを打ち出せているように思える。
 どちらが良いかは人それぞれ好みの問題になってしまうが、どちらか一つを観るということであれば ZARKANA をおすすめしたい。耐用年数、賞味期限という言葉が適切とは思えないが、やはり MYSTERE は 20数年という歳月を考えるとマンネリ感は否めず新鮮味に欠けるからだ。
 なおこれはどうでもよい余談になってしまうが、ラスベガスで開催されている数あるシルクのショーの中で、MYSTERE だけは主催者が異なる。MYSTERE 以外はすべて MGM社が主催しているが、MYSTERE の主催はトレジャーアイランド・ホテルだ。
 理由は、シルクはラスベガスでの公演において MGM社と独占的に契約していたが、たまたま 2009年に、MGM社は当時所有していたトレジャーアイランド(MYSTERE の劇場があるホテル) を第三者に売却してしまったからだ。
 したがって、現在 MYSTERE 以外のシルクのショーが開催されているホテルはすべて MGM社が所有し、チケット販売なども MGM 社の管轄下でおこなわれているが、MYSTERE だけはまったく別の組織による管理運営となっている。MYSTERE のチケットを公式サイトから購入する際、税金と通常の販売手数料以外に、Willcall 手数料 $7、E-Ticket 手数料 $5 といったものがあったりするのもそのためだ。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  前置きが長くなってしまったが、ZARKANA そのものの内容に話を移すと、圧倒的に評価が高いのは、ロシアからやって来た超絶技巧のスーパー・ジャグラー Maria Choodu のボールを使った演技だろう (写真右)。
 彼女は幕が上がってすぐに登場する。野球で言えば 1回の表の1番バッターだ。観客はいきなりここで度肝を抜かれることになる。彼女のジャグリングの特徴は、上に投げ上げるだけでなく、床や壁や家具などに弾ませる華麗な技で、風貌も振る舞いも美しい。ちなみに彼女は新生 ZARKANA になる前から出演している看板スターだ。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  当初の ZARKANA から出演しているという意味では、男女二人で演じるハシゴのアクロバットもすごい。長いハシゴを直列に二段重さねた高い位置での曲芸は、命綱を付けているとはいえ迫力十分だ。
 KAなどでもおなじみの "Wheel of Death" (写真右) も健在で、またロシアの双子の兄弟による空中演技も、他のショーで見られる同種の演技と比べて可動範囲が非常に広くダイナミックで圧巻だ。
 あまり細かく書いてしまうとネタバレになってしまい観る楽しみが減ってしまうのでこのへんにしておくが、燃えたぎる火を避けながらの空中綱渡りなども昨年のリニューアルでさらなる磨きがかかっており観客をハラハラさせる。
 またこれは個別のパフォーマンスではないが、前述のステージ背面の巨大スクリーンによるさまざまな舞台演出も観ている者を飽きさせない。
 生バンドのメンバーが、一段高くなった専用のエリアからステージに降りてきて演技に加わったりする部分もおもしろい。
 あとこれはショーそのものの内容とは直接関係ないことだが、ZARKANA はシルクのショーの中で唯一撮影が許可されているショーとしても知られ(ただしストロボの使用は禁止)、ブログやフェースブックに鑑賞体験などを写真付きで公開することも可能となっている。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  何やらいいことばかりを書き並べてきたが、気にならない部分がないわけではない。
 クラウン(clown) の登場が多すぎるきらいがある。(右の写真は客席まで降りてきて愛嬌をふりまくクラウン)
 クラウンはほとんどすべてのシルクのショーにおいて共通した重要なキャラクターになっているが、この ZARKANA では登場回数的にやや目立ちすぎだったのと、そのおもしろおかしいキャラクターが MYSTERE ほどはうまく活かされていないような気がした。
 演目と演目の間の準備の時間を埋めるために必要不可欠な存在であることはわかるが、何度も登場させるのであれば、衣装や化粧をもっと大胆に変えるなど、もう少し工夫がほしいところだ。
 とはいえ、同じキャラクターのクラウンを登場させ、演出に連続性を持たせることに意味があるという意見も聞かれるので、この種のことに対する評価はむずかしい。結局は好みの問題ということか。

ZARKANA、ザーカナ、ザルカナ  いずれにせよ、この新生 ZARKANA は、シルクの原点に回帰したサーカス系のショーを求める者にとっては極めて完成度が高い充実したショーなので、すでにオウやKAを観てしまった人はもちろんのこと、初めてベガスでシルクを観るという人にとっても満足できるショーといってよいだろう。
 チケットは公式サイトから買い求めることができ、料金は税金やその他の諸費を入れて約 $86 から。公演は日曜日と月曜日を除く毎日 7:00pm と 9:30pm。会場はアリアホテルのカジノフロアの2階にある専用シアター。
 最後に、ZARKANA のカタカナ表記について。「ザーカナ」 と書かれることが多いようだが、主催者側によると 「ザルカナ」 が正式な日本語表記とのこと。ちなみに当地での発音は [ザ] よりも [] にアクセントを置いた「ザーナ」に近い。「ザーカナ」 でも 「ザルカナ」 でも、日本流のアクセントではなかなか通じにくいようだ。

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