週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2012年 11月 14日号
「ザーカナ」、シルクでなければ、単なる B級バラエティー
ザーカナ  シルク・ドゥ・ソレイユの常設公演 「ザーカナ」 が、カジノホテル・アリア内の専用シアターで始まった。(現場でのアクセントは、[ザ] よりも [カ] をやや強く言う感じ)
 いきなり結論から書いてしまうと、「あまりよろしくない」 というのが正直な印象だ。
 もちろんこの種のものに対する評価は人それぞれで、客観的な判断はむずかしい。絶賛する人もいれば、酷評する人もいる。それは当然のことで、結局、感想や意見を発信する側も、それを聞いて参考にする側も 「あくまでも主観」 という前提での議論になってしまう。
 それでも、絶賛する人の数と酷評する人の数の比率という観点からの評価には、かなり客観性があるのではないか。その比率は、それぞれのショーにおいてある程度一定の数値が保たれるもので、それによる相対的な優劣の議論は無意味ではないだろう。

ザーカナ  では実際の評判はどうなのか。テレビ、新聞、雑誌など、地元メディアにおける今回のザーカナに対する評価は総じてきびしいようだ。
 その論調には、「意見はさまざま」、「意見は分かれる」 といったニュアンスで、「ミックス」 や 「スプリット」 などの言葉が散見されるが、それら言葉が使われるときは、「意見は半々」 ではなく、かなり評判が悪いと思ってまちがいない。よほど悪くない限り、ほめるのが通例だからだ。以下、あえて悪い部分を中心に、このショーの問題点などを書いてみた。

 メディアの評判だけでは不十分と思い、シアターから出てきた複数の日本人観光客らしき人たちにも感想を求めてみたところ、やはりそこでの評価も芳しくない。
 とにかく 「興奮度が低い」 というのが、彼らに接してみての実感だ。ミスティアやオウなど、今までのシルクの公演では、会場から出てきた人のほとんどは、興奮おさまらないハイ状態になっているのが普通だが、今回の場合、明らかに何かがちがっている。

ザーカナ  ではこのザーカナ、何が悪いのか。ひとことで言ってしまえば、びっくりする場面、つまり、「ワオォー」 と思わせる瞬間がほとんどないということだろう。
 問題点は多岐にわたる。まず、シルク・ドゥ・ソレイユといえばサーカスやアクロバットという印象があるが、その最も観客が注目している部分においても、このザーカナは非常に弱い。
 たとえば男女数人ずつが活発に踊りながら繰り広げるアクロバットのような演目もあるが、明るく楽しく元気で悪い印象は受けないものの、よく考えると高校や大学のチアリーディング選手権などで見られるレベルと大差ない。
 空中ブランコも、それ自体が極めてありふれている演目であるばかりか、難易度的にも平凡で、その程度のレベルのものであれば、サーカスサーカス・ホテルで開催されている無料アトラクションでも十分楽しめる。

ザーカナ  客をステージに上げ、電気イスに座らせてのコミカルなドタバタは、ブルーマンのモノマネの域を出ていない。
 ピエロが箱の中に入って消えてしまうマジックも、三流ホテルの激安マジックショーでしばしば見られるレベルのもので、この集団がマジックを演じること自体への賛否は別にしても、やるからにはもう少しレベルを上げてほしい。
 そして今回のザーカナで一番注目を浴びているのが、キャンバスに砂で絵を描くロシアの女性芸術家。その演技自体は斬新で独創性も感じられるが、生の迫力ある演技をウリにしてきたシルクがやるべき演目ではないように思える。その理由は、映像で見せるしかない演目だからだ。
 ごく普通のサイズのキャンバスに絵を描いているため、その部分は遠い客席からは小さすぎて見えにくく、また、砂という素材の性質上、水平に寝ているキャンバスに対して上から描くことになるため、最前列の人でも角度的に見ることができない。
 結局、真上から撮影しているカメラの映像を、ステージ中央に設けられたスクリーンで見ることになる。
 これは、マジックショーなどでマジシャンがトランプやコインなど小さなものを使ってのマジックを演じる際によく用いられる手法だが、映像でしか楽しめないその種の演目は、どうしても安っぽく見られがちなので、チケットを高い値段で売っている高級路線のシルクはやめておいたほうが無難だ。そもそも、どこの席からでもそこそこ楽しめてしまうディスプレイでの映像による演出は、高い座席、安い座席の存在意義を否定しかねない。

ザーカナ  以上のように、サーカスとは無関係の演目が多いザーカナ。「サーカスばかり」 というマンネリを防ぐという意味では、それ自体は悪くはないが、内容があまりにも平凡で、個性がないのは困る。
 ストーリー性を持たせ、歌や音楽も多用しミュージカル風に仕上げた、との宣伝文句もあるが、だれがどう考えてもこのショーからストーリーを読み取ることは不可能だ。結局、コンセプトも絞り込めていない。

 もちろんシルクだからといって、サーカスやアクロバットばかりでいいというわけではなく、むしろ変わったショーもあった方がいい。実際にズーマニティーのコンセプトはアクが強いセックスで大いに変わっているし、評判が決して良くないクリス・エンジェルもかなりのクセ物だ。しかしザーカナにはアクもクセもない。そこが一番の弱点といってよいのではないか。
 また、会場自体も驚きに欠ける。ハイテクを駆使したオウやKAのような高度な仕掛けがあるわけではなく極めて平凡で、形状的にも、円形のLOVEや、半円形のズーマニティーのような意外性や個性がない。

ザーカナ  悪いことばかり書いてきたが、もちろんいいこともたくさんある。奇妙な形をしたパイプオルガンが客席の両側の壁にあり、これの音が荘厳で素晴らしい。
 公演中、ほとんど絶え間なく演奏し続けている生バンドも独創的だ。
 開演直後に登場する女性ジャグラーも圧巻。ボールなどを上に投げ上げるジャグリングはどこでも見られるありふれたものだが、彼女の場合はボールを床や家具などに当ててバウンドさせてのジャグリングで、これにはだれもが驚く。
 男女二人で演じるハシゴのアクロバットもすごい。ハシゴを直列に二段重さねての高い位置での曲芸は、命綱を付けていると言えども迫力十分だ。

ザーカナ  舞台設定としてユニークだったのはヘビ女のシーン。舞台のほとんどすべてが大蛇になり、それがかなりリアルな動きをする。
 終盤、ステージ全体が真赤なバラになるシーンも数少ない 「ワオォー」 と驚かされる場面で、そのバラから続く最後のエンディングのシーンもゴージャスで美しい。

 とりあえずそんなところだが、全体としては、やはりもう少し改善しないと集客難に陥り、この会場で今まで開催されてきた前作品 「ビバ・エルビス」 と同じような運命をたどるような気がしないでもない。ちなみにその前作はわずか2年で打ち切りとなり、ベガスでのシルクの数ある常設ショーの中で 「消滅第1号」 となってしまった。
 シルクのファンからは叱られてしまいそうだが、このザーカナは、もしシルクのブランドがなければ、ごく平凡なB級バラエティーショーと大差無いように思える。高い料金のことを考えると、なおさら不満が残りやすい。消滅第2号とならないためにも、早めの大改造を大いに期待したい。
 公演は水曜日と木曜日を除く週5日、午後 7:00pm と 9:30pm 開演。料金は $69 〜 $180 となっているが、これに手数料や税金が加わる。詳しくは、アリアの公式サイトなどを参照のこと。



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