週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2011年 08月 03日号
見学も作業参加も可能なネバダ州初の蒸留酒工場
 先月22日、ラスベガス郊外のヘンダーソン市に、ネバダ州で初めてとなる蒸留酒の工場 The Las Vegas Distillery が開業し、記念すべき一番樽のウォッカ "Nevada Vodka" が、一般市民らボランティアの手によって瓶詰めされ出荷された。
(写真はオーナーの George Racz 氏と工場内の様子。4枚目の写真を除き、他の写真もすべて工場内で撮影)

 砂漠性気候のネバダ州は気候的に適していないということもあり、アルコール飲料の大消費地であるにもかかわらず、これまで蒸留酒製造とは無縁の存在だった。
 条件を悪くしているのは気候だけではない。ビールの醸造所こそいくつか存在してきたが、アルコール度が高いウイスキー、ウォッカ、バーボンなどのいわゆる 「ハードリカー」 と呼ばれる酒類の生産は、許認可という部分においてもハードルが高く、市場参入しづらい状況が続いてきた。

 さてこの工場の話を進める前に、酒類の製造販売に関する許認可など、アメリカらしからぬ前近代的な法律についてふれておきたい。
 自由な国と言われるアメリカだが、ネバダ州に限らずどこの州においても禁酒法時代の名残があるのか、ことアルコールに関してはあれこれうるさい規則があり、造るのも売るのも、日本人にとっては首を傾げたくなるような珍妙なルールや習慣が少なくない。
 たとえばビールなどのテレビコマーシャルはその典型で、商品を画面に映し出すことはもちろんかまわないが、許されているのは、それをグラスに注ぐところまで。つまり、それをおいしそうにゴクゴク飲むシーンは禁止されている。
 したがって、日本でありがちな映画俳優など有名人が口のまわりに泡を付けながら、「あーうまい! ノドごし最高!」 といったコマーシャルはアメリカでは原則としてお目にかかることができない。正確には、禁止されているというよりも、業界側の自主規制による自粛というのが実態ではあるが、いずれにせよ、あまり意味が無い不可思議な慣行といってよいだろう。ちなみにハードリカーに関しては原則としてテレビコマーシャル自体が規制されており存在していない。

 売る側の年齢制限も不可解なルールのひとつだ。買う側に制限があるのは当然としても、スーパーマーケットの店員やレストランのウエイターやウエイトレスにも年齢制限や酒類取扱免許があったりするので、アメリカの酒類販売現場では珍妙な光景に出くわすことがある。
 たとえばスーパーのレジで、野菜、肉、牛乳、卵などのバーコードを順調に読み取っていた店員の手が、ビールのところで突然止まったりする。客としては早く支払いを済ませて店を出たくても、その店員はビールにさわることすらできずに固まってしまう。
 店員が未成年のアルバイトだったりした場合に見られる光景だが、その店員にできることは、店内無線や内線電話で先輩社員などを呼ぶことだけで、うしろに並んでいる他の客も含めて全員が、その先輩社員の到着を黙って待つしかない。
 密造酒を闇市で販売しているわけでもないのだから、このようなケースでは未成年スタッフにも販売を認めるほうが合理的というものだが、買う側の年齢チェックを未成年スタッフが行うことに対する懸念などがあるようで、ルールの改正には至っていない。
 レストランなどでも同様で、早くビールを飲みたい場面において、「私は未成年なのでアルコールのオーダーは取れません。別の者を呼びます」 などと言われたりする。さらにそれ以前の問題として、「当店はアルコール販売の免許を持っていません」 と言われてしまうことも少なくない。ハードリカーにいたっては、ほとんどのレストランがその販売権を持っていない。
 その他、日本では当たり前のビールの自販機が存在しないのはもちろんのこと、スーパーやコンビニなどでの店舗販売においても時間制限があったりする。幸いラスベガスでは24時間買うことができるが、多くの州では深夜のアルコール販売が何らかの形で制限されている。
 自動車の運転に関するルールにおいても変わったルールがあるので興味深い。運転手以外の同乗者による車内での飲酒も禁止されているばかりか、後部座席などに蓋が開いたビールなどが置いてあるだけでも罰金の対象となる。

 日本人観光客の多くが勘違いしているのが、年齢チェックの際の自分の見かけの年齢だ。
 若く見られる者が酒類を買う際、運転免許証やパスポートなど、年齢を証明できるものの提示を求められることはよく知られているが、「30を過ぎているのにレジでパスポートの提示を求められた。未成年ぐらいにかなり若く見られたようだ!」 といった日本人観光客の話をよく耳にする。たしかにアジア人は白人に比べ若く見られがちだが、20歳前後のように若く見られたとは限らないので、喜ぶのもガッカリするのも早計だ。
 州によって飲酒年齢の定義が多少異なることはあるが (原則として 21歳から)、店側に義務付けられている年齢チェックのための客の推定年齢は、その飲酒年齢よりもかなり上に設定されているのが普通で、たとえば 「30歳以下に見える客に対してはすべて年齢をチェックせよ」 というルールになっていたりする。(右上の写真は酒類販売店のレジに掲示された 「30歳未満の場合は身分証明を用意してください」 という注意書き)
 したがって、30歳前後に見られる実年齢35歳のアジア人が店頭で身分証明の提示を求められたとしても何ら特別なことではなく、15歳も若く見られたと思ったら大まちがいだ。
 ちなみに、未成年者に販売していることが発覚した場合、その店は罰せられることになるわけだが、当局は、レジできちんと年齢チェックが行われているかどうか、おとり捜査をすることもあるので、このへんの事情は日本よりもはるかに厳しく徹底されていると考えてよい。

 さて話を工場に戻そう。そのように何かとうるさい規制がある中で、難関と言われるハードリカーの製造免許を取得したと胸を張るのはオーナーのジョージさん。(右の写真は "Nevada Vodka" を手にするジョージさん)
 連邦政府、つまり国からの免許取得は比較的簡単だったが、州の免許が大変だったと苦労話を語ってくれた。過去の犯罪歴など厳しい審査をひとつひとつクリアしなければならず、かなりの時間と費用を要したとのこと。
 そう聞かされると、外国人には免許取得がむずかしいようにも思えてしまうが、実はこのジョージさん、意外にも移民だ。米ソ冷戦時代の東欧に生まれ、その後ニューヨークに渡り開業資金のためにせっせと働きながら、今回のネバダ州での蒸留酒製造を思いついたとのこと。2年前にベガスに移住するまで、ニューヨークではまったく別の仕事をしていたというから異色の存在だ。

 日本でも規制緩和後、地ビールがブームになっているが、最近はアメリカでも地ビールや地バーボンなどがブームで、いわゆる地産地消のトレンドは日本だけではないらしい。
 ジョージさんもそこに目をつけ、可能な限りネバダ州産の原料を使うようにしているとのことだが、砂漠地帯のこの州で本当に麦が生産されているのか疑わしかったので、失礼を承知であえて質問させてもらったら、実際にそのネバダ州産の麦を見せてくれた。(写真右上)
 その容器には、たしかにネバダ州北部の Winnemucca 農場で生産されたものであることが刻印されていた。
 ただ、彼は少量多品種をモットーとしており、ウイスキー、ウォッカ、バーボン、ラム酒など、さまざまなハードリカーを製造中もしくは製造予定で、それらすべての商品においてネバダ州産の原料を使うわけではなく、バーボン用のトウモロコシなどは他州産だ。
 余談になるが、ラム酒とウイスキーを造り、それを適度にブレンドし、「Rumskey」 という名称の酒をオリジナル商品として来年には発売したいとの話を聞かせてくれたので、「ラム酒と日本酒のブレンド "Rumsake" はどうだ?」 と半分冗談で提案してみたところ、かなり本気で日本酒のことに興味を示し、まんざらではない様子だった。

 さてここまでなら一人の起業家の単なる独立ストーリーといったところだが、この工場が地元メディアなどからかなり注目されているのにはワケがある。それはオープンポリシーだ。
 簡単に言ってしまえばすべて開放。つまり誰でもいつでも大歓迎で、工場見学も自由にさせてもらえる。見学どころか、製造現場を手伝うこともでき、このポリシーは可能な限り今後も続けていくとしている。
 したがって、冒頭で、「一般市民らボランティアの手によって箱詰め」 と書いたが、これは開業時の特別なイベントやパフォーマンスではなく、現在でもポランティア参加は可能で、実際に正社員以外の者が何人も現場で働いている。
 謙遜なのか本当なのか定かではないが、ジョージさんいわく、「うちは中小企業なので社員はオレとワイフぐらいしかいない。あとの全員は友だちやボランティアだ」 とのこと。
 工場を手伝うボランティアを継続的に集めることが可能なのは、フェースブックなどを使ったネット時代のなせるわざと言えるかもしれないが、いつまでその手法で運営を継続できるのか、だれもが疑問に思うことだろう。それでもボランティアやサポーターを継続的に集めるための賢いアイデアをジョージさんは持っている。それは商品への署名だ。

 ここでいう署名とは、最近日本の農家などで生産者が 「私が責任をもって作りました」 と自分の名前を署名して出荷したりするいわゆるトレーサビリティを持たせた流通手法で、実際に現在この工場から出荷されるウォッカのボトルには、すべて1本1本に通し番号と瓶詰をした者の署名が入っている。(右の写真はその作業)
 これは、手伝ってくれた者に対して、「あなたの名前が入ったボトルが店頭に並びますよ」 といった満足感を与える効果があり、少なくとも1本はその本人が買うと予想される賢い方法だ。つまり、無料で労働力を提供してもらい、さらに商品も買ってもらうことになる。
 ちなみに当局の厳しい規則により、手伝ってくれた本人に対して、謝礼として工場でボトルを手渡すということはできない。工場は製造免許は持っているが、販売免許は持っていないからだ。
 この戦術が功を奏しているのか、工場からほど近い地元の酒類販売チエーン店 Lee's Discount Liquor の E.Sunset 店に卸された初回出荷分の数百本 (750ml ボトルの Nevada Vodka)、およびその次の出荷分は数日で完売している。
 現在は、この Lee's の1店舗だけが販売していることから、自分が署名したボトルがどこで売られているかわかるため、その本人が記念に何本もまとめて買っているらしい。ちなみに Lee's での価格は1本 25ドル。

 仕込んでから完成するまで時間がかかるため、現在はウォッカだけだが、秋にはウイスキーの出荷も可能になるなど、今後続々と新製品を発売し、また流通経路も拡大していくという。近い将来、ホテル街のショップでも買えるようになるというから観光客にとっては楽しみだ。
 ただ、そうなると、自分が署名したボトルがどこで販売されるのかが把握しづらくなるという弊害があり、作業を手伝ってくれる人の購買意欲の低下にもつながりかねず、ボランティアを集めにくくなるのではという懸念もある。
 そこで理想的なアイデアとして浮上してくるのが、工場内での販売だ。出来立の新鮮な酒は気分的にもおいしそうでありがたい。見学や瓶詰め体験などと組み合わせたツアーのようなものができれば、観光都市ラスベガスにふさわしいツアー商品の販売と酒類の物品販売が同時に可能になる。
 そこに立ちはだかるのが、製造工場内でのハードリカー販売というネバダ州では前例のない法律問題。ただでさえ、現在の不特定多数の者による瓶詰め作業は法的にグレーゾーン的な部分が多いばかりか、衛生上の観点からも当局にとっては歓迎しがたいものであるのに、さらに現場での酒類販売となると簡単には首をたてに振らないだろう。
 しかし同じ役所でも、観光局などは後押ししたいところで、ジョージさんは近い将来、瓶詰め体験ツアーと現場での酒類販売は可能になると信じているようだ。

 今後どの程度の時間軸で許認可の話が進展していくのかまったく見当がつかないが、現在の雰囲気からすると、観光都市ラスベガスにとって有益なことは話がどんどん進んでしまう感じがしないでもないので、遅かれ早かれすべてがOKになるのではないか。(右の写真はオーナーに寄り添う夫人の Katalin さん)
 もちろん今でもすでに現場に行けば瓶詰め作業およびそのボトルに署名をさせてもらえるので、レンタカーもしくはタクシーで行くしかないという交通の不便さはあるが、興味がある者は現場に足を運んでみるとよいだろう。日曜日以外の常識的な時間内ならばだれでもウェルカムとのこと。
 ただし、いつ状況が変わり、オープンポリシーが打ち切られるかわからないので、訪問前に念のため確認したほうがいいだろう。また、毎日必ず樽を開けるわけではなく、瓶詰め作業自体が行われない日もあるので、それだけを期待して行くとガッカリすることになりかねない。そして最も重要なことは、ジョージさんを始めとする現場で作業をしている人たちに対して邪魔にならないようにするということ。訪問者が来るたびに、工場内の案内で時間を取られていたのでは、彼らは仕事にならないので、訪問してもいいかどうか必ず事前に電話やメールで確認するようにしたい。
 場合によっては、「案内している時間がないので、勝手に来て勝手に見学して行ってください」 と言われる可能性もある。逆に、「箱詰め作業を2時間ほど手伝ってください」 と言われる可能性もあるが、その場合はぜひ手伝うようにしたい。余談だが、Katalin さんは日本にしばらく滞在していたこともあるという日本びいきなだけに、日本人の評判を落とすようなことだけはしたくない。
 行き方は、以下の住所を地図検索ソフトなどに入力すれば簡単にわかる。所要時間はストリップ地区のホテル街から高速215号線を利用して30分前後。一般道のほうが距離的には近いが、高速利用のほうが時間的には早い。

 住所: 7330 Eastgate Road #100, Henderson, Nevada 89011
 電話: 702-629-7534
 email: info@lasvegasdistillery.com (半角英数字の英文のみ)



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