週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2013年 09月 04日号
たかがエッグベネディクト、されどエッグベネディクト
 なにごとにおいても世界をリードするアメリカ。しかし食文化だけは質素というか手抜きというか、バカにされることはあっても、ほめられたりすることはほとんどない。特に朝は超シンプルで、シリアル、ドーナツ、パンケーキ、玉子料理などが朝食の代表格だ。
 シリアルは自宅で、そしてドーナツは通勤途中に買い込み運転中の車内か始業前の職場で、パンケーキと玉子料理は旅先などのレストランや休日の外食で、というイメージがばくぜんとあるが、今回のここでの話は玉子料理。

 「料理」 といえば聞こえはいいが、塩からい安物ソーセージまたはペラペラのベーコン数枚に目玉焼きかスクランブルエッグだけ、というのが現実だろう。ちょっとゴージャスなレストランでもオムレツ程度までだ。
 日本でも 「朝はご飯と味噌汁と漬物だけ」 という人にとっては、アメリカの玉子朝食を一方的にけなすことはできないが、「食事は旅先での楽しみの一つ」 と考えると、やはり味覚的には楽しいことは何もなく、バカにしたくなるのも無理はない。

エッグベネディクト  そんなアメリカの朝食の中で最近なぜか日本人が注目し始めている玉子料理がある。エッグベネディクトだ。(写真右)
 以前から、当サイトのフォーラムでも 「どこに行けば食べられるのか?」 といった議論が交されたりしているが、それらはあくまでも数年に一度程度の散発的な議論。ところがここ数ヶ月、日本での注目度が急上昇しているのか、旅行者からエッグベネディクトという言葉を直接耳にしたりする機会が増えてきた。
 「NHKの番組で取り上げられたから」 という人もいたが、それが理由で人気が出たのか、人気が出てきたから放送されたのか、ベガスからではなんともわからない。
 また、日本でどれほどの人がエッグベネディクトという言葉を知っているのか、これまたまったくわからないが、レシピサイト 「クックパッド」 で検索してみた限りでは、掲載されているレシピの数は、9月3日時点で 98。
 この数は、かつて日本にほとんど存在していなかったが今ではだれもが知る言葉、たとえば、ミルフィーユ、パンナコッタ、マカロンなどと比べるとケタ違いに少ない。
 まだあまり知られていないということか。それでも、どんな国の料理でもうまく取り入れてしまう日本の食文化のこと、これから大流行する予感がしないでもない。

エッグベネディクト  さてエッグベネディクトの起源には諸説あるようだが、この国が発祥の地であることは間違いないところで、実際にかなり以前からレストランの朝食メニューに載っていたことを考えると、数少ない代表的なアメリカ料理といってよいのではないか。
 その内容についてだが、スクランブルエッグや目玉焼きほどではないものの、やはりかなりシンプルだ。スモークサーモンを追加で乗せるなど、ときどき派生型も見られるが、基本的には、薄く半分に切ったイングリッシュマフィンの上に、ハムかベーコン (多くの場合、カナディアンベーコン) とポーチドエッグを乗せ、そこにこってりしたオランデーズソースをたっぷりとたらしたものが、正統派のエッグベネディクトとされる。
 量的には、マフィンを半分に切っているためか、必ず2つで一食分としてサーブされるのが普通で、つまり、マフィン1つ、玉子2つ、ハム2枚を食べることになる。付け合せとしてポテトなどが添えられたりしていることがあるが、これは店によってまちまちだ。

 具材としてはオランデーズソース以外、何も珍しいものはなく、このソースこそがエッグベネディクトのアイデンティティーそのものということになるわけだが、オランデーズはヨーロッパゆかりのものであることを考えると、このアメリカ料理の真髄は玉子にこそあると言ってよいのではないか。
 なぜなら、この玉子がとにかく特徴的かつ象徴的なほどゆるいからだ。白身は固まっていても、黄身は半熟というよりも流れ出るような生に近い状態で (通常の目玉焼きもアメリカではかなりゆるいがそれ以上と思われる)、多くの人にとって、エッグベネディクトの印象といえばそのドロドロ感だろう。
 そして、その黄身とほぼ同じ色で同じゆるさのオランデーズソースをうまく合体させて味わうのがエッグベネディクトの楽しみ方であり、したがって、もし黄身が固まっていたら失敗作、つまりシェフのミスということになる。

 そのドロドロ状態であるがゆえに、エッグベネディクトを上品に食べることは困難を極め、ナイフ、フォークを使い慣れたアメリカ人にとってもかなりむずかしいらしい。
 上品な淑女がそれをどうやって食べるのか、周囲のテーブルを見回しエッグベネディクトを食べている女性を探すのが趣味、というふざけた殿方もアメリカには多いようだが、上品な淑女は自宅以外ではこれを食べない、という都市伝説もある。

 その真偽はともかく、どうやって食べるべきなのか。実は正しい方法は、いまだに発見されていないようだ。ただ大きく2つの方法に分けられることだけはたしかで、それは、玉子を切り分けずに丸ごと一気に口に入れてしまう方法と、切り分ける方法だ。
 しかし残念ながら、どちらもうまくいかない。前者は、決して上品とはいえないばかりか、玉子の量に対してオランデーズソースの量が少ないため味わいがほとんどない (切り分けないと、玉子全体の体積のわりに表面積が少ないので付着しているソースの量が不十分)。ちなみに玉子そのものには塩味など付いていない。
 後者も必ず失敗する。黄身が一気に流れ出て、平たい皿の全面に広がってしまいスプーンですくうには深さが浅すぎ、パンを手でちぎって拭きとって食べるにも、通常そのパンが手元にない。パンはエッグベネディクトの土台部分のマフィンということになるが、それを利用するとなると、ハムを切り離したりで、皿の上が散らかり決して上品には見えないばかりか、マフィンは表面がカリカリに軽く焼いてあることが多いため、黄身をうまく吸収してくれない。
 流れ出た黄身を下のマフィンが吸収してくれるのでは、と考えてもそれは無理。玉子とマフィンの間にはハムかカナディアンベーコンがあるからだ。
 通常の目玉焼きでも半熟の場合、それなりにむずかしいが、エッグベネディクトの場合はポーチドエッグなので、水中で形成されているため白身部分も平面的な円ではなく立体的な球体に近く、白身だけを先に切り取って小さくしてから丸ごと食べるということが困難で、難易度の次元が異なる。さらに塩味が付いている目玉焼きとはちがい、オランデーズソースと一緒に食べなければならないところも、上品に食べるという意味での状況をさらに悪化させている。
 さようにこの料理の食べ方はむずかしく、たかがエッグベネディクト、されどエッグベネディクトといった感じで、アメリカ人にとって食べ方の奥の深さは今も昔も天下一品のようだ。

 さてどこに行けばこれを食べることができるのか。実はあまりむずかしく考える必要はない。朝食時間帯にオープンしているアメリカンなレストランであれば、多くの場合、エッグベネディクトは存在している。
 朝食ということもあり値段も手頃で、15ドル前後と、ディナータイムのメニューに比べればかなり安い。実際に行く場合は念のため入店の前に、エッグベネディクトがあるかどうか (店の入口の前にメニューが掲示されているはず)、それと時間帯の確認をしたほうがよい。「午前10時まで」 となっていたりすることがあるので要注意だ。
 以下は、日本人観光客がアクセスしやすそうな4店で試食してみたレポートだが、これらの店にこだわる必要はまったくないので、いろいろな店のエッグベネディクトを開拓してみていただければ幸いだ。

Wynn Las Vegas 内の Tableau
エッグベネディクト  この店には通常のベネディクト以外に、"Nautica" と名付けられたサーモンベネディクトもある。(写真はその Nautica)
 前者が $22、後者が $27。高級店のため、値段は他店に比べかなり高いが、それなりの雰囲気は楽しめる。
 通常のベネディクトのほうは、カナディアンベーコンの厚みが 5ミリ以上あり、やや塩味がきつい。とはいえ、オランデーズソースの味が比較的うすいので、カナディアンベーコンの味が濃くてもよいのかもしれない。
 サーモンベネディクトはサーモンがたっぷり。こちらもオランデーズソースはやや薄めの味付けだったが、薄い場合は塩などで調整可能で、濃すぎる場合はどうすることもできないと考えると、濃いよりは薄いほうがよさそうだ。丸いナゲット状のものはポテト。
 入店時に名前を聞かれ、宿泊者かどうかも聞かれる。もちろん宿泊者である必要はまったくない。なお、この店の奥からプール施設に出ることができるようになっている。宿泊者ではなくてもプール施設の見学が可能ということになるので、プールを見たい人にとっては食事以外の部分でも利用価値がありそうだ。

Bellagio Hotel 内の Cafe Bellagio
エッグベネディクト  通常のエッグベネディクトとクラブケーキベネディクトを試食。値段は前者が $16、後者が $18。
 通常のエッグベネディクトは、カナディアンベーコンの厚みがウインよりも薄く、塩加減も薄い。日本人の味覚にはこちらのほうが合うかもしれない。また、オランデーズソースもウインよりも風味があるように感じたが、同時に比較したわけではないのでそのへんは微妙だ。なおオランデーズソース自体のレモンの味が強めなので、酸っぱい系の味が好きではない場合は気になるかもしれない。
 クラブケーキベネディクトは、イングリッシュマフィンの位置にクラブケーキがあるものかと思いきや、そうではなく、下からハッシュブラウン (マフィンの代わり)、カナディアンベーコン、クラブケーキ、オランデーズソースの順に重なっている。オランデーズソースは通常のベネディクトのものと同じなので、味的には両者の間で大差ないように感じられた。

Paris Hotel 内の Sugar Factory
エッグベネディクト  歩道に面した小洒落たこの店のエッグベネディクトには、アスパラガスが添えられていた。値段は $14.95。
 最大の特徴は、土台がマフィンではないこと。マフィンの代わりに、スカロップト・ポテト (ホタテ貝の薄切りのようにスライスされたジャガイモも焼いて重ねたもの) が使われており、これには賛否両論ありそうだが、個性があってこれはこれでよいだろう。オランデーズソースが少ないのが気になったが、これはこの店の特徴ではなく、たぶんその日のシェフによるバラツキと思われる。カナディアンベーコンが2枚ずつであることも付け加えておきたい。

Bally's Hotel 内の Sidewalk Cafe
エッグベネディクト 「クラシックスタイル・エッグベネディクト」 と呼ばれるこの店のベネディクトには写真のようなポテトが添えられて $12.99。
 この店の最大の特徴は、午後2時までこれを食べることができるということ (朝は6時から)。つまり、寝坊してしまって昼ごろ食べたくなった場合でも、間に合う。ただしエッグベネディクト自体は高さが低く、全体として見た目が貧弱。その日のシェフによりバラツキなのか、この店特有の傾向的なことなのかは不明。



バックナンバーリストへもどる