週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2014年 01月 08日号
日本も学ぶべき点が多い、中国雑技団による 「パンダ外交」
中国雑技団 PANDA  特殊撮影や音響効果など、ハイテク化が進む昨今のナイトショー。折しも、今ラスベガスでは、世界最大級のハイテク業界のコンベンション 「CES」(Consumer Electronics Show) が開催されている。
 世界中から業界関係者や報道陣が集まり街中がごった返しているなか、その CES の開幕日に当たる 1月7日、ローテク興行の象徴ともいえそうな中国雑技団のショー 「PANDA!」 が、あまりメディアの注目を集めることもなく、パラッツォ・ホテルのシアターで、ひっそりと始まった。さっそくその初公演を観てきたのでレポートしてみたい。

中国雑技団 PANDA  実はこの PANDA!、内容的にも戦略的にもすごいショーで、当地のショービジネス界においては、「数年に一度のビッグ企画」 とされ、昨秋に公演計画が発表された時点からかなり注目されてきた。
 にもかかわらず、ひっそりと始まったのは (実際に地元主要メディアのスタッフをシアター内で見かけなかった)、たまたま開幕予定日が何度か延期されメディア側の緊張感が緩んでいたのと、タイミング的に CESに話題をさらわれてしまったからと思われる。

中国雑技団 PANDA  中国雑技団は半世紀以上も前の社会主義体制下で国家プロジェクトとして始まったサーカス興行団とされており、市場経済が定着しつつある今でも 「官製」 の色彩が濃く、同じサーカス団でも完全な 「私製」 であるシルク・ドゥ・ソレイユなどとは大きく趣を異にしている。
 現在中国の主要都市のほとんどに雑技団が存在しているが、今回ベガスにやって来たのは、数ある中でも最も権威があるとされる北京の雑技団のメンバーで、北京オリンピックの開会式や閉会式に関わった人たちも来ているというからまさに本物中の本物だ。

 そんな集団を誘致できたのは、パラッツォ・ホテルのオーナーで、米国屈指の大富豪でもある Sheldon Adelson 氏が、マカオにおけるビジネスなどを通じて中国との太い人脈を持っているからといわれている。
 ちなみに同氏は、CES よりも巨大だったハイテク業界のコンベンション 「COMDEX」 (毎年ラスベガスで11月に開催されていた) の創設者で、その絶頂期だった 1995年に、それを孫正義氏が率いるソフトバンクに高額で売却して財を成した人物だ。
 歴史があり巨大であったCESを追い越すことを目標に COMDEX を創設し、実際に追い越すことに成功した Adelson 氏から見れば、CESは長年のライバル。偶然とはいえ、彼が誘致した今回の PANDA! がその CESと同じ日に開幕するとはなんという因縁か。(COMDEX は、孫氏の戦略ミスや 911テロ後の不況の影響もあり、2003年の開催を最後に消滅。孫氏による数ある企業買収の中でも屈指の大失敗といわれている)

中国雑技団 PANDA  さて前置きが長くなってしまったが、ショーの内容はどうだったのか。結論から先に書くならば、かなり立派な内容で、短期間に終わってしまうようなレベルのショーではないことだけはたしかだろう。
 本場中国でも鑑賞した経験があるが、個々の出し物は本場を踏襲しており、基本的なアクロバットはもちろんのこと、ジャグリング、曲芸マジック、皿回し、そして近年人気の 「変面」 も盛り込まれている。
 中国公演との大きな違いは、冒頭で書いてしまった 「ローテク」 の公演ではないということ。中国公演では、基本的にはすべてパフォーマー個人の卓越した才能に頼ったハイテク抜きの演技が主流だが、ここベガスでは違っていた。光、音、煙などは言うにおよばず、水までもうまく使いこなしており(うっかりしていると見落としやすいが、水でカーテンを作る場面がある)、いたるところで高度な技術が生かされている。
 つまりローテクとハイテクをうまく融合させた独創的なショーで、これは今後増えるであろう中国からの観光客にとっても新鮮に映るはずだ。そういう意味でも、他の多くの新設ショーが直面する集客難という問題を抱え込むことはないと思われる。たまたま今月末に始まる旧正月、いわゆるチャイニーズ・ニューイヤーの際には、中国系の観光客が多数ベガスを訪問すると予想されるが、彼らがこのショーに対してどんな反応をするのか楽しみだ。

中国雑技団 PANDA  その他こまかいことで気づいた点は、太鼓の演技やタップダンスの場面以外はライブ演奏ではなく録音された音源が使われているということ。これはシルク・ドゥ・ソレイユと異なる部分ではあるが、このショーにおいてはさほど重要なことではないかもしれない。
 開演の際の簡単な説明アナウンス以外、トークの部分はほとんどないなので、語学力を心配する必要はない。これはシルクと同じだ。
 シルクといえば、このショーにおけるアクロバットの際の演出や、その時の音楽の雰囲気などがシルクに似ていると思われる場面が散見された。「パクリだ!」 と指摘したところで当人たちは否定するだろうが、シルクを参考にした部分が少なからずあることは間違いないだろう。
 ステージと客席を仕切る幕そのものが、竹をイメージした円筒形の集合体で構成されているところは独創的でおもしろい。この竹状カーテンが、さまざまな場面において、特殊な形のスクリーンになるなど、実にうまく利用されているところもこのショーの見どころだ。

中国雑技団 PANDA  劇場のサイズは広すぎも狭すぎもせず適度な広さが心地よい。フロアの傾斜も十分にあるので、前の人の頭がじゃまになることはないだろう。
 劇場といえば、開演直前まで、劇場周囲の通路などにパンダが多数出没する。もちろん本物ではなく、中に人間が入っているパンダだが、記念撮影に応じてくれるなど愛嬌はすこぶる良い。アクロバットをやるメンバーが中に入っているのであれば、「ふなっしー」 のような過激な動きもあるのではないかと期待したが、そうでもなさそうなので、中身は普通の人間のようだ。
 一方、開演後のステージ上に登場するパンダは、あっと驚くようなサーカスを演じてくれるので、パンダにも種類があることがわかる。ショーのタイトルが PANDA! なので、いろいろなパンダがいるのも当然か。

中国雑技団 PANDA  さてここからが一番気になる部分というか、日本人としては考えさせられる部分。
 このショーはどう考えても、中国側のプロパガンダ的な要素が間違いなく含まれている。日本も学ぶべきかもしれない。
 あくまでも一般論だが、尖閣や靖国の問題で対立している日本はもちろんのこと、アメリカも中国に対して決して良い印象を持っていない。民主主義を標榜するアメリカ人は、人権問題を抱える国は嫌いだ。ようするに中国の好感度は総じて低い。
 しかしこのショーを観た直後の観衆は、一時的であるにせよ、中国に対する好感度は急激にアップするか、少なくとも悪い印象はかなり軽減されるものと思われる。
 かわいい動物を使えばタカ派的なムードもハト派的になり、ギスギスとんがった問題も丸くなったりするのが世の常。政治の世界に 「パンダ外交」 という言葉があるが、このショーはまさにそんな感じを目指しているといってよいのではないか。先ほどパンダの愛嬌がすこぶる良いと書いたが、会場の外でも中でも実にうまく彼らがその外交役を演じており、弾圧、人権無視、独裁政治といった怖い中国という印象を忘れさせてくれる。
 また政治的プロパガンダにとどまらず、観光客の誘致など経済的なマーケティングにおいても抜かりがない。このショーでは、ステージの背面に何らかの映像を映し出しているシーンが多いが、万里の長城、兵馬俑坑、桂林、上海などの摩天楼、その他さまざまな世界遺産レベルの景勝地など、中国各地の観光スポットが、これでもかというほど観客の視覚にうったえて来る。
 そしてエンディングにおいてアメリカ人観衆に対するリップサービス的な演出も忘れていないところがすごい。各役者がマイケル・ジャクソンを彷彿させるような動きを演じたかと思ったら、中国の景勝地がいきなりラスベガスなどアメリカの景色に切り替わり、華やかにラストシーンを締めくくる。そしてそれに感動した観衆をスタンディングオベーションへと導く、見事な演出だ。
 これで国の好感度が少しでもアップするのであれば、日本も参考にすべきだろう。たった 1000人ほどの観客といえども、日々くり返す地道な努力は、いつの日かアメリカ全土に影響をおよぼすはずだ。いずれにせよ、この PANDA! は中国という国のしたたかさを知ることができる非常に貴重なショーといってよいのではないか。

中国雑技団 PANDA  公演は、月曜日を除く毎日 7:30pm。正味時間は実測値で1時間25分。料金は、まだ開演初日のため流動的な部分もあるようだが、おおむね $50〜$100。チケットは、ネットもしくはパラッツォホテルのカジノ内にあるこの劇場の入口の前で買うことが可能。
 ショーのあとは、ギフトショップも併設されているので、関連グッズのショッピングを楽しむことができる。一般的に、アメリカでみやげ物を買って、それがあとから中国製であることに気づいた際はガッカリしたりするものだが、この店の場合はどうか。ちなみに、数点調べた限りでは、はっきりと Made in China のラベルが貼られていた。まさに 「純正品」 といったところか。


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