週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2014年 12月 17日号
まもなくカジノ解禁、関係者必読の経済小説を 10人に進呈!
 毎年話題に登る日本でのカジノ解禁論。結局今年もほとんど議論されること無く衆議院は解散してしまった。それでも与党公明党内に慎重論があるものの、このたびの選挙で新たに選ばれた議員の顔ぶれを見る限り超党派での賛成派が多く、いよいよ来年こそは何らかの進展がありそうだ。
 そんなご時世、今週はいつもと趣向を変え、日本のカジノ解禁論にまつわる一冊の本を紹介してみたい。

カジノ解禁  12月3日に小学館から発行されたばかりのその書籍のタイトルは 「県営カジノを立て直せ!」
 解禁論にまつわるといっても、その是非を論じるオピニオン書ではない。解禁後、実際にカジノが開業した状況を想定し、現場の混乱や企業間の駆け引きなどを描いたヒューマンドラマだ。
 あくまでもエンターテインメント作品ではあるが、後述する通り、日本のカジノ解禁に関わるすべての関係者に対して非常に重要なメッセージが込められているので、単なる小説とは一線を画した書籍として読んでいただきたい。
 著者は在ラスベガス18年の長野慶太氏。三井銀行を退職後、ラスベガスで対米進出コンサルティング業を営みながら執筆活動を続ける異色のライターで、2011年、「女子行員・滝野」 で三田文学新人賞、翌12年には 「KAMIKAKUSHI 神隠し」 で第4回日経小説大賞を受賞するなど、海外にいながら日本でも存在感を高めている実力派の作家だ。
 またフィクション作品のみならず、「ラスベガス黄金の集客力」、「部下は育てるな! 取り替えろ! 」、「辞表を出して次へ行け!」、「アホな上司はこう追い込め!」 など、本業に関わるユニークなビジネス関連の著作も多く、ラスベガスの日系ビジネス界における御意見番として地元での信頼も厚い。
 ちなみに 18年という歳月は、このラスベガス大全の歴史と同じで、長野氏は当サイトの発足当時からのアドバイザー的な存在でもある。

カジノ解禁  書評において「渾身の一冊」という表現がよく使われるが、500ページに迫るこの作品は長野氏が書いてきた数ある著書の中でも最大級の力作で、まさに渾身の一冊。
 もちろんページ数ばかりか、2008年ごろから構想を温めてきたというから費やした時間的にも大作だ。(右の写真は長野氏、クリックで拡大表示)
 小説なのでフィクションということになるが、この作品は限りなく現実に起こり得えそうなことを想定しながら書かれており、そのため登場する人物、企業、法令、監督官庁などの設定が現実離れしないよう、実際に作者自身が関係各所にコンタクトしながら念入りに調査したというから恐れいる。細かいことにも妥協せず、常に正確であることを追求する元銀行マン長野氏らしい作品といってよいのではないか。

 さて気になる内容についてだが、小学館側の宣伝文句によると 「近未来サスペンス経済小説」 となっており、「経済小説、サスペンス、恋愛小説、ギャンブル小説」 が合体したような作品とのこと。
 しかしこれらの4つの要素が均等に含まれているとは考えないほうがよいかもしれない。やはり経済小説の要素がかなり強いように思われるからだ。
 ちなみに恋愛小説という文字に踊らされ、官能的な描写も期待しながら読み進めてみたわけだが、残念ながら約500ページの中で濡れ場はわずか数行だけ。無いよりはまし、といえなくもないが、スケベ系の読者にとってはやや物足りなさが残るかもしれない。
 そのことを長野氏に指摘すると、「実体験が少ないので官能部分を長く描写するのは苦手。妻からは "実技もヘタだから小説でもヘタ、濡れ場はやめたほうがいい" と忠告された」 とおどけて見せてくれたが、実体験の数はいざ知らず、日経賞を取るほどの実力者なので本当は細かな官能描写もきっとうまいにちがいない。

 冗談はさておき、この作品はやはりどう考えても恋愛小説でもなければギャンブル小説でもなく完全な経済小説であり、そのことは作者自身が一番よく理解している。では長野氏はこのビジネス絡みのストーリーの中で何を訴えたかったのか。
 それは日本側の関係者への 「カジノ経営は一朝一夕にできるほど簡単なものではない」 という警鐘だ。(ちなみに長野氏自身は日本のカジノ解禁に対して経済効果などに期待する推進派であり反対論者ではない)
 つまり、作品内の言葉を借りるならば、「後進国や途上国は産業技術などを長年に渡って先進国から学んで発展してきた。カジノ運営に関して日本は完全な後進国。先進国から学ぶべき」 というのが彼の主張で、それがゆえに、在ベガス18年の経験を活かしながらストーリー設定を限りなくリアルなものに近づけ、トラブルや騒動なども実例を参考に話を組み立てている。したがってこの作品は、今後日本でカジノ運営に関わる者に対するケーススタディー的な教科書のようなものと考えると内容の本質を理解しやすい。

カジノ解禁  そして長野氏の主張の中で最も重要な部分は、日本の性善説的な発想や、平等という価値観に対する危険性だ。日本的な感覚でやったのでは必ず失敗するということ。
 たとえばラスベガスのカジノでは 「客のみならず従業員も悪いことをするかもしれない」 という性悪説的な大前提で運営されているため、従業員に対して抜き打ちで麻薬検査や個人ロッカー内の所持品検査などが行われており、そういった実例を長野氏は示しながら、日本の 「身内である従業員が不正を働くわけがない」 という性善説的な発想では、現金を大量に扱うカジノは不正の温床になってしまうと警鐘を鳴らす。
 また長野氏はハイローラー(超高額の賭け金でプレーするギャンブラー。言うまでもなくカジノにとっては超優良顧客) に対するマーケティングにおいて、日本の過度なまでの平等意識が足かせにならないかと危惧する。
 つまりラスベガスではハイローラーに対して最高級の部屋を無料で用意したり、ナイトショーやレストランの特等席を彼ら用に確保しておくのが普通で、当然のことながら一般の客は金を払ってもそれらの席を利用することができなかったりするわけだが、そのような特別待遇は平等意識が強い日本の価値観にそぐわず、案の定、この作品の中では日本人経営陣がハイローラーを呼び込むためのラスベガス流マーケティングを否定してしまい、その結果、富裕層の取り込みに失敗し経営難に陥る。

カジノ解禁  長野氏は、ラスベガスであろうが日本のカジノであろうが、ハイローラーの呼び込みに成功しない限りカジノ経営は成り立たないと断言する。
 実際にラスベガスでも一般客のルーレットやブラックジャックにおける1回のプレーの賭け金は 20〜30ドル程度。しかしハイローラーはその100倍以上を一度に賭ける。
 このことは、カジノフロアで視界に入る数百人はいるであろうすべての一般客の賭け金の合計と同じ額を、ほんの2〜3人のハイローラーが動かしていることになり、カジノがハイローラーを優遇するのはビジネスとして極めて当然で、それを不平等とすることのほうが不平等かもしれない。
 そして優遇がないみみっちいカジノにハイローラーはやって来ないのも自然な成り行きで、もしアジアからの富裕層の誘致を目論む日本のカジノが 「平等」 を旗印に彼らを優遇しなければ、彼らはマカオやシンガポールに流れるだけだ。それでは経営が行き詰まり、地元の雇用も経済効果もあったものではない。

カジノ解禁  前述の通り長野氏自身はカジノ解禁に対して反対しているわけではない。安易な発想での解禁や開業を戒めるようなシーンが多く綴られているが、それは、解禁するからには失敗してほしくないという祖国に対する思いをこの作品の中に凝縮させているだけであって、基本的には解禁そして開業後の成功を心より期待している人物だ。
 そのようなわけで、この作品は、これからカジノ解禁に関わる人たちにこそ読んでいただきたいというのが作者および当サイトの願いで、その 「関わる人たち」 とは、法律を作る者、監督官庁、運営現場、そして犯罪防止などの観点から警察や法曹界、ようするに立法、行政、司法の三権のすべて、さらには世論の形成に影響を与えるメディア関係者などだ。
 もちろん一般の人たちにも読んでもらいたい一冊ではあるが、元銀行マン、そして現ビジネスコンサルタントという立場の者が書いた経済小説であるがゆえに、債務者区分コミットメントライン、県債デフォルト、プライベートエクイティーファンド、といった一般にはあまり馴染みのない言葉がいろいろな場面で登場し、それらの意味を理解していないとわかりにくい部分も少なくないので、経済のことにある程度精通していたほうがよいかもしれない。
 さらに言うならば、カジノのそのものに対しても深い造詣があったほうがよい。「グリフィン・インベスティゲーション」 (このラスベガス大全の [辞書]セクションの Griffin の項に詳細) といったほとんどだれも知らない言葉ではあるが、カジノ運営においては必要不可欠なキーワードが登場したり、「ブラックジャックテーブルでは紙にサインしたら上限内で貸し出す」 といった表現など、その借金システムを知らなければ理解しづらい場面がたくさん出てくる。
カジノ解禁  また第四章の最後のほうの部分ではカジノの監視室とのやりとりが延々と続くことになるが、監視室がどのようなものであるか、実態を知らなければ本質を楽しめないだろう。
 そう考えると三権の関係者もメディア関係者も、この本を読む前に、まずはラスベガスを訪問し現場の実態を知ったほうがよいということになりそうだが、本書があまりにも難解なものであるかのようなことばかり書くと、今回のこの記事のスポンサーである小学館にも長野氏にも迷惑をかけてしまうことになりかねないので、このへんにしておきたい。

 さて、その小学館から、ここまで読んでくれた読者に対して抽選で10人に、この「県営カジノを立て直せ!」 をプレゼントしてくれることになっている。希望者は以下の URL にある専用申込フォームから小学館あてに住所、氏名、連絡先などを送信。締め切りは 2014年12月31日、発送は1月下旬。
https://ml.webshogakukan.com/solopen/enquete/casino.do 



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