週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2014年 12月 31日号
シルクのKA、死亡事故から1年半、安全性を高め再開
 このたび関係者の多大なる努力により、シルク・ドゥ・ソレイユの KAが完全復活を果たし、今月から従来のようにライブでフルバージョンを楽しめるようになった。
 「ライブでフルバージョン」 ということは、これまではライブではない部分があったということになるわけだが、昨年の悲劇を知らない人には少々説明が必要だろう。

 じつは 2013年6月、公演中に女性パフォーマー Sarah Guillot-Guyard さん(写真右。Wikipedia より) が転落死するというなんとも痛ましい事故が起きてしまった。31歳の二児の母だった。
 もちろん翌日以降の公演はしばらく中止となり、原因究明のために時間が費やされることになったが、いつまでも休演というわけにもいかず、事故から数週間後、原因不明のまま、安全が確認できない問題のシーンをカットして公演再開となった。

 皮肉なことに、カットされてしまったのは終盤に繰り広げられる悪玉と善玉のバトルという設定のシーンで、このショーの中で最も重要なクライマックスともいえる部分だ。
 ハイテク舞台を駆使した一番の見せ場でもあり、この部分のカットは興行的に大きな痛手となったが、事故原因がわからないのであればやむを得ないということで、まったく別の出し物などに置き換えられた。
 しかしその後、やはりこのバトルがなければストーリーが成り立たないということになり、結局ビデオ映像を使って演じることになったが、当然のことながら、事故のことを知らない観客からはすこぶる評判が悪く、この1年半、KAの人気は下降線をたどることに。

 一日も早いライブでの再開が望まれていたが、それには事故原因の究明および安全の確保はもちろんのこと、OSHA(労働安全衛生局)からの承認、サラさんの遺族の心情、そして仲間が命を落とした同じ場所で同じ演技をしなければならないパフォーマーたちのメンタル管理など、解決しなければならない問題はたくさんあり、再開は困難を極めた。

 結局、サラさんが好きだったそのシーンの再開は、サラさん自身が一番望んでいるのではないかとのことで遺族からも仲間からも同意を得ることができ、最後まで時間を要したのは事故原因の究明だった。
 ちなみにそのバトルのシーンは、ほぼ垂直に立ったステージ面を役者が駆け回るような形で演じられる構成で、その位置から奈落までの落差は約30メートル。それぞれの役者の身体は上方から張られたワイヤーでつながっているのでとりあえず安全は確保されているが、奈落側には安全ネットなどは張られていない。事故はそこで起きてしまった。

 これまでの検証で、滑車からワイヤーが外れ、そのワイヤーが他の鋭利な部品にこすれて切れたことが直接の原因とされているが、何がきっかけでワイヤーが外れたのかはまだはっきりしていないようだ。事故の直前、サラさんを上方に巻き上げたりする動きが速すぎたために滑車が破損したとの見方もあるが、推測の域を出ていない。

 いずれにせよ、50万ドルを投じ滑車もワイヤーもウィンチも強度の高いものに取り替え、想定されるすべての事故にも対応できるように装置を一新し、OSHA からも承認を得て、このたびの再開にこぎつけた。
 なお改良後の現在も、このシーンにおいては下方に安全ネットは張られていないという (他のシーンでは張られている)。その理由は、30メートルの高さからの転落には安全ネットが理想通りに機能せず、それをうまく機能させるために知恵や時間を費やすよりも、上方のワイヤー側の安全性を高める努力をしたほうが現実的とのことで、実際に人間の体重以上のサンドバッグなどを使い、ワイヤーや滑車の強度を何度も何度もテストしたようだ。

 サラさんの悲劇を無駄にしないよう、徹底した安全管理のもとで新しく生まれ変わった KA。
 バトルのシーン以外の部分でも細かな改良が加えられ、さらなる進化を成し遂げているばかりか、数あるシルク・ドゥ・ソレイユのショーの中でも一番高いとされる1億5000万ドルがつぎ込まれたこのステージには、日本のバトントワラー高橋典子さんも準主役としてソロで登場している。これまでのバージョンを観たことがある人もない人も、ぜひこのシアターに足を運んで頂きたい。
 シアターの場所は MGMグランドホテルのカジノフロア内。公演は日曜日と月曜日を除く毎日 7:00pm と 9:30pm。なお 1月23日以降は木曜日と金曜日が休演日になる。



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