週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2001年12月26日号
Green Valley Ranch、早くも方針変更か
 12月 18日夜、ゴージャスな打ち上げ花火と共に高級カジノホテル Green Valley Ranch (写真下) が華々しくオープンした。しかし開業後一週間目にして早くもその "高級路線" が見直されようとしている。
 今週は、さまざまな部分においてまったく新しい試みがなされている同ホテルが抱える問題や現状について探ってみた。

 まず先に、このホテルのアウトラインを紹介しておこう。建設したのは、ラスベガス一帯で地元民を相手に郊外型カジノホテルを複数経営している上場企業 Station Casinos 社で、立地場所は名称が示す通り Green Valley 地区だ。
 Green Valley 地区は、観光客で賑わうストリップのホテル街から見て南東方向、つまりラスベガス国際空港の延長線上方向にあり、距離にして約 12マイル (約20km)、時間にして高速道路利用で約 15分の場所に位置している。10年ほど前から新興住宅地として開発が進められてきた地域で、ヤシの木並木や真新しい住宅が整然と立ち並ぶ閑静な高級ベッドタウンといった感じの場所だ。ゴルフファンには、全米オープンの予選会場として知られるレガシーゴルフクラブがあるエリア、と言った方がわかりやすいかもしれない。


 Station 社にとってラスベガス郊外でのカジノ経営は手慣れたもので、すでに同社は Palace Station、Boulder Station、Texas Station、Sunset Station、Santa Fe Station、Fiesta Casino、The Reserve といった大型カジノホテル、さらに小規模なカジノモーテル Wild Wild West も子会社を通じて運営しており、そういう意味では今回オープンした Green Valley Ranch (以下 GVR とする) も単なる事業拡大の一環と言えなくもない。しかし GVR はこれまでとはまったく異なるコンセプトのホテルとして誕生したため、早くもさまざまな問題が浮上してきている。

 GVR が従来の郊外型カジノホテルと大きく異なる部分は "ホテル" と "高級路線" の2点に集約されるといってよいだろう。
 まず、ホテルについてだが、Station 社はこの GVR で本気でホテル経営を考えている。"カジノホテル" というぐらいなのでホテル経営は当たり前のようにも思われるが、実はこれが郊外型カジノホテルとしては非常に珍しく、Station 社としても慣れていない部分だ。
 ラスベガスの地元民は、まさに日本人が駅前のパチンコ店に行くような感覚で近所のカジノへ気軽に足を運ぶ。したがって地元民は基本的に宿泊施設など必要ないことになるが、すべての郊外型カジノにはホテル施設が備わっている。夜遅くまでギャンブルをしすぎて終電に間に合わなくなった人のためではない。そもそもラスベガスに電車はないし、大多数の地元民は自家用車でアクセスし、また夜は自宅で寝る。では何のための宿泊施設か。


 理由は簡単だ。ネバダ州当局からカジノ営業の許可を得るためで、その背景には次のような事情がある。
 経費を無視して論じるならば、確率論的にカジノ経営は必ず儲かる。よって、野放しにしておけば誰もがカジノを開業してしまう。それではまずいと考えた当局はなんらかの規制を設けることを検討したが、経営者の人種や学歴で制限するわけにもいかず、結局、事業規模で参入制限を設けることにした。たとえば、「コンビニやガソリンスタンドなどの事業規模の業者はスロットマシン15台までしか設置できない」、といった具合だ。
 その規則によると、ルーレットやブラックジャックといったテーブルゲームやスポーツブックを無制限の規模で開帳するためには 「宿泊施設 200部屋以上の事業者」 という条件を満たす必要がある。この規定があるがために地元民向けカジノもわざわざホテル施設を設けているというわけだ。

 したがって本来宿泊施設はどうでもよい部分で、実際に従来の郊外型カジノではどうでもよいような扱いをされてきたが、今回の GVR はなぜかホテル経営に本腰を入れている。それも半端ではなく、総工費約 3億ドル、客室数 201 部屋という数字から算出される一部屋当りの工費 150万ドルは、ストリップ地区の高級ホテルであるベラージオやベネシアンなどの約3倍になるという。この数字だけを見る限り GVR はラスベガスで最もゴージャスなホテルということも言える。
 この部分に関しては、「カジノ施設がストリップの大型ホテル並かそれ以上の規模で、客室数が 10分の 1以下であれば一部屋あたりの工費が飛びぬけて大きくなるのは当たり前」 との指摘もあるが、そういった条件を差し引いて考えても、たしかに GVR のホテル施設はすべてがゴージャスに出来ている。
 特に プール施設周辺 などは非常に立派で、砂浜付きのプール、幅は狭いものの 直線 40m の水泳用のプール、非常に珍しい ベッドルーム型の CABANA (日よけ用の個室施設)、テニスコート、さらにはぶどう園、遊歩道、ストリップ地区を一望できるミニ公園 など、目を見張る施設が少なくない。

 屋内もすばらしく、豪華ホテルとして知られるフォーシーズンズや、かつてのデザートインをほうふつとさせる落ち着いたロビー、それにコンベンションや大規模なビジネスミーティングなどにも使用可能な大型ボールルーム、プールサイドに面したお洒落なバーなど、どれもストリップの豪華ホテルにも勝るとも劣らない立派なものばかりだ。

 これだけ金を掛けてしまった施設だが、はたしてどれだけの集客が望めるのか、今それが問題となっている。とりあえず 2月頃までは満室に近い状態とのことだが、開業直後の物珍しさによるところも大きいと予想され、今後の継続的な集客に疑問を持つ関係者は少なくない。
 ホテル側の宣伝文句では、「空港に近く、ビジネス用途などに最適」 としているが、ストリップ地区のホテルの方がさらに空港に近い現状を考えると、わざわざ住宅地のホテルに泊まるビジネスマンがどれほどいるのか、大いに疑問が残るところだろう。
 もっとも、「Station社はホテル部門や宿泊客に頼ろうなどとは最初から考えていない。豪華なホテル施設は地元民に対する単なるオドシで、経営は 99%地元民に頼るはず。その証拠に客室数は 201 部屋で、カジノ免許取得が目的なのは明らか。ホテル部門を重要視するならもっと客室数を多くしていたはずだし、そもそも 200部屋程度の規模では毎日満室にできたとしても宿泊客だけであれだけ巨大なカジノの経費をまかなうことは不可能。」 とさめた見方をする関係者もいる。ちなみに Station 社は客室棟の増築計画があることを発表しているが、着工時期などは明らかにしていない。

 次にカジノについてだが、客室部分のグレードに合わせようとしているのかこちらも高級路線を踏襲している。それはビンゴと託児所がないことからも明らかだ。
 ストリップ地区のカジノホテルにおいてはビンゴも託児所も無いのが普通だが、郊外型カジノホテルがそれら施設を持たないのは極めて異例のことだ。ビンゴは郊外型カジノホテルの代名詞といってもよいほど地元の高齢者層に人気があり、今回の同ホテルの方針は、地元高齢者層と子育て世代の主婦層をマーケティングの対象から完全に排除しているといってよい。
 これに関して GVR 側は、「このカジノはハイエンド層をねらっているため、それら施設は現時点では考えていない」 としている。しかし実は開業前の計画の段階からビンゴも託児所も全面的に否定しているわけではなく、開業後の評判によっては即時導入も視野に入れているとのことで、今回早くもそれら施設の導入を検討し始めたとの情報が一部関係者から流れてきている。それだけ開業後一週間の評判が (低所得者層からの) 芳しくないということだ。
 地元メディアも 「富裕層が多い Green Valley 地区といえども、毎日何百ドルも使えるほど豊かな住民はそれほど多くない。$20、$30 のささやかな予算で楽しむ庶民を無視していたのでは郊外型カジノの経営は成り立たない」 と今回の Station社のビンゴ無視の方針には疑問を投げかけている。
 過去の失敗に目を向けた指摘も聞かれる。リージェントラスベガスの倒産劇だ。同じ郊外型カジノで高級路線を目指したリージェントラスベガスは地元民の取り込みに失敗し昨年倒産している。場所も今回の Green Valley 地区に極めて酷似した高級ベッドタウン Summerlin 地区での話だったことを考えると、GVR の将来を占う上でリージェントラスベガスの倒産劇は無視できない出来事といってよいだろう。

 投資家の目も厳しい。前途は決して楽ではないと見ている投資家が多いのか、18日以降の Station 社の株価の推移を見る限り GVR の開業がウォールストリートで好感されているようには見受けられない。むしろ、「借入金が多く、解散価値がわずか 2億4000万ドルしかない会社がひとつの物件に 3億ドルを投じるのは無謀だ」 といった指摘も聞かれるなど、ウォールストリートでは厳しい意見が支配的だ。

 以上のように GVR に関してはさまざまな意見が飛び交っているが、テロ事件などでラスベガス全体の経済が停滞している時期だけに、地元民としてはなんとしてでも頑張ってもらいたいところだ。
 日本からの観光客にとってもレンタカーさえあれば簡単にアクセスできるので、興味がある者はぜひ行ってみるとよいだろう。ニューヨークニューヨークにあるイタリアン料理店 IL FORNAIO、マンダレイベイのメキシカン料理店 Border Grill など、一流レストランも入居しているばかりか、「いつでもダブルダウン、いつでもサレンダー」 といった Station 系カジノの名物ブラックジャックもある (Super-Fun-21 と呼ばれるルールで、ストラトスフィアなど他のカジノでも続々と見られるようになってきている)。ちなみにそのブラックジャックは 1デックであるにもかかわらず、カードがオープン状態で配られる。カードカウンターにとっては聞き捨てならぬ条件だろう。( 詳しいルール ← クリック)
 ストリップ地区からの行き方は、高速 15号線を南 (ロサンゼルス方面) へ行き、マンダレイベイを越えてすぐに出てくる 215号線とのジャンクションで 215号線の東行き (空港およびヘンダーソン方面) に乗り換え、約 12分走ると出てくる Green Valley Parkway で降りる。降りたらすぐ右手に見える。

 最後に余談になるが、駐車場も含めたこの GVR の広大な施設の周りにはネオンサインやマーキー (人を呼び込むための大きな広告塔など) がほとんどない。唯一あるのは高速道路から見える位置に立つマーキーひとつだけだが (写真左上)、これも赤と黒の2色の文字だけで派手な色は使われていないし、点滅もしない。これは、この住宅地が属するヘンダーソン市の条例や、着工前に地元住民らとの話し合いによって決められたルールで、結果として派手さが売り物のカジノとしては極めておとなしい外観となっている。派手な看板が無ければ豪華というわけでもないが、この部分においてもこの GVR は他のカジノと一線を画するゴージャスなホテルといってよいだろう。


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